迷宮都市の奴隷騎士   作:ワシイヌ

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…ご、御照覧あr「地に伏せよ!」








十ニ話 殺人鬼の暗い影

「顔が、ない?」

 

 ゲールの発言の意図をアイズは理解出来ず、困惑の表情を浮かべてしまう。

 

 仲間たちもそれは同じで、リヴェリアは眉間に皺を寄せて、ティオネとティオネは困惑した表情で顔を見合せてから、要領を得ないといった視線を赤頭巾の老人へ送っており、レフィーヤに至っては思考が停止したように身動ぎもできず恐々と見つめている。

 

「ゲール、それは一体どういう意味――」

「おいちょっと待て」

 

 重々しい沈黙に沈む空気の中、慎重に老人の真意を問い質そうとしたフィンの声を遮るようにボールズが声を張り上げた。

 

「そういや、その爺さんはどこの誰だ? 覚えのねえ面してやがる……というよりも、そんな悪目立ちする格好『リヴィラ』で見たことねえぞ。そもそも、そいつは最初から部屋にいたか?」

「何言ってんのさボールズ。ゲールは最初からあたしたちと一緒にいたじゃん――いたよね?」

「なんでアンタが不安になってんのよ」

 

 何故か老人の存在を失念していたティオナがティオネに突っ込まれる。

 

 大柄な体格、そこらの荒くれ者たちとは一線を画す重厚な装いに場違いな赤い頭巾。異質の存在を前にしてボールズの声には明らかに警戒するような響きがあった。

 

 ジロジロと無遠慮にその隻眼で大柄な赤頭巾を睨み付ける『リヴィラ』の顔役に突っ込みを入れるティオナだったが、彼女自身ゲールが同じ部屋にいたことを失念していたため一応姉に確認を取るが呆れられてしまう。

 

「ああ、そうか。紹介がまだだったね。彼はゲール、僕たち【ロキ・ファミリア】の新人だよ」

「新入りぃ? コイツが?」

「つい最近、オラリオの外から流れてきたんだ。『街』の住民であるお前たちの耳にも、この情報はまだ入っていなかったらしい」

 

 新入りという単語に信じられないような反応を示したボールズはフィンとリヴェリアの説明に顔をしかめ、二人を交互に見やってからもう一度彼を疑り深い眼差しを向ける。

 

「……随分と胡散臭ぇ見た目だが、やれるのか?」

「勿論、彼の実力は僕たちが保証するよ」

「ゲールの【ステイタス】レベルは4。それだけでなくとも『リヴィラ』の住民総出でかかっても対処できる戦闘技術も備えているぞ」

「レベル4……」

 

 牽制も兼ねて切り出したは良いが、本拠(ホーム)での事件が脳裏を過り、少しだけ遠い目をするフィンとため息をつきそうになるリヴェリアの心境など存ぜぬボールズは、見知らぬ新人(ルーキー)――そう呼ぶには憚られる雰囲気を醸し出している――が己の【ステイタス】を上回っていることを知らされた後、もう一度だけ一瞥をくれる。

 

「……だからデケェとこの派閥は嫌なんだよ」

「話が逸れたな。ゲール、続きを頼む」

「さっきも言ったが、この男には顔がない」

 

 ぽっと出の新顔にまで【ステイタス】の実力差を突き付けられ、つまらなそうに鼻を鳴らしすごすごと引き下がったボールズを赤い布切れ越しに観察していたゲールだったが、リヴェリアの促す声に目線をハシャーナの遺体へ戻した。

 

「いや、それはさっき聞かせてもらった。その意味をだな……」

「そもそも、この状態じゃ顔も何もないと思うんだけど……」

 

 同じことを繰り返す老人の言葉足らず振りに思わず額に手を添えて頭を振るリヴェリアに、ティオナも困ったように疑問を呈した。

 

「大体よぉ、頭が潰れてるんだから、顔がねぇのは当たり前だろうが。お前んとこの新入り爺さんはボケちまってるみたいだぞ、フィン」

「アンタはちょっと引っ込んでなさいよ。団長はどう思います?」

 

 ボールズも野次を飛ばしてくるのでティオネがジト目で突っ込みを入れつつ、顎に手を添えその碧眼で見上げるフィンへ判断を仰ぐ。

 

 ゲールは口数が少なく愛想もないが、戯れで時間を浪費するような人物ではない。気が付いた、という発言からして先程の推理に対して大まかには同意している。が矛盾した発言に、この老人は自分たちには見えていない『何か』が眼についたのだろうと推測した。

 

「ゲール、すまないが僕たちにも分かるよう、噛み砕いて説明をしてくれないかい? それに犯人が女性とは限らないというのも、要領を得なくてね」

「死体を見ろ」

 

 彼の直感を信じよう、フィンは内心でそう頷き、彼へ話を促しかつ疑問点を抑えることも忘れない。小人族(パルゥム)の団長の声にゲールは端的に答え、足元のハシャーナの亡骸を手甲で覆われた手で指差した。

 

 ゲールの言葉にアイズたち【ロキ・ファミリア】とボールズら『リヴィラ』の冒険者は揃って顔を見合わせ、言われた通りに遺体へ視線を注いだ。

 

「……改めて見ると、本当に酷いわね」

「レフィーヤ、大丈夫?」

「っ、すみません……」

 

 顔から血の気が引いているエルフの少女を気遣いつつも、アイズも目を逸らしたく惨状であったが、ゲールの魂胆を読み取るため真っ直ぐに目の前の状況をつぶさに観察してみる。

 

 へし折られた首、ぐちゃぐちゃに粉砕され下顎だけが原形を留めている頭部、薄い皮膚と筋肉に覆われていたであろう頭蓋骨の骨片や二つの眼球、弾けた脳漿に歯、既に凝固して久しいどす黒い大量の血痕……。

 

 言葉にするのも憚られる惨状の骸を細部まで検分するが、この行いが今は亡きハシャーナを辱しめている、そんな思いがアイズに込み上げてきた、そんな時だった。

 

「待て」

 

 突然リヴェリアが声を発した。

 

「リヴェリア様?」

「気が付いたか、フィン」

「……ああ」

 

 表情を難しいものに変えた師匠を不安げに見やるレフィーヤ。しかし己の弟子には一瞥もくれず、リヴェリアは亡骸の側に佇む団長へ声を飛ばす。

 

 フィンも声音こそ変えていないが、副団長と同じ何かに微かに困惑した眼差しでハシャーナの遺体を注視している。

 

「おかしい、これは一体……? 確かに、ゲールの言葉は正しい……けど、どうしてそんなことに……」

「な、何がおかしいわけ?」

 

 理解が追い付いていないティオナの問いに耳を貸さず、フィンは犠牲者の頭部のあった箇所を中心に広がる黒ずんだ染みにそっと指を這わせ、探るように碧眼を辺りへと走らせる。

 

「あの、団長? 出来ればご説明をしていただけると……」

「だあーっ、まだるっこしいっ! 一人でブツブツ言ってねえで、俺たちにもちゃんと何がどうなってんのか説明しやがれ!」

 

 痺れを切らしたボールズがティオネの質問に覆い被せるように吠えた。

 

「……そうだね、君の言う通りだ」

 

 ゆっくりと小さな体を立ち上がらせ、なおも視線は遺体へ向けたまま『街』の顔役へ言葉を返すフィン。

 

「まず、ゲールが指摘して、今僕やリヴェリアが気付いたハシャーナの遺体の違和感についてだけど」

 

 

 

 

 

「頭を潰したからといって()()()()()()()()()()()()()のはおかしいと思わないか」

 

 

 

 

 

 

 

 しん、と殺人現場が静まり返る。

 

 次いで遅れるようにやってきたのは言葉にならぬ、どこか弛緩した空気だった。

 

「顔の皮膚、が……?」

 

 アイズも団長の言葉の意味を飲み込めずにいるせいで、己が無意識に声を発していたことに遅れて気付く始末である。

 

 顔の皮膚がない? 頭皮がない? それが一体、ゲールの謎な発言とどんな繋がりがあるというのか。アイズだけでなくレフィーヤやヒュリテ姉妹、ボールズとその手下たちも理解に苦しむといった様子で首を傾げるしかできないでいた。

 

「遺体の損傷にばかり気を取られていたけど、頭を潰されたからといって、何も()()()()()()()()()()()()()()()訳じゃない」

「き、消えるもなにも、ハシャーナの頭は現に――」

「これは例え話だが、小麦粉の詰まった袋があったとする、その袋を切り開き中身の小麦粉を撒いたとしても袋は残る。フィンが指摘しているのはそういう意味だ」

「それは……」

 

 納得のいかないティオナへフィンの言わんとすることをリヴェリアが補足する。

 

 二人の話に耳を傾けるアイズも頭では理解できても感情が追い付いてこない。

 

 だがゲールの奇妙な発言の意図も腑に落ちた……が、そもそもなぜそんな不可解な事態が発生しているのか?

 

「……これだけ死体が痛め付けらていれば、嫌でもそちらに気を取られる。現に、儂もそうだった。この男を殺した女がそう仕向けたんじゃろう」

 

 顎に手を沿えてちらりと見上げた団長の目配せに応じ、赤頭巾の老人は低く呟くと遺体の傍らに膝を突いた。

 

「っ」

「う……」

「死体とは、存外利用価値があるものじゃ」

 

 そして何を思ったのかいきなりハシャーナの遺体へと腕を伸ばし、彼の残された下顎をむんずと掴んだのだ。

 

 無理に上体を起こし、遺体の激しい損傷の跡を見せつけられ、アイズだけでなくレフィーヤやティオネも反射的に視線を逸らしてしまう。

 

「待て、今なんと言った? 利用価値だと?」

 

 聞き流せぬ単語をリヴェリアが鋭く問い質すと、ゲールはハシャーナから手を離して淡々とあげつらっていく。

 

「死体から装備をせしめる。遺品から死人の素性を探る。あとは文字通り死体そのもを利用することも出来る」

()()()()()()()?」

 

 無惨なハシャーナの骸を無情に眺める老人の台詞に、今度はフィンの声にも鋭さが帯びる。無造作に遺体を手放して立ち上がる。

 

「フィン、お前の推理と、死体の顔が見当たらない状況を察するにこの男を殺した女は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剥いだ顔の皮を被って身を潜めてる可能性が高い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体へ注いでいた目線をパルゥムの団長へと向けて言い放った。

 

 

「…………は?」

 

 あまりの突拍子のない結論に時が止まった。

 

 顔の皮を剥ぐ? 被る? 脳が理解を拒む。どうすればそんなおぞましい答えを導き出せるのか理解に苦しんだ。

 

「もう一度言うが、死体の頭をくりぬいて……この場合は死体の顔を剥いで被っているが正しいかの。まあ、よくある手じゃな」

「――おいおいおいおい!」

 

 老人の何てことはないように嘯きを遮るように、我に返ったボールズが身を乗り出す。

 

「よくある手、じゃねえよ! 死体の顔を剥いで被る? んなの正気じゃねえ!」

 

 厳つい顔を青くして吠え立てるが、それはこの場に居合わせる全員の感情の代弁に他ならない。

 

「仮にだぞ。万が一にそれが正しいとしても、そんなイカレポンチが『リヴィラ』に潜んでるってのにオメェ何平然としてられんだ? ちったぁビビれよ!?」

「肝の小さい男じゃ。お前が襲われる覚えでもあるまいに」

「こっ、何呑気に――ッ!」

「落ち着けボールズ、あくまでも可能性だ」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らしたゲールへ食って掛かろうとするボールズをリヴェリアが手で制止をかける。しかし当のリヴェリアも年老いた団員の推測を受け止めきれなかったのか、怜悧な面持ちが微かに強張っていた。

 

「……その推理を裏付けるような根拠は?」

「ない。が、経験上、それしか考えられん」

 

 眉間に皺を作り眦鋭くゲールへと問い質すフィン。団長の疑念のこもった問いに対し、赤頭巾の老人はあくまで自説を曲げることはしなかった。

 

「団長……」

「……犯人がハシャーナの顔を被ってるとすれば、『女とは限らない』というさっきの発言にも納得がいく」

「はあっ!?」

 

 口元に手を添えて暫し黙考した後、そう切り出したパルゥムにボールズが面食らう。

 

「ゲールの推測が本当に正しかったと仮定して、顔の皮を被っていたら傍目から見てもすぐに気付く。ということは犯人はそれを悟られないような装備をしている可能性が高いはず」

「お前までこんなぽっと出の、訳の分からねぇ爺さんの戯言信じんのかよ!」

「正直に言えば、僕としてもあまり自信はない。けど状況から見て否定できる要素もないのも事実だ……それに、ゲールは君が言うような訳の分からない爺さんではないしね」

 

 そう言ってフィンはまだ混乱から立ち直れていない周囲の冒険者たちを見渡し、肩を竦めた。

 

「強いて言えば、犯人がレベル4のハシャーナを殺害できる実力者という問題があるのは変わらないけど……」

「そこが一番の問題なんだろうがっ、この馬鹿【勇者(ブレイバー)】!」

「! ボールズあんた、誰にもの言ってんのか分かってんの……!」

「落ち着けティオネ、今はそんなことをしている場合じではない」

 

 ガルルル、と愛する団長(ひと)を馬鹿呼ばわりされたティオネが威嚇する。

 

「……ゲールさん。どうして、そんなことに気付いたんですか?」

 

 そんな愛の獣(ティオネ)をハイエルフの副団長が諌めるのを眺めるゲールへ、それまで口を噤んでいたアイズはそっと声をかける。

 

「……言ったじゃろう。()()()()()だと」

 

 物々しい空気でハシャーナの亡骸へ視線を移したゲールの声がいつもよりも低く、警戒を孕んだような響きを伴う。

 

「こういう手合いには、覚えがあるのでな」

 

 ギリ、と微かに拳を握り締めた瞬間を、アイズは確かに目撃する。

 

「何事も――備えるに越したことはない」

 

 赤頭巾の老戦士の有無を言わせぬ雰囲気を前にして、アイズはそれ以上追求することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 その後、【ロキ・ファミリア】とボールズたち『リヴィラ』側の冒険者たちはすぐさま行動へ移した。

 

 『街』に出入りするための入り口を封鎖し、白水晶に彩られた中央広場に集められた住人や居合わせた冒険者たちを前にするレフィーヤは、自身も不安の浮かんだ顔をアイズに寄せて耳打ちする。

 

「アイズさん、ゲールさんの話どう思いました……?」

「……分からない。けど、その可能性があるなら私たちは考慮しなきゃいけないと思う」

「そう、ですよね」

 

 明確な答えを持ち合わせていないアイズも、ふるふると首を振るしかできなかった。

 

 ゲールの憶測は正直言って、普通の思考をしている人間なら浮かぶことのない、異常と呼べるものである。人の顔の皮を剥いで被るなど、まともであるならばそのような考えに至りもしない。

 

 しかし、実際問題彼の言葉を肯定できる条件は揃っていれど、否定する材料を持ち合わせていなかったのも確かだった。

 

 真相はどうあれ事件解決のためにも、アイズたち【ロキ・ファミリア】の女性陣は広場に集った女性冒険者たちの身元と身体検査をすることになっている。

 

 しかしこれはあくまで犯人と思しき人物を見つけるまでの時間稼ぎ。殺人犯にこちら側の真意を悟らせないための囮のようなものだ。

 

 ハシャーナ殺害の犯人像については推測とはいえ、その肖像はかなり絞ることができている。

 

 顔の露出を避けたような外套(ローブ)や兜、かつ傍から見て性別が判断できないような装備を纏った冒険者を見つけ出せばいいのだから。

 

「レフィーヤは、ゲールさんの言うことを信じる?」

「信じる――とは違いますけど、確かに引っ掛かることはありましたし……」

 

 こうして衆目を集めている間にも犯人を捜索している赤頭巾の老人――自ら申し出たのが少し意外であった――の姿を想像しながら尋ね返せば、エルフの少女はそう答えた。

 

「ただ……ハシャーナさんの遺体の扱い――と言っていいんでしょうか? を目の当たりにして、私やっぱりゲールさんのことが少し分からなくなりました」

「レフィーヤ?」

「あっ、けど悪い人じゃないっていうのは分かってますよ。わかっているんですけど……」

 

 続いた言葉にアイズが目を瞬かせると、レフィーヤは慌てて両手を振って二の句を継いだ。

 

「その、私たちとゲールさん、見ている世界が違うことに戸惑ってしまったんです――この人は一体何者なんだろう、って」

「……」

 

 【ロキ・ファミリア】の誰もが一度は抱いた疑問をあえて口にしたレフィーヤへアイズは目を伏せた。

 

 

 

 ――こういう手合いには、覚えがある。

 

 

 

 あの台詞はそういった野蛮な行為に何ら抵抗のない、人の道を外れた人々を相手取ってきたということだろう。

 

 ダンジョンで出会う以前、ここじゃないどこかでの、霧に覆われた過去の話……。

 

「アイズさん?」

「っ……ううん。大丈夫」

 

 ハッとしてブンブンと頭を振って邪念を追い払う。余りにナンセンス。自分の馬鹿げた憶測など、言えるはずもなかった。

 

 一度ゲールのことを忘れよう、そう切り替えて事件の真相究明に意識を集中させようとして顔を上げたときだった。

 

「……?」

 

 挙動不審な獣人の女冒険者が偶然視界に飛び込んできた。

 

 顔を不安に歪ませたその犬人(シアンスロープ)の少女は、アイズの視線に気付いたのか背を向けて広場から慌てて立ち去って行く。

 

「レフィーヤ」

「は、はいっ」

 

 アイズが声をかければ意図に気付いたレフィーヤもすぐさま反応する。

 

 話にあがった容疑者の仮の容姿に掠りもしない。

 

 だが、あからさまに狼狽える様子の獣人は何かを知っている。アイズはそう直感し、広場から遠ざろうとする獣人の少女を追跡した。

 

 

 

 

 

 『リヴィラの街』の中心部を望める高台へと身を運び、ゲールはの広場に集まった群衆を見下ろしていた。

 

 二つの筒を並べ、硝子を嵌め遠間を望む道具――“遠眼鏡”を取り出し、赤頭巾に覆われた目元に当て『街』の住民たちの不安の色の浮かぶ顔を一つ一つ視界に納めていき――

 

「――――」

 

 拡大され、狭まった視界に一人の冒険者を捉えた。

 

 全身型鎧(フルプレート)の装備を纏い、男とも女とも判別の付かぬ己の脳裏に浮かべた条件に合致する容貌の冒険者。

 

 その冒険者は遺品の掲げられた広場に背を向け、自然な動きで群衆から離れて行くところだった。

 

 続けて、その不審な冒険者が足を向けた先へと遠眼鏡を滑らせる。

 

 エルフの少女と、黄金色の髪をしたヒューマンの少女の飛び込んできた。

 

「……思い過ごしか」

 

 口の中で呟き、老戦士は逡巡するように灰色の長髭を数度撫でる。

 

 “遠眼鏡”を腰嚢(ポーチ)へとしまい、次いで()()を取り出した。

 

 滑らかな質感の白い石のような()()を左手に握り込み、撫でていた右手を背に負った大剣へと伸ばし、にわかに姿勢を低くした、その時だった。

 

「――――ッ!!」

 

 獣のごとき反応で振り返った。

 

 赤頭巾に覆われた頭を東の方向――『街』の築かれた小島の向こう、18階層の中央に聳える大樹のさらに奥に広がる森をその赤い布切れ越しに凝視する。

 

「まさか――」

 

 赤頭巾と灰色の髭で表情は窺えない。だが、ゲールの溢した唸りには困惑の色が露になっている。

 

 呆気に取られていた老戦士は我を取り戻したように視線を戻すと、例の冒険者の姿は見えず、既に立ち去った後であった。

 

 しかし、あの冒険者の行く先は把握している。大剣の柄から手を離し、使いかけていた()()腰嚢(ポーチ)へと仕舞い込んで立ち上がる。

 

 予定は狂ったが成すべきことは変わらない。ゲールは轡を並べる少女たちと標的が姿を眩ました青水晶の群生地へと足を向けた。

 

「……背中には気を付けねばいかんようだ」

 

 東の方角から漂ってくる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に尾を引かれながら。








ということで、マジでごめんなさいorz
「エルデンリングが出る前には流石に更新できるだろw」とたかを括ってましたが、見積もりが全くもって甘々でした…。
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