ぐれーす!   作:イッチー団長

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7話です。
今回は自分の書きたいことを書いただけのような気がします(毎回そうかも知れませんが・・・)



7話 あじさい

この頃は雨が降り続いてる。

濡れた窓から見える、薄曇りの街。

子供の頃は雨が好きだったことを思い出す。

長靴を履いて、ちゃぷちゃぷと音を立てて楽しんだものだ。

服や髪が濡れるのを嫌がるようになったのは、いつからだろう。

今日も青い傘を持って学校へ向かう。

 

「百合、見て見て、あじさいが咲いてるよ」

加奈はこの雨の中でも相変わらず元気だ。

彼女が歩く度、ぴちゃぴちゃと雨音が響く。

「もうお姉ちゃん、濡れるよー」

そんな理奈の言葉もお構いなしに、加奈ははしゃいでいる。

 

それにしても、雨の中のあじさいは何でこんなに映えるんだろう。

葉に雨の滴が溜まり、きらきらと輝いている。

「それにしても、あじさいの花って・・・すっごい群れてますよねぇ」

「ぶふっ!」

あまりに突拍子もない言葉に、わたしは思わず吹き出してしまう。

「あ、ツボに入りましたね、百合さん」

「苺ずるーい! 私も百合のこと笑わせたい・・・こちょこちょすれば笑うかな?」

加奈がくすぐろうと構える。

「それは笑わせるのとはちょっと違うんじゃ・・・」

「皆遅れるよ~」

理奈の声を聞いて、三人とも目的を思い出し、再び歩き出した。

 

「しかし、あじさいの花が群れてるのって・・・」

「ふふっ・・・」

わたしが笑いを堪えていると、加奈が悔しそうに見てくる。

「私たちと同じですよね。私たち人間も一人じゃ寂しいですから」

「なんか無理やり良い話にしようとしてない?」

「いえいえそんなことないですよ~」

言われてみれば、わたしもずっと一人だったな、と思う。

人と話すのが苦手なわたしは、友達もできず、一人でいることが多かった。

しばらく忘れていた。今は加奈たちがいるから。

「百合さん、どうしました?」

「あ、ううん・・・」

俯いているわたしを見て、苺が声を掛けてきた。

こうやって他人に心配されるのも今までは無かったことだ。

 

でも、彼女たちと別れたら、また元のわたしに戻るのかな。

いや、わたし自身は何も変わってない。

周りが変わっただけだ。

だから、わたしはまた一人ぼっちになるだろう。

今のわたしに耐えることはできるんだろうか。

孤独を忘れてしまった、今のわたしに。

 

 

 

「百合ー、最近じめじめしてるね」

教室の外、降り止まない雨を見て、加奈がつぶやく。

「梅雨だからね」

「だね。たまにはどこか遊びにいきたいんだけどな~」

「雨でも行けるところはあるでしょ? 例えば図書館とか」

「べ、勉強でもするの!?」

加奈は図書館と聞いただけで苦しそうな顔をする。そんなに苦手なのか。

その様子が何だかおかしくて、わたしはクスッと笑う。

「もう~笑い事じゃないんだよ~」

「ごめん、ごめん。そうだなぁ、雨降ってると、わたしは喫茶店とか良く行くけど」

「百合が良く行く喫茶店・・・私も行きたいなぁ」

「駅から近いから、すぐ行けるよ?」

「ホント!? じゃあ今日行こっか?」

直感的に動く加奈らしいな、と思う。

その行動力は本当に羨ましい。

 

 

 

学校の帰り、二人で喫茶店に行くことになった。

「理奈は苺の家で勉強会だって。うぅ・・・」

『勉強』の二文字を聞いただけで、加奈はブルブル震えだす。

「わたしたちも誘われたけど、加奈がこんなじゃねぇ・・・」

「もう当分は勉強したくないの・・・受験勉強が壮絶で・・・」

「そんなに大変だったの?」

「そりゃあ。理奈と同じ高校に、って思ったんだけど、学力が全然違うしさ~」

「それなのに、何で同じ学校に行こうと思ったの?」

「う~ん、理由は色々あるけど・・・理奈と離れると私が寂しいから、かな」

加奈の口から『寂しい』という言葉が聞けるとは思わなかった。

「寂しいの・・・?」

「だって私意外と人見知りだし・・・」

「そうなの?」

「うん。知らない人とか苦手なの。話しかけられたら愛想良くしちゃうんだけどね」

初日から多くの人と話してたけど、意外と無理してたんだなと思った。

「でも百合とは話しやすかったなぁ。なんでなんだろ?」

そう言われて、わたしは加奈にとって特別だったんだなと分かって、少し照れる。

 

 

 

「わあ、何かレトロな感じ・・・」

喫茶店に入ると、いつもの黒縁メガネで髭もじゃのマスターがいた。

「やあ早川さん。今日はお友達も一緒ですか?」

相変わらずの優しい声と笑顔で迎えてくれる。

「あ、こんにちは。えっと、恋人です・・・」

「そうですか、早川さんにも恋人が・・・」

そう言って加奈の方を見る。

「は、初めまして。友部加奈って言います」

「初めまして友部さん。私はこの喫茶店のマスターで、名前は・・・まあ、『けいちゃん』とでも呼んでください」

「け、けいちゃん・・・」

 

二人で向かい合わせの席に着く。

コーヒーの香ばしい香りが鼻を掠めた。

「マスター、面白い人だね」

「そうでしょ。それに音楽にも凄く詳しいんだよ」

店内には、けいちゃんが選んだ音楽が流れている。

「けいちゃんに影響されて好きになった歌手も多いなあ。エリオット・スミスとか、スパークルホースとか・・・」

「今流れてるのも凄くいいよね。特に声が好きかも」

「ジェフ・バックリーの『Grace』だね。もう死んじゃってるけど、未だにファンが多い伝説のアーティストなんだって」

「へぇ~」

 

それから、加奈とは普段しないような話をした。

好きな音楽とか、スポーツとか。それに子供の頃の話。

二人でゆっくり話をしたことが少なかったから、どれも新鮮に感じた。

白いミルクが回るコーヒーカップの中に、二人の時間も溶けていった。

 

「じゃあ、また来ますね、けいちゃん」

二人でペコッとお辞儀をして店を出る。

外では相変わらず雨が降っている。

 

「百合、今日は楽しかったよ。百合と一緒に居られれば、雨でも楽しいのかもね」

そう言われて、わたしの耳は赤くなる。

加奈と別れると、わたしは傘を閉じてみる。

その火照った耳を雨のしずくが冷ましてくれたらいいな、なんて考えながら。




書き終えて思ったんですが、喫茶店のマスターが今作初の男性キャラですね。

それと、今回少し触れたジェフ・バックリーの「Grace」が今作のタイトルの由来だったりします。
90年代を代表するアルバムの名前をこんな拙いSSに拝借してしまい、ファンの方には申し訳ない・・・

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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