ぐれーす!   作:イッチー団長

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夏が終わると、一気に寝やすくなるんですよね。
作中の季節も、もうちょっとで現実に追いつきそうです。

まだ一年生編ですがね。
結構ぐだぐた進んでいきますが、それはそれでいいのかなと思っています。


16話 ねむりの中で

 最近おかしい。

 夜にぐっすりと眠れる。

 そして気付いたら朝になってる。

 秋だからなのかな。

 それとも、他に何か……。

 

 

 

 教師の声が響く教室。窓の外は色付いてきて、大分秋らしい景色になった。

 太陽の光もどこか心地良くて、わたしはこっくりこっくりと舟をこぎ出してしまう。

 教師の声、チョークの音が遠くなっていく。

 

 

 

「百合、おはよう」

 頭上で優しい声が聞こえる。顔を上げてみると、加奈が立っていた。

「結構寝てたね。ふふっ、百合が居眠りなんて珍しい」

「って、うわぁっ! 寝てたんだ……」

 よだれが垂れていないか確認する。

 授業中に寝るなんて、初めての経験だ。

 

「秋だからねぇ」

「本当。最近は夜にちゃんと眠れるの。こんなの珍しい」

 今まで、夜は中々寝付けなかった。布団に入っても、色々考え事をしてしまって。

 ちゃんと眠れるようになって、夜がこんなに短いんだってことに気付いた。

 

「あ、加奈。後でノート見せて」

「ふふっ……分かったよ」

 

 

 

「ってわけで、百合ったら熟睡してたんだよ」

「へぇ~、百合さんが。珍しいね。お姉ちゃんならいつものことだろうけど」

 理奈が冗談交じりにそう言う。加奈が「ちょっと~!」と抗議している。傍から見ていると面白い。

 

「それで、睡眠学習の成果はどうですか?」

「ふふっ、もう……」

 何だか最近は良く笑うようになった気がする。

 頬が緩くなっているのを感じる。

 思えば母にも「百合の顔が優しくなった」って良く言われる。

 

 

 

 午後の7時。もう外は真っ暗だ。太陽が昇っている時間が短くなってきている。

 窓にはわたしの顔が映る。

 昔と変わらない、子供っぽい顔。

 でもどこか、本当に少しだけでも、変わったのかな。

 

 自分の頬を触る。

 そのままぐいっと持ち上げて笑顔を作る。いつもこんな感じで笑ってるのかなと思う。

「ふふっ」

 自分の顔がおかしく感じて、自然と笑みがこぼれる。

 

 

 

「百合~」

「加奈?」

 声がしたので振り返ってみると、何故か制服姿の加奈が立っていた。

 そして私は何故かパジャマで立ちすくんでいる。

 辺りを見回すと、砂利が敷き詰められていて、近くに川が流れている。

 多分家の近くの河川敷だと思う。

 

「最近は涼しくなってきたからね~」

「うん……」

 何かおかしいと思うけど、そのまま話が進んでいく。

 

「百合は最近、学校楽しい?」

 何だか話が噛み合わない。

 それでも、くりっとした彼女の目を見ていると、本音を話してしまう。

「楽しいよ」

「ホント?」

「うん、本当」

 学校が楽しいなんて、今まで思ったことはなかった。加奈たちと出会ったおかげだと思う。

「私たちのおかげか~、何だか嬉しいな」

 加奈が普通に心の声に答えてくる。

 

「百合とはいつまで一緒に居られるのかな……?」

「いつまでも居たいけど……」

 けど、いつまでも一緒に居ることはできない。

 いつか別れてしまうものだから……。

「寂しいなぁ……」

「うん。わたしも寂しい」

 

 だんだんと分かってきた。

 これは夢の中なんだって。

 それなら、思っていることを言おう。

 

「高校卒業したら、きっと離れ離れだね」

「そっか……」

 加奈が悲しそうに俯く。

 現実では言ったことがない。加奈が傷付くと思ったから。

 

「だからさ、加奈。キスしよう、キス」

「な、何突然!?」

 自分でも変なことを言ってる自覚はあった。

 でも夢だし、少しくらいいいかなと思った。

 

 加奈の頬を撫でて、そのまま顔を近づけていく。彼女も目を瞑る。

 何度もしたのに、キスはいつだってドキドキする。

 彼女の顔が近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなっていく。

 そして……。

 

 

 

 目覚ましが鳴っている。

 窓の外からは朝日が差し込む。

 涼しい朝だ。

 

「……何か凄い夢見てた気がする」

 思い出そうとしても、靄がかかったように思い出せない。

 それでも、悪い夢ではなかったと思う。

 

 

 

「おはよう百合」

「おはよう」

 いつも通り、通学路で加奈とあいさつする。

 でも何だか、今日は少し恥ずかしい。俯きがちになってしまう。

「百合、顔赤くない? 風邪?」

「そ、そんなことないと思うけど……」

 

「昨日ね、何か変な夢見たの。よく覚えてないけど……」

「あ~あるよね、覚えてない夢」

「でもね、加奈が出てきたことは覚えてて……」

 胸が未だにドキドキしている。加奈の顔、朝からまともに見れていない。

「私? 何か変なことしてなかった?」

「ううん……変なことしてたのは多分わたし……」

 

「ねえ加奈。ちょっとキスしてみる?」

「な、何突然!?」

 何かデジャヴ。

 動揺する加奈も珍しいので、面白くなってもっと攻めてみたくなる。

「嫌……かな?」

 顔と顔が近づく。

 彼女の吐息と、心臓の音も近くなっていく。

 

「嫌じゃないし、むしろしたいけど……」

 そこまで聞いて、半ば強引に唇を奪う。

 最初は驚いていた加奈だったけど、やがてわたしを受け入れてくれる。

 

 二人の心臓の音がいつまでもこだましていた。

 

 

 

「も、もうっ!」

 加奈が真っ赤な顔になる。わたしも同じだ。

「ごめんね加奈……機嫌直して」

「べ、別に怒ってるわけじゃないけど……もし理奈と苺に見られたらどうなってたのかなって」

「それは……本当にごめん」

 と言いながらも、二人で見つめ合って笑う。

 

 どんな夢を見たのか忘れてしまったけれど、こうしていれば悪いことは無くなる気がした。

 二人の火照った頬を冷ますように、涼しい風が通り抜けていった。




夢の中で好きな子にキスしそうになる時ってありますよね。特に学生時代は多かった。
大抵口が付く前に目覚めて落胆するのですが……。

百合も私の分身ですし、そういうモテない人間が見るような夢も見るのかなと思います。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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