ぐれーす!   作:イッチー団長

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江ノ島編、これにて完結。
といっても普段の日常回とそう変わりませんが……。

でもやっぱり好きな人と旅に行くのは良いですよね。私にはそういう人はいないのですが……。


28話 江ノ島(後編)

「おぉ~……」

 観光客で溢れかえるビーチ。青い水の上に江ノ島が浮かんでいる。

 

「泳ごう、百合」

「うん」

 砂浜を蹴ってそのまま水の中へ。バシャバシャと水しぶきが弾ける。

 

 去年、四人で行った海も楽しかったけれど、今日という日はまた格別だ。

 ギラギラと焼け付く太陽。楽しそうな恋人たちの声が聞こえる。わたし達もそんな恋人たちの一対。青く澄んだ空に溶けていく。

 

 

 

「あはは……はぁ……楽しいねぇ」

 昨日から、笑い疲れてお腹が痛い。頬も痛い。わたしってこんなに笑えるんだなと思い知らされた。

 

「喉からから……ちょっと飲み物買ってくるよ」

 加奈を置いて一人で自販機を探すことにした。たまには一人にならないと、頬が火照ってしまって仕方がない。

 

 ガコンとペットボトルが落ちる。それを手に持って頬に近づける。火照った頬がヒンヤリと冷やされる。

 そしてふと思う。この旅行も明日で終わりだ。終わってしまうことは、いつだって寂しい。胸に抱えたペットボトルの冷たさを感じながら、加奈の元へ向かった。

 

 

 

「加奈」

「百合? っ!」

 加奈の胸に顔を埋める。

「ど、どうかした!?」

「何でもないけど……ただ、何となく」

 今は楽しい、凄く楽しいんだから、水を差したくない。今だけは思い切り楽しみたい。

 

「百合……」

 加奈の腕がわたしの背中に回る。

「……よし、次行こうか!」

「うん」

 

 

 

 新江ノ島水族館にやって来た。

 夏の日差しで火照った身体が、ひんやりとした空気で冷やされて気持ちいい。

 

「クラゲだ……綺麗だね」

 クラゲには不気味な印象を持っていたけれど、こうして見てみると確かに綺麗だ。青い水の中で、透明な身体がキラキラと光っている。

 

 ショーケースの中には色々な魚が泳いでいる。加奈は目を輝かせてそれを見ている。わたしもそんな彼女を見ていると、何だか嬉しい。

 

「加奈は何の魚が好き?」

「う~ん……マグロ?」

「食べる方!?」

「えへへ……そんな話してると、ちょっとお腹空いてきたね」

「そ、そうかな……?」

 

 

 

 水族館を出てお食事処へ。今日の目当てはしらす丼だ。

「江ノ島と言えばコレだよね」

「ね」

 

 さっきまで生きていたかのような新鮮なしらすが口の中で蕩ける。

 仄かな甘さとタレの塩辛さ、ごはんの温かさが混ざり合う。

「ん~……」

 頬が落ちそうって言葉はこんな時に使うものなのかな。食べ終わるのが勿体無いくらいの美味しさだ。

 

 

 

 そして今日も日が沈む。海に映る夕日の色が寂しい。

「今日も楽しかったね、百合」

「うん……」

 楽しかった。でも楽しい時間は一瞬で過ぎてしまう。二人の旅行も明日で終わる。

 

「百合~!」

「わわっ!?」

 加奈が思い切りわたしを抱き締める。腕の力が、少し痛いくらいに強い。

 

「明日が最終日だね」

「うん」

「一緒に過ごせて楽しかったよ。ありがとね、百合」

「そんな……それを言うのはわたしの方だよ」

 

 涙が自然と溢れてくる。キスをする。抱き締め合う。

 夕日を背に。いつまでも、いつまでも……。

 

 

 

 そして、旅の終わりを告げる電車がやってきた。風景がみるみる変わっていく。旅をするには便利な時代になったけれど、もっとゆっくりでもいいと思う。ゆっくり走れば、それだけ彼女と一緒にいる時間が増えるから。

 

「楽しかったね」

「うん……」

 

 海が見えなくなっていく。楽しかった時間が思い出に変わっていく。寂しくて堪らない。

(あぁ、終わっちゃう……)

 

 

 

 やがて見慣れた風景が見えてくる。旅も本当に終わりだ。でも……。

「加奈、わたし忘れないから。ずっとずっと」

「百合……うん、私も」

 

 旅が終わっても、二人の時間は続いていく。今はそれでいい。記憶の中でずっと続いていけばいい。

 

「また行こう。今度はもっと遠くにも。大人になったら外国にだって!」

 大人になったら……わたし達は大人になるまで一緒にいられるのかな。でも、もしそれまで一緒にいられたら、その時は本当に行ってみたい。外国にだって、どこにだって。

 

 いつもの駅に着いて、わたし達の旅は終わった。そしていつもの日常が始まった。

 

 

 

《その後》

「百合、おかえり~。どうだった?」

 玄関を開けた途端、姉が抱き付いてくる。母は姉の後ろで優しく微笑んでいる。

「楽しかったよ。はい、これおみやげ」

「わぁ~、ありがと!」

 

「百合、この旅行のこと、忘れないでね。きっとあなたの財産になるはずだから」

「お母さん……うん!」

 静かに涙が頬を伝った。

 ただの旅行じゃない。好きな人と旅をしたこと。だからこそ大切なんだ。

 

 いつまでも忘れない。大人になっても。いつか離れ離れになっても。




今の幸せを噛みしめ、いつか来る別れを思う百合。
旅は終わるからこそ楽しいのですし、二人の恋もまた然り、といったところでしょうか。

次からは普通の日常回に戻ります。
今後もマイペースな更新になりますが、お楽しみ頂ければと思います。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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