一年生編でのお泊りは苺がいなかったので、今回は彼女にも参加してもらいましょう。そして静音と志穂の二人も一緒に。
こうして六人揃うと中々賑やかでいいですねぇ。
「お邪魔します」
ドアを開けると、見慣れた顔がいくつもあった。
「いらっしゃい百合」
「百合さん、いらっしゃい」「待ってましたよ、百合さん」「遅いぞゆりゆり!」「暑かったでしょう? 大変でしたね」
「ご、ごめん……一人ずつ喋って……」
今日は8月31日、夏休み最後の日だ。加奈と理奈の提案で、この日は皆で一緒に過ごそうという話になった。
それで思い出したのが去年のお泊りのこと。苺が丁度家族旅行中で参加できなかったので、今年こそはお泊りしたかったらしい。どうせならと静音と志穂も誘って、今の大所帯になったわけだ。
「いやぁ、ついに皆さんとお泊り出来るんですね! 興奮してきました!」
「そ、そんなに……」
苺はたまにテンションがおかしくなる。だからこそ見ていて飽きないんだけど。
「って、苺ちゃんたまにうちに泊まるでしょ?」
「理奈さんと二人の時は、ですね。でもやっぱり皆一緒ってのは格別なんですよ」
一理あるかも知れない。加奈と二人の時と、皆で一緒にいる時、それぞれ違った楽しさがある。
「友部さん、私達もお招き頂き、ありがとうございます」
「い、いえいえこちらこそ?」
志穂の丁寧なお礼に、加奈が良く分からない返事をする。
「もう志穂ったらお堅いんだから。加奈っち、理奈っち、もぐもぐ……よろしくね」
静音がお菓子を食べながら挨拶をする。
「あんたはもっとかしこまりなさい……」
「さて、何しますか~?」
「その前に皆、ちゃんと宿題終わってる? 明日から学校だからね」
「「「……」」」
その問いに、約三名が黙り込んでしまった。
「もう、宿題はちゃんとやりなさい!」
「ごめんなさいお母さん」
「お母さんじゃないです!」
結局わたしが加奈の、理奈が苺の、志穂が静音の宿題を手伝うことになった。
「うぅ……ごめん百合」
「こつこつやっておこうね?」
「ホント、面目ないです……」
三時間が経った。六人が背伸びをする。やっと宿題が終わった。
「終わった~……って、もう夕方!?」
「時間を無駄にしてしまいましたね……」
その時、部屋の扉が開いた。
「皆、スイカ冷えてるけど、食べる?」
加奈のお母さんが入ってきた。相変わらずの朗らかな笑顔だ。
「おぉ、いいですねスイカ」
「いただきます!」
「……タネマシンガンをやりたい衝動が……」
「我慢しなさい……」
部屋の中にシャクシャクと音が響く。
「夏って感じだねぇ」
「夏って言えば、あの風鈴も凄く良いですよね」
加奈の部屋の窓際で、オレンジ色の風鈴がチリンと鳴っている。
「あれはね、百合がプレゼントしてくれたんだよ」
皆の視線がわたしに集まる。珍しく注目されて、わたしの顔は真っ赤に染まった。
「ゆりゆりも粋だねぇ」
「そ、そんなことは……」
「百合、ありがとね」
「……」
恥ずかしくて返事が出来ない。それでも、ちゃんと部屋に飾ってくれて、喜んでくれていて、こんなに嬉しいことはない。
「友部さん、お風呂ありがとうございました」
「良いお湯だった!」
「えへへ、どういたしまして」
湯上がりの火照った肌が、半袖のパジャマから顔を覗かせている。
わたしは内心ドキドキだった。この次は……
「じゃあ百合、一緒に入ろうか?」
やっぱりそう来たか。深呼吸をして覚悟を決めた。
「ふぅ~……今日は特に賑やかで良いね」
湯船に浸かって、ゆっくりと身体を伸ばす。加奈は何だかおじさんみたいな声を出した。
「ねぇ百合」
「ん? ひゃぁ!?」
振り返るとピュッとお湯が飛んできた。加奈が手を水鉄砲の形にしていた。
「もう~……」
「えへへ」
「さぁ、今日の夜は長いですよ! 恋バナしましょう、恋バナ!」
加奈の部屋に布団を敷き詰めると、苺のテンションはますます高くなっていた。
「え~、明日も早いし、今日は早く寝ようよ~」
「わたしも今日は早く寝たいかも」
「あれ? 盛り上がってるの私だけですか?」
「そもそもこの中の四人はカップルだし、今さら話すことも無いよね」
「なっ……それなら志穂さん、静音さん」
「私も特にそういうのは……」
「恋……」
静音は顔を真っ赤にしてしまう。結局この場で恋バナを話せる人は誰もいなかった。
「もう~、皆さん本当に女子高生ですか?」
「女子高生だから早く寝るんです。明日から学校なの忘れてない?」
「ぐぬぬ……」
「それにしても、今年の夏休みは楽しかったね。ね、百合」
「うん」
頭の中には、加奈と江ノ島に行った思い出が鮮明に甦る。
「お土産ありがとうございました」
「ううん。今度は皆でどこか行こうね」
「是非!」
「本当に今年の夏休みは楽しかったですね……やっぱり嫌です! まだ夏休み終わらないでぇ!」
「苺ちゃん、よしよし……」
泣きじゃくる苺を抱き寄せて、理奈が頭を撫でた。
「あぁ……癒される……」
そんないつも通りの茶番を見て、わたし達も笑顔になる。
夏休みが終わって、二学期になっても。三年生になっても、ずっとずっと変わらないんだと思う。
街にはまだ夏の暑さが留まっている。半袖のワイシャツから覗く白い腕が、熱い日差しに照らされる。
「ほら、苺ちゃん。行くよ」
「はぁい……」
眠そうな目を擦りながら歩く苺。横を見ると加奈も同じ顔をしていた。
「加奈、眠いの?」
「だ、大丈夫……」
八月は終わってしまったけれど、太陽はまだギラギラと照り付けている。早く涼しくなればいいなという思いと、もう少し夏でもいいのになという思い。矛盾した二つの思いを抱えながら、九月の空の下を歩いた。
さて、今回で二年生の夏休みが終了。三年生編も近づいてきている感じがしますね。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。