迷宮都市の奴隷騎士   作:ワシイヌ

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二話 黄昏の館にて

「あーあ、暇やなぁ」

 

 オラリオの北区画。そこには周囲の建造物と趣きを異とする尖塔の並び立つ、雑然とした印象を抱かせる館があった。

 

 【黄昏の館】と呼ばれる邸宅内のとある一室。酒瓶を胸に抱きながら、超越存在(デウスデア)一柱(ひとり)であるロキは談話室に備えられたソファにだらしなく寝転がっていた。

 

「皆が遠征行って二週間位かぁ。もうそろ帰って来る頃合いやと思うんけどな~」

 

 オラリオ最大派閥と謡われる【ロキ・ファミリア】。館の主たる主神の威厳など全く感じさせないだらけきった様で、ロキは遠征に向かう前に子供たちと交わした言葉を思い出しながら暇をもて余していた。

 

「ファイたんとはこの前一杯引っかけたやろ。ガネーシャのとこ遊び行ってもまたよう分からんポーズ見せつけられるだけやし……」

 

 寝返りをうち、黄昏時を思わせるような朱色髪が揺らして恐ろしいまでに整った顔立ちをしかめさせながら、ロキはうんうんと唸り続ける。

 

 眷族たちが本拠(ホーム)を留守にしている間、相手をしてくれた神友(しんゆう)である鍛冶神や喧しい象神の名を呟きつつ、他に付き合ってくれそうな相手にあたりを付けようとして。

 

「……しゃーない、ドチビでも捕まえておちょくり倒しにでも行くかぁ」

 

 最近北通りの近辺で見かけた女神(しりあい)のことを思い出し、不本意ながらロキはソファからのろのろと身を起こした。

 

「確か、ジャガ丸くんの出店でバイトしてたはずやったかな――って」

 

 気怠い様子で伸びをして大窓を開けてベランダへ出ると、それらしい出店を見つけようとしたロキの視界にそれは飛び込んできた。

 

「あれは……」

 

 視線の先には通りの中央を進む群集の姿。

 

 装い、手にする武装、性別、種族すら異なる雑多な集まりだが、一つの意思に統一されたように、彼らはこの【黄昏の館】を目指している。

 

「……帰ってきたっ」

 

 見間違えるはずもない。その集団の正体に気付いたはロキは柵から身を乗り出し、見開いた線のように細い双眸を歓喜の色に染め上げた。

 

「帰ってきたぁー!!」

 

 眷属――『恩恵(ファルナ)』を与えた子供たちのダンジョンから帰還にロキは喝采を上げると、空の酒瓶を放り出して、猛ダッシュで談話室を飛び出した。

 

 階段を飛び降り、ホームの入り口を開け放ち、門を飛び出し、通りを爆走する。

 

「――団長、やっぱりギルドに引き渡した方が良かったんじゃ……」

「お前さんもアイズを見たろうラウル。あの調子じゃ梃子(てこ)でも動かん。致し方なかろうよ」

「けど……」

「アイズを言い訳にはしたくないけど、彼女の言い分にも一理ある。それに今回は状況が状況だったし、まずはあの冒険者の意識が戻るのを待って――ん?」

 

 何やら真面目な雰囲気を纏っていた先頭集団のむさい男共など興味なし。ロキはその後方、男性団員たちの後に続いていた女性陣へと突貫する。

 

「はぁ~、帰ってきましたぁ……」

「肉! 私は肉が食べたいな!」

「帰ってきて早々に肉って……ご飯よりもお風呂入りたいわ、私。アイズも一緒に入らない?」

「ジャガ丸くんが食べたい、かも」

「……アイズって、食欲に忠実なタイプだったかしら」

 

 遠征の達成感への感慨もそこそこな少女たちへロキは両腕を広げ、神愛の抱擁(ハグ)をせんと跳躍する。

 

「おっ帰りぃぃぃ――」

 

 しかし彼女たちはこちらの存在を察知した途端、馴れたように右へ左へと身を翻し避けていく。

 

 金髪美少女に、アマゾネスの双子に、黒髪の猫耳美少女に再会の抱擁(ハグ)を躱されてしまったがロキはへこたれないし、挫けない。

 

 何故ならこのウイニングランの終着点。そこには、手にした杖に身を預ける、きょとんとした表情を浮かべたエルフの美少女が――

 

「――だから言い出したのはアイズだって何度も言ってんだろうが!」

「――ぃぃいいっ!?」

 

――ぬっ! と予想外におどろおどろしい髭面にすげ替わり、ロキはぎょっとして慌てて急ブレーキを掛けた。

 

「おっほぅ!?なんやなんや!?」

「そうしてアイズに手を貸した時点でお前も同じ立場だ。しかし……相変わらずあの子には甘いな、ベート」

「ばっ、アイズは関係ねえだろ!?」

「――ってちょお待ちい!」

 

 女性眷族への神愛の接触(スキンシップ)を妨害された挙げ句、無視(スルー)されたロキはからかうような様子の秀麗眉目なエルフと、牙を剥き出しにする狼人へビシィッ!と手振りを交えて突っ込みを入れた。

 

「どうした、ロキ」

「なんだよ帰ってきて早々うるせえな」

「どうしたもヘチマもないねん! て言うか二人とも再会の言葉がそれってひどない!?」

 

 揃って振り向いたベートと翡翠の髪と瞳を持ったエルフ――リヴェリア・リヨス・アールヴに再び突っ込みつつ、ロキはおどろおどろしい髭面――ベートが肩に負った赤い頭巾を被った老人へと指を突き付けた。

 

「と、とにかく。そのおっかない赤頭巾ちゃんはどこの誰やねん? 危うくキスしてまうところやったで、ウチ」

「ああ、この男のことか。そうだな……」

「それはこっちが聞きてぇってんだよ、ったく」

「はえ?」

「――ベートの背負ってる冒険者についてだけど」

 

 歯切れの悪い二人の様子にロキは首を傾げていると、二人とは別の声が鼓膜を揺さぶった。

 

「フィン?」

「それは本拠(ホーム)へ戻ってから話をするよ、ロキ」

 

 ロキの視線の先。そこには先程まで先頭を歩んでいた少年――ではなく、総じて小柄な種族である小人族(パルゥム)のフィン・ディムナがこちらを見上げていた。

 

「ここはまだ公共の場だし詳細は後で話すとして、取りあえず彼を空いてる部屋に運びたいんだけれど、いいかな?」

「ま、まあフィンたちがええって言うならウチも構わんけど……」

 

 【ロキ・ファミリア】の団長を務めるフィンのいつものように落ち着いた調子の中にどこか異論を挟ませまいとする空気を感じ、ロキは取りあえずは首を縦に振る。

 

「ありがとう、ロキ……ベート。その冒険者をホームへ運んでくれ」

「良いのかよマジで……」

 

 フィンの指示にベートは困惑と不服が混じったような表情を浮かべたが、渋々と言った様子で一歩を踏み出した。

 

「ほれベート、ゴールまであと少しじゃ。気張れ気張れ」

「うっせーぞジジイ。つーか代われよ、こいつ結構重ぇんだぞ」

「なんだ、弱音とは珍しい。異常事態(イレギュラー)もあった今回の遠征は流石のお前も堪えたか」

「杖より重てぇ物持ったことのねえババアは黙ってやがれ――いってぇー!?」

 

 リヴェリアに尻尾を踏まれ悶えるベートと、それに合わせて揺れる赤頭巾の老人の後ろ姿を眺めつつ、ロキはもう一つ気に掛かることをフィンへ耳打ちした。

 

「……なあフィン。アイズたん、何かあったん?」

「……やっぱり分かるかい」

「そら、あんなんなってたらなあ」

 

 澄まし顔のリヴェリアへ殺意を剥き出しにするベートの唸りを聞き流しつつ、ロキは朱色の瞳を脇へと向けた。

 

 女性陣に紛れる金髪金眼の少女。感情表現の乏しいアイズの金色の双眸が、揺れることなくじっとベートの背中を見据えている。正確には、赤頭巾の冒険者をだが。

 

 当の本人はちらちらと心配そうに視線を送るエルフの少女や、顔を見合わせるアマゾネスの双子の様子にも気付いていない風である。

 

「なんや、あの赤頭巾ちゃんと揉め事でもあったんか」

「……それも後で話すよ」

「そう、か」

 

 肩を竦め、尖塔の並び立つ本拠(ホーム)へと足を向けたフィンの様子にロキも察して会話を打ち切ると、自分もホームへ戻ろうと足を踏み出して。

 

「あ、そうや」

 

 ピタリ、と上げた足を一旦下ろし踵を返す。そして待ちぼうけを食らっていた己の眷族一人一人の顔をまっすぐに見渡した。

 

「色々あって言うのが遅なったけど……皆、お帰り。誰一人欠けず戻ってきてくれて、ウチはホンマ嬉しいで」

 

 線のように細い目と口元を喜びで弛ませて、ロキは愛すべき子供たちへにっと笑いかけた。

 

 

 

 

 

「……なるほどねぇ。ミノタウロスを倒してくれたと思ったら、いきなり目の前で倒れたっちゅう訳か」

 

 丸椅子の上に胡座をかくロキに事情を説明し終えたアイズは頷いて首肯した。

 

 館内(ホーム)にある空き部屋の一つ。そこに赤い頭巾の冒険者をベートの手で運び込んでもらい、事前に説明しておいたフィンたち首脳陣たちにも同席してもらっていた。

 

「そら災難やったなあ……んで、その最後のミノタウロスを倒してくれたこの赤頭巾ちゃん。一体どちら様なん?」

 

 ロキはそう言って部屋に設えられたベッドの上、そこに寝かせられた人物――件の冒険者を親指で指し示した。

 

「それが……」

 

 答えを持ち合わせていないアイズはチラリとフィンを見やる。壁に背を預けたフィンもどう切り出したものかといった風にリヴェリアと顔を見合わせた。

 

「ん? もしかして分かってないんか?」

「ミノタウロスを一人で下せる程の実力者だ。団員の中に一人位は知っている者もいると思ったんだが……」

徽章(エンブレム)は? 派閥が分かれば身元も絞り込めるやろ」

「それもなし。装備にもそれらしき意匠は見当たらない。装備の方も特に統一された物でもなさそうなんだ」

 

 まず始めにロキの傍で佇んでいたリヴェリアが問いに答え、続けての疑問にはフィンが受け持った。

 

 アイズはこの老人が誰なのか分からなかったし、ベートもそれは同じだった。そのため地上でファミリアの本隊と合流後、アイズは仲間たちに尋ねてみたのだが……。

 

「それは確かに妙やな……」

「だから、フィンたちと相談して目が覚めるのを待って本人に聞くって話になって――」

「せやけど、どこの誰とも分からん子をわざわざ本拠(ウチ)に連れてこんでも、目が覚めるまでバベルの診療所に預かってもらった方が良かったんちゃう?」

「それは……」

 

 腕を組んで疑問を孕んだ朱色の瞳に見据えられてしまい、アイズは言葉に詰まってしまう。

 

 ロキの言うことは尤もだ。身元も素性も知れぬ冒険者をそれも本人の同意無しにホームに連れていくなど、誘拐だと騒ぎ立てられても文句は言えない。諍いの原因になってもおかしくない行為だった。

 

(けど――)

 

 アイズはロキから視線を外し、ベッドの上で身を横たえたまま微動だにしない老人を盗み見る。

 

 騎士を彷彿とさせる全身に纏った頑強な鎧。その下に隠れていながらありありと感じ取れる屈強な体躯。そして灰色の長い髭が覗いている、相貌を隠すような赤い頭巾。

 

 冒険者を前にしているとアイズの胸の内に言い知れない感情が沸いてくる。違和感とでもいった方が良いかもしれない。

 

「……それがそう簡単にいかないんだよ」

 

 しかしそれを表現する言葉が見つけられず、アイズが俯きがちに悩んでいると、落ち着いた声音が鼓膜を揺すった。

 

「ん、どういう意味?」

「なんでも、アイズが言うにはその冒険者に襲撃されかけたらしくてな」

「なにぃ? ほんならウラヌスんとこの子に引き渡した方が尚更――」

「正確には襲われると『思った』そうだ」

()()()?」

 

 フィンの代わりに答えたリヴェリアの言葉に引っ掛かったのか、ロキは片眉を吊り上げる。

 

「思った、って……どない意味やねん」

「実際に剣を交えた訳でもなく、危害を加えられた訳でもない。文字通り、アイズがその男から敵意を感じ取ったという意味で受け取っていい」

「一応、他の団員には人命救助の名目で黄昏の館(うち)まで運ぶことだけは伝えたよ。アイズの語ったことが真実だとしたら、余計な諍いが増えても困るからね」

 

 ロキは視線を逸らし、隣に置かれたベッドに装備も外さぬまま寝かされている赤い冒険者を一瞥した。

 

「つまり勘違い――気のせいってことか?」

「けどそうとも言い切れない。アイズが警戒する程だ、余程殺気立っていたんだろう」

「そもそもこの子はレベル5だ。普通であれば襲い掛かろうなどと考えつくはずもないが……」

 

 ロキたちの会話もアイズは目を伏せ、ダンジョンでの顛末を思い起こす。あの老人と対峙した際に感じた危機感は気のせいだったのだろうか。そんなはずはない。あの時、自分の冒険者としての直感が目の前の人物が危険だと告げていたのだ。

 

(それに……)

 

 アイズが違和感を抱くに至った理由は明らかだった。

 

 しかし、それを言い出せずにいる原因も明白である。

 

 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などという、余りに突拍子もないことを誰が言えるというのか。

 

 このことはフィンたちにも話していない。話がややこしくなることは明白であったし……今は目を覚まさぬ赤頭巾の老人の素性を明らかにするのを優先するべきだと思ったからだった。

 

 ……自分の正気を疑われたくないという本音も多少はあったが。

 

「……事情は分かったけど、アイズたんはホンマに襲われると思ったんか?」

 

 名前を呼ばれはっと我に返ったアイズは面を上げ、遠慮がちに首肯した。

 

「……はい」

「……そうか」

「何か言いたげだね、ロキ」

 

 納得していない風に頭を掻いたロキへフィンが問い掛ける。

 

「んー、別にそういう訳やないけど、この件は居合わせたベートにも聞いてみんことにははっきりしないような気がすんねん」

「と言ってもベートはもう自分の部屋に戻っておるぞ」

「ああ、それもそうやったな――って」

 

 突如上がったフィンのものともリヴェリアのものとも異なる声に、ロキは驚いたように部屋の隅へと首を巡らせた。

 

「話にも参加せんでさっきから何やっとんのガレス?」

 

 アイズも倣うようにこの部屋に入ってから今まで無言を貫いていたを人物を見やった。

 

 その低い身長に似合わぬ筋骨粒々な体躯を床に直接落としたドワーフ――フィンとリヴェリアの同期にして最古参組の一人であるガレス・ランドロックが再び口を開く。

 

「すまんのう。儂としたことがつい」

 

 先程まで掲げるようにして様々な角度から眇め見ていた『それ』から視線を外し、ガレスはのっそりと立ち上がる。

 

「やけに静かだと思っていたけど、気になる点でもあったのかい?」

「まあ気になると言えば気になるんじゃが……」

 

 そう言ってガレスはアイズの元まで歩み寄ると、訝しげな髭モジャの顔を向けてくる。

 

「アイズ、こやつ本当にこの剣でミノタウロスを倒したのか?」

「……? うん。その剣で、ミノタウロスの腕を斬ったところも見てる」

「そうか……」

 

 ガレスの要領を得ない質問に内心首を傾げつつ、アイズは目の前に掲げられた『それ』――歪な黒々とした大剣を見つめた。

 

「何か気になる点でも?」

(ろく)な手入れをされてない以外は、何の変哲もない剣じゃな」

「なら別に気に掛けることはないと思うが……」

「儂が言いたいのはその逆じゃよ、リヴェリア」

 

 リヴェリアに胡乱気な視線を注がれたガレス。それでもその髭面に悩ましげな表情を浮かべたまま言葉を続ける。

 

「と言うと?」

「この剣は何の特性も持っておらん……希少金属(レアメタル)すら使われておらんのじゃ」

「何だって?」

 

 指先で大剣の表面をなぞるガレスの発した言葉に、フィンは蒼碧の瞳を瞬かせる。

 

「それは本当なのかい」

「儂もドワーフの端くれじゃ。それくらいは見抜ける目を持っているつもりじゃよ……しかし、ここまでいい加減に扱われた剣を見るのは初めてじゃ。椿(ツバキ)が見たら持ち主は斬り倒されても文句は言えんのう」

「いやまさか。流石の彼女もそこまでは――するかもしれないね」

「確かに、あの子ならやりかねへんな」

「よさないか二人とも」

 

 ベッドの前に集まり、そこに寝かせられた冒険者を見下ろす三人と一柱(よにん)の話を耳にしながら、ガレスから大剣を手渡されアイズはその手の内に収まったずっしりとした鉄塊へと視線を落とした。

 

 地上に戻る際、赤頭巾の冒険者が振るっていた大剣の刀身に付着していた諸々を落として分かったのだが、大剣は闇に溶け込みそうな黒い色をしていた。切っ先も大きく欠落していることは変わりなかったが、こうして光の下で改めて見てみると気付いたことがあった。

 

 ざらついた黒い表面に(ひび)が走っている。赤いそれは地脈か葉脈……あるいは浮き出た血管を彷彿とさせた。より目を凝らせば禍々しい(ひび)割れに隠れるようにして、うっすらと掠れきった紋様が刻まれていることにも。楔のような、刺々しい紋様が。

 

「よくミノタウロスの相手をして、あんな刃の欠けてる(なまく)らが砕けずに済んだものじゃあの」

「しかし、結局この男が何者なのかは判明しないままか……」

 

 魔石灯の柔らかい明かりすら呑み込み、何の光も放たない黒大剣に気を取られていたアイズはリヴェリアの怜悧な声が響いたことはっとして手の中にある大剣から意識を離した。

 

「彼が意識を取り戻すまで待つしなさそうだね」

「それしか手はなさそうやな……ちょお待ち。さっきのアイズの話が本当だったとして、赤頭巾ちゃんが寝起き様にウチらに襲い掛かってきたりなんてことは……」

「そうならないことを祈ろう。アイズとはいざこざが合ったかもしれないけど、彼はその前にミノタウロスに襲われてた少年を――僕たちを助けてくれたんだしね」

「安心せい。何のために儂らが同席してると思っておる」

「……自己紹介のため?」

「はぁ?」

「……ロキ、何を言っているのか理解できないぞ」

 

 ベッドへ背を向けため息混じりに溢したフィンの呟きに嫌な想像を働かせるロキ。ガレスが安心させようと声を掛けるが訳分からないボケをかました主神へリヴェリアがポツリと突っ込みを入れた。

 

 緊張感のないやり取り。けども他の団員の前ではあまり見せない、気心の知れた他愛のないやり取りをする最古参組の姿を前にし、アイズは小さく微笑んで――

 

 

 

 金の瞳を見開いた。

 

 

 

「ともかく、実際問題他所のファミリアの冒険者を一人で寝かしてしておくのも難しい――アイズ?」

「? どないしたの」

 

 その様子を察知したリヴェリアから名前を呼ばれ、それに反応してロキが怪訝そうに首を傾げる。

 

 けれどもアイズは反応できず、声を上げるのも忘れて正面を凝視することしかできない。

 

 ベッドの上、()()()()()()()()()()()()()()姿()を。

 

「――――」

 

 やはり音もなく、この世のものとは思えない空気を纏った冒険者は赤い頭巾で覆われた頭部をぬらりと巡らせる。

 

「っ!」

 

 向き直った冒険者の布切れ越しの視線を浴び、アイズは反射的に腰元の愛剣へと手を伸ばし――

 

 

 

――違う。

 

 

 

 告げてきた直感によって柄を握る直前で止め老人を注視する。おかしい、何かが違う。ダンジョンで対峙した時の老人と、ベッドの上で品定めするような視線を送ってくる老人とで、明らかに何かが異なる。

 

 その違和感に一人困惑するアイズ。その様子にすら気付いていないのか、幽鬼のごとき老冒険者は赤頭巾の下から覗く、長い灰色の髭に覆われた口元が蠢めかせ――声を発した。

 

 

 

 

 

「ここは――どこじゃ」

 

 

 

 

 

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