《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

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45話 なーんて、冗談冗談

 新越谷高校の本日二つ目の練習試合が始まった。相手は都立の名門、小河台高校。先の大会では東東京地区で準優勝の成績を修めている。

 

 マウンドに登るのは詠深。正美はショートで先発出場していた。

 

 小河台の先頭打者が左打席に入ると珠姫は詠深にサインを送る。初球、カットボールのサインだったが、詠深は首を左右に振った。

 

 ――ヨミちゃんがタマちゃんのサインに首振るなんてどうしたのかな?············えっ、あのサインって。

 

 正美の記憶の中では詠深が珠姫のサインに首を振ったのは初めての事だった。そんな詠深の行為に疑問符を浮かべるが、次に出たサインに正美は驚く。

 

 今度こそサインに頷いた詠深は額の上まで振り被り投球動作に入った。右腕から投じられた白球は······珠姫の遥か右上空を通過、バックネットに突き刺さる。

 

 出ていたサインはチェンジアップ。正美は詠深がチェンジアップを練習しているという話は聞いたことないし、見たこともなかった。そんな中、いきなりチェンジアップのサインが出たと思ったら白球は明後日の方向に飛んでいく。正美の頭は情報処理が追い付かない。それても、ベンチに戻ったら二人に聞いてみようと、この場は切り替える。

 

 二球目。ナックルスライダーを小河台の一番打者は三遊間へ弾き返した。近くで見るのは初めてである詠深のナックルスライダーをクリンヒット。レフトへ抜けようかという鋭い当たりだった。バッターも手応えはあっただろう。

 しかし、ショートを守っていた正美は横っ飛びで打球を止めた。すぐさま起き上がり、一塁へワンバウンド送球する。

 

「アウト!」

 

 小河台の一番打者は天を仰いだ。

 

「正美ちゃんありがと~」

「ここは通さないから、その調子で投げてよ」

 

 詠深のマウンドからのお礼に正美は鼓舞を返す。

 

 詠深は次の打者も強烈なサードゴロに仕留め、最後はふつうのストレートで三振を奪った。強ストレートの癖を見極められていると読んだ珠姫の機転である。

 

 攻守交代で新越谷がベンチに引き上げると、正美は詠深と珠姫に声を掛けた。

 

「ヨミちゃんナイピー。タマちゃんもナイスリードだったよー」

「正美ちゃんもナイスプレー。助かったわ」

「うんうん。いきなり打たれたと思ったよ~」

 

 お互いを称えあった所で、正美は気になっていた事を二人に聞く。

 

「ところで最初のチェンジアップはとうしたの?」

「いや~、あれは······はは······」

 

 詠深ははぐらかしたが、代わりに珠姫がさっきのプレーを説明する。

 

「光先輩のピッチングを見て危機感を持ったみたいで、対抗してチェンジアップを投げたの。練習も試合が始まる前に少ししただけよ」

 

 呆れるように言う珠姫の言葉を聞いた正美は笑みを浮かべる。これはオモチャを見つけた時の笑みだと、珠姫は気付いた。

 

「ふーん·····。私もチェンジアップ投げたんだけどなー。そっかー、ヨミちゃんは私より光先輩の方が好きかー······」

「えっ、正美ちゃん?」

「そうだよねー。光先輩と違って私のは三振の取れないダメダメチェンジアップだもんねー。私なんてアウトオブ眼中で当然だよね······」

「ち、違うよから!?正美ちゃんには正美ちゃんの良いところが······!」

 

 目だけが笑っていない正美の様子に詠深は慌てて弁明する。この弁明、実はチェンジアップを投げた後に珠姫から言われた事と同じだったりする。

 

 そんな詠深様子に満足したのか、正美はネタばらしをした。

 

「なーんて、冗談冗談」

 

 始めは理解の追い付いていない様子の詠深だったが、すくにその表情は不満を露にする。

 

「もーっ、正美ちゃん!!」

「ごめんごめん。今度チェンジアップ教えてあげるから」

「えっ、本当っ?」

 

 瞬時に機嫌を直す。詠深はチョロかった。

 

 

 

 

 

 

 小河台との試合はこちらのミスが目立ったものの、終わってみれば3ー2で辛くも勝利を納めた。

 

「やはり課題としては体力でしょうか。真夏の炎天下······特に二試合目は集中力の低下が見られました。何とか勝てましたが、2戦目は三輪さんにフルで出てもらって良かったです」

 

 藤井教諭は今日の練習試合をこう総括する。小河台戦で正美は途中、ショートからライトに移りフル出場した。普通ならヒットや長打になる当たりを度々阻止する活躍を見せた。もしも正美がいなければ、あと1点小河台に入っていただろう。

 

「体力はいきなりつけるのは無理だけど、まずは明後日からの合宿で鍛えていこう!!」

 

 芳乃が合宿に向けてよ意気込みを語った。

 

 正美も大会など連戦の経験は乏しい為、体力は十分に備わっているとは言いがたい。自分も気合いを入れないとと、正美は思った。

 

「小河台は詠深の球に対応してきたし強かったな」

 

 新越谷内でも詠深の球に対応できる打者は限られている。そんな詠深の球にアジャストした小河台のレベルの高さを怜は感じていた。

 

「でも試合結果からも私達は負けてないと思うわ」

 

 それでも、そんな小河台だからこそ、自分達が勝利を納めることが出来たことに理沙は自信を抱いたようだ。

 

「そうですね。この前は強豪校を来年までに追い越せたら良いと言ったけど撤回します。突き放すくらいのつもりでいきましょう」

「秋の目標は春の全国に繋がる関東ベスト4で良い?」

 

 藤井教諭と芳乃の立てた目標に誰も反論するものは居なかった。

 

「キャプテン、合宿前の声出しを」

 

 芳乃が怜にパスに怜は頷いた。

 

「また親睦を兼ねてになるな」

 

 怜は光に視線をやり、そう切り出す。

 

「秋大会に向けて合宿行くぞ!!」

『オー!!』

 

 新越谷ナインの雄叫びはグラウンド中に響き渡るのだった。




 ハチナイのハルヒイベントで心が10年程タイムリープした作者です。

 そういえば劇場版けいおん!見てなかったな~、と思いだし、今更ながら視聴。その後も心は現代に返ってくることなく、きらら繋がりでS線上のテナという漫画を一気読み。

 S線上のテナ、知ってる方いますかね?けいおんや球詠など数々の名作に富むきららコミックの中で私が一番好きな作品だったりします。
 もしかすると、著者の岬下部せすなさんならば知っているという方もいらっしゃるかもしれませんね。

 全9巻なので、コロナ自粛がてら読んでみてください。
https://comicspace.jp/title/101964
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