この話で導入部は終わりかな、と思います。
前回に引き続きプロフィール紹介を。
名前:友部 加奈
身長:140cm
趣味:スポーツ鑑賞、散歩
血液型:AB型
誕生日:7月12日
家族構成:母と妹(理奈)との三人暮らし。父は単身赴任中。
本作のヒロイン。茶髪のおさげの女の子。
明るく人懐っこいので、人から好かれやすい。
基本元気で自由奔放だが、ちゃんと気遣いもできる。
肌寒かった日々も終わり、ようやく春らしい気候になってきた。
暖かい空気がわたしの部屋までやってきて、眠気をさそう。
その空気に包まれていると、なんだか不思議な気分になっている。
わたしは一人だった。
生まれた時から。
お母さんやお父さんに手を引かれて歩いた時も。
お姉ちゃんと遊んだ時も。
わたしは一人だということを知っていた。
寂しいと思ったことはなかった。
でも最近、寂しいという気持ちを知った・・・のかも知れない。
学校の帰り道。夕暮れ。
あの娘の足音。
それは知らなかった感情だ。
「ねえ百合。明日休みだし、皆で遊ばない」
放課後、静まり返った教室。加奈はいつもわたしに真っ先に声を掛けてくる。
「皆で? ・・・別にいいけど」
「えへへ、やった」
なんとも子供っぽい笑顔を向ける。
「どこか行きたいところでもあるの?」
「うーん、別にないけど」
特に計画があるわけでもないようだ。そんなところも加奈らしい。
「あ、そうだ。百合の家行ってもいい?」
「うち?」
突飛な発言に目を丸くする。
「もちろん、嫌ならいいんだけど・・・」
「別に嫌じゃないよ。でもうちに来ても何も面白くないよ?」
「いいのいいの。百合のこともっと知りたいと思って」
何とも恥ずかしい言葉だが、嫌な気分にはならなかった。
「へえ、友達連れてくるの?」
母が目を輝かせて言った。
「うん、掃除とかはやっておくからいいんだけど」
「百合が友達連れてくるのなんて初めてじゃない? ちゃんとおもてなししなくちゃね」
母はわたしと違い、明るくて人懐っこいところがある。少し加奈に似てるかも知れない。
母にはわたしの性格のせいで、ずいぶん迷惑を掛けた。
わたしは人付き合いが苦手で、母はずっとそんなわたしを心配していた。
わたしが一人ぼっちなのは平気だ。でも、心配している母を見ると、罪悪感が芽生えてくる。
ごめんね。わたしがお母さんやお姉ちゃんみたいに明るくて可愛い娘なら良かったのに。
「ここが百合の家か~」
加奈はいつも通りはしゃいでいる。
「別に大した家じゃないでしょ・・・上がっていいよ」
「おじゃましまーす」
三人が声を揃えて言った。
「いらっしゃい。百合の母の早紀です」
「おじゃまします、お母さん。あ、これつまらないものですけど」
三人を代表して理奈が挨拶をして、手土産のケーキを手渡した。
「あら、これ有名なお店のじゃない? ありがとうね、後で切り分けて持っていくからね」
「お構いなく」
三人がペコっとお辞儀をする。そのまま三人をわたしの部屋まで案内することにした。
「ありがとう、理奈さん。気を使わせたみたいで、ごめんね」
「ううん、いいの。招いてもらったんだし、このくらいはね」
「それにしても可愛らしいお母様でしたね。一瞬百合さんのお姉さんだと思いましたよ」
「ねえ、綺麗な人だったよね!」
「あ、うん・・・ありがとう・・・」
苺が母を褒めたのを皮切りに、加奈と理奈も褒め始めた。
実際母は容姿が若く、陽気で明るいので、人に好かれやすい。今みたいに他人から褒められることもある。
でも母が褒められると、わたしは素直に喜べない。
わたしと母はあまり似ていないと言われることがある。容姿はともかく、性格は真逆だ。
その点、姉は母に似て明るい性格で、友達も多い。
母や姉を褒められるということは、わたしを否定されていることと同義だ。
もちろん、彼らに他意が無いことは知っている。
わたしだ。わたしが卑屈だから悪いんだ。
「百合にそっくりだったよね、お母さん」
一瞬、加奈が何を言っているのか分からなかった。
「似てる・・・かな・・・?」
「うん、何というか雰囲気が、ね」
「あー分かります。ほんわかして優しそうな所が似てますよね」
母に似てる。優しそう。
どれもわたしには縁のない言葉だった。
彼女たちはやっぱり少し変わってるんだな、と思った。
「百合の部屋って凄い綺麗だよね。自分で掃除してるの?」
綺麗・・・というより物がないだけだ。
自分の部屋なのに、自分の好きな物はここにはほとんどない。
「まあ、たまには」
「わあ、偉い。お姉ちゃんも見習わないと、だよ」
「う、うるさいな・・・」
他愛もない会話で時間は過ぎていく。
こんな何もない部屋でも、ちゃんと楽しんでくれているのだろうか。
でも・・・
「百合さん、ビートルズのメンバーでは誰が一番好きですか?」
「じ、ジョージかな?」
こんな雰囲気は嫌いじゃない。
今までのわたしなら、きっと煩わしく思っていただろう。
でも彼女たち三人の醸し出す空気は、不思議と暖かく感じる。
優しい空気だ。
「今日はお世話になりました」
「いえいえ、またいつでも遊びに来てね」
「じゃあ、またね。皆」
小さくなっていく三人の後ろ姿を見送った。
夕日に焼かれた街に、長い影が伸びている。
何だか不思議な気分だ。
「あれ? これって加奈の・・・」
部屋に戻ると、加奈の携帯が置いてあることに気付いた。きっと忘れたのだろう。
明日でもいいかと考えたが、これが無いと困るかも知れないと思い、結局、加奈たちを追って駅の方へ向かうことにした。
「百合? 良かった・・・」
少し歩いたところで、加奈と出くわした。
「加奈、もしかしてこれ?」
携帯を取り出したら、加奈は安堵の表情を見せた。
「ごめんね、百合。わざわざ持ってきてくれて」
「ううん。でも電車の時間大丈夫なの?」
「しばらくは電車来ないって。ゆっくり戻っても間に合うよ」
「そっか・・・」
しばしの沈黙。薄暗い夕暮れの中、加奈の長い影がわたしに重なる。
「百合、今日はありがとうね」
「ううん・・・でも楽しかった? 何もない家だったけど・・・」
「もちろん!」
何のためらいもなく、加奈はそう言って見せた。
「私、百合と一緒にいると楽しいよ? 百合は?」
「わたしは・・・」
暖かい風が二人の髪と頬を撫でた。
わたしはずっと一人だった。
でも加奈たちに出会って、少しだけ変わった。
毎日が楽しく感じている。
でも、それと同時に寂しさを覚えた。
こんな夕暮れの空気のように、わたしの心に寂しさが纏わりついている。
「わたしも楽しいよ」
「そっか、それなら良かった・・・じゃあ、またね百合」
「あ・・・」
帰ろうと背中を見せた加奈に、わたしは思わず声を掛けてしまった。
「?」
疑問の表情を浮かべ、加奈が振り返る。
今のわたしの気持ちを、完全に表現できる言葉を、わたしは知らなかった。
しかし、一番それに近い言葉なら、すぐに思いついた。
「・・・」
駄目だ。言ってしまったら、何かが終わってしまうかも知れない。
学校の帰り道みたいな、寂しい気持ちがずっと続くかも知れない。
それでも、溢れる気持ちを止めることは出来なかった。
「加奈・・・わたし、加奈のことが好き。普通の友達としてじゃなくて、もっと特別に・・・好き」
その日感じた、春の空気は暖かかった。
道端の花も、既に薄い桃色の花びらを付けていた。
卑屈だった百合も少しずつ柔らかくなっていきます。
取り敢えずこの回までがプロローグかと思います。
次回以降はもっと踏み込んだ関係を書きたいと思いますので、よろしくお願いします。
読んで頂きありがとうございました。