こじらせ勇者   作:七節蒸

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1話

ごきげんよう読者諸君、私は勇者である。

拗らせすぎてついに妄想と現実の区別がつかなくなったかと言う連中もいるだろうがまず話を聞いて欲しい。

これは別に私が今までの人生を振り返った結果発狂し脳内にもう一人の僕を創り出したわけでも、年齢=彼女いない歴という事実から目を逸らしまくった挙げ句の果てに迂遠に迂遠を重ねてわけのわからん結論に不時着したわけでも決してない。

この件は私の主観においてだけではなく客観的に充分吟味され下された結論であり、まごう事なき真実なのである。

そも勇者とは何か、勇者に任命された際に教会のお偉いさんから何やら有り難い経典を聞いたような気がするが私にはさっぱりであった。

辛うじて覚えている話によると何やら魔王現れし時代にその反動として生まれるのが勇者らしくその力はうんぬんかんぬん(うろ覚え)。

まあ要するに魔王を討伐するのが勇者の使命ということである。

そして勇者として覚醒した者には特別な力が目覚めるのである!

そう目覚めるのである!

これを知った時私は、

「うひょー! ついに俺の時代がやってきたぜー! 酒! 女! SEX !」

などという低俗な考えは一切なく、いかにして世界を救うかどうかという高尚な考えかつ博愛精神に満ち満ちていた。

そうして魔王を討伐した暁には私の名は三千世界の最果てにすら響き渡り世界各国の姫々や、挙げ句の果てには女神々すら私のその高貴爛々たる我が魂に閑静を保ち得まい。

だが彼女らを責めるつもりはない。それはあまりに魅力に満ち溢れすぎている私の罪であって、そんな私に彼女たちが惹かれるのは至極当然というものだからである。

さてそれでは私の栄光たる未来に向かって出発しようではないか。

そんな風に考え一歩踏み出そうとした私に電流はしる。

勇者とは……一体何をすればよいのだ?

いやもちろん前述した通り魔王を倒すのが勇者の使命である以上それに従うべきであろう。

しかし……魔王とはどこにいるのだ?

その時感じた衝撃は筆舌に尽くしがたいものであった、まさか一歩目から我が野望がこんな形で躓くとは。

普通こういう場合は人類がある程度魔族に追い詰められていてそんな中で勇者が覚醒するというのが王道ではないのか。しかし近年魔王が出たなどという噂は一切聞かない、平和そのものである。

ええい、なんたる仕打ち! 腹が立つくらい世の平穏は盤石だ。少しくらい滅びかけていてくれたって良いではないか、果物も腐りかけが一番おいしいというのだから。

しかしいくら私が世の無情を呪ってもそんなことは知らんとばかりに日はまた昇り明日はやってくる。

そんな風に途方に暮れていた私にどこからかいかにも怪しさという概念を濃縮したような胡散臭い声がかかる。

『あんさん、困っているようですね』

「なんだこのいかにも人の弱り目祟り目に衝け込んでこちらを篭絡してくる悪魔のような声は!」

『酷いですね~、そんなことしませんよ』

私は周囲を見渡した、だがそこに人の気配はなく声だけがどこからともなく響いている。

『活躍の場がない? そんならやることなんて決まりきってるでしょう』

「何のことだ?」

『またまた~、判らないふりしちゃって~、本当は判っているくせに』

私は声の出所を探す、しかし判らない。声は全ての方向から等しく聞こえる。

『ないなら作っちまえばいいんですよ』

「貴様、私にマッチポンプをやれというのか!」

『別にそう難しいことではないでしょう、それにそれで貴方は名声を得ることが出来るんですから些細な問題でしょう』

ごくり、一瞬蛇の甘言に篭絡されかけたが私は鋼のような自制心で持ちこたえる。

「そんなみっともない真似できるものか! 私にもプライドと言うモノがある」

『今までの人生でも足を引っ張るばかりで大した役に立たなかったプライドなんて捨てちまえば良いんですよ』

「な!? そもそも貴様は何者だ! まさか魔王の刺客……」

『なーに言ってんですか、私は貴方ですよ』

そう、先程まで音源を探っていた声は私の頭の中から響いていたのだった。そしてこのいかにも胡散臭く邪悪さを隠しきれていない声音の正体は私の心の中の悪魔だったのである!

「くっ、私を篭絡しようとしてもそうはいかんぞ!」

『まあまあ聞いてくだせえ、そもそも勇者がチヤホヤされて何が悪いってんですか。人類の未来のために戦ってるんですぜ、少し優遇されるぐらい当然の権利だと思いますがねぇ』

「だがそれは魔王という絶対的な脅威がいるからであって平時では勇者は必要とされていない」

『だからそれがおかしいんですって、困った時にお世話になっておきながら要らなくなったらポイですか、それは理屈が通らんでしょう。だからそう、私たちが敬われるのは当然の権利なんですよ』

「……しかし」

「でしたらこう考えましょう、私たちは報酬を前払いで貰っていると。こうしておいていざ魔王が出現した時にその報酬分働いて返すのです。理に適ってるでしょう」

……それは確かにその通りだと思った。そもそも薄々感じていたことだが何故勇者である私が裸一貫で放り出されねばならんのか。国や教会の連中はもっと私を厚遇するべきではなかろうかいやするべきである。じゃないといざって時に私がこんな世界の連中助けたくなくなってしまうではないか。そう、これは私のためではなく世界のためなのである。

『さあ、それじゃあ計画の詳細を『いけません!』』

その刹那、悪魔とは違う清く響くような声が響いた。

「今度はなんだ!?」

『聞くのです、私は貴方の心の中の天使です』

なんと今度は私の心の天使が私に語りかけてきた!

『いけません、勇者の力とはもっと高尚なものであり断じてそんな低俗的な目的のために使うものではありません』

「しかしだ、現実問題として必要な時だけこちらを頼ってくるあちら側の態度にも問題があるのではなかろうか」

『耐えなければなりません、確かにそのようなことをすれば今は楽なのかもしれません、しかしそんなことをして世界を救ったとして本当に貴方は手放しで喜べますか』

「うっ」

痛いところを衝かれた。たしかにそのような蛮行に手を染めた後に世界を救ったところで後々その後ろめたさが後を引くだろう。だがしかし―――

『そんなの横暴だ! 何で私だけが耐えなくてはいけないんだ。そもそもこちらを優遇しようとしない連中に問題があるんだ!』

そう、これも事実なのである。金の切れ目が縁の切れ目と言うではないか、その言葉に倣って人に助けてもらいたいのであればまず自分から助けるべきである。この際逆もまたしかりという反論は受け付けない。というよりだ、冷静に考えるとまずひどく現実的な問題として手持ちが枯渇しかかっているのである。今日を食う身も危ういというのに他人なんかに構っていられるか、常に救いの手とは余裕ある者の身から差し出されるのだ。

「今日死ぬ身かもしれないのに他人を気遣ってる余裕なんてない!」

『そうだそうだー!』

『だまらっしゃい!!!』

「『ひっ!』」

そんな私と悪魔の抗議の声は天からの一喝により蹴散らされる。

『自分に余裕がないからこそ、そんな時に他人を気遣うことができるというのはそれだけの価値があるのです』

言っている事はご立派だがまるで現実が見えていない。こんな奴に私の主導権を握らせたらそれこそ破滅するまでこの身を使い潰されかねない。私が求めているのはそんな苦行ではなくもっと甘く優しいスローライフなのである。

私は悪魔に目配せする。奴もこちらを見て頷く。気持ちは同じなようだ。

私たちは今なお暴走し続けている特急機関車の前に立ちふさがる。

『……あら、何のつもりでしょうか?』

『生憎私たちはそんな優等生じゃないんでね……』

「抗うことにしたのさ……」

そう言ってそれぞれ武器を構える。

そんな私たちを上から見下しながら天使はアルカイックスマイルを浮かべる。

『愚かな、やはり楽園に貴方たちのような不純物は不要……ならばせめてもの慈悲、私自らが消し去ってあげましょう』

『はっやれるもんならやってみやがれ! さあ行こうぜ相棒!』

「おう! 簡単にいくと思うなよ!」

そうして今私の脳内にて秩序と混沌と性欲が互いの存在を賭けてぶつかり合う……!

「『『行くぞ―――――!!!!!!』』」

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