ぐれーす!   作:イッチー団長

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ついに百合の高校生活2回目の夏休みが始まります。

今年も色々楽しんで欲しいですね。


26話 夏休み

 ギラギラと太陽の日差しが照り付ける教室。汗をかきながら、生徒達は教師の次の言葉を待っている。

「では、また二学期に会いましょう。皆さん、気をつけて夏休みを過ごして下さいね」

 さようなら。元気な声で挨拶をしてそれぞれ教室を出ていく。毎年味わっているけれど、この解放感は中々良いものだ。

 

「夏休み~! 百合、今年も色々遊ぼうね」

「うん!」

 わたしもどこか浮かれているのかな。でも、皆と過ごす夏休みはやっぱり楽しみだ。

 

「でもお姉ちゃん、勉強はちゃんとやろうね。来年はもう受験なんだから」

「げっ! 勉強……」

「で、でもさ……来年は遊べないんだから、今年はちゃんと遊んでおこうよ。ね?」

 加奈にフォローを入れる。でも本当はわたしが遊びたいだけなのかも知れない。来年は遊べない。その現実が悲しいくらいにのし掛かる。

 

「そうだーあそぼー」

「あそびましょー」

「も、もう、苺ちゃんまで……分かったよ。でも宿題はちゃんとやろうね」

「うっ……はい」

 そうして双方とも妥協して決着する。

 

「ふふ……加奈は宿題もギリギリまでやらないタイプだからね」

「もう、笑い事じゃないんだよ~」

 

 こうして二年生の一学期は終わりを告げ、皆と過ごす二回目の夏休みが幕を開けた。

 

 

 

「ただいま~」

 といっても家には誰もいない。母もまだ仕事だろうし。

 ……と思って居間のドアを開けると、

「おかえり!」

「ひゃぁっ!?」

 思わず尻餅をついてしまった。突然現れたのは姉の春菜だった。

 

 

 

「ごめんね百合。そんなに驚くとは思わなかったから……」

「もうっ、帰って来るんなら言ってよ……」

 ぷくっと頬を膨らませる。別にそんなに怒っているわけではないんだけど、何となくやってみたかったから。

「ぷっ……」

 何だか加奈みたいだなと思って自分でもおかしくなってしまう。

 

「百合は結構変わったよね。加奈ちゃんとは相変わらず?」

「うん」

「あ~、加奈ちゃん達とも早く会いたいな~」

「お姉ちゃんはもう……」

 

 

 

「あれ? 春菜帰ってたんだ?」

「ただいま、お母さん!」

 母が帰るや否や、姉は母に抱き付いた。

 

 ……まだこの寂しさは抜けないな。

 母も姉も好きだけど、心のどこかで引け目を感じている自分がいる。

 この寂しさとはずっと付き合っていかなければいけないのかも知れない。

 

「ところで百合。今年の夏はどこか行かない? 加奈ちゃん達も連れてさ」

「うん、いいね。あっ、でもわたししばらく旅行で居ないけど……」

「へ? 旅行?」

 姉の動きが一瞬止まり、母の方を振り返る。

 

「加奈ちゃんと二人で江ノ島に行くんだって。そのためにずっと貯金してたんだから」

「へぇ~二人でね~」

 姉がにやにやし始める。

「な、何……?」

「ううん、仲良くて羨ましいなって」

「うぅ……」

 仲は良い。それはそうなんだけど、改めて言われると何か恥ずかしい。姉に言われるのは何故か特に恥ずかしい。

 

 

 

「百合~、入っていい?」

「うん?」

 ドアがコンコンと鳴った。勉強の手を止め、椅子を入り口の方へ回転させる。

 

「おぉ、勉強中だったの? 丁度いい、お姉ちゃんが教えてあげよう」

「い、いいよ別に……特に分からないところもないし」

「いいからいいから」

 姉の身体がぐいっとくっ付く。今日は何だか距離がやたらと近い気がする。

 

「えっと、ここは……何だっけ?」

「ここはこの公式を当てはめて、こうすれば解けるよ」

「あっ、そっか。ありがとう百合」

 どうしてわたしが教える側になってるんだろう……。

 

「はっ、違う! 私が教えるんだった! ごめん、百合」

「いや、だから分からないところは無いから大丈夫だって」

「勉強じゃなくてこっちを教えてあげようと思ったんだよね」

 姉が机の上に置いたのは一冊の本。『鎌倉・江ノ島の楽しみ方』と書いてある。

 

「私も前行ったことあるからさ、色々アドバイスしてあげられると思うよ。百合、旅行慣れしてないから不安でしょ?」

「う、うん……」

 これは確かに嬉しい。ご飯食べる場所とかあんまり分からなかったし、経験者から聞けるのは参考になる。

 

 

 

 話に熱中していると、いつの間にか窓の外は暗くなっていた。電灯の仄かな灯りが見える。

「百合、楽しんできなよ……」

「うん?」

 姉の声が優しさを帯びる。

 やっぱり、いつまで経ってもこの人はわたしのお姉ちゃんだなと思った。

 いつだってわたしのことを考えてくれるし、助けてくれる。

 わたしは何も返してあげられないのが申し訳ないけど……。

 

「そうやって一緒に過ごせて、楽しいと思える人は貴重だからね。友達でも、恋人でも。百合は良い人に巡り会えたよ。百合の人柄もあるんだろうけど」

「……そんなことないよ。人柄ならお姉ちゃんの方が良いだろうし、わたしは運が良かっただけ」

「こら、卑下しないの」

 綺麗な長い指がわたしのおでこをツンと突く。

 

「百合は優しいから。だから加奈ちゃんも一緒にいてくれるんだよ。私にもそういう人がいればいいんだけどね……」

 そう言って寂しそうに笑った。

 お姉ちゃんも寂しかったのかな。今まで自分のことばかり見てきたから、あまり考えたことはなかったけど。

 

「……お姉ちゃんにも見つかるといいね」

「うん! ま、気長に探すけどね~」

「ふふ……」

 再び子供っぽい笑顔に戻る。

 自由な人だなと思った。自由だけど、たまに真剣になるのが素敵だなと思った。

 

 

 

「百合、忘れ物してない?」

「うん、大丈夫」

 大きなバックの中に着替えや歯ブラシやタオルが入っている。

「っと、これも」

 姉から貰った本も忘れずに入れる。

 

 いよいよ、旅の始まりだ。




さて、次回から前後編に分かれた旅行編を書こうと思います。

取材行こうと思いましたが、このご時世ですから中々行けそうにないですねぇ……仕事も忙しくなりそうですし……。
ガイドブックを見て旅行に行った気分になろうかなと思いますw

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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