ダンジョンに異世界のアイテムを持ち込むのは間違っているだろうか(本編完結) 作:にゃはっふー
スピカ(ちくしょう魔法使えないようにミスリル製かよ!? 時間かけ過ぎてもやばいから、ほとんどなにもできねえ。やっぱり救援を信じるしかないけど………)
???(マスター)
スピカ(……いま声がって、間に合った!! しばらく様子見、機を窺ってくれ!!)
???(御意、念話は魔力を食うので、これからは信号にて連絡します)
スピカ(後は手紙が届けばいいなー)
神ヘスティアとリリが工房に顔を出すと、おかしな事に気が付いた。
「スピカ君?」
「スピカ様?」
首を傾げて辺りを見渡す。鍵が掛けられていて、なにもおかしくないのに、何かが変だとヘスティアとリリは思う。
ロキ・ファミリア、護衛の人員はいない。確か戦争でお呼びがかかり、手薄になるから気を付けろと言われているから、もしかしたらいないのかもしれない。それはいい、前もって知らされているし、大人しく工房に引きこもる話だったたはず。
なのにスピカがいない。二人はどうしてと首を傾げた。
「神様神様」
ナーサリーが呼び、置き手紙らしい物を渡して来る。ヘスティアはありがとうと応えてから、それを読んだ。
『ヘルプ』
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!?」
とても簡単なスピカからのSOS、相手が何するか分からないから捕まることを前提にした手紙に全てを託したスピカ。ヘスティアは絶叫して、リリはあの人はもうと叫ぶ。間をおかずに外が騒がしくなる。
「今度はなんですか!?」
リリが表に顔を出すと、フィンを始めとしたロキ・ファミリアの冒険者達が武装したエルフたちを倒していた。スピカは考え無しに付いて行ったが、もしも誘拐犯に無抵抗で付いて行かなければここで関係ない者たちを巻きこんでの戦闘になるところであった。武装したエルフの鎮圧を確認してロキは真剣な顔つきでヘスティアたちを見る。
「ドチビ、アルテナが動いた。これだけで意味分かるな?」
「アルテナ?! まさか武力行使に出たのかい!?」
「気付くのが遅れてしまった。もう彼らは既に都市を出ているだろう。護衛の彼らがすぐ側で捕まっていた事から、恐らくLv3もいるだろうね」
オラリオの外でLv3の眷属は貴重だ。そんな戦力が組み込まれるとは思わず、少し考えが浅はかだったかとフィンは悔い、すぐに切り替えて動く。
「どこ行ったと思う?」
「神様」
「どうしたんだいナーサリー君?」
「これ、お手紙と一緒に置かれてた、発信機ですの」
「発信機!?」
「そう言えば誰かを追跡するのに最適とか言って作ってから、自分は何を追跡するつもりだったんだと言って頭を抱えてましたね、あの人」
コンパスは先ほどからメレンの方角を指し示している。スピカができた唯一の事である。
「考えられる移動手段としても港町メレンしか無いだろうね。人の往来から察するに、あの町にアルテナ関係者が多く潜伏しているだろうからね」
「アレスのアホばかりに気が行ってしもうたな。彼奴らラキアまで巻きこむ気か?」
「おそらくラキアを利用したんだろうね。魔剣の事でいまだラキアを目の敵にするエルフは多い。これが計画的であれ突発的なものであれ、彼女はいま海路でアルテナに向かおうとしているところだろう」
すぐに準備するヘスティアとリリ。こちらについてくる気まんまんである。だがフィンにしてもロキが来るので変わらない。むしろ人質にされても困るので一纏めにして同行させることにした。
「急ぎましょう、門や町の方は私の
「なんでフレイヤまで?」
「ほんまなんでやろな。まぁ、いまは気にするな」
ロキが同行するのは面倒な手続きをカットするためで、フレイヤまでいる必要は無い。だがフレイヤの眷属が町に潜む者たちをあぶり出す為に動いてくれている上に、幹部である都市最強の冒険者オッタルと、フレイヤの戦車【
まさかの第一級、しかも最前線に立つ者が引く荷台に乗り込むとは思わなかったヘスティア。アレンはフレイヤ以外の為に足を使う事に苛立っているが、フレイヤたっての希望に渋々従っていた。ヘスティアはそれにどう反応していいか分からない顔をした。
そしてなぜかナーサリーを抱きしめて指示を出すフレイヤ。ロキもヘスティアたちもそれに乗り込む。
「色々言いたいことがあるけどいまはいい、ともかく急がないと」
「おそらく出てからそんなに時間が経っていないはずです」
真剣な顔で語り、その背に背負う大剣を見るリリ。スピカが作った特製であり、他にもスピカが作ったやばいものがあることを思い出す。
「あの人はもしかしたら追いかけてるかも…。いえ、スピカ様、あの人がすぐに追ってくると判断したからわざと捕まりましたねコンチクショウ。後は任せましたよ……」
そう呟き、制止するギルドを無視して神三柱と眷属たちが疾駆する。
◇◆◇◆◇
船の一室に閉じ込められ、魔法を使う道具など全て回収されたスピカ。手錠こそ外されているが、大きな魔法を使うのは躊躇われた。捕まる時も人を殺さないために使用しなかったし、威力の高さが使いにくくしている。窓を叩いて窓の外を見る。
「意外と人が多い…これだけの人数が下手に暴れたらメレンが危ないな。逃げ出すタイミングを間違えるのはまずい」
そう呟きながら窓をずっと叩く。リズミカルに、静かに………
◇◆◇◆◇
「スピカ様のご様子は」
「ずっと窓を叩き、外の様子を見ています」
「ふむ。マリッジブルーと言う奴か」
それは違うが誰もなにも言わない。ここにいる者たちはこれが一番正しいと信じて疑わない。スピカが逃げ出せばオラリオとの戦争も辞さないほど妄信している。
スピカが憂慮した通り、彼らはスピカが本格的に抵抗していたら町中であっても魔法を行使し、町の人々を巻き込んででもスピカを確保する気でいた。彼らは血筋を、それも精霊に愛された初代と瓜二つのスピカを招き入れることに執着していた。船内に囚われた今となっては遅いが、スピカは町の外を移動していた時にこそ大暴れするべきだった。
そんな雰囲気の中、船が出港する。それに老人はほっとする。船が出てしまえば例えLv6であろうと追ってこれない。都市に火を放ち、できる限り追っ手の手を割くように指示していたから、ここまで来れば問題ないだろうと安心する。
「次に火をつけるはメレンだ。ここも念のために襲撃し、混乱させておく」
「そこまでするべきでしょうか……?」
「ラキアを見よ、Lv差のあまりに蹂躙されている。奴らは我らの宝を奪おうと必ず追ってくる。二手三手打っておくべきなのだ」
「はっ!! 砲撃用意ッ!!」
砲身が港へと向けられる時、さすがに不審に思う漁師や港にいる人々がこちらを見る。彼らは躊躇いなくそちらに砲身を向けて………
爆発が起きる。
「なっ、なんだ!?」
メレンを管理するニョルズ・ファミリアの主神ニョルズが、爆発音に反応して吠え、海の方を見た。
「こ、これは。船が、
◇◆◇◆◇
「あいつら、メレンを攻撃しようとしてたな……タイミングを間違えれば危なかった」
エルフが全員船に乗り込み、船が港から十分な距離を取ってから神速メラガイアーを放ち、部屋ごと爆破したスピカ。
そのスピカをお姫様だっこして、沈む船から駆け出すのは、一人の眷属。
「そうですね。マスターの指示通り、エルフの者が全員搭乗してから動きましたが、一歩遅ければここは………」
「モールス信号、決めておいてよかったよ」
難しい顔をするスピカをお姫様だっこするのは、流れるような綺麗な黒髪を持ち、人間らしい瞳を持つ、紅の着物を纏う女性である。
一部機械のような手足を持つ彼女の名前は『加藤段蔵』。スピカを港に下ろし、スピカは静かに汗を拭いた。
「ともかく氷結系で、海から上がろうとする者を捕まえます。段蔵はこの町のファミリアに話を付けてください」
「承知」
スピカが最終再臨の霊基をイメージして作った、生ける絡繰り人形。魔力を用いて忍術を使役する忍少女。
バレたら方々からしこたま怒られるだろうからヘスティアと揃って存在を内緒にしつつ、内密に情報収集活動させていた存在である。むしろ作らない方がおかしいよな。
「さてどうしよう」
「さてどうしよう、ではないぞスピカ。後で話を聞かせてもらおうか?」
「スピカ君が無事でよかったけど段蔵君がバレたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「後輩だわ後輩だわ♪素敵なパーティを開かなきゃいけないわ♪」
「あら、それは素敵ね♪」
背後からリヴェリアがスピカの首根っこを押さえ、スピカは
ヘスティアは秘密の露見に絶叫し、ロキはリヴェリアに黙って製作依頼を出す気満々である。
「ともかく、船に乗っている彼らを捕まえようか。アイズ」
「うん」
フィンの号令でアイズや彼らに付いて来たロキ・ファミリアが動く。こうしてスピカ誘拐事件は防がれた。
◇◆◇◆◇
無抵抗で捕まった件に対する説教を後回しにして事情聴取を行ったリヴェリアは、スピカに対するアルテナのエルフ達の考えに完全にぶちギレた。
「ふざけているのか!? この子はまだ12の子供だぞ!!」
ここまで来るのにも手下を配置して、少しでも時間を稼ごうと暗躍していたらしい。幸い都市の方はフレイヤ・ファミリアが動いているから問題ないが、火を起こして混乱を起こす行動に声を高くして叫ぶ。
「ちなみにそんな事して、リュミエール家は大丈夫なんですか? 存続とかそう言うの」
リリが彼らの執着に疑問を抱き、リヴェリアに訪ねるが首を振る。
「いいや、少し前に子供が生まれたという報告があった。スピカの件もあって色々調べたからな。確かな情報だ」
「ンー、やっぱり精霊に愛されているかが一番なんだろうね。神々ですらスピカ・シロガネの異常性は精霊の加護だと言ってるくらいだし」
「間違いないわよ。仮にヘスティアが不正してもこうはならないだろうし、精霊が関わってる方が自然なのよ。この子の力はね」
「色ボケに同意しとうないが、まあそれしかないやろなー」
二柱の神の言葉に、フィンたちはなるほどと納得した。騒ぎに駆け付け、捕らえたエルフらの事情を聞いたニョルズも同意している。
「しかしラキアの騒ぎに関わるなんてな」
「ともかくまだこいつらから話を聞くか」
三人の神に囲まれた老エルフは縛られてもなお、険しい顔でスピカを見る。ヘスティアがスピカを抱きしめ、ナーサリーを抱きしめるスピカ。
「精霊に愛された彼女は、アルテナにこそふさわしい。オラリオなぞに置いておく理由は無い」
「それを決めるのは本人や、まあ答えは出てるけどな」
「くっ……ラキア兵だけか」
「ん……ラキア兵だけとはどういうことだい?」
「大変ですニョルズ様ッ!!」
慌てて駆け付けた漁師のから報告を聞いたニョルズは、顔を歪めていた。
「どうしたん?」
「ラキアの艦隊がこちらに向かっている上に、その後ろからラキアの倍にも及ぶアルテナの艦隊が来ているらしい」
その知らせに全員が嫌な顔をする。リヴェリアはため息をつき、フィンは思考する。
「どうあっても、スピカ・シロガネを自国に連れて行く気か。別にここで対処はできるが」
「なにがなんでもスピカ様は国に連れて帰る。それができないのなら、せめてラキアへの積年の恨みを晴らしてくれよう」
「それは陸地での話だな。スピカを餌にラキアをメレンに誘き寄せ、港湾を戦場にする事で逃げ果せる気だったか。メレンに被害を出さずに片付けるとなると、湾の外で抑えるしかない」
その言葉にリヴェリアの魔法で一掃する事も考えるが、もう少し欲しいところ。死者無しに事を終えるには手が足りない。
そんなことを考えていると、ふとした疑問がフィンの脳裏をよぎる。まさかと思い聞いてみた。
「スピカ、君のところに殲滅用のマジックアイテムはあるかい?」
「あっ」
その言葉に反応するスピカ。どうやら事態は解決するらしい。
◇◆◇◆◇
海の上を進む船の上、リリはため息を吐きながら海面を白目で見る。
「どうして知られると厄介な物を使わないといけないんですかね…」
「リリ、一本は任せたからね」
「もうやけっぱちです」
「見えてきたぞ」
リヴェリアの言葉に、既にボロボロのラキア艦隊と意気軒昂なアルテナ艦隊が見える。ラキア兵はそれでも諦めずに陸地で戦う気か、上陸準備を始めている。どちらの艦隊もメレンを巻きこむ気満々だ。このまま彼らの上陸を許すと、確実に町の人々に死者が出る。だからこそ海上で叩き、無駄な争い終わらす必要がある。
「準備はいいですかリリ」
「ええ」
リリとスピカは一本の剣をそれぞれ握りしめ、呟いた。
「「真名解放」」
そう呟き、リリは続けて詠唱する。
「【この灯りは星の希望、地を照らす命の証】―――」
「【
≪――承認――≫
スピカの持つ剣から無機質な声が響き渡る。
≪
「行きます」
≪
詠唱が終わり、二人の持つ剣が天を貫く光を放って雲を吹き飛ばす。
「「【
ヘスティアは思う。よくもこうポンポンポンポンとんでもない物作るよな~と。
自分ですら不正を疑いそうなスキルのチートぷりに頷きながら、二つの光の柱が艦隊を薙ぎ払い、沈ませていく。
リヴェリアは目頭を押さえ、苦悶の顔で危ない物をポンポン生み出す事に対してどう説教するか、頭を悩ませる。フィンはあれも買えるなら買わないとな、と派閥の財政と見合わせてそろばんを弾きつつ、ラキア・アルテナの兵士たちが溺れ死んでも困るため救助の準備に入る。
こうしてスピカ誘拐事件と共に行われたアルテナ襲撃事件は、漸く幕を下ろしたのであった。
「………もう一本作ろう♪」
そうスピカは嬉しそうに宣言した。
【発信機】出典オリジナル
とあるエルフの魔法剣士と仲良くなりたいから作り出された宝石とそれを指し続けるコンパス。作り出して何か違うと思い至り、工房に置いておいた品物。
【
アルトリア・ペンドラゴンの聖剣を完璧を模造した聖剣。鞘は再現不可能である為、断念している。ただの鞘ならある。
【
アーサー版の聖剣。鞘の拘束解除は13個では無く、14個になっている。スピカが勝手に拘束解除コードを増やした。
次回最終回、のちダイジェストで物語を進めるオマケ編です。映画版もあります。
ベル君とアイズの物語に、彼女が活躍する場は少ないんです。オマケだから許して。
それでは、お読みいただきありがとうございます。