《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

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~大雑把に前回のあらすじ~

・おじさんに指導をお願いしてバッティングの改良を図る。
「おじさん!初めて会ったときの約束覚えてる?」

・居残り特訓が芳乃に見つかる。
「ところで、今のバッティングは?」

・柳大川越のミーティングで正美が話題に上がる。
「三輪選手は右投げ左打、ここまでセンター、ショート、サード、ピッチャーで出場しています。ここまで打率は.666、出塁率は.700。驚異的な数字に目が行きがちですが、足も相当早いので出塁してからも脅威です」
「打球は引っ張り傾向。外角もあまり流すことは無いようです。速い球が苦手なようで、梁幽館の中田選手と熊谷実業の久保田選手の二人を相手に4打数2安打もヒット性の当たりはありません」


夏大会6回戦 柳大川越
36話 私がちっちゃ過ぎて気付かなかったとでも言いたいのかなー?


「いやー、やっぱりいつもの席は落ち着くよねー。自分ちみたいな安心感があるよー」

「また正美ちゃんはそんな事言って······」

 

 スタメンから外れての正美の発言に珠姫は呆れた様子を見せる。

 

 本日のスターティングラインナップは、1.中村希(一)、2.藤田菫(二)、3.山崎珠姫(捕)、4.岡田怜(中)、5.藤原理沙(三)、6.川崎稜(遊)、7.大村白菊(右)、8.川口息吹(左)、9.武田詠深(投)。打撃不振の稜が打順を一つ下げてはいるが、ほぼ新越谷の基本オーダーである。温存していた詠深が先発することにより、正美は二試合振りのベンチスタートとなった。

 

「まあまあ。私みたいな器用貧乏はここがちょうど良いんだって」

「貧乏ってレベルじゃないでしょ」

「あはっ。そろそろランナーコーチに行くとしますかねー。背番号1の凄い奴が相手~♪」

 

 正美はこの試合から駆け付けてくれたブラスバンドの演奏に合わせて歌詞を口ずさみながら三塁コーチャーズボックスへと向かった。

 

 コーチャーボックスから朝倉の投球をじっくり観察する。朝倉が白球を投じると、それを受け止めるミットからはけたたましい音が鳴り響いた。熊谷実業の久保田の球も速かったが、朝倉の球は伸びも十分で、埼玉最速と比べても見劣りしない。今、球威を見る限りでは間違いなく全国クラスだった。

 

――これを打てる様にならないといけないんだ。

 

 正美が改めて目標を再確認したところで、セットポジションの朝倉と目が合う。彼女は柔らかく微笑むと、再び投球練習へと戻っていった。

 

――朝倉さん大物だなー······。

 

 そんな朝倉に正美は柳大川越次期エースの片鱗を感じるのだった。

 

 ボールバックされ、審判よりプレイのコールが掛かる。

 

 先頭の希は朝倉の初球、ストレートをバットで捉えた。打球は朝倉の頭上を駆け抜けセンター前に落ちる。希は一塁を回った所でストップ。そんな希を正美はコーチャーズボックスから見つめていた。

 

――やっぱ希ちゃんは凄いや。希ちゃんは最初、私に嫉妬するって言ってたけど、私なんかよりも希ちゃんの方がずっとチームに貢献してるよ。

――でもね、私もこのまま終わるつもりはないから。

 

 そう静かに正美は一人、楽しそうに誓う。

 

 新越谷は希以降、後続が続かずに怜のセカンドゴロでスリーアウトとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 柳大川越の一番はセンターの大島。

 

 初球、詠深の放った白球は左打席に立つ大島へ迫る。大島は腰を引いて避けるが、白球はストライクゾーンへ食い込んだ。フロントドアのツーシームでB0ーS1。

 

 二球目も詠深は内角を厳しく攻めるが、大島はこれをカットする。B0ーS2

 

 三球目はナックルスライダー。外角にすっぽ抜けた様な軌道から鋭く曲がる球を、これまた簡単にカットされた。

 

 早めに最初のアウトをとって良いリズムを作りたいと考えた珠姫は四球目に強ストレートを要求する。必殺の決め球であったが、大島が右足を踏み込んだタイミングはドンピシャ。

 

 しかし、バットは空を切り、白球は珠姫のミットに吸い込まれる。詠深の強ストレートは大島の予想よりも高めの軌道を描いた。

 

――最後のスイングだけ思いっきりが良かった。まさか強ストレート狙い?

 

 今の打席を正美は訝しむ。強ストレートは制球が良くないが、球質は代名詞のナックルスライダーにも劣らず非常に良い。敢えてこれを狙う理由とは······。

 

 

 

 

 

 

 二回裏、ワンナウトで迎えるは5番の石川。ここから1年生が二人続く。

 

 打席の結果はセンターフライだったものの、彼女もタイミングはバッチリ。そして、打ったのはこれまた強ストレート。

 

 正美は投球する詠深を見つめる。

 

 6番打者の平田をサードライナーに打ち取った球も強ストレートだった。彼女もタイミングが合っている

 

――······見えた。

 

 正美はベンチへ戻ってくるナインを出迎える芳乃の元に歩を進めた。芳乃は珠姫に詠深の調子を聞いている。珠姫は、調子は良いと答えるが、その先は声を潜めて話す。

 

「けど、強ストレート間違いなく狙われてる」

「やっぱり······」

 

 そのやり取りをこっそり聞いていた正美は二人の話に割り込む。

 

「二人は詠深ちゃんの癖のこと知ってたんだねー」

「わぁっ!?······正美ちゃんいつの間に!」

 

 誰かに聞かれているとは思っていなかった珠姫は急に話に入ってきた正美に驚いた。

 

「私がちっちゃ過ぎて気付かなかったとでも言いたいのかなー?」

 

 正美は笑顔のまま表情筋を動かさないで珠姫を見つめる。

 

「い、いや。そんな事ないって」

 

 慌てて誤解だと伝える珠姫を見て、正美は笑った。

 

「あはっ。冗談だよ。やっぱ二人はヨミちゃんの癖、気付いてたんだね」

「最初に気付いたのは息吹ちゃんだけどね。正美ちゃんも気付いてたんだ」

 

 芳乃は気付いたのは息吹だと、正美の言葉を一部訂正する。

 

 馬宮高校戦で息吹は詠深をコピーして投げていたのだが、練習で強ストレートを指定し、伸びの良いストレートを投げてみせたのだ。曰く、リリースのタイミングが違うとの事なのだ。

 

「伊吹ちゃん良く見てるなー。こんど細かすぎて伝わらないモノマネやってもらおうかな?」

 

 などと正美が話していると、珠姫は詠深にはまだ話さないよう、正美にお願いする。

 

「えっと······正美ちゃん、この事はヨミちゃんにはまだ言わないでね。気にしてフォーム崩すといけないから」

「うん。ヨミちゃんの事は二人に任せるよ。さて、私はまたランナーコーチに行くね。呼吸をー止めて一秒あなた真剣な目をしたから♪」

 

 正美は再び三塁コーチャーズボックスへ走っていった。




柳大川越戦は六話構成です。
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