糸使いの高校生活   作:やまたむ

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第20話

 姫島先輩とのいざこざから数日。僕は夜になりミッテルトが寝静まったのを確認し、神器の中へ意識を向けた。

 そこには、戦車の駒の中で仲良さそうに、チェスをするジグと兎尾姉ちゃんがいた。

 

「おや、海樹くん。もうそんな時間になりましたか」

「はい。それで、ホーエンハイムさん。僕の肉体とか魂とかの状態ってどんな感じなんですか?」

「堕天使の監視という名目上の療養ですからね。それでは、少しこちらに近づいてもらってもいいでしょうか?」

「はーい」

 

 僕が戦車の駒に近づいて、適当な場所に腰を下ろすと、ホーエンハイムさんは目に何らかの魔方陣を展開する。

 その魔方陣を通じ、ジーッと僕を観察したあと、その魔方陣を解いた。

 

「はい。もういいですよ」

「それで、どうでした?」

「体自体はもう万全です。生命力に関しても、悪魔に転生したので、十分に回復していました。今後、妖仙化を行っても問題ないとは思いますよ」

 

 おおー、つまり、今まで消費した寿命が完全に回復して、妖仙化使い放題ってことかぁ……おぉー!! 

 そんな感慨に浸ろうとしていると、兎飛姉ちゃんから、横やりが入る。

 

「待って、妖仙化については、あたしは反対。まだ、海樹くんの器にあってないもの」

「そういえば、その問題もありましたね……」

「器?」

『んなの決まってんだろ。宿主の肉体の容量、気の許容量、妖力の許容量、全部が不足してんだ』

「うん、ちょっとよくわかんない」

 

 僕がそう言うと、兎尾姉ちゃんは「うーん」と考える。

 

「えっと、つまり、海樹くん自身の力を蓄える容量を十とすると、妖仙化に必要な力は二十で、余剰分は海樹くんに跳ね返って内臓とかにダメージを与えちゃっうって感じ」

「うん。用は体がもたないってこと?」

「はい。そう言うことです。ちなみに、今までの妖仙化は、寿命というリソースを使って補っていましたが、どういうわけか、悪魔に転生してから、寿命のリソースは使えなくなりました」

「なんで!?」

「魔力の存在です。あなた本来が持っている、人と妖怪と仙人の力とは別の悪魔の力が宿った結果、元々の許容量以上のリソースは魔力で補えるようになったということです」

 

 ほうほう、つまりリスクが減った……と? 

 

「じゃあ、妖仙化しても問題ないんじゃ?」

「さっきもいったけど、海樹くん自身の容量を越える負荷が妖仙化には必要になる。それは、海樹くんが悪魔になったからって変わらないの。消費しているところの大半が魔力に置き換わるだけ。反動を軽減できるとはいえ、体へのダメージがあることに代わりはないの」

「リスクそのものは変わってないんだ……」

「正しくは、リスクをより実感しやすくなったですね」

 

 なるほど……あれ? じゃあ、もしかして、僕、その『許容量』っていうのが増えるまでの間、仙術も妖術も使えないってこと? 

 あのー、それってものすごく、僕にとって不利益しかない様な気がするんですが……? 

 

『かっはっはっ。そんな気にするような話でもねぇぜ、宿主。そもそも、宿主が『妖仙化』なんか頼らねぇでも、仙術も妖術もついでに神器も扱えれりゃ万事解決なんだしよ。あれは、あくまでも出力をあげるためのもんだしな』

「あ、確かに」

『それによ。宿主はもう悪魔なんだ。わざわざ、リスクの高い方を選ぶ必要なんざねぇだろ? 普通に魔力の扱いになれりゃ、妖術とか仙術とか頼る必要は薄くなってくもんじゃねぇか?』

 

 ──…………

 

 ジグがまともなこといってる!? 

 え? あれ? 僕おかしくなっちゃったのかな? ジグの幻覚でも見ちゃってる? 

 

「ねぇ、僕の聞き間違い? なんか、ジグがまともに見えるんだけど?」

『おい、せっかくのアドバイスにその反応はねぇだろ宿主よぉ』

「あはは、冗談だよ、ジョーダン。にしても、ジグがまともなアドバイスするのって珍しいよね?」

『ま、宿主も本格的に『異形』になった訳だしな。『異形側』の存在としてのアドバイスっつうやつだ』

「つまりデレ期にはいったってことね」

「みたいだね」

「みたいですね」

『ぶち回すぞ』

 

 おー、こわいこわい。けど、ジグのいう通り、よくよく考えれば、無理してジグたちから供給されるより、自分にある力を引き出した方がいいのは間違いない。

 

「とりあえず、自分できることをまとめた方がいいのかな?」

「そうですね。海樹くん自身が扱えるものは、魔力と神器だけじゃないですから」

 

 ホーエンハイムさんからの後押しがあり、なんとなく、できることをリストアップしていく。

 えーっと、とりあえず……

 

「軽い仙術と妖術。それと、糸の精製……くらい?」

「合成糸は基本ジグか私がやっていましたから、修行次第では、海樹くんもできるはずですよ」

「化学繊維系は問題ないんだけどなぁ……あと、一応使い方はわからないけど、魔力もこの中に入る感じかな?」

「えぇ。おそらく、妖力と運用は変わらないと思うので、基本使いやすい方で修行したらいいかと」

「はーい。それじゃ、僕は戻るね」

 

 僕はそういって、神器の外へと出ていく。

 目を覚まし、立ち上がり、お風呂へと向かおうとして、机の上になにか、紙切れがあることに気づいた。

 

「これは……えーっと」

 

 平仮名だけで書かれている文章に読みにくさを感じるが、ミッテルトの字だとわかる。

 

「『用があるんで、出掛けるっす。明日の朝には帰るっすから、ちゃんと寝ておくっすよ?』ふーん。へー」

 

 僕は、腸が煮えくり返りそうな感情を覚える。うん、何て言うんだろ。むしゃくしゃする? って感じだ。

 寝てるのを確認して神器に意識を落としている間に、脱走されて、帰ってくるからお前は寝とけと言われた。うん。今日なにしているのか調査がてら、ミッテルト探しにいこう。

 仙術の修行にもちょうどいいし、遭遇したら一発で捕まえられるように、神器も用意しておこう。

 

 僕は大きく行きを吸い込み、息を吐く。すると、頬に四対蜘蛛の足の様なものができるような感覚があった。

 一瞬、ゾワッとしたあと、周囲から気持ち悪い『気』を回収し始める。

 この気持ち悪さにも、最近は慣れてきて暴走するような衝動も特にない。

 いや、ない訳じゃないけど、抑えるときのコツみたいなものを掴んだような気がする。

 

 その感覚を忘れないうちに、ミッテルトの気を探ってみるも、そもそも、ミッテルトの気がどんなものなのか、わからない。

 いや、仙術を使って治療はしたことはあったみたいだけど、実感がない。よくも悪くも僕にとってミッテルトの気は神器のなかで見た程度でしかない。実際に感じたことがないんだから、『あー、ここにいるのね』とはならないのであーる。

 

 それを踏まえた上で、気を探ると、距離は少し離れているが、教会に大量の気を感じた。

 

「とりあえず、いってみよう」

 

 僕は糸で円盤を作り出し、それに乗ると、空へと飛び上がり、夜の町並みを一望する。

 とはいえ、何も印象には残らないのは、見慣れた光景だからと結論付けた。

 そんな、見慣れた夜景を流しながら教会へ向かうと、姫島式の結界を感知する。

 

「これ……姫島の……ってことは、もしかして、なんかやってる?」

 

 僕は飛行速度を早め、結界に近づき、軽く解析してみる。

 最近まで、姫島の術式……というより、五大宗家の術式の類いを退け続けたから、何となくわかると思う。

 じっと、結界を観察すること五分、何もわからなかった。

 

「避けるだけだったから、知識はつかないよね。うん」

 

 僕は結局、糸で棒を作り、結界に叩きつける。

 すると、重い金属音と共に弾かれ、今までの経験したどの結界より硬いことがわかった。

 今まではこれで一発バキン!! って感じで壊れてたんだけどなぁ……。

 うーん、となると……

 

「釘をつくってー、あとはこれを結界を囲むようにぶん投げる!!」

 

 四つの釘を正方形になるように投げ、結界の頂点に移動する。釘が地面に刺さるのを確認すると、糸を四つの釘に伸ばす。

 釘から糸を伝って流れてくる地脈のエネルギーを受け取り、棒を垂直に結界に向けて落下した。

 すると、今度は簡単に結界は壊れ、五人の気を感知することができた。

 

「って、なんか、嫌な予感!!」

 

 僕は荒れ狂うオーラの波動を感じ、円盤を作り直し、現場へと向かう。

 すると、ミッテルトと堕天使二人が、リアス先輩に向かって光の槍を投げ、攻撃しているのが見えた。

 それと同時、リアス先輩も赤と黒で構成された力を放つ。

 

「やっぱやばそう!!」

 

 僕はとっさに巨岩を作り出し、その二つの間に放り投げる。

 槍となんかすごい力の二つのエネルギーを受け、あっさり粉々に吹き飛んでしまったが、双方へ被害はなく、無事に終わった。

 さすがに、自身の構築した結界を壊されたことに気づいていた姫島先輩は、僕の方を睨み付け、手のひらの上で、バチバチと電気を走らせている。

 姫島なのに、電気? どゆこと? まあ、そんなこと気にしている暇はないんだけどさ……。

 

「朱乃、わかってるでしょ?」

「ですが、部長」

「あなたは、あの三人がイッセーたちの邪魔をしないように見張ってて。結界が壊された以上、彼女たちはいつでも増援に駆けつけることができる。私は、海樹に尋ねないといけないことがあるから」

 

 リアス先輩にそういわれ、渋々といった様子で、ミッテルトたちの行動を制限するように、姫島先輩は手のひらで弄んでいた電気を放つ。

 

 突然のことだったせいか、防御が間に合わず、その電気をモロにくらってしまっていた。

 三人の体は、痺れているのか、まともに行動が起こせるような様子には見えない。

 そんな、三人を流し見て、僕の方に明らかな敵意をむき出しにし、見据えるリアス先輩に、冷や汗をかいてしまう。

 

「それで、海樹。どういうつもりかしら?」

「どういうつもり、とは?」

「わかってて聞いてるのかしら? 彼女たちを助けた理由よ。内容次第で、あなたを『はぐれ悪魔』として認定しないといけなくなるわ」

「その『はぐれ悪魔』の意味がよくわかりませんけど、何となくやばそうだと感じたから。ただ、それだけです」

「そう。あくまで、あなたはどちらかの敵につくつもりで妨害した訳じゃない。そういうのね?」

「少なくとも双方の攻撃を止めるために放った巨岩ですからね。……とはいえ、僕としては、『友達』に向けられた殺意を見過ごすことなんてできませんけど」

 

 僕はリアス先輩、姫島先輩に向けて、話している間に仕込んでいた縄を四方から放った。

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