ぐれーす!   作:イッチー団長

8 / 30
一週間空いてしまいましたが更新です。

今回は苺視点の話です。


8話 苺畑でつかまえて

「苺ちゃん、最近授業難しくなってきてない?」

「そうですかねぇ?」

今日の授業が全て終わり、理奈さんが疲れた様子で話しかけてきた。

「まあ、苺ちゃんは優秀だから大丈夫だろうけど・・・」

「そんなことないですよ」

窓の外を眺める。

今日は相変わらずの雨だ。

雨は嫌いじゃないけれど、たまには太陽も見たい。

それに雨だと部屋に籠っているしかないし・・・

 

その時、ふと思いついたことがあった。

「それじゃあ理奈さん、うちで勉強会しませんか?」

「勉強会? 苺ちゃんが教えてくれるの?」

「ええ、もちろん。百合さんと加奈さんも呼びましょう」

「あ・・・でもお姉ちゃんは・・・」

何やら言葉に詰まっている。

「どうしました?」

「あ、ううん・・・一応誘ってみようか・・・」

 

 

 

駅のホームを出ると雨の匂いが漂っていた。

二人で傘を開いて歩く。

傘をさすと二人の間には距離ができる。

私は普段、他人とは距離を取りたいのだけれど、何故か理奈さんには近づいていたいと感じた。

 

「それにしても、加奈さんに何があったんですか・・・?」

『勉強』という言葉を聞いた時の加奈さんの様子は中々忘れられない。

「お姉ちゃん、受験勉強頑張りすぎたみたいで・・・」

「そこまでしてこの高校に入りたかったんですか?」

「この学校というより、私と同じ高校に行きたかったみたい」

「へえ、仲良しですね」

私は一人っ子なので、そういう感覚は分からないけれど、好きな子と一緒の高校に行きたいという気持ちは分かる。

私も昔から理奈さんと友達だったら、一緒の高校を選んだだろうなと思う。

 

「それだけじゃなくて、お姉ちゃん寂しがりだから」

「そうなんですか? 意外ですね」

きっと家族にしか見せない一面というものがあるのだろう。

そう思うと、私は加奈さんが羨ましくなってくる。

私の知らない理奈さんの意外な一面もあるのだろうか。

 

 

 

「というわけで、こちらが私の家になります」

「おお~」

理奈さんが私の家を見回す。

何だか恥ずかしく感じる。

 

「苺ちゃん、今日ご両親いる? ご挨拶したいんだけど」

「ああ、うち両親はもう他界してて・・・祖父母ならいますけど・・・」

「そ、そうだったんだ・・・ごめんね」

理奈さんがシュンと俯いてしまう。

悲しませるつもりではなかったのだけれど。

でも、こうして悲しんでくれる理奈さんはとても優しい人なんだなと改めて思った。

「だ、大丈夫ですよ。子供の頃のことですし、もう気にしてないですから」

努めて明るく振舞った。

私の笑顔は理奈さんにはどう見えてるんだろう。

少しでも理奈さんを元気にできたら、私は嬉しい。

「・・・苺ちゃんは本当に良い子だよね。ナデナデしてあげる」

「ふわぁっ! や、やめてください理奈さん」

「ふふ、苺ちゃんがこんなに慌てるなんて珍しいね」

少し頭を触られただけなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。

「ほら、顔も真っ赤になってる」

「い、苺ですから・・・」

何とか冗談で返したけれど、心臓は張り裂けそうな程脈打っていた。

 

 

 

「あ、理奈さん、そこはさっきの公式当てはめればいいんですよ」

「あ~なるほど」

勉強を教え始めたけれど、胸のドキドキは止まらなかった。

いや、むしろ大きくなっていた。

教科書と睨めっこしている理奈さんを後ろから眺める。

(理奈さんのうなじ綺麗だなぁ・・・髪もさらさらだし・・・って何考えてるんだろう私)

最近はいつもこうだ。理奈さんのことばかり考えてしまう。

こんな気持ち、今までは知らなかった。

これが、本で読んだり、歌で聞いたことのある『恋』というものなのかも知れない。

 

しかし、理奈さんにこの気持ちを伝えてしまったら・・・

今の関係は壊れてしまうかも知れない。

もしかしたら百合さんと加奈さんみたいに付き合えるかも知れないけれど。

でも、その後は?

しばらく恋人になっても、いつかは別れてしまう。

好きになればなるほど、別れは寂しくなる。

それならこのまま、仲の良い友達でいた方が良いのかも知れない。

 

「苺ちゃん? どうかしたの?」

「あ、いえ・・・」

ふと記憶の片隅のお父さんとお母さんがちらつく。

彼らの優しい声、温かい腕。

今でも朧げに覚えている。

「理奈さん」

「うん?」

「理奈さんは、もし加奈さんと別の学校に行くことになったら寂しいですか?」

「う~ん、そりゃあ寂しいよ。ずっと一緒にいたからね」

「それじゃあ、私と離れたら寂しいですか・・・って変なこと聞いてしまいましたね。忘れて下さい・・・」

「苺ちゃん・・・」

 

「寂しいよ。苺ちゃんともずっと一緒にいたいもん」

理奈さんがそう言ってくれて本当に嬉しかった。

でも、ずっと一緒にいることはできないと思う。例え家族であっても。

お父さんやお母さんとお別れした日から、私は人と仲良くするのを無意識に避けていた。

「ずっと一緒にはいられませんよ。私達も卒業したら離れ離れですし」

「そうかも知れないけど・・・でも・・・」

理奈さんは何かを言いたそうにモゴモゴ口を動かしている。

 

私だって理奈さんだって、分かっているはずだ。

ずっと一緒にはいられないけれど、一緒に過ごす一瞬一瞬が永遠になるんだと。

だって、お母さんもお父さんも私の心の中にいるから。

 

だから、もし壊れてしまってもいいから、理奈さんのことをもっと好きになりたい。

そう思ってしまったら、もう止めることはできなかった。

「理奈さん・・・変なことかも知れませんが、私あなたが好きです。友達よりももっと深く・・・返事はしなくてもいいですから、そのことだけ知ってもらえたら嬉しいです」

 

 

 

見たこともないこんな街で

知らない誰かを探してる

苺畑で逢えるのかな

うつろいゆく

赤くなってゆく

サニーデイ・サービス「苺畑でつかまえて」より

 

私も、ずっと探していた誰かを見つけたような気がした。

苺畑の中で。




最後ですが、サニーデイ・サービスの「苺畑でつまかえて」の歌詞を引用させて頂きました。
苺ちゃんの名前の由来ですが、
森田→歌手の森田童子から
苺→サニーデイ・サービスの「苺畑でつかまえて」あるいはビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」
どちらも「原風景」みたいな意味が含まれていると思います。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。