今回は特に話は進まない、ほのぼの回です(毎回そうかも知れませんが)
作中では春真っ盛りですが、現実でも少しずつ暖かくなってきましたね。
春の風が頬を撫でている。風はわたしの心の中まで吹いてきて、何だかこそばゆい。
長く住み付いていた冬の姿はどこにもない。
もう春だね。そんな言葉を誰かに言いたくなった。
「いらっしゃい、加奈」
扉を開けて彼女を迎え入れる。暖かい空気と暖かい笑顔。はにかんだ彼女の瞳にわたしが映っている。
「お邪魔します。あっ、百合ちょっと待って」
加奈はすぐには靴を脱がず、横の姿見を気にしていた。
「どうしたの?」
「ううん。ちょっと……」
しきりに髪を気にしているようだ。
「あぁ、もしかして髪が乱れてるか気になるの?」
そう指摘すると、加奈の顔は真っ赤になった。
「そ、そんなこと! ……はい」
「あはは、風強かったからね」
「うぅ……」
何だか弱みを握ったような優越感と少しの罪悪感を感じた。赤面する彼女があまりにも可愛すぎる。
「加奈にも可愛い所あるんだね」
「もう、百合の意地悪……」
「ふふ……うそうそ。加奈はいつでも可愛いもんね」
そう言って口づけを交わす。春の陽気のような加奈の体温が伝わってきた。
加奈を家に呼んだのはいいけれど、何をするかは全く考えていなかった。
「今日はいい天気だね~」
だから二人でのんびりと空を見ている。たまにあくびをしながら。どちらかがあくびを打つと、必ずもう一人がつられてあくびをする。そんな様子がおかしくて二人で笑い合った。
「おっ、新しい漫画買ったんだ。ちょっと読ませて」
「うん」
最近、漫画を買うたびにそれを読む加奈の姿を想像してしまう。楽しんでくれるかな、感動するかなって。いつの間にかわたしの中に深く入り込んでいる加奈。
この部屋にある漫画は二人で読んでしまったし、CDは二人で聴いてしまった。このフレーズが良いね、なんて語り合う時間がわたしにとっては何よりも大切だった。加奈にとってもそうなら嬉しいな。
そして今日も、穏やかな時間の中を二人の好きな歌が通り過ぎていく。
長かった冬の荷物を下ろし イチョウの木も着物を脱いだ
わたしはわたしで良かったわ
僕も僕で良かったよ
とても晴れた月曜日 バスで動物園まで
もう春だね
友部正人「もう春だね」
「ん……ふあぁ~」
しばらくして漫画を読み終えた加奈は大きく背骨を伸ばした。
「おっきいあくびだね。ちょっと寝る?」
「ん~」
眠たそうな瞼を開けたり閉じたりしながら、わたしの方へ近付いてくる。そして、わたしの膝の上に顔を乗せてきた。
「えっ……えっ!?」
「百合、膝枕して。ちょっと寝るから……」
動揺しているわたしをよそに、加奈はすぅすぅと寝息を立て始めた。
「もう、加奈ったら……」
可愛らしい寝顔を見つめてから、ふと窓の外に目を映す。柔らかい春の日差しが注がれている。
こんな春の日を、あと何度加奈と一緒に迎えられるのかなと考える。
来年は受験生だし、再来年は……。そう思うと急に寂しくなってきた。
寝ている加奈の頭を撫でながら、優しい光をいつまでも見つめていた。
「……はっ!?」
「おそよう、加奈」
加奈が目を開けた時、外からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
「うぅ、結構寝ちゃってたんだ」
よだれを拭きながら恥ずかしそうにわたしを見つめる加奈。
「今日はもっと百合と遊びたかったけどなぁ」
「そっか、わたしは加奈の寝顔見れて楽しかったけど」
「っ!?」
顔を真っ赤にしながらポカポカとわたしを叩く加奈が可愛らしかった。
「あの……それじゃあ加奈、今日泊っていく?」
「えっ……」
そんな提案をしたのは、わたしが寂しかったからだろう。加奈ともう少し一緒に居たかった。
「あ、無理ならいいんだよ」
「ううん、お母さんに聞いてみる」
そう言って携帯を取り出す。あたふたしながら番号を押しているのが何だか面白い。
「大丈夫だって……」
「そっか……」
自分から誘ったのに何故かドキドキしてしまう。ゆっくりと目を閉じた加奈の唇にキスをして、指を絡ませていった。
夕暮れの光が二人を優しく包んでいた。
≪一方その頃、友部家では≫
「おっ、お姉ちゃんからメールだ」
「加奈さんから? 何でしょう……メジャーデビューが決まったとか?」
「何の!? それにそんな報告はメールじゃしないと思うけど……」
「お姉ちゃん、百合さん家に泊っていくって」
理奈のその言葉を聞くと、苺の頬は真っ赤に染まった。
「お泊りですか……お泊りですか……」
「に、二回も言わないの。恥ずかしいでしょ」
理奈の頬も同じように赤くなった。
「そっか、それじゃあ理奈さん、私もお泊りしてもいいですか?」
「急だね、まあいいけど」
「ホントですか? やったぁ!」
二人は唇を重ねていく。カーテンの隙間から差し込む光が二人の頬を照らしていた。
今回はやたらとイチャイチャ要素が多い……良いことです。やっぱりこういう話書くのが一番楽しいですからね。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。