といっても行き当たりばったりで書いてたりしますが。
寒い日に夏の話を書くのは結構面白いです。
「おはよ~百合。制服着るの久しぶりで、何か恥ずかしいね」
「おはよう。うん、何か分かるかも」
9月1日。眠たい目、だるい身体を引きずって学校へ向かう。
長いようで短かった夏休みが終わった。
もうセミの声も聞こえなくなってしまった。
「理奈さんは?」
「苺の家に寄ってから来るって」
「そっか」
加奈と二人きり。
夏休みも何度か二人で遊んだけれど、改めてこうして登校するのは、少し恥ずかしい気がする。
「夏休みは終わったのに、こんなに暑いのおかしいよ~。まだ夏休みでいいのに……」
子供っぽいことを言う加奈を見て笑う。何だか懐かしい。
「9月でも結構暑いよね。早く秋らしくなって欲しいけど」
「百合は秋が好き?」
「うん。一番好きかも」
夏でも冬でもなく、中途半端な短い季節。そんな所が好きかも知れない。
「そっか、美味しい食べ物たくさんあるからね」
「それはそんなに……」
「百合さんおはよう」
「おはようございます……今日は何して遊びましょうか……」
苺が寝ぼけた様子で歩いてきた。
「苺、夏休みは終わったんだよ……」
「いや、そんなわけ……」
苺が胸ポケットから携帯を取り出して、日付を確認する。
「そんな……夏休みはもう終わりなんて……」
がっくりと頭を垂れる。
「もう、そんな寸劇やってないで早く行くよ。新学期早々遅刻なんて嫌だからね」
教室に入って、加奈は早速たくさんのクラスメイトから話しかけられていた。
忘れていたけど、加奈は結構人気があるんだった。
それは嫌なことじゃないけど、少し嫉妬してしまう。
「百合、どうしたの?」
加奈が話しかけてくる。
気を使わせてしまったかも知れない。
「ううん、何でもないよ」
ぎこちない笑みを浮かべてそう答えた。
相変わらず愛想笑いが下手だなと思う。
「百合、二学期は行事も色々あるし、きっと楽しいと思うよ」
そして、加奈は相変わらず笑顔が素敵だ。
わたしもいつかこんな風に笑いたいなと思った。
「加奈、帰ろう?」
下校時間になっても、まだ日は落ちていない。
この時間くらいには、もう少し涼しくなってもらえると過ごしやすいのに……。
「うん……ん?」
加奈の携帯が鳴る。メールが来たみたいだ。
「ん~、理奈と苺は少し居残り勉強していくって……」
「どうしたんだろう、二人とも」
「苺が放心状態だから、勉強の勘を取り戻させるんだって」
まさか、ずっとあのままだったんだろうか。
「じゃあどうする? 先に帰る?」
「うん。もし良ければ百合の家、行ってもいいかな?」
「うち? うん、大丈夫」
加奈と一緒に電車を降りて、わたしの家へと帰る。
いつもの喫茶店や河川敷を通り過ぎる。
何だかこの時間がとても愛おしく感じた。
「そういえば、お姉さんはまだいるの?」
「お姉ちゃんね、今日東京に戻るって」
「そうなの? 私お邪魔して大丈夫だった?」
「大丈夫だと思うよ。お姉ちゃんも会いたがってたし」
姉はことあるごとに加奈のことを聞いてきた。
わたしのことが心配なのか、単純に興味があるのか分からないけど。
わたしも、加奈のことなら、好きなことならたくさん話せる。
姉が居た夏休み。いつもより家の中が賑やかだった。
案外こういうのも嫌いじゃないと思った。
昔ならこんなこと思わなかったのに、加奈のおかげで変わったのかな。
「加奈ちゃん!? いらっしゃい!」
二人で玄関に入るや否や、姉は加奈に抱きついてきた。
「お、お姉さん!? その……お邪魔します……」
加奈がたじたじになっているのも珍しいので、そのまましばらく眺めていた。
「いや~嬉しいなぁ。最終日に加奈ちゃんに会えるなんて」
わたしの部屋に三人で入る。
今日の姉はいつもよりテンションが高い。
「じゃあ何しよっか? 百合の昔話でもする?」
「ちょ……」
「聞きたいです!」
「加奈まで……」
「百合はね、すっごい優等生だったんだよ。先生にも頼られてたし、姉として誇らしかったなぁ……」
「お姉ちゃん、それ美化してるよ。大人しかったから、先生も扱いやすかったんでしょ?」
小学生のころから、人と話すことが苦手で、休み時間は本を読むか勉強するかのどちらかだった。
教師はそういう人間の方が好きみたい。良く頼みごとをされていたことを思い出す。
今思うと、便利に使われていたのかなと思う。
「百合は今でも優等生ですからね。恋人の私も鼻が高いですよ」
「もう、そんな褒めないで……」
褒められるのは苦手だ。
自分はそんな人間じゃないのに、と思ってしまう。
でも、少し嬉しい。
二人がそう思ってくれていることは事実だから。
「ってもうこんな時間かぁ……そろそろ電車乗らないと……」
窓の外からオレンジ色の光が差し込む。
おしゃべりに夢中で気付かなかった。
それだけ二人との話が楽しかったんだろう。
「あっ、それじゃあ私もお暇しようかな」
「そっか。駅まで送って行くよ」
夕暮れの光が胸に刺さる。
お別れ時の寂しさは、いつまでたっても抜けないものだなと思う。
駅の改札の前、加奈と姉に別れの挨拶をする。
姉ともしばらく会えない。
別れる時に限って、その人が急に愛おしく感じるから不思議だ。
「それじゃあね、百合。お母さんとも仲良くね」
「うん、分かってるよ」
今になって思う。もっと話したかった。
もっとわたしが素直なら、お姉ちゃんと色んな話が出来たのに。
「百合。加奈ちゃんを大事にするんだよ。百合ならきっと大丈夫だから」
「……うん!」
まだ残る夏の熱気を感じる。
人が多くなってきた駅の中で、お姉ちゃんと恋人の背中を見送った。
≪その後≫
駅のホームには直射日光が当たっている。
汗がねっとりと額に滲む。
「ねぇ加奈ちゃん」
「はい?」
妹の恋人、加奈ちゃんがこちらを向く。
ぱっちりとした目が可愛らしい。
その瞳の中に私の姿が映る。
「百合のこと、お願いね。あの子結構ナイーヴだから」
「はい! 任されました!」
明るい声で返事をする加奈ちゃん。
「羨ましいなぁ……」
誰にも聞こえないような小さな声でポツリとつぶやく。
その声をかき消すように、電車の音が近づいてきた。
お姉ちゃんはこれからもちょくちょく出てきます。
登場人物全員優しくがモットーなので、今後も優しいお話が書きたいなぁ……。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。