《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

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47話 宣戦布告しようと思います

「おじさんはどうすれば良いと思う?」

 

 おじさんに会いに来た正美は稜ちゃんとの件を相談する。

 

「そうだな。とりあえず君と川崎さんの感情を抜きにして考えてみよう」

 

 そんな前置きからおじさんの話は始まった。

 

「君が試合にたくさん出ることは新越にとってプラスなのは確かだね。ただ、仮に川崎さんとの勝負に買ったとして正美ちゃんがショートに固定されるとなると、それは勿体無いんじゃないかな?」

 

 正美をショートのレギュラーに据えるとなると、どこでも守れるユーティリティプレイヤーという正美のストロングポイントを捨てる事となる。皆の休みを回すピースになるという芳乃の構想とも矛盾するだろう。

 

「······やっぱり丸く納める方法は無いのかな······」

 

 正美は悲しそうに俯くが、おじさんの話はまだ終わっていなかった。

 

「あるじゃない。君ならではの方法が」

「······私ならではの方法?」

「ああ。逆転の発想をしようじゃないか」

 

 おじさんのアイデアを聞いた正美は最初こそ唖然としていたが、次第にその表情は明るさを取り戻していく。

 

「おじさん天才!」

 

 そんな正美の様子におじさんは一旦は頬を緩ますも、ただし!と付け加えた。

 

「そう簡単にいく話じゃないよ?」

 

 正美も顔を引き締めおじさんの目を見る。

 

「分かってる。でも私だけ我が儘を通すわけにもいかないから。稜ちゃんの為にもやってみせるよ」

 

 

 

 

 

 

 合宿当日。今回は学校がバスを用意してくれるとの事で校門前に集合となっている。

 

 しかし正美は校門ではなくグラウンドのベンチで白球を弄んでいた。

 

「正美ちゃんおはよー!」

 

 詠深と珠姫もグラウンドにやって来たのだが、集合までまだ一時間程ある。なぜ、こんなに早くからグラウンドに集まったかというと、詠深にチェンジアップを教えるという約束を果たすためだ。

 

「二人ともおはよー。タマちゃんも来たんだ」

 

 予定では正美と詠深の二人で練習するつもりだったが、珠姫も詠深と一緒にグラウンドに現れた。

 

「うん。折角だから私も見せてもらおうと思って」

「そっかー。じゃあ早速始めよっか」

 

 詠深と珠姫もベンチに荷物を置いて内野のファールグラウンドに出てくる。

 

「最初に詠深ちゃんのチェンジアップの握りを見せてよ」

 

 正美は弄んでいた白球を詠深に渡した。詠深が見せたのは人差し指、中指、薬指をボールの上に被せて親指と小指をボールの下に入れる握りだ。

 

「うんうん。確かに一般的なチェンジアップの握りだけど、詠深ちゃんは変化球ずっとナックルスライダーだけ投げて来たわけでしょ?だから中指を抜く事には不慣れだと思うんだ」

 

 詠深のチェンジアップが明後日の方向に飛んでいってしまう原因と思われるものを正美は解説したわけだが、詠深は思わぬところで躓いてしまう。

 

「······ナックルスライダー?」

「え?」

「······?」

 

 小首を傾げる詠深に唖然とする正美。チェンジアップを教えに来た正美だったが、まず最初にナックルスライダーについて解説する事となった。

 

「へ~、ナックルスライダーって言うんだ」

「詠深ちゃん自身が何投げてるか分かってなかったからみんな“あの球”って言ってたんだね······」

 

 出鼻を挫かれた正美であったが、気を取り直して話をチェンジアップに戻す。

 

「それはそうと、ヨミちゃんに教えるチェンジアップはこれだー!」

「わっ······!?」

 

 正美は詠深の目の前に白球を握った右手を突き出した。握りはサークルチェンジに近いが人差し指をより畳んでおり、親指から人差し指のカールがカタツムリのような形をしている。薬指と小指の感覚もサークルチェンジより広い。

 

「握りは詠深ちゃんのチェンジアップよりナックルスライダーに近いよ。中指が通過する空間と手首の角度はストレートと同じで。人差し指で抜くイメージかな」

 

 正美は再び詠深に白球を渡してチェンジアップの握りを作らせた。

 

「そうそう。そのままゆっくり腕を振ってみて」

 

 詠深がシャドーピッチングのようにボールを投げずに腕をゆっくり振る。

 

「手首の角度がナックルスライダーになってるからもっとストレートを投げるイメージをしっかりもって」

 

 詠深がもう一度腕を振ると、今度は満足そうに正美は頷いた。

 

「うんうん、そんな感じだね。それじゃあ実際に投げてみようか。着替えてないし軽くね」

 

 二人がグラブを取りに行こうとすると、珠姫が正美を止める。

 

「あ、私が受けるよ」

「じゃあお願いしようかな」

 

 珠姫が少し離れた所に、正美は詠深の斜め後ろに立った。詠深と珠姫は簡単に肩を温めた後、詠深はチェンジアップを投げ始める。

 

 ストレートと同じ振りから投げられた白球は指から離れた瞬間よりストレート程の力はなく、中腰で構える珠姫の手前でお辞儀をした。珠姫が一歩動くくらいにはボールが逸れるが、最初の一球にしては上出来だろう。

 

「いい感じだよ。細かいコントロールはゆくゆく出来るようになるから、今は慣れることを第一に考えようね」

 

 詠深もその内に慣れてきたらようでスムーズに投げられるようになっていく。

 

「慣れてきたらストレートと交互に投げよう。腕の振りや手首の角度がストレートと同じになるように意識するんだよ」

 

 しばらくフォームを確認しながら投げていた詠深だったが、時計の長身が6を指した頃に正美から止めがが掛かる。

 

「そろそろ校門に行こ。誰か待ってるかもだし」

 

 三人は片付けを済ませグラウンドを出た。

 

「タマちゃんから見てヨミちゃんのチェンジアップはどう?」

「まだコントロールはアバウトだけど暫く練習すれば十分使えると思う」

「そ、良かった」

 

 正美は歩きながら珠姫にチェンジアップの感想を聞くと、珠姫も好感触を得たようで安心する。

 

 その後は校門につくまで合宿について馳せる思いを三人で語り合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が校門前に戻ってくると川口姉妹と藤井教諭が集まっていた。

 

 何をしていたのか聞いた芳乃が詠深のチェンジアップ会得の話を聞いて“自分も見たかった”と正美に抗議するが、詠深が合宿中に見せると言うと渋々だが納得した。

 

 その後も続々と部員達が集まってくるが、稜と菫がなかなか姿を現さない。芳乃は心配そうにチラチラと心配そうに正美を窺っている。そんな芳乃に気付いた正美は苦笑いを浮かべた。

 

「菫ちゃんも一緒みたいだし大丈夫じゃないかな?······ほら」

 

 正美が道路の先に指を指す。集合時間まであと二分と迫った頃、菫と菫に手を引かれて歩く稜が姿を見せた。

 

「すみません、ギリギリになりました。······ほらっ、とっとと済ませなさい」

 

 菫は挨拶早々に稜を正美の前に押し出す。稜は気まずそうに目を泳がせるが、覚悟を決めたように正美と視線を合わせた。

 

「この前はごめん!あの時私とうかしてたんだっ······」

 

 稜が勢いよく頭を下げると、正美と芳乃、菫を除いた事情を知らない面々は面を食らう。

 

「稜ちゃん、頭上げて」

 

 正美は稜の両肩を押し上げた。

 

「稜ちゃんを馬鹿にしてるつもりは無いんだけどさ、私今までポジション争いとかしてこなかったから。でも、そんな私なりにあれから考えたんだ」

 

 そう言って、正美は全員が視界に収まる位置に移動する。

 

「みんなも、先輩方や先生にも聞いて頂きたいことがあります」

 

 そう前置きして正美は語り出した。

 

「この前の練習試合の後、稜ちゃんにショートのレギュラーを賭けた勝負を挑まれました」

 

 皆がざわつくが、正美は少し静かになるのを待って話を続ける。

 

「正直に言うと、私は稜ちゃんに負けるなんて思ってない。でも、それは稜ちゃんだけじゃなくて、ここにいる誰にだって私は劣るつもりなんかありません。だから、今ここでみんなに宣戦布告しようと思います」

 

 これは正美の覚悟。自分が我を張る為に必要なことだと。

 

「新人戦までに全てのポジションを奪い取。みんなには私の控えとして試合に出てもらいます」

 

 正美は静かに、だけど確固たる意思を持って!ここにいる全員に告げた。




 前回も書いた通り、レギュラー争いの下りはもともと没ネタなので、この先の展開は何も考えておりません。ああ、どうしよう(苦笑)
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