今回は自分の書きたいことを書いただけのような気がします(毎回そうかも知れませんが・・・)
この頃は雨が降り続いてる。
濡れた窓から見える、薄曇りの街。
子供の頃は雨が好きだったことを思い出す。
長靴を履いて、ちゃぷちゃぷと音を立てて楽しんだものだ。
服や髪が濡れるのを嫌がるようになったのは、いつからだろう。
今日も青い傘を持って学校へ向かう。
「百合、見て見て、あじさいが咲いてるよ」
加奈はこの雨の中でも相変わらず元気だ。
彼女が歩く度、ぴちゃぴちゃと雨音が響く。
「もうお姉ちゃん、濡れるよー」
そんな理奈の言葉もお構いなしに、加奈ははしゃいでいる。
それにしても、雨の中のあじさいは何でこんなに映えるんだろう。
葉に雨の滴が溜まり、きらきらと輝いている。
「それにしても、あじさいの花って・・・すっごい群れてますよねぇ」
「ぶふっ!」
あまりに突拍子もない言葉に、わたしは思わず吹き出してしまう。
「あ、ツボに入りましたね、百合さん」
「苺ずるーい! 私も百合のこと笑わせたい・・・こちょこちょすれば笑うかな?」
加奈がくすぐろうと構える。
「それは笑わせるのとはちょっと違うんじゃ・・・」
「皆遅れるよ~」
理奈の声を聞いて、三人とも目的を思い出し、再び歩き出した。
「しかし、あじさいの花が群れてるのって・・・」
「ふふっ・・・」
わたしが笑いを堪えていると、加奈が悔しそうに見てくる。
「私たちと同じですよね。私たち人間も一人じゃ寂しいですから」
「なんか無理やり良い話にしようとしてない?」
「いえいえそんなことないですよ~」
言われてみれば、わたしもずっと一人だったな、と思う。
人と話すのが苦手なわたしは、友達もできず、一人でいることが多かった。
しばらく忘れていた。今は加奈たちがいるから。
「百合さん、どうしました?」
「あ、ううん・・・」
俯いているわたしを見て、苺が声を掛けてきた。
こうやって他人に心配されるのも今までは無かったことだ。
でも、彼女たちと別れたら、また元のわたしに戻るのかな。
いや、わたし自身は何も変わってない。
周りが変わっただけだ。
だから、わたしはまた一人ぼっちになるだろう。
今のわたしに耐えることはできるんだろうか。
孤独を忘れてしまった、今のわたしに。
「百合ー、最近じめじめしてるね」
教室の外、降り止まない雨を見て、加奈がつぶやく。
「梅雨だからね」
「だね。たまにはどこか遊びにいきたいんだけどな~」
「雨でも行けるところはあるでしょ? 例えば図書館とか」
「べ、勉強でもするの!?」
加奈は図書館と聞いただけで苦しそうな顔をする。そんなに苦手なのか。
その様子が何だかおかしくて、わたしはクスッと笑う。
「もう~笑い事じゃないんだよ~」
「ごめん、ごめん。そうだなぁ、雨降ってると、わたしは喫茶店とか良く行くけど」
「百合が良く行く喫茶店・・・私も行きたいなぁ」
「駅から近いから、すぐ行けるよ?」
「ホント!? じゃあ今日行こっか?」
直感的に動く加奈らしいな、と思う。
その行動力は本当に羨ましい。
学校の帰り、二人で喫茶店に行くことになった。
「理奈は苺の家で勉強会だって。うぅ・・・」
『勉強』の二文字を聞いただけで、加奈はブルブル震えだす。
「わたしたちも誘われたけど、加奈がこんなじゃねぇ・・・」
「もう当分は勉強したくないの・・・受験勉強が壮絶で・・・」
「そんなに大変だったの?」
「そりゃあ。理奈と同じ高校に、って思ったんだけど、学力が全然違うしさ~」
「それなのに、何で同じ学校に行こうと思ったの?」
「う~ん、理由は色々あるけど・・・理奈と離れると私が寂しいから、かな」
加奈の口から『寂しい』という言葉が聞けるとは思わなかった。
「寂しいの・・・?」
「だって私意外と人見知りだし・・・」
「そうなの?」
「うん。知らない人とか苦手なの。話しかけられたら愛想良くしちゃうんだけどね」
初日から多くの人と話してたけど、意外と無理してたんだなと思った。
「でも百合とは話しやすかったなぁ。なんでなんだろ?」
そう言われて、わたしは加奈にとって特別だったんだなと分かって、少し照れる。
「わあ、何かレトロな感じ・・・」
喫茶店に入ると、いつもの黒縁メガネで髭もじゃのマスターがいた。
「やあ早川さん。今日はお友達も一緒ですか?」
相変わらずの優しい声と笑顔で迎えてくれる。
「あ、こんにちは。えっと、恋人です・・・」
「そうですか、早川さんにも恋人が・・・」
そう言って加奈の方を見る。
「は、初めまして。友部加奈って言います」
「初めまして友部さん。私はこの喫茶店のマスターで、名前は・・・まあ、『けいちゃん』とでも呼んでください」
「け、けいちゃん・・・」
二人で向かい合わせの席に着く。
コーヒーの香ばしい香りが鼻を掠めた。
「マスター、面白い人だね」
「そうでしょ。それに音楽にも凄く詳しいんだよ」
店内には、けいちゃんが選んだ音楽が流れている。
「けいちゃんに影響されて好きになった歌手も多いなあ。エリオット・スミスとか、スパークルホースとか・・・」
「今流れてるのも凄くいいよね。特に声が好きかも」
「ジェフ・バックリーの『Grace』だね。もう死んじゃってるけど、未だにファンが多い伝説のアーティストなんだって」
「へぇ~」
それから、加奈とは普段しないような話をした。
好きな音楽とか、スポーツとか。それに子供の頃の話。
二人でゆっくり話をしたことが少なかったから、どれも新鮮に感じた。
白いミルクが回るコーヒーカップの中に、二人の時間も溶けていった。
「じゃあ、また来ますね、けいちゃん」
二人でペコッとお辞儀をして店を出る。
外では相変わらず雨が降っている。
「百合、今日は楽しかったよ。百合と一緒に居られれば、雨でも楽しいのかもね」
そう言われて、わたしの耳は赤くなる。
加奈と別れると、わたしは傘を閉じてみる。
その火照った耳を雨のしずくが冷ましてくれたらいいな、なんて考えながら。
書き終えて思ったんですが、喫茶店のマスターが今作初の男性キャラですね。
それと、今回少し触れたジェフ・バックリーの「Grace」が今作のタイトルの由来だったりします。
90年代を代表するアルバムの名前をこんな拙いSSに拝借してしまい、ファンの方には申し訳ない・・・
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。