《書き直し中》天才少女と元プロのおじさん   作:碧河 蒼空

51 / 51
~大雑把に前回あたりのあらすじ~

・稜に勝負を挑まれた正美は全ポジションを掛けてチームメイト全員に宣戦布告。

・いざ合宿へ!

・正美のポジション論。


49話 私スイッチだから

 グラウンドの外の芝生にてランチタイム。練習中とは打って変わって穏やかな時間が流れている。

 夏真っ只中ではあるが、山へ来ている為か新越谷の街よりも幾分か涼しく、一同は汗ばんだ肌に心地好い風を感じる事が出来た。

 

 今、話題に上がっているのは話題は光のバッティング。正美ほどではないが小柄な光はバッターボックスに立つと大振りのフルスインガーと化す。

 

「私はとりあえず転がせとか習ったな」

 

 対して怜は自信のガールズ時代に受けた指導を話した。同じような指導を受けた者は多いはずだが、光が小学生の頃の監督は小柄だからこそ力負けしないよう体全体でスイングするよう教育したそうだ。

 

 白菊もこの合宿からコンパクトなスイングに取り組んでおり、先ずはバットに当てないとと言う白菊を芳乃も応援すると前向きな様子を見せる。

 

「正美ちゃんもコンパクトに振る割にはアッパー気味よね。理由はあるの?」

 

 そう指摘したのは理沙だ。正美のバッティングフォームも俊足好打の選手には珍しいものである。トップを低い位置でキャッチャー側に大きく引いてからコンパクトにバットを出して振り上げる。理沙の言うようにアッパー気味になるのだ。

 パワーはあるが確率が課題の理沙はアベレージヒッターながらそんな正美のスイングに興味があるのだろう。

 

「私は内野手の届かない所に打てって教わったんですよ。内野手に捕られたらほぼアウトだぞーって」

「正美ちゃんの足でも?」

「あははー。周りは元バリバリの球児でしたからねー」

 

 正美は苦笑いを浮かべた。とは言っても、彼女は男子に混ざってもベースランニングはそこそこ速い方なのだが。

 勿論、パワー不足で低くて鋭い打球を打てなかったというのもある。

 

 光は体格の差を跳ね返す為に、正美は性別を越えた相手と渡り合う為に。二人以外のみんなにだって今のバッティングフォームになるまでにそれぞれの物語があったはすだ。

 勝ちたい相手がいたのかもしれないし、打ちたい球があったのかもしれない。憧れの選手がいたのかもしれないし、ただ単にコーチの指導方針に沿っただけだったかもしれない。

 様々な事情はあれど監督・コーチやチームメイトと共に作り上げたのか。はたまた一人で悩み抜き行錯誤を繰り返しながらたどり着いたフォームなのか。

 その者の野球感や歩んできた歴史、そういった様々なものがバッティングフォームには詰まっているのだろう。

 

 そして今、この中にそんな歴史の分岐点に立つものがいた。

 

 

 

 

 

 

 食事も終わりみな体を休めている頃、正美と希は宿場のすぐそばにある開けた場所で素振りをしていた。

 希は目を閉じ、マウンドに立つ柳大川越の大野 彩優美をイメージする。大きく右側から放たれる白球は更に鋭角に軌道を変え希の横を通過しようとするが、希はバットを振り抜いて白球を捕らえた。

 

「よっしゃー!レフト線」

 

 そう声を上げたのは稜。実はほんの少し前からここに居たのだが、希の真剣な雰囲気にあてられ声を掛けられずにいた。

 

「······サードにとられた。相手は柳大やけん」

 

 希は目を閉じたまま稜の言葉に答える。

 

「ムムッと拗らせてるねー」

 

 そんな希を茶化かの様に正美は口にした。そんな正美に希は不満を露にする。

 

「そう言う正美ちゃんはどうと?」

「何球か引っ掛けちゃってる。まだまだ安定しないかなー」

 

 そう言って正美は素振りを再開した。夏大会後の練習試合に披露された新フォーム。稜から見れば何が駄目なのか分からないのだが、正美にとってはまだ体が不完全ないようだ。

 

「稜ちゃん何?」

「お、おう。素振りは毎日どのくらいしてんの?」

 

 不意に希の意識が自分に向き、とっさに稜の口から出た言葉はこれだった。

 

「今日は200くらいかな。いつもは400くらいやけど······それだけ?」

「あ、いや······」

 

 稜は逡巡しながらも胸の内を明かす。

 

「実は私出塁率で悩んでて。二人にアドバイスいただきたいと思ってさ······」

 

 今まで絡みがほとんど無かった稜からのお願いに希は意外そうな表情を見せた。そして出した答えは······。

 

「左で打てば?」

 

 技術的なことや練習法、打席での意識。稜がもらえると思っていた助言はこういった類いのものだった。しかし、実際に返ってきた答えは予想だにしないものであり、稜は言葉の意味を飲み込むのに少し時間を要した。 

 

「マジ?」

「うん、マジ」

 

 希が本気で言っているのか計りかねた稜が問うが、希は即答する。

 

「私のバットで良ければやってみる?」

「あ、うん。ありがとう」

 

 稜は正美からバットを借りると左で素振りを始めた。

 

「ぎこちなくね?出塁率上がるかな?」

「マシにはなるかも。どうせ今だって三割もなかろ?一塁近くなるし内野安打は増えるよ」

 

 慣れない左打ちに不安を覚えた稜が疑問を呈するが、希はバッサリと切り捨てる。気にするほどの出塁率を残しているのかと。

 

「でも甘い球以外打てる気しないんだが」

「甘い球だけ振ればいいやん」

 

 厳しいコース、甘いボール、ストライクボール(手の届く球)には全て手を出すフリースインガーである稜にとって今の希の言葉は目から鱗だった。

 

「確かに稜ちゃんって難しい球でも脊髄反射で打ちにいって凡退するとこあるから、左で一からやり直すのも手かもね」

 

 正美も希の案に同意する。

 

「······二人ともさっきから私に厳しすぎないか?」

 

 確かに出塁率が低いから相談に来たわけだし、早打ちして打ち損じるのも事実だ。しかし、言い方というものがあるだろうと稜は二人に抗議する。そんな稜に正美は少しだけ真面目な顔を作った。

 

「稜ちゃんはさ、身体能力が高いんだからやり方次第でキャプテンみたいな走攻守そろった選手にだってなれるポテンシャルはあるんだよ」

「······へ?」

 

 普段は自分を弄ってくる正美の賛辞100%の言葉に稜は呆気にとられる。

 

「私に勝負を挑んだんだから なってみせてよ」

「······正美は本当になれると思う?」

 

 稜はいつもと違うバットを握る手を見つめ、自信なさげに正美へ聞いてみた。

 

「もちろん!それじゃあ明日5時に集合ね」

「······はいっ?」

 

 正美の急なアポイメントに脊髄反射で聞き返す。

 

「私スイッチだから右打ち慣れした稜ちゃんにも左打ち教えられるよ」




 作者個人的に初心者おすすめのバッティング練習はバスター打法です。



~以下、作者の近況(その内消します)~

 無事に国試に合格して鍼灸師デビューしました。
 新しい職場に少しずつ慣れながらもヒィヒィ言いながら日々を過ごしています。

 国試の追い込みやら、本作を書き直していたり、気分転換にラブライブの小説を書いてみたりとしていたら約10ヶ月たっておりました(笑)時が流れるのは早い······(遠い目)


 わたくしにとって執筆活動は頭で考えていることを文字に起こす(言葉にする)訓練なので今後も続けていこうとは思いますが、スローペースになることは間違いないです。

 読みにくい文章な上に更新もナメクジですが、今後ともお付き合い頂けると幸いです。

敬具。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。