ぐれーす!   作:イッチー団長

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夏は色々書きたいイベントが多いですね。
まぁ現実は秋ですが。

久しぶりのプロフィール紹介
名前:早川春奈
身長:162cm
趣味:アクセサリー作り、料理
血液型:A型
誕生日:8月8日
家族構成:妹が一人(百合)と母(早紀)、父は既に他界。
東京の大学に通っている、現在は一人暮らし。
明るくて誰にでも好かれやすい。
結構抜けている所があって、百合に世話を焼かれることもしばしば。


13話 線香花火

 電車の窓から差し込む朝日。

 眩しくて目がくらむ。

 今日は加奈の家に泊まる予定だ。

 胸が高鳴る。友達の家に泊まるなんて初めてだ。

 

 電車のドアが開くと、蒸し暑い空気が流れ込んでくる。

 長いスカートがひらひらと舞った。

 

 

 

「お邪魔します」

「百合さん、いらっしゃい」

 出迎えてくれたのは理奈。

「あれ、加奈は?」

「お姉ちゃんは今掃除中……もう、だから普段からやっておけって言ってるのに……」

 理奈がぶつくさと文句を言っている。何だか加奈らしいなと思っておかしくなる。

「あら、あなたが百合さん? いつもお話は聞いています。加奈と理奈の母、朝美と言います」

「は、初めまして。早川百合です。今日はお世話になります」

 ひょっこりと顔を出したのは加奈たちのお母さん。

 黒髪を後ろでまとめていて、何だか色っぽい人だなぁと思ってしまう。身長はわたしの母とそんなに変わらないけど、随分と印象は違うように感じる。

 

 三人で話していると、二階の方からどたばたと音がして、加奈が階段から降りてきた。

「ごめん百合! 遅くなった!」

「ううん。掃除は終わったの?」

「うん!」

「うん、じゃないの。普段から掃除はちゃんとやっておきなさい」

 小言を言うのが何だか理奈に似てる。

 説教なのに、何だか優しく感じるところもそっくりだ。

 

 

 

 加奈の部屋に入る。

 意外と、と言ったら失礼かも知れないけど、綺麗な部屋だ。

「あっ、百合、押し入れは開けないでよ」

「あ、うん……」

 

「お母さん、綺麗な人だったね」

「そうかな……百合のお母さんの方が綺麗だと思うけど」

「そんなことないよ」

 身内が褒められるのは何だかこそばゆい。加奈も同じなのかも。

 

「でも似てないでしょ、私とお母さん。理奈は似てるって言われるんだけどねぇ」

「あぁ、確かに理奈さんの方が似てるかも」

「うん、私はお父さん似。百合はお母さん似だよね」

「あ、私もお父さん似らしいよ。お父さんの顔、いまいち覚えてないんだけど」

 父は幼少期に亡くなった。

 思えば幼少期の記憶ってほとんど無いなって思う。

「お互い父似かぁ……私たちも似たもの同士だね!」

「うん」

 二人で目を見て微笑み合う。

 似たもの同士……加奈とわたしがそうなら、少し嬉しいな。

 

「二人とも何話してるの?」

 ドアが開いて理奈が顔を出す。

「あ、ううん。理奈さんはお母さんに似てるねって話」

「え~何それ~恥ずかしいよ」

 理奈の手を見ると、緑色のカバーがついた本を持っている。

「これね、私達の小さい頃のアルバム。定番でしょ?」

「ふふっ」

 加奈がわたしの家に来た時と一緒だ。やっぱり姉妹なんだなと感心してしまう。

 

「これが幼稚園の頃。こっちは小学校」

「二人とも小さくてかわいい」

「まあ小さいのは今でもだけどね……」

 

「二人はどんな子供だったの?」

 わたしが知らない昔の話。特に好きな人なら知りたい。

「う~ん、結構今と同じ感じだったよ? ね?」

「うん。強いて言えばお姉ちゃんは今より人見知りだったかな?」

「そうかな……? 今でもちょっと苦手だけどね」

 加奈のこういうところ、好きだなぁって思う。

 弱いところを見せても、弱く見えない。それどころか魅力的に見えるところ。

 わたしにはとても無理だ。自分の駄目な部分はあまり見せられないし、見せても卑屈に思われてしまう。

 

 

 

「百合さん、何か苦手な食べ物とかある?」

「ううん、特にないよ」

「そっか。取り敢えず今日はカレーにしようと思うんだけど」

「理奈さんが作るの?」

「うん。って言ってもお母さんの手伝いだけど」

「じゃあわたしも手伝うよ」

 料理は少しならできる。

 いつか一人で暮らすことになるし、勉強しておこうと思ってるから。

「いいんだよ、百合。お客さんなんだから気を使わないで」

「そうそう。お姉ちゃんみたいに、客人じゃないのに食べるだけの人もいるんだから」

「うっ!」

 理奈は案外加奈に容赦ないところがある。

 でも二人は仲良し。

 きっと双子なりの距離の取り方、傷付けない方法があるんだろう。

 単純に二人とも優しいから、っていう理由もありそうだけど。

 

 

 

「ぐあぁぁ! 百合強い!」

「そうかなぁ……」

 理奈の言葉に甘えて、加奈と一緒にゲームをして遊ぶことにした。

 今思えば理奈が気を使って、加奈と二人にしてくれたのかも知れない。

「もう一戦! 今度はこっち」

 加奈の家にあるゲームで、わたしはやったこともないのに、何故か加奈に勝ってしまう。

「百合強すぎるよぉ……もしかしてプロ?」

「違います」

 そうやってまったり過ごしていると、カレーの良い匂いが運ばれてくる。

 

「二人とも、カレーできたよ」

 理奈が部屋に呼びにきた。

「はぁい。理奈、百合ゲーム強いんだよ! 私一度も勝てなかった」

「というかお姉ちゃんが弱いんでしょ。私にも勝ったこと無いし」

「うっ……それもそうだった」

「ふふっ」

 こういう空気の中に自分がいれることが、何だか嬉しい。

 もし加奈と一緒に暮らしたら、ずっとこんな感じなのかも知れない。

 

 

 

「ご馳走様でした。お母さん、理奈さん、おいしかったです」

 加奈のお母さんを『お母さん』と呼んでいいのか、いまいち分からない。他の人はどう呼んでるんだろう。

「ええ、お粗末様でした。それじゃあ百合さん、先にお風呂入ってきて」

 お母さんからそう促される。客人に気を使ったんだろうけど、この場合一番風呂は遠慮した方がいいのかな?

「よし、行こう百合!」

「ち、ちょっと待って。一緒に入るの?」

「うん。嫌だった?」

「嫌ではないけど……」

 水着の試着の時とか、ほぼ裸みたいな状況を見せたことはあったけど、さすがにお風呂に二人で入るのは恥ずかしい。

「う~ん。それなら仕方ないか……」

 でも……。

「や、やっぱり一緒に入ろうかな? 入ってもいい?」

「うん! もちろんだよ!」

 

 

 

 ちゅぽんと水の音が響く。

 さすがに対面は恥ずかしいので、背中合わせで入ってもらうことにした。

「百合の肌すべすべだねぇ」

 何だかいつもよりも早くのぼせそう。

 顔も体も紅潮している。

 

「それじゃあ、先に身体洗うね」

「うん」

 失礼かなと思いながらも、視界の端で加奈を見る。

 小さくて丸っこい、子供のような身体が可愛らしかった。

 

 シャワーの音が鳴り止む。

 加奈が再び湯舟に入ってくる。

「百合も洗っちゃえば? それとも私が洗おうか?」

 冗談なんだろうけど、わたしの胸はドキドキしっぱなしだった。

 

 

 

「百合が髪まとめてるの新鮮! 可愛い!」

「そ、そうかな……」

 わたしはお風呂あがりには、いつも軽く髪をまとめている。

 自分の家とは違うシャンプーの匂いがして、少し不思議。

 

「加奈、パジャマかわいいね」

「そういう百合もかわいいよ」

 いつもは制服姿ばかり見ているけど、こういう格好の加奈も素敵。

 でも、自分のパジャマ姿を誰かに見せるのは何だか恥ずかしい。

 

「ふふ……百合、夜はまだまだこれからだよ」

「何かするの?」

「じゃーん! 花火!」

 加奈が取り出したのは、コンビニとかで売ってる花火セット。

 そう言えば友達と花火をした記憶がない。

「理奈がお風呂から出たら一緒にやろうね」

 楽しそうに笑う加奈を見ていると、わたしも楽しくなってくる。

 何だか子供に戻ったみたいに。

 

 

 

 今年の夏は夜でも暑い。

 ジトッとした空気がわたしを包む。

 庭に出て、花火の準備をする。

 加奈はずっとワクワクしている。わたしも同じ気持ちになる。

 

「よし、まずはこれ!」

 手持ちの花火に火が点いて、黄色い炎がパチパチとはじける。

 三人の顔が火に照らされて、暗闇の中にぼんやりと浮かんでいる。

「綺麗だね」

 やがて火は消えて、辺りは再び真っ暗になる。

 

「よし、次!」

 さっきまで綺麗だった花火は、バケツの中でシュウシュウと音を立てて消えた。

 花が咲いては消えるように、花火も綺麗なのは一瞬だけ。

 だからこそ素敵なのかも知れない。

 わたしはどうだろう。綺麗に咲けているのかな。

 花火に照らされた加奈の顔を見ながら、そんなことを思った。

 

 

 

「最後はやっぱりこれかな」

 加奈が取り出したのは線香花火。

「この最後のポトンって落ちるのが好きなんだよね」

「わかる」

 先端に火が付くと、パチパチと音を立てて小さな火花が散っていく。

 だんだんと短くなっていく花火を見ていると、少し切なくなってくる。

 最後にちょっとだけ勢いが増して、そして火は落ちていく。

 

「終わっちゃったか……」

「ねぇ加奈、理奈さん。わたし花火ってあんまりやったことなかったけど、少し好きになったかも。また来年も一緒にしよう」

 線香花火で寂しくなって、少しだけ素直になってしまう。

「うん」

 

 

 

「それじゃあ、私そろそろ寝るね。二人ともお休み」

 理奈が自分の部屋に戻っていく。

 そうか、二人きりか……。

 そう思うと心臓が大きく脈打った。

「私たちもそろそろ寝る?」

「うん……」

「百合、ベッド使っていいよ。お客さんだし」

「え、いいよ……加奈が使って」

「いいって、いいって」

 こうなると譲り合いになってしまう。

「それじゃあ、一緒に寝る?」

 加奈を驚かせようと思って、そう言った。

 予想通り、加奈は顔を真っ赤に染めて驚いた。

 でも、その返事だけは予想できなかった。

「うん……」

 

 加奈の吐息が静かに響く。

 加奈にもわたしの息の音、聞こえてるのかな。

「私、家族以外の誰かと一緒に寝るのなんて初めてだよ」

「う、うん……わたしも」

 枕を横に並べて、加奈はわたしに微笑む。

 恥ずかしいし、緊張するけど、こんなに幸せなことってあるんだろうか。

 加奈の髪からは、さっきの線香花火の匂いが微かにしている。

 

「今日眠れるかな? 百合が隣にいると、緊張しちゃって」

 そうか、緊張しているのはわたしだけじゃなかったんだ。

「眠れなかったら、ずっとおしゃべりしてよう? 加奈に話してないこと、話したいこととか、たくさんあるから」

「うん、それもそうだね。私も百合に伝えたいこと、まだまだたくさんあるんだよ?」

 最後に、「こんなにおしゃべりなのにね」と付け加えた。

 

 その夜は、加奈の体温を傍にずっと感じていた。

 寝苦しい熱帯夜だったけど、何故か自然と眠っていたらしい。

 朝目覚めた時、隣に加奈が居るのが、何よりも嬉しかった。

 

 

 

≪余談≫

『昨日、そんなことが……どうして私はそこにいないんでしょう』

「親戚と旅行中だからでしょ?」

『うぅ~、こんなことならお留守番してれば良かった~』

「いやいや、家族付き合いも大事にしてね?」

『次のお泊りには必ず行きますからね。誘ってくださいね』

「うん、勿論」




というわけで、お泊り&花火回でした。
線香花火って好きなんですが、最近十年以上やってないですね。
一緒にやる人がいませんからね。百合から見た加奈みたいな。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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