お風呂から出て、僕らはリビングでアイスを頬張っていた。
「ねぇ、ミッテルト」
「なんすか?」
「ミッテルトから見ても、僕って悪魔なの?」
「それは、性格的にって意味っすか? 種族的にって意味っすか?」
つまり、僕は性格的にも種族的にも悪魔ということ……
「いや、ちょっと待って。僕、別にミッテルトに悪いことしてないよね!?」
「よくよく思い返してみるっす。こんな美少女が下着姿でいたにも関わらず押し倒したり、欲情するどころか、冷静に対処して、ましてや、下着で隣にいても、スヤスヤ、スヤスヤ寝息を立てるだけ……うちのプライドをどれくらいズタぼろにしてくれたことか……責任とれっす!!」
「なんでそんな話になるのさ……」
「うちの! 女として、堕天使としての! 尊厳を!! 踏みにじったからっすよ!!!!」
「あ、そう」
「軽い!?」
途中から捲し立て始め、僕の胸ぐらを掴みユサユサと前後に揺らしていたミッテルトが、ショックを受けたように、表情が驚き一色に染まる。
うーん、でもなぁ……なんか、ミッテルトを『そういう目』で見れないんだよなぁ……。確かにかわいいし、服にしたって、つり目と相性のいいものを選べば誰だってころっと落ちてしまいそうなくらいには、魅力的だろう。だけど、なんていうか、こう、子供っぽい……というか、妹みたいな感じがする。
そう考えると……
「いや、うん、なんかごめん……」
「謝るくらいなら責任とれっす!! うちの下着姿見せたの、海樹だけなんすから」
「重い。やだ」
「ちっ……」
「なんで舌打ち……」
「うちだっていい加減婚約者の一人や二人持ちたい年頃なんすよ!! わかりやがれっす!!」
「???」
「なんで、全くわからないような表情してるんすか!! わかるでしょ!? 長い間この世界に浸ってたなら!!」
「いや、全然」
「なーんでっすか!!」
「なんで……って……」
それは、子孫残す気がないからとしか言いようがないんだけど……って、いっても変な目で見られそうだから、黙っておこう。うん。
「興味ないからかな?」
「恋愛とか結婚とかにっすか?」
「うん。小さいころからずっと命狙われてたから、誰かと一緒にって想像ができないんだよね」
「そういつもんなんすか?」
「そういうもんなんすよ……」
僕がミッテルトの口調を真似してみると、じとっとミッテルトから睨まれた。
「なに?」
「真似すんなっす」
「ん、わかった」
「それで、海樹、これからどうするつもりなんすか?」
「うーん、どうしよっか。ミッテルトはなにかしたいこととかある?」
「は? なんでうちに聞くんすか?」
「え? これから、なにして暇潰すかって話でしょ?」
僕の回答に、ミッテルトは、大きくため息をつく。いや、え? なにその反応?
この流れなら普通、暇潰しの話じゃないの?
「違うっすよ。今後、海樹がどう異形の世界に関わるかって話っす」
「あ、あー、うーん。どうしよっか。僕の目的ってもう完遂したようなものなんだもんね……」
「そうなんすか?」
「うん。ほら、僕って魔法使いとか、堕天使とか、五大宗家とかに狙われてるでしょ?」
「そうっすね。だから、うちに後ろ楯になってほしかったんすよね?」
「そう。だから、僕としては、どんな形式でもいいから、どこかの組織に入るしかなかったんだよね」
「で、それが、運がいいことに叶ってしまった……と」
「そういうこと。だから、全く目的がないんだよねー」
「なるほど。そういうことっすか」
そういって、うんうんと頷き、ミッテルトは空になったアイスの容器をゴミ箱に持っていき、捨てると、僕の対面に座り直し、肘を枕にして、僕の瞳を覗き込んでくる。
「これから、長くなるっすよ。うちも生まれて、そんなに長く生きてる訳じゃないっすけど、長命種らしく、数千、数万年単位で計画たてて行動しろってパパから聞かされてるっす。まあ、当の本人はあと千年、あと二千年とかいって、未だに下級堕天使のままっすけど」
「まあ、そうなるよね……。とりあえず、目下、昔の友人でも探してみるよ」
「友人? 海樹の知人って五大宗家に殺されたとかじゃなかったっすか?」
「それは、親族の話。友人とか知人とかには当てはまらないよ」
「えっと……つまり?」
「友人に関しては、縁切る感じで別れたり、襲撃の時のどさくさに紛れて逃がせたりとかで、生きてるかもしれないから、探してみようかなって」
僕が、だらけながら言ったことが信じられなかったのか、それとも、僕の言った内容が信じられなかったのかわからないけど、ミッテルトはムスッと睨み付けてきた。が、なにも言わなかった。
「それじゃあ、ミッテルトはどうするのさ」
「なにが、『それじゃあ』なんすか……まあ、うちは変わらず、任務の続行っす。『丹芽海樹の監視』がうちの任務っすからね」
「ま、そうなるよね……僕も当分はミッテルトの監視っぽいし……ねぇ、明日遊びに行かない?」
※※※
ということで、翌朝。僕は玄関で、靴を履き、ミッテルトが出てくるのを待っていた。
「どう、サイズあってたー?」
「ちょっ、いや、あの。さすがにこういうタイプのには……覚悟が……」
「ただのワンピースじゃん。前も着たんだし気にするような要素ないと思うんだけど」
「あれは、海樹が着せたんじゃないっすか!! うちの意思で着たわけじゃないっす!!」
「でも、それで外出してたわけだし、気にしなくても……」
「そういう問題じゃないんすよ!! てか、これ以外にも作れるでしょ! あんたは!!」
「はいはい。シャツとジーパンでいい?」
「最初からそうしとけっす!」
僕の部屋から、顔だけを覗かせ、ベーっと舌を出すミッテルトに、適当に拵えた長袖のシャツと、ジーパンを飛ばす。
ミッテルトはそれを顔を引っ込めて避け、床に広がった二つを素早く回収すると、ドアを閉める。
下着で寝たりするくせに、今さら恥ずかしがるのは、どうなのかと思うが、まあ、本人なりに何かあるのだろう。
それから、数分後、どういうわけか、ポニーテールにしたミッテルトが出てきた。
「似合ってるじゃん」
そういうと、ミッテルトはドヤッとふんぞり返りながら僕を見下ろす。
「そりゃ、うちはどんな服、髪型が似合う美少女っすからね」
「ん、そうだね」
「反論しないんすか……調子狂うっす」
「いや、実際かわいいとは思ってたよ? けど、下着姿を嫌ってほど見たら、そういうのどうでもよくならない?」
「たぶん、普通の男なら襲ってるっす」
「だろうね」
「性欲ないんすか? 海樹も一応男子っすよね?」
「ない……って訳じゃないけど……実感がわかないんだよね。ほら、ミッテルトが裸で隣に寝てますってなっても、下着作って服着させなきゃって先に思っちゃうし」
実際昨日も、ミッテルトが裸で寝てたから、下着を作って、着ぐるみパジャマを作って着せたし。
「うちの記憶が正しかったら、寝る前はなにも着てなかったはずなんすよね……」
「意外と似合ってて驚いたよ」
「全然嬉しくねぇっす! なんすか、あれ!? 無駄にクオリティの高い犬の着ぐるみパジャマとか!! なんか、うちの感情にリンクして尻尾が動いて気持ち悪かったっす!!」
「あー、あれ。すごいでしょ? ジグが糸の色によって、特色が変化するって教えてくれたから、試してみたんだ」
「要らなかったっす!! そのせいで今朝からずっと恥ずかしかったんすからね!!」
明らかに恥ずかしそうに、顔を赤くし、僕の胸ぐらをつかみながら、ユサユサと振るミッテルトに、つい、からかうように笑ってしまう。
「ほら、赤面するミッテルトが面白かったから、つい……ね?」
「『つい……ね?』じゃないっすよ!! ていうか、それを言うなら、『かわいかった』の方が好感度上がるってもんっすよ!!」
「はいはい。それより、早く出掛けようよ。せっかくのいい天気が台無しだよ?」
「流すんすか!? わりと男子的に重要な情報言ったのに、流すんすか!?」
「どうでもいいから。僕だってミッテルトの服を毎日作るのは面倒なんだから」
「そうっすか。それより、なんか、デートっぽくない格好っすよね……これ」
そういわれ、僕はミッテルトの格好をちゃんと見てみる。
僕が作ったとはいえ、味気のない、まるで部屋着と言わんばかりのシャツとジーパン。女の子視点だと、ちゃんと容姿が整っていてはじめて『おしゃれ』として認識できるような格好。
少なくとも、異性とこれから買い物に行こうと言う少女の格好ではない。そう言いたいのだろう。
なら、僕の答えはこうだ。
「別にミッテルトと僕の着替え買いにいくだけなんだし、気にしなくてもよくない?」
「そんなんだから、海樹はモテないんすよーだっ!」
「もしかして、そんな格好でもかわいいねって言ってほしかったの?」
「気づいても口にするもんじゃねえっす」
ミッテルトは僕を軽く蹴り、バランスが崩れたところで、右腕をつかんで、ひっぱると、両手で抱え込む。意図的なのか、胸に当たるように抱えるミッテルトに疑問を抱いていると、不意に僕の顔を覗き込んできた。
「どうっすか、かわいい女子の胸の感触は?」
「別になんとも? それより、歩きにくいんだけど」
「そこは男の甲斐性ってやつっすよ」
「わかった。それじゃ、離れて」
「なーんか、冷たくないっすか? この前あったときは、すごいテンションでつれ回したくせに」
「あのときは凄い興奮してから」
「あー、変なアドレナリンが出てたんすね。まあ、腕を組むのは、歩きにくいみたいなんで、手を握る程度にしといてやるっす」
ミッテルトは僕の手を解放すると、指を絡ませるように、僕の手を握った。
「うーん、やっぱり、違和感が凄いっす。やっぱり腕組まないっすか?」
「歩きにくいからやだ」
「邪魔にならないように組むのは?」
「腕を組まれる時点で歩きにくくなるから、手を握るところまで」
「けちっすね。まあ、いいっすけど」
と言いつつ頬を緩めているミッテルトをからかいつつ、僕らは、デパートへと繰り出していった。