《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

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彼女はこんなキャラじゃないと思って一度はボツにしたネタなのですが、原作で希のスランプが思いの外長引いており、このままプロットの通りに進めると原作との矛盾が生じかねないので、今回は時間稼ぎでボツネタを採用いたしました。


46話 馬鹿にするなっ!

「それで話って何かな?」

 

 みんなが帰り支度をする中、正美と芳乃はユニフォームの姿のままグラウンドの外通路にいた。

 

「先生も課題は体力って言ってたけど、それだけじゃ駄目だと思うんだ」

 

 実際に夏大会ではずっと野球を続けてきた希も調子を落としたし、息吹はあわや怪我に繋がるところだったのだ。

 

「これからはみんな順番に休みを作りたいの。だから、正美ちゃんにも今日みたいにもっと試合に出て欲しい」

 

 全てのポジションを守れる正美が積極的に出場すれば、かなり選手を回しやすくなるのは想像に容易い。

 

「勿論、正美ちゃんが誰も悲しませたくないのは分かってる。ポジションを固定することはしないからっ······」

 

 芳乃は正美も納得した上で試合に出てほしかったので、正美の説得に力が入る。

 

「良いよー」

 

 芳乃も正美がそこまでごねるとは思っていなかったが、それでも正美は芳乃の予想以上にあっさりと了承した。

 

「誰かが怪我したらみんな笑ってられないもんねー」

 

 正美はあっけらかんと笑って話す。

 

 さて、ここでまた二人の予想外の出来事が起きていた。

 

「正美!」

 

 二人が振り向くと、そこにいたのは稜だった。

 

 

 

 

 

 

~Episode 稜~

 

 みんなが更衣室に向かった中、私は木に額を当て、一人で考え事をしていた。

 

 今日も守備でミスした。夏大会から進歩なしかよ······。

 

 そんな事をしていると試合を見ていたギャラリー2人が歩いてくる。

 

「10番は映像でも確認しましたが、実際にこの目で見ると思っていた以上に驚異ですね」

「事前情報では速球が苦手って聞いてたけど、今日はしっかり対応してたね」

 

 私の存在に気付いていないようで、二人は正美の事を話していた。てか、私達も研究されてるんだな。

 

「次の大会ではレギュラーになってるかな?」

「恐らくは。あんな三拍子揃った選手をベンチに置いておく理由がありませんし」

 

 普通ならそう思うだろうけど、不思議と本人にその気がないんだよな。

 

「両翼の二人は初心者だっけ?どっちかに入るのかな?」

「私ならショートに入れますね。あの守備力は魅力的ですし、今の6番は最初こそクリンナップにいたものの途中から打順を下げています。先の大会では好守に渡り繊細さに掛けていたので可能性は十分にあるでしょう」

「成る!確かにショート良いね!」

 

 ······私が正美より劣っていることなんて自分でも分かっている。私は夏大会は良いとこが少なかったし、むしろミスだってあった。

 そんなこと分かっているのに、二人の会話の内容にショックを受けている自分がいる。

 

 私は荷物を持つ手に力を入れて、二人に気付かれない様にこの場を後にした。

 

 逃げるように早足で歩く私の向かう先に芳乃と正美を見付けた。二人ともまだユニフォームから着替えていない。どうしたんだろう?

 

 二人の声が聞こえる所まで来ても二人は私に気付かなかった。

 

「これからは順番にみんな休みを作りたいの。だから、正美ちゃんにも今日みたいにもっと試合に出て欲しい」

 

 芳乃の言葉を聞いて、私はギャラリーの会話を思い出す。同時に悪い予想が頭を過るが、次に芳乃の口から出てきた言葉は私の想像以上に残酷なものだった。

 

「勿論、正美ちゃんが誰も悲しませたくないのは分かってる。ポジションを固定することはしないからっ······」

 

 誰も悲しませたくない?なんだよそれっ。そんなの私があまりに惨めじゃんかっ······。

 

「いいよー。誰かが怪我したらみんな笑ってられないもんねー」

 

 私は我慢できず、正美を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿にするなっ!」

 

 珍しく声を荒げる稜に正美と芳乃は目を丸くする。

 

 稜が正美に迫ると、芳乃が間に入って止めようとした。

 

「稜ちゃん!正美ちゃんは別に馬鹿にしてる訳じゃっ」

 

 別に稜だって殴り掛かろうとした訳ではない。

 

「正美っ、私とショートのレギュラーを掛けて勝負しろっ!!」

 

 稜は芳乃の肩越しに正美へ良い放った。

 

「えっと······少し考えさせて」

 

 正美が困ったように答えると稜の表情は泣きそうになる。踵を反すと何も言わずに走り去ってしまった。

 

 稜の姿が見えなくなった後も、正美は彼女が走っていった方を黙って見つめる。

 

「あの、正美ちゃん······」

 

 芳乃が声を掛けると、正美はいつもの表情を作った。

 

「あはっ。私達も着替えに行こっか」

「うん······」

 

 正美が芳乃の前を歩く。三人が居た場所には静けさだけが残るのだった。

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