今回が一年生の最後になります。
一年書くのに19話かかりましたが、二年生編はどうしようかなと模索中です。
「くしゅんっ!」
加奈がくしゃみを一つ打つ。随分と可愛らしいくしゃみだなと思った。
「もう三月なのに寒いですね~」
「四月でも寒いからね。春はまだまだって感じだよね」
寒さは大分和らいではきたけれど、まだコートは必須だ。春の暖かさが恋しくなる。
思えば、春ってとても短い季節だなと思う。
暖かくなってきたと思えば、すぐに梅雨が始まって、そして夏になる。一瞬で終わってしまう季節だ。
でも、わたしたちが出会ったのはそんな季節だった。桃色の季節に。
「でも、もうすぐ春休みだね。それが終わったら私達は二年生」
長いような短いような、そんな一年間も終わろうとしている。そして二年生になったら、
「クラス替え、どうなるんでしょうね?」
加奈と違うクラスになるかも知れない。最近は、そのことばかり気になって仕方がなかった。
「仲良い子同士は一緒にしてくれるっていうけど、どうなんだろうね?」
「先生のみぞ知る、ティーチャーオンリーノウズですね」
その言葉に理奈がクスッと笑った。
「あの……皆は不安じゃないの、クラス替え」
楽しそうな雰囲気だったから、つい聞いてしまった。
「まあ、不安ではありますけど、放課後はこうして会えますからね」
「そうだけど……」
俯きがちなわたしに、加奈が微笑みかけてくれた。
「大丈夫だよ百合。クラスが替わってもずっと一緒だから。何なら休み時間の度に会いに行ってもいいよ?」
「ふふっ、もう加奈ったら……」
加奈がそう言ってくれて、少し心が晴れたけど、やっぱり同じクラスがいいなと思う。
寒い風が二人の間を吹き抜けていって、わたしは身震いをした。
「加奈?」
日曜日、加奈から誘われて街へ出た。駅前には平日のような人通りはなく、穏やかな空気が流れている。
わたしの横を通り過ぎていく車のエンジンの音。ざわざわと優しく響く雑踏の音。そんなものが最近愛おしく感じている。
「百合、おまたせ」
「ううん。それで、今日は何か予定ある?」
「う~ん、そこら辺をぶらぶらと……」
加奈とのデートは特に予定が無いことが多い。でも、それはそれで楽しい。一緒にいれば楽しいから、どこへ行くかなんて関係ない。
「でもさ、今年はどこか遠くに旅行行きたいなって」
「そうなんだ。家族旅行?」
「ううん、百合と二人で。ね、いいでしょ?」
優しく覗き込んでくる加奈の瞳。冷たい風が吹いてるけど、心の中は温かくなった。
「うん。それじゃあ、二人で計画立てよう」
「お小遣いも貯めないと……」
「ふふっ……」
加奈といると自然と笑えるから不思議だ。
「おっ、こんなところに公園あったんだ」
人通りも少ない住宅街に、古びた公園が佇んでいた。遊具は錆びていて、心なしか寂しい印象を受けた。
「全然使われてなさそうだね。この辺じゃ子供も少ないからかな?」
そう言いながら、加奈はシーソーの上に跨った。
「って、スカートだしやめておいた方が……」
「大丈夫、長いスカートだから中は見えないと思うよ。多分」
だからといって高校生でシーソーをするのはどうなんだろうか。
「見た目は高校生っぽくないから大丈夫だよ」
ギコギコと錆びた音を立ててシーソーが動いていく。思えば友達とシーソーで遊んだ記憶がない。遊んでくれたのはお姉ちゃんくらいだったかも知れない。
「百合、二年生になってもよろしくね」
「どうしたの、改まって?」
「いや、百合がこの前クラス替えが不安だって言ってたから」
気を遣わせてしまったのかな。
「う~ん、大丈夫だよ。不安ではあるけど、放課後はちゃんと会えるし」
「そっか。でもやっぱり同じクラスがいいよね」
「うん」
やっぱり好きな人とは一緒にいたい。少しでも長く話していたいし、見つめていたい。
シーソーの音が止んだ。加奈が地面に降りてこちらを見つめている。
「きっと一緒のクラスだと思うよ、私達」
「もう、根拠もないのに……」
えへへとはにかむ彼女。
「何となく、今思ったの」
でもそんな根拠のない言葉が、わたしは愛おしく感じた。理屈や根拠で固められた言葉ばかりでは疲れてしまうし、たまには柔らかいフワフワした言葉が聞きたくなる。
「あっ、それでそれで、旅行どこ行きたい?」
シーソーを降りたわたしに抱き付いてくる。もし加奈が犬だったら、きっと尻尾をぶんぶん振ってるんだろうなってくらい甘えてくる。
「え~、いきなり言われても。加奈は?」
「ポートランド!」
突然アメリカの地名を言われて、ふふっと笑ってしまう。
「高校生の予算なんだから、もっと近くで」
「え~、それじゃあ東京見物とか行きたいな。あとは江ノ島とかかな~」
「急に現実的になったね……」
加奈とならどこへでも行きたいし、どこへ行っても楽しいと思う。
「大人になったらさ、もっと遠くに行きたいな。外国にも。その時は百合も一緒に行こう!」
子供のような無邪気な笑顔がわたしに刺さる。
望む望まぬに関わらず、わたしたちは一歩ずつ大人に近づいてる。それが自由になることなのかは分からないけれど……。
「?」
加奈のきょとんとした瞳を見つめる。
彼女の言ったように、一緒に外国へでもどこへでも行けるようになれればいいなと思った。
公園に差し込む日差しは、少しだけ暖かくなってきた。春ももうすぐそこまで来ているのかも知れない。
というわけで、次から二年生編スタートです。
といっても、別に何か変わるわけではないのですが……。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。