ぐれーす!   作:イッチー団長

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一年生二学期編開始。
といっても行き当たりばったりで書いてたりしますが。

寒い日に夏の話を書くのは結構面白いです。


15話 残暑

「おはよ~百合。制服着るの久しぶりで、何か恥ずかしいね」

「おはよう。うん、何か分かるかも」

 9月1日。眠たい目、だるい身体を引きずって学校へ向かう。

 長いようで短かった夏休みが終わった。

 もうセミの声も聞こえなくなってしまった。

「理奈さんは?」

「苺の家に寄ってから来るって」

「そっか」

 

 加奈と二人きり。

 夏休みも何度か二人で遊んだけれど、改めてこうして登校するのは、少し恥ずかしい気がする。

 

「夏休みは終わったのに、こんなに暑いのおかしいよ~。まだ夏休みでいいのに……」

 子供っぽいことを言う加奈を見て笑う。何だか懐かしい。

「9月でも結構暑いよね。早く秋らしくなって欲しいけど」

「百合は秋が好き?」

「うん。一番好きかも」

 夏でも冬でもなく、中途半端な短い季節。そんな所が好きかも知れない。

「そっか、美味しい食べ物たくさんあるからね」

「それはそんなに……」

 

 

 

「百合さんおはよう」

「おはようございます……今日は何して遊びましょうか……」

 苺が寝ぼけた様子で歩いてきた。

「苺、夏休みは終わったんだよ……」

「いや、そんなわけ……」

 苺が胸ポケットから携帯を取り出して、日付を確認する。

「そんな……夏休みはもう終わりなんて……」

 がっくりと頭を垂れる。

「もう、そんな寸劇やってないで早く行くよ。新学期早々遅刻なんて嫌だからね」

 

 

 

 教室に入って、加奈は早速たくさんのクラスメイトから話しかけられていた。

 忘れていたけど、加奈は結構人気があるんだった。

 それは嫌なことじゃないけど、少し嫉妬してしまう。

 

「百合、どうしたの?」

 加奈が話しかけてくる。

 気を使わせてしまったかも知れない。

「ううん、何でもないよ」

 ぎこちない笑みを浮かべてそう答えた。

 相変わらず愛想笑いが下手だなと思う。

「百合、二学期は行事も色々あるし、きっと楽しいと思うよ」

 そして、加奈は相変わらず笑顔が素敵だ。

 わたしもいつかこんな風に笑いたいなと思った。

 

 

 

「加奈、帰ろう?」

 下校時間になっても、まだ日は落ちていない。

 この時間くらいには、もう少し涼しくなってもらえると過ごしやすいのに……。

「うん……ん?」

 加奈の携帯が鳴る。メールが来たみたいだ。

「ん~、理奈と苺は少し居残り勉強していくって……」

「どうしたんだろう、二人とも」

「苺が放心状態だから、勉強の勘を取り戻させるんだって」

 まさか、ずっとあのままだったんだろうか。

 

「じゃあどうする? 先に帰る?」

「うん。もし良ければ百合の家、行ってもいいかな?」

「うち? うん、大丈夫」

 

 

 

 加奈と一緒に電車を降りて、わたしの家へと帰る。

 いつもの喫茶店や河川敷を通り過ぎる。

 何だかこの時間がとても愛おしく感じた。

 

「そういえば、お姉さんはまだいるの?」

「お姉ちゃんね、今日東京に戻るって」

「そうなの? 私お邪魔して大丈夫だった?」

「大丈夫だと思うよ。お姉ちゃんも会いたがってたし」

 姉はことあるごとに加奈のことを聞いてきた。

 わたしのことが心配なのか、単純に興味があるのか分からないけど。

 わたしも、加奈のことなら、好きなことならたくさん話せる。

 

 姉が居た夏休み。いつもより家の中が賑やかだった。

 案外こういうのも嫌いじゃないと思った。

 昔ならこんなこと思わなかったのに、加奈のおかげで変わったのかな。

 

 

 

「加奈ちゃん!? いらっしゃい!」

 二人で玄関に入るや否や、姉は加奈に抱きついてきた。

「お、お姉さん!? その……お邪魔します……」

 加奈がたじたじになっているのも珍しいので、そのまましばらく眺めていた。

 

「いや~嬉しいなぁ。最終日に加奈ちゃんに会えるなんて」

 わたしの部屋に三人で入る。

 今日の姉はいつもよりテンションが高い。

「じゃあ何しよっか? 百合の昔話でもする?」

「ちょ……」

「聞きたいです!」

「加奈まで……」

 

「百合はね、すっごい優等生だったんだよ。先生にも頼られてたし、姉として誇らしかったなぁ……」

「お姉ちゃん、それ美化してるよ。大人しかったから、先生も扱いやすかったんでしょ?」

 小学生のころから、人と話すことが苦手で、休み時間は本を読むか勉強するかのどちらかだった。

 教師はそういう人間の方が好きみたい。良く頼みごとをされていたことを思い出す。

 今思うと、便利に使われていたのかなと思う。

 

「百合は今でも優等生ですからね。恋人の私も鼻が高いですよ」

「もう、そんな褒めないで……」

 褒められるのは苦手だ。

 自分はそんな人間じゃないのに、と思ってしまう。

 でも、少し嬉しい。

 二人がそう思ってくれていることは事実だから。

 

 

 

「ってもうこんな時間かぁ……そろそろ電車乗らないと……」

 窓の外からオレンジ色の光が差し込む。

 おしゃべりに夢中で気付かなかった。

 それだけ二人との話が楽しかったんだろう。

 

「あっ、それじゃあ私もお暇しようかな」

「そっか。駅まで送って行くよ」

 夕暮れの光が胸に刺さる。

 お別れ時の寂しさは、いつまでたっても抜けないものだなと思う。

 

 

 

 駅の改札の前、加奈と姉に別れの挨拶をする。

 姉ともしばらく会えない。

 別れる時に限って、その人が急に愛おしく感じるから不思議だ。

「それじゃあね、百合。お母さんとも仲良くね」

「うん、分かってるよ」

 今になって思う。もっと話したかった。

 もっとわたしが素直なら、お姉ちゃんと色んな話が出来たのに。

 

「百合。加奈ちゃんを大事にするんだよ。百合ならきっと大丈夫だから」

「……うん!」

 まだ残る夏の熱気を感じる。

 人が多くなってきた駅の中で、お姉ちゃんと恋人の背中を見送った。

 

 

 

≪その後≫

 駅のホームには直射日光が当たっている。

 汗がねっとりと額に滲む。

「ねぇ加奈ちゃん」

「はい?」

 妹の恋人、加奈ちゃんがこちらを向く。

 ぱっちりとした目が可愛らしい。

 その瞳の中に私の姿が映る。

「百合のこと、お願いね。あの子結構ナイーヴだから」

「はい! 任されました!」

 明るい声で返事をする加奈ちゃん。

「羨ましいなぁ……」

 誰にも聞こえないような小さな声でポツリとつぶやく。

 その声をかき消すように、電車の音が近づいてきた。




お姉ちゃんはこれからもちょくちょく出てきます。

登場人物全員優しくがモットーなので、今後も優しいお話が書きたいなぁ……。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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