色々連載が重なってしまいましたからね……。
今回は短めのお話。
部屋の中を夏が通り過ぎた。人生で何度目かの秋を迎える。
二人で買った風鈴も、しばらくしまっておこう。次の夏が来たら、またあの音を聞きたい。
「……」
長袖の制服に袖を通して、髪を整える。
玄関を出ると、ローファーが地面の上にくっついたのが分かった。
重い瞼と重い身体を引きずるように、あの子達の待つ学校へ向かった。
「この公式はこのように……」
教師の声が遠く聞こえる。
涼しい風に揺られながら、こっくりこっくり。心地良いまどろみの中へ落ちていく……。
「百合さん、百合さん」
「……はっ」
いけない。眠りそうになっていたみたいだ。
「寝不足? 珍しいね」
理奈がこしょこしょと耳打ちしてくれる。
「そういうわけじゃないんだけど……」
「ま、たまにはいいと思うけどね。お姉ちゃんを見なよ」
言われて加奈の方を見ると、加奈もこっくりと舟を漕いでいた。そして隣の静音は完全に爆睡している。
「ふふ……」
おかしくて、眠気も覚めるようだった。
「ってことがあって」
「もう秋だもんね。睡眠の秋っていうし」
わたしの机に肘を置いて、加奈がにっこりと笑っている。
「お姉ちゃんは年中寝てるけどね」
「うっ……」
「でも秋って短いですよね。すぐ冬になっちゃいますし」
苺に言われて、窓の外を見る。秋空は鈍色で、何故だか寂しそうに思えた。
秋は寂しい。
夏の瑞々しさは段々と消え、冬の足音が聞こえてくる。何故だか人恋しくなる季節、それが秋だ。
でもそんな季節が、わたしは好きだったりする。
一人部屋にポツンと佇む。窓の外では、枯れ葉が涼風に舞っている。
こんな日は一人でいるのも悪くない。お気に入りの、寂しい曲がレコードから流れている。
「お茶でも淹れようかな……」
ゆっくりと立ち上がる。
ふと、歳を取った気がした。まだ高校生だなのに。
わたしは良く、若年寄みたいだと言われることがある。言われてみれば確かに、同年代とはあまり馴染めなかった。加奈と出会うまで、皆と一緒に盛り上がったという記憶が無い。
まるでこれから死にゆく老人みたいに、わたしはコーヒーをすすった。
死に向かう老人と、冬へ向かう秋。その二つは似ているのかも知れない。
謂わば人生の秋だ。
そう思うと、鈍色の空は何だか恐ろしく見えた。同時に優しさを感じる。
終わってしまうことは、どうしてこんなに切なく優しいんだろう。
レコードが終わり、静かになった部屋を見渡す。
そう言えば、父が亡くなった日も、こんな風に静かだった。
ただ、母と姉の泣き声だけが聞こえていた。
父が亡くなった時わたしは小さかったけれど、死ぬ前の彼の優しい表情が今でも忘れられない。
思えば、わたしにとっての死のイメージは、父の影響が強いのかも知れない。
窓を開けて、風を部屋に招いた。風は静かに優しく、わたしを包んでくれた。
一年が巡ること。誰かと別れること。死んでしまうこと。
わたしがこれから経験する様々な終わりの時も、こんな穏やかな日であってくれれば。感傷に浸りながら、そんなことを考えていた。
≪物凄く個人的なあとがき≫
思えば、学生の頃は死ぬことがとても怖かったですね。今はむしろ、そこに優しさを感じるようになりました。
私事ですが、最近祖母を亡くしまして。私にとっては初めて亡くした身内です。
長らく介護されていたのですが、最期は安らかに逝きました。
それを見て、死とはある意味救いなんだなと。あまり怖がることはないのだなと思いました。
私もそろそろ20代後半を迎えますし、人生の秋かな、と。死も大分身近に感じるようになりました。
ただただ、穏やかに逝ければと願っています。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。