作中の季節も、もうちょっとで現実に追いつきそうです。
まだ一年生編ですがね。
結構ぐだぐた進んでいきますが、それはそれでいいのかなと思っています。
最近おかしい。
夜にぐっすりと眠れる。
そして気付いたら朝になってる。
秋だからなのかな。
それとも、他に何か……。
教師の声が響く教室。窓の外は色付いてきて、大分秋らしい景色になった。
太陽の光もどこか心地良くて、わたしはこっくりこっくりと舟をこぎ出してしまう。
教師の声、チョークの音が遠くなっていく。
「百合、おはよう」
頭上で優しい声が聞こえる。顔を上げてみると、加奈が立っていた。
「結構寝てたね。ふふっ、百合が居眠りなんて珍しい」
「って、うわぁっ! 寝てたんだ……」
よだれが垂れていないか確認する。
授業中に寝るなんて、初めての経験だ。
「秋だからねぇ」
「本当。最近は夜にちゃんと眠れるの。こんなの珍しい」
今まで、夜は中々寝付けなかった。布団に入っても、色々考え事をしてしまって。
ちゃんと眠れるようになって、夜がこんなに短いんだってことに気付いた。
「あ、加奈。後でノート見せて」
「ふふっ……分かったよ」
「ってわけで、百合ったら熟睡してたんだよ」
「へぇ~、百合さんが。珍しいね。お姉ちゃんならいつものことだろうけど」
理奈が冗談交じりにそう言う。加奈が「ちょっと~!」と抗議している。傍から見ていると面白い。
「それで、睡眠学習の成果はどうですか?」
「ふふっ、もう……」
何だか最近は良く笑うようになった気がする。
頬が緩くなっているのを感じる。
思えば母にも「百合の顔が優しくなった」って良く言われる。
午後の7時。もう外は真っ暗だ。太陽が昇っている時間が短くなってきている。
窓にはわたしの顔が映る。
昔と変わらない、子供っぽい顔。
でもどこか、本当に少しだけでも、変わったのかな。
自分の頬を触る。
そのままぐいっと持ち上げて笑顔を作る。いつもこんな感じで笑ってるのかなと思う。
「ふふっ」
自分の顔がおかしく感じて、自然と笑みがこぼれる。
「百合~」
「加奈?」
声がしたので振り返ってみると、何故か制服姿の加奈が立っていた。
そして私は何故かパジャマで立ちすくんでいる。
辺りを見回すと、砂利が敷き詰められていて、近くに川が流れている。
多分家の近くの河川敷だと思う。
「最近は涼しくなってきたからね~」
「うん……」
何かおかしいと思うけど、そのまま話が進んでいく。
「百合は最近、学校楽しい?」
何だか話が噛み合わない。
それでも、くりっとした彼女の目を見ていると、本音を話してしまう。
「楽しいよ」
「ホント?」
「うん、本当」
学校が楽しいなんて、今まで思ったことはなかった。加奈たちと出会ったおかげだと思う。
「私たちのおかげか~、何だか嬉しいな」
加奈が普通に心の声に答えてくる。
「百合とはいつまで一緒に居られるのかな……?」
「いつまでも居たいけど……」
けど、いつまでも一緒に居ることはできない。
いつか別れてしまうものだから……。
「寂しいなぁ……」
「うん。わたしも寂しい」
だんだんと分かってきた。
これは夢の中なんだって。
それなら、思っていることを言おう。
「高校卒業したら、きっと離れ離れだね」
「そっか……」
加奈が悲しそうに俯く。
現実では言ったことがない。加奈が傷付くと思ったから。
「だからさ、加奈。キスしよう、キス」
「な、何突然!?」
自分でも変なことを言ってる自覚はあった。
でも夢だし、少しくらいいいかなと思った。
加奈の頬を撫でて、そのまま顔を近づけていく。彼女も目を瞑る。
何度もしたのに、キスはいつだってドキドキする。
彼女の顔が近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなっていく。
そして……。
目覚ましが鳴っている。
窓の外からは朝日が差し込む。
涼しい朝だ。
「……何か凄い夢見てた気がする」
思い出そうとしても、靄がかかったように思い出せない。
それでも、悪い夢ではなかったと思う。
「おはよう百合」
「おはよう」
いつも通り、通学路で加奈とあいさつする。
でも何だか、今日は少し恥ずかしい。俯きがちになってしまう。
「百合、顔赤くない? 風邪?」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「昨日ね、何か変な夢見たの。よく覚えてないけど……」
「あ~あるよね、覚えてない夢」
「でもね、加奈が出てきたことは覚えてて……」
胸が未だにドキドキしている。加奈の顔、朝からまともに見れていない。
「私? 何か変なことしてなかった?」
「ううん……変なことしてたのは多分わたし……」
「ねえ加奈。ちょっとキスしてみる?」
「な、何突然!?」
何かデジャヴ。
動揺する加奈も珍しいので、面白くなってもっと攻めてみたくなる。
「嫌……かな?」
顔と顔が近づく。
彼女の吐息と、心臓の音も近くなっていく。
「嫌じゃないし、むしろしたいけど……」
そこまで聞いて、半ば強引に唇を奪う。
最初は驚いていた加奈だったけど、やがてわたしを受け入れてくれる。
二人の心臓の音がいつまでもこだましていた。
「も、もうっ!」
加奈が真っ赤な顔になる。わたしも同じだ。
「ごめんね加奈……機嫌直して」
「べ、別に怒ってるわけじゃないけど……もし理奈と苺に見られたらどうなってたのかなって」
「それは……本当にごめん」
と言いながらも、二人で見つめ合って笑う。
どんな夢を見たのか忘れてしまったけれど、こうしていれば悪いことは無くなる気がした。
二人の火照った頬を冷ますように、涼しい風が通り抜けていった。
夢の中で好きな子にキスしそうになる時ってありますよね。特に学生時代は多かった。
大抵口が付く前に目覚めて落胆するのですが……。
百合も私の分身ですし、そういうモテない人間が見るような夢も見るのかなと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。