シリアスな回が続いていた気がするので、ちょっと息抜きのイチャイチャ回になりました。
夏はイベントが多くて良いですね。
真昼の強い日光が照り付ける中、体育館で終業式が行われた。一応エアコンと扇風機はあるのだが、ちゃんと機能しているようには思えない。
教師の長い話を聞いていると、頭がぐらんぐらんと揺れてくる。
「百合~、暑い~」
「加奈、我慢我慢……」
加奈はもう限界が近いらしい。早く終わらないかと願っていたら、やっと話を切り上げた。
「やっと終わった。早く教室戻ろ~」
汗で貼り付いた加奈の前髪がおかしくて、少しだけ笑ってしまう。
「というわけで、明日から夏休み! 取り敢えず海行こ、海!」
教室の寒いくらい効いた冷房で元気を取り戻した加奈は、早速夏休みの話をし始めた。
「うん、海いいと思う」
「百合は水着持ってないんだよね? 今日の帰りにでも買いに行こうか?」
「今日か……加奈は大丈夫なの?」
「勿論!」
こんなに暑いのに、随分と元気だなと笑う。加奈もわたしに釣られて微笑んだ。
「いいですねぇ海。ぴちぴちの水着ギャルがわんさかいるんでしょうねぇ……」
「苺ちゃんもぴちぴちの高校生でしょ……」
理奈と苺も用事がないようだったので、四人でショッピングモールに出向いた。
苺はあまりこういう所には来たことがないらしい。目を輝かせて、珍しくはしゃいでいる。
わたしも水着ショップなんて来たことがないので、内心ドキドキだった。
「百合はどんな水着がいい?」
「う~ん……取り敢えず露出が少ないのかな?」
「海女さんが着てるようなやつ?」
「この店で売ってるの?」
「えへへ……後はスクール水着とか!」
スクール水着か……確かにあれは露出が少なくて良い。昔はもっとレオタードみたいな形だったらしいけど。
「おっ、スクール水着の話ですか!?」
「苺ちゃん、食いつかなくていいから……」
隣のフロアで水着を見ていた二人が急に食いついてくる。
しかし、今日の苺は本当にテンションが高い。どうしたんだろう。
「それじゃあさ、お互いの水着を選び合うっていうのはどう?」
加奈がそう提案する。しかしわたしには荷が重い。自分の水着すら選んだことが無いのに、どうして他人のが選べるんだろう。
「でも……」
「えへへ、実は私はもう決まってるよ。これです!」
加奈が見せてきたのは青と白の縞々のビキニだった。
「む、無理! こんな露出多いの無理!」
「おお、珍しく大きい声……」
そう言われてハッと周りを見る。幸い人はほとんどいないので良かったけど、わたしの顔は真っ赤に染まってしまった。
「でもでも、百合絶対似合うよ! こんなに肌綺麗なんだし」
加奈がわたしの腕を触ってくる。発汗してしまう。
「そ、それなら加奈がもっと露出高いの着てくれたら、わたしも着るっ!」
「うっ……私自分の身体自信ないから……」
「そんなのわたしだって……」
結局試着したのを見せ合うことにした。服を脱いでビキニを着る。
鏡に映るのは小さな身体。くびれは全然ないし、胸も小さい。こんな子供っぽいわたしにビキニなんて似合うわけがない。
「百合~、終わった?」
隣の試着室から加奈が呼ぶ声が聞こえる。
「うん終わったよ」
「じゃあ一緒に開けよう」
せーのでお互いの姿を見せ合う。
加奈が着ているのは、わたしが選んだ赤いビキニ。自分でも意地悪だと思う。それでも加奈のビキニ姿はとても綺麗だった。
加奈もわたしと同じで、子供っぽい体型をしている。きっと世間一般ではグラマラスな人の方がビキニは似合うのだろうけど、わたしは加奈のビキニ姿が誰よりも美しく感じた。可愛く感じた。
「おお! 百合可愛い!」
「べ、別に似合ってないでしょ? 加奈の方がずっと可愛いよ。本当に綺麗」
「え……私なんてその……か、可愛くないし!」
そう言ってカーテンをピシャッと閉めてしまう。一瞬見えた彼女の顔は真っ赤だった。珍しく照れてる加奈が可愛らしく感じた。
「百合、やっぱりもっと露出少ないのにしよう……? こんなの他人に見せるのなんて耐えられないから……」
「そうだね……」
最終的に二人ともワンピース型の露出低めの水着を選んだ。
「お二人も決まりましたか?」
「うん、決まったよ。苺さんは?」
「勿論です! こんな感じにしました」
苺が袋から取り出したのはフリルの付いたビキニだった。
「おへそ出すの? 大胆だね……」
「もっと露出多いのにしようと思ったんですが、理奈さんに咎められまして」
「そりゃあそうだよ」
理奈がひょっこりと現れた。
「苺ちゃん際どいの選ぶし、挙句の果てには私にも着せようとするし……」
「理奈さんはどんな感じにしたの?」
「こんな感じ……」
加奈が選んだわたしの水着と似てる。やっぱり姉妹なんだなと感じた。
「しかし、苺は何でそんな恥ずかしい水着選んだの……」
「だって夏ですよ。海ですよ。はっちゃけたいじゃないですか?」
「だからって、あんまりやりすぎないでね?」
海。わたしは初めて行くし緊張するけど、皆で行くならきっと楽しいんじゃないかなと思った。
強い日差しが照り付ける電車の車内。
窓の外を眺める。
深い青が広がっている。
潮の匂いがこちらまで漂ってきそうな、そんな景色だ。
「百合って泳げる?」
「泳げないよ」
「そっか、それじゃ浅瀬にいようね。溺れるとまずいから」
「うん」
加奈が気遣ってくれる。そんな彼女の優しさが嬉しい。
「ばーん! どう百合?」
「うん、綺麗。可愛いよ」
更衣室の中、加奈の白く柔らかい肌が露出する。
触りたくなるような、そんな衝動に駆られる。
「って百合もパーカー脱ぎなよ」
「……心の準備が出来てからね」
やはり他人に、しかも知らない人だらけの中で肌を見せるのは怖い。
「そっか、分かった。それじゃ行こ? 苺と理奈が待ってるから」
「うん」
加奈がわたしの手を引いて歩き出す。
わたしもその手をそっと握り返した。
「おっ、来た来た」
既に水着に着替え終わった理奈と苺が待っていた。
「それじゃあ行こうか」
四人で一緒に歩く。
鼻の先には潮風が香っている。
穏やかな波が寄せては返す浜辺。
足元の砂は夏の日差しを包み込んで、熱が籠っている。
「う~水冷たい。気持ちいい」
パシャパシャと水を足で蹴って、加奈が感嘆の声を上げた。
わたしも意を決してパーカーを脱いで、水の中に入っていく。
「あ、気持ちいい」
「でしょ!」
最初は足首まで。段々と深い所へ行き、下半身まですっぽりと水に浸かる。
「あんまり深くには行かないようにね」
「うん。ってうわぁ!」
急な波に足を取られてしまう。
「百合!」
とっさに加奈が受け止めてくれた。
密着する二人の身体。加奈の心臓の音が耳の近くで鳴っている。
「あ、ありがとう……」
「う、ううん……」
顔が真っ赤になってしまう。
頭の上で輝いてる、太陽みたいに。
「い、一旦戻るね……」
「う、うん……」
何だか恥ずかしくなってしまって、一旦パラソルまで戻ることにした。
「って苺ちゃん、そんなに気合入れてるのに泳げないんだ」
「はい、泳げません。浮けません」
「そっか……あれ、百合さん? どうかしたの?」
「ううん。ちょっと休憩」
「そう。お姉ちゃん一人だとちょっと心配……私行ってくるから、苺ちゃんお願いしてもいい?」
「はい。お願いされました」
苺のセリフに理奈と二人でふふっと笑ってしまう。
「見て下さい百合さん、羅生門ですよ」
「上手過ぎない?」
苺が砂で作った羅生門を見せてくれる。とても素人の出来じゃない。
「それより、何かあったんですか? 顔真っ赤ですよ」
「実はね……」
苺にさっきの話をした。
「良いですねぇ、青春ですねぇ」
何で年上目線なんだろう。
「苺さんは理奈さんと一緒じゃなくていいの?」
「まぁ、たまには百合さんと二人きりも良いと思いまして」
その言葉が何だか嬉しくて、二人で目を合わせて微笑む。
「ただいま~。お腹空いちゃったよ~」
理奈と加奈が帰ってくる。
「二人ともお昼食べに行こう?」
「海の食事と言えばやきそば! これは鉄板だよね。あ、鉄板で作るからじゃなくて」
「ふふっ、それじゃあ行こうか」
加奈がわたしの隣に立ってもじもじしている。
彼女の手にそっと触れると、彼女も指を絡めてきた。
二人の顔は相変わらず真っ赤なままだ。
「ふぅ~おいしかったね」
加奈がお腹を擦りながら言う。
「午後からは何やります? 皆でお城でも作ります?」
「うーん……」
三人で悩んでいると、理奈が手にスイカを持ちながらやって来た。
「皆、スイカ買ってきたよ」
「おお、それじゃスイカ割りやろう!」
というわけで、スイカ割りをすることになった。何故かわたしが割る役で。
「百合~がんばれ~!」
「百合さん、もうちょっと右」
と言われても、どこか見当も付かない。
「もうちょっと左……そこ!」
波の音の中で、加奈の声が鮮明に響いた。
力いっぱい振り下ろすと、確かな手ごたえを感じた。
「スイカうま~」
「百合さんお上手ですね。本当に初めてですか?」
「皆の誘導が良かったから」
「ね、凄いでしょ百合は。なんたって私の恋人だからね!」
そう言ってぎゅっと抱き付いてくる加奈。
「か、加奈!? 二人も見てるから……」
「えへへ……」
「むぅ、見せつけてくれますね」
海風に乗って潮の匂いが運ばれてくる。その匂いも何だか優しく感じた。
「はぁ~……何だか疲れちゃったよ」
パラソルの下、加奈と隣同士になって寝そべる。理奈と苺は二人で砂の城を作っているようだ。
「たくさん遊んだもんね」
「うん。肌もヒリヒリする……今日のお風呂は多分地獄だよ」
「ふふ……」
小指の先に触れる。指が絡む。
「ん……」
そっと唇にキスをすると、加奈はわたしを受け入れた。
二人の体温が夏の暑さによって高められる。
加奈の心臓の音がいつまでも、いつまでも聞こえていた。
西日に照らされた電車の車内。遠ざかっていく海を眺める。
肌がヒリヒリと痛い。
「ふふ、お姉ちゃん寝ちゃってる」
すぅすぅと寝息を立てた加奈の頭が、やがてわたしの肩に落ちてきた。
「あ……」
ちょっぴり日に焼けた肌。熱の籠ったその素肌が、何だかとても愛おしいなと思った。
「あぅ……百合……」
「寝てて大丈夫だよ。着いたら起こすからね」
「ん……ありがと……」
そしてそっと目を閉じる。
加奈からは潮の匂いがしていた。
この匂いは、秋になっても忘れないだろうなと思う。
やっぱり漫画やアニメでも水着回はいいものです。
私は実際に海で遊んだ記憶がほとんどないので、描写するのに一苦労でしたが。
そもそもスイカ割りって実在するのでしょうか。書いてて凄く気になりました。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。