リアス・グレモリー先輩。紅髪が特徴の高校三年生。僕が入学してすぐの時に、一年生の間にも瞬く間に広まった、『二大お姉さま』の一人だ。
中等部からのエスカレーターで高等部に入った人たちも、この先輩のことを『お姉さま』と呼び、慕っている。
で、そんな人に、僕は……正確には、僕とミッテルトは正座をさせられていた。
「それで、言い訳は?」
ものすごい剣幕で、僕をにらむ先輩に萎縮してしまう。
「あのぉ……町でぇ、友達とぉ……あったら……あ、遊ぶ……じゃ、ないですか? それと……はい、同じ……です。はい」
「そう。で、そっちの堕天使さんは?」
「こいつに無理矢理つれてこられたっす」
「海樹?」
「一人じゃ寂しかったんですよぉぉぉぉぉ!! 僕だって、ずっと一人じゃなかったんですよ!? ジグと一緒に頑張って生きてきて、いきなりジグが封印されて、話し相手もいなくて、独り言を呟いて……そんな生活耐えられないですよぉぉぉ!!」
無様に泣き叫ぶ僕に、若干引き気味のミッテルト。
「まあ、こんなやつなんすよ、こいつ。自分勝手で、わがままでマイペース。そんなやつに『会うな』って言う方が無駄ってものじゃないっすか?」
「ミッテルト……初めてミッテルトのいってることに感動した……」
「一言余計っす。バ海樹」
「ひどぅい!?」
「ふざけない! それで、あなたは何しにこの町に戻ってきたわけ? あなたたちの『任務』は終わったものとに認識していたのだけど?」
リアス・グレモリー先輩に、僕は叱られ、ミッテルトは事情を話させられる。
「一応言うっすけど、うちが海樹に接触したのは、理由がない訳じゃないっすよ」
「それを説明なさい」
「いや、なんで、悪魔にうちの任務を話さないといけないんすか?」
「別に、その必要はないわよ。こちらも、あなたを監視するだけだから」
「監視?」
「そう。ただ、こちらも、それほど大人数で一人の堕天使を見ている余裕なんてない」
断言するリアス・グレモリー先輩。なるほど? つまるところ、誰か監視につけたいけど、適役がいない。そういうことなんだろうか?
「そこで、海樹。あなたには、悪魔の仕事を免除してあげる代わりに、この堕天使の監視を命ずるわ」
…………
「なんですと!?」
「それは、うちのセリフっす!! なんで、海樹なんすか! うちは別になにもぉ……」
なにかを言おうとしていいよどむミッテルト。
「悪いことなんて考えてないっすよ!」
だが、結局は言い切った。
うん、ものすごく怪しいよね。リアス・グレモリー先輩もそれはわかっているのか、とてつもなく冷たい瞳で、ミッテルトを見下ろす。
「そう。なら、問題ないわよね? 私たちが確証を得られるまでの期間、あなたの監視を海樹にやらせるわ」
「い、いいですよ、いいですとも。うちに、後ろめたさがないことを証明してやろうってもんじゃないっすか」
「うーん、怪しさ満点」
「海樹が言うなっす!!」
「僕は全然怪しくないんだけど!?」
「お黙りなさい!」
リアス・グレモリー先輩の一言で僕たちは口をつぐむ。
それから、ため息をつき、告げた。
「海樹は、この堕天使の監視。いいわね?」
「はい!」
「それと、私のことは部長と呼ぶこと。イッセーにもそう伝えているわ」
「は、はい! 部長」
「それと、ミッテルトから片時も離れることを禁ずるわ」
「片時も? えっと……さすがにお風呂とかは別ですよね?」
恐る恐る訪ねる僕に、リアス先輩は「そうよね……」と呟きいった。
「トイレはべつにいいわよ。お互い恥ずかしいでしょうしね」
「お風呂もいやなんですけど!?」
「汚いっすよ。ちゃんと風呂はいれっす」
「そうじゃないからぁ! ミッテルトと入るって行為が嫌なだけだからぁ!」
ミッテルトの的はずれなリアクションに、僕はつい、大きな声で反論する。すると、ミッテルトはどこか不服そうな顔をする。
なにか変なこといったのだろうか……? さっぱり、見当のつかない僕に、ミッテルトは近づいてきて、言ってくる。
「それ、一緒に寝るときもいってたっす!! うちに魅力感じないって! なら、もういっそこの際、監視でもなんでもうけてやるっす! この節穴海樹に、堕天使の本気の誘惑ってもんを見せつけてやろうじゃないっすか!!」
あー、なるほどなるほど。そういうこと……え? 僕そんなこと言った? ミッテルトも十分美人ではあると思うけど……まあ、子供っぽいという点で魅力を感じにくいということは、一切否定しない。
そんな興奮状態の、ミッテルトに見かねて、リアス先輩が割ってはいってくる。
「はい。二人で盛り上がっているところ悪いけれど、海樹は反省してくれないかしら? というより、そもそも、監視対象の前で、監視がどうのっていう話が異常なのも自覚してちょうだい」
あ、そうでした。そもそも、会話の内容からしておかしなことになってるんだった。
普通、監視って、遠いところから行うものであって、怪しい行動をしないよう近くで見張ることじゃないもんね。最近、そんな感じの監視が多くて忘れてたよ。
「そういえば、監視ってこんな堂々と言うもんじゃなかったっすね」
「そう。だから、これを利用するしかないし、目を話した隙に、仲間と連絡を取られるわけにもいかない」
「いや、同じ部屋で寝るのは別にいいですけど、お風呂はちょっと……」
「逃げるんスか? お? お?」
「煽らない」
リアス先輩の拳がミッテルトに降り注ぐ。
魔力の乗った拳のためか、すごくいたそうにしていた。
「手間なのはわかっているけど、そこを何とかしてくれないかしら? ここで、何をしようとしているかの期間だけでも、調べないといけないから」
「…………わかりました……ミッテルトが悪さしないよう、風呂場でも監視しますよ」
渋々……本当に渋々、僕はミッテルトの監視を承諾する。どこか不服そうなリアス先輩ではあったが、それ以上の文句はつけてこない。
「それじゃあ、ふたりとも、くれぐれも問題は起こさないように。海樹もなにか、情報をつかんだら、私に報告すること。いいわね?」
「はい!」
僕の返事を聞き届けると、リアス先輩は僕の頭を軽くなで、このマンションの一室から出ていった。
「それじゃ、ミッテルト。どうする?」
「グデーッと寝かせるっすよ。誰かさんのせいで疲れたんすから」
「そうなんだ。それじゃあ、お風呂入ってから、寝なよ」
「そうするっす」
僕は、その返事を聞き、部屋に戻ろうとして思い出した。
「そうだった。お風呂でも監視しないといけないんだった……」
「つい数分前の出来事っすよ? 忘れるの早くないっすか?」
「いや、忘れてた訳じゃ……」
「ということは、うちと一緒に入りたかったんすか? もー、海樹はむっつりっすねぇ」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ、僕をみるミッテルトから、僕は目をそらす。
ミッテルトは『見てくれだけ』なら、十分な美少女ではある。もちろん、男として、美少女と同じお風呂に、入れることが、嬉しくないと言えば、嘘になる。だが、ミッテルトと一緒にはいって嬉しいか、というと、正直、どうでもいい。
ただ、倫理観的に、男女同じ風呂に入るのはどうかと思って躊躇してしまっているだけだ。
いや、待てよ? たしか、ジグから見せられた記憶のなかにミッテルトが、下着姿で僕のとなりを寝ていたことがあったような気がする……あれ? もしかして、今更?
「うん、考えても無駄だ。ミッテルト、先入ってて。僕もすぐはいるから」
「わかったっす……って、海樹がノリ気!? どうしたんすか? 熱でも出したんすか?」
「違うから。あと、ノリ気じゃない。ただ、僕が対策しておけば問題ないって思っただけだから」
「対策?」
僕は神器を顕現させ、男物の水着を作り出す。
ミッテルトは目を見開き、「ま、まさか……」と驚愕している。
「僕はミッテルトの裸に反応しないし、興味はない。かといって自分の裸を他人に見られるのはいや。だったら、僕だけ水着を着れば解決だって思ったわけだよ」
「ちょっと待つッす。うちは裸で良いって理論が、意味わからないんすけど」
「え? 僕が気にしないからだけど?」
「なんでッすか!! うち、これでも女ッすよ! 堕天使ッすよ!?」
「いや、だからなに? まあ、ミッテルトが気にするっていうなら水着作っておくけど」
「先にそれをしろ!!」
「『っす』がなくなってる」
「指摘すんなっす! キャラ付けなんすから」
「キャラ付けだったんだ……まあ、とりあえず、作っておくから、先に入っておいてよ。体とか洗ったりするんでしょ?」
そういうと、どこか不服そうだったが、着用しているゴスロリのリボンをほどいていく。
もしかして、ミッテルトってノーメイクで、ゴスロリ来てるタイプの子?
「どうしたんすか? そんな驚いた顔で見て」
「いや、メイクとか落とさないのかなって」
「メイク? あぁ……うちには必要なさそうなんでしてないっすよ。それがどうかしたんすか?」
「……天然か」
「天然?」
「いや、なんでもない。とりあえず、ミッテルトの分も作っておくよ。ビキニタイプでいい?」
「かわいいやつにするっすよ」
「わかってる……」
僕はミッテルト用の水着を作る。ミッテルトのイメージ的に、黒とかの方が似合うかな……? うーん、それじゃあ味気ないし、水色とか……うーん。
「ミッテルト。好きないろとかある?」
「どうしたんすか?」
「いや、ミッテルトに合う色考えてたら、迷走しそうだったから本人に、聞こうと思って」
「てきとーでいいっすよ。強いていうならピンクっすかね。槍とかその色で作ることが多いっすし」
「りょーかい」
ゴスロリを脱いでいくミッテルトの傍らで、僕は、ミッテルトの希望をうけた水着を、作成し始める。
全体的に水色で、縁にピンクをいれる感じがいいか。
フリルは……あった方がいいかな? ミッテルトのバストサイズは、お世辞にも大きいとは言えないし、誤魔化しが利いた方がいい。
「よし、完成」
神器を使った製作で、そんなに時間がかからなかったのか、ミッテルトが下着だけになった時と同時に完成した。
「どんな感じっすか?」
「はい。これ」
「おぉー、意外とちゃんとしてるっすね。光力のとおりも良さそうっすし、夏とか海にいきたいっすね」
「そうだね。気に入ってくれたみたいでなによりだよ」
僕がそう答えている間に、ミッテルトは下着を脱ぎ捨て、水着を着はじめていた。
僕はシャツを脱ぎ、ミッテルトを見ないようにしながら、お風呂のドアが開く音を聞き届け、水着に着替える。
「入るよ」
「どうぞっすー」
僕らは、ちょっと狭いお風呂場でやいのやいの言い合いながら、汗を流した。