糸使いの高校生活   作:やまたむ

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第7話

 一誠はまともに『戦闘』を行ったことがない。初めてはぐれ悪魔と相対したときは、見るだけだった。

 だが、今回のレーティングゲームに向けて鍛え上げられた回避能力、それにより大体の致命傷は避けることができていた。

 

『いいですか? 一誠先輩。防御力って言うのは、なにも攻撃を直接受けて耐えられる固さを意味してるわけじゃないんです』

 

 嫌というほど後輩から叩き込まれた糸の斬撃の回避。圧倒的物量から来る攻撃への相殺。

 

「海樹の糸の量に比べたら……これくらいっ!! ドラゴンショット!」

『Boost!』

 

 米粒程度の魔力。それを倍加した拳で殴る。瞬時に魔力は校舎を包み込む程の威力の弾丸へと変貌し、ライザーから放たれた炎の魔力を飲み込む。

 一誠の放った魔力の勢いは、衰えることなくライザーを襲う。

 一瞬で吹き飛ぶ上半身。だが、フェニックスの『不死』はその程度の攻撃で、破られることはなかった。

 

「なるほど、気力、体力双方回復したのか……本来なら今の5回の倍加で肉体が耐えられず、力を失っていたはず……なるほど、土蜘蛛め……ここまで考えて……」

『Boost! Boost!』

 

 二度、音声が響く。

 

 ──ドゴォォォォォオオオオオン! 

 

 次の瞬間、ライザーの顔の横を緋色の弾丸が通り過ぎるとそんな爆音がした。ちらりとその方向を見ると僅かだが空間のブレが発生している。

 

「なるほど。ただ回復された訳じゃなく、補強もされてるのか……今の一撃だけでも最上級悪魔クラスはある。だが、もう貴様もそれが限界だろう! そう何度も無理に強化された力、そうそう保つまい!」

「あぁ、かもな」

『Boost! Boost! Boost!』

「でも、だからといって、それが負ける理由にはならないんだよ!」

『Boost! Boost! Boost! Boost!』

 

 一誠の筋がミシミシと音を立てる。10回にわたる倍加。普通なら力に体が追いつかず、機能を停止するはずの状況。だが、それでも、一誠は止まらない。

 

「ここで負けたら、部長はアンタと結婚することになるんだろ……」

「そうだ。だが、これも純血悪魔の未来のためだ。必要なことだ」

「だからなんだ! その程度の理由で、俺が部長を諦めると思うなよ! 女の願い1つ叶えられないハーレム王なんてもん、俺の理想じゃねぇ!」

 

 一誠は一瞬のうちにライザーとの間合いを詰める。あまりのスピードにライザーは反応出来ず1歩後ずさる。

 偶然にも、その1歩で一誠の拳はライザーに当たることはなく、空振りに終わった。

 一息つける。そう思った矢先、ライザーを縛るような『なにか』が発せられる。

 

(これは……威圧? いや、違う。糸か!)

「海樹が言ってたぜ」

 

 ポツリと一誠が呟き始める。

 

「戦闘ってのは一瞬の隙が命取りだって。特に逃走となると一切の隙を見せるなってな」

 

 気迫、一誠から発されるドラゴンのオーラ。それに加えて感じ取れるほどの『土蜘蛛』の気配。

 あぁ、なるほど、おじい様が言っていたのはこのことかと、ライザーはようやく理解した。

 

「やってくれたな、土蜘蛛。だが、俺はライザー・フェニックス。純血の上級悪魔として、貴様を倒す! 兵藤一誠!! 丹芽海樹!!」

 

 ライザーは退くことを止めた。たった一歩の踏み込み。そして拳に自身のオーラを纏わせ、フェニックス家の炎を生み出す。

 泥臭い。そんな戦いをせざるを得なくなった。

 冷静になればここを完全に避け切り、炎を一誠の腹目掛けて放てばいい話。だが、それが出来ない。土蜘蛛の威圧という拘束。それがライザーから『回避』という選択肢を奪ったのだ。

 

「仲間で勝つ。と言うのはこういうことを言うのだな。土蜘蛛よ」

 

 ライザーもポツリと零す。一誠の拳を顔に受け、また、ライザーの拳も一誠の顔に入っている。

 より深く入ったのはライザーの方だ。ただ、ひとつ。違う点があるとするならば、一誠が既に二十回を超える倍加をしていたこと。

 その打撃は、浅く入ったとしても、致命傷にならざるを得ない。

 ライザーの顔は鮮血を散らし、吹き飛んだ。

 

「ぐっ……あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 

 ライザーの顔はすぐに炎を灯し、回復する。だが、一誠の体は、過度な倍化により全身の骨という骨が粉砕され、内蔵にも相応の負荷がかかっていた。

 

「イッセー!」

「イッセーさん!」

 

 声が聞こえる。アーシアとリアスの声だ。まだだ。まだ終わっていない。

 一誠はボロボロの体を半ば無理やり動かし、死力を尽くしたもののその闘志は未だ尽きず、小さな魔力の塊が生み出される。

 

『Boost!!』

「…………わりだ

 

 力無く漏れ出た一言。それとは裏腹に高威力の魔力の奔流。それにライザーは撃たれ、

 

『ライザー・フェニックス様。行動不能(リタイア)

 

 グレイフィアの声が響き渡った。

 その一方で一誠は地面に倒れた。受身をとる余裕なんてあるはずもない。そこに、アーシアとリアスは駆け寄った。

 

「イッセーさん。起きてください。勝ったんですよ……」

「そうよ。イッセー。目を覚まして……」

 

 アーシアの神器の光に包まれるも、一誠の閉じた瞼が開く気配はしない。ゲームが終わったことで三人とも転移の光に包まれた。

 

『この度のゲーム、リアス・グレモリー様の勝利にございます』

 

 

※※※

 

 

 ……知らない……天井だ。まあ、だいたい知らない天井だけど、ここが病院だということはなんとなくわかる。

 

「皮衣あっても病院送りって……」

『第二形態の外殻も貫通してくるくらいだからな。仙術の水と外殻、皮衣があれば余裕ができるってとこだな。今の宿主だと』

「うへぇ……練度不足ゥ……」

『しゃーねぇだろうよ。宿主自体才能なんてミソッカスもねぇんだからよ』

「……否定できない僕が辛い……」

『カッハハ。まあ、おめぇにゃ一応仙術の才能と糸で物作るって才能はあんだ。サポートに徹すりゃいい。宿主もわかってんだろ?』

「やっぱり、防御方面伸ばしていく方がいいのかなぁ? リアス先輩の作戦って割と真正面から正々堂々って感じだったし」

『ま、それが手っ取り早いわな』

 

 だよねぇ。うん、となるとやっぱり魔力と気、妖力に駒の特性、あとホーエンハイムさんの魔法と……

 

「ねぇ、ジグ」

『んだ? 宿主』

「もしかして僕ってさ。ちゃんと鍛えたらなんでもできるようになるんじゃ?」

『否定はしねぇよ。魔法も仙術も妖術もおめぇの資質で補えるもんだ。扱えるかどうかは別だがな』

「それはわかってるよ。だけどさ。とりあえず、一個一個、確実に身にしていくってなるとさ、効率がいいのってやっぱり仙術?」

『仙術だな。俺もできねぇこたぁねぇが、気のコントロールは宿主自身でやんねぇと、無駄に寿命を縮める事になるからよ』

 

 そうだよねぇ……寿命も人間だった頃に比べてほぼ永遠になったとはいえ、妖仙化のリスクがなくなったわけじゃない。

 だから、魔力とか自前の妖力とかで何とかしようと思ったんだけど、中々上手く使いこなせない。

 そんな時、なにやらドタバタと病院内が騒がしくなったのを感じる。

 

「この気は、リアス先輩とアーシア先輩? ……イッセー先輩も居る……けど意識はないのかな?」

『みてぇだな』

「てことは負けかぁ」

『あそこまで補助輪つけて戦闘不能(リタイア)ってことだかんな。よっぽどの事がなきゃ負けだろ』

 

 ……兎尾姉ちゃんの仙術で、アーシア先輩のカバーしきれない気力の回復と肉体の強度を上昇して倍加の回数上限増やしたから、フェニックスの不死性なら突破可能のはずだったんだけど、足りなかったってこと……かなぁ。

 

「やっぱり、僕が頑張った方が勝てたのかな?」

『わかんねぇよ。んなこたぁ。必要なのは、結果を受け止めて前に進むことだろ。もしもの話なんてするだけ無駄だっての』

「それもそっか。それじゃあ、ジグ」

『んだ?』

「妖仙化よろしく」

『てめぇでやれ』

「魔力使い果たしたんだし、ちょっとくらいいいじゃんかー!」

『どうせてめぇの体力回復のために気が欲しいだけだろうが! てめぇでやれ! これも鍛錬だっての』

 

 ちぇっ、仕方ないなぁ。いつものように気を集め、全身にめぐらせる。

 肉体の強化に加え、自己治癒能力の上昇の恩恵により、ライザーさんの炎による全身火傷もものの数秒で完治した。

 

「そういえば、僕が倒した女の子。えっと、レイヴェルさんだ! ってどこにいるのかな? 病院内の気から感知できないんだけど」

『対戦相手だった奴と同じ病院に入れねぇんだろうよ。動けなくなった後に奇襲とかされる訳にゃぁいかねぇんだからよ』

「あ、そっか。それもあるのか……」

 

 とりあえず起き上がり、ベッドから降りる。

 

「よしっ! それじゃあ、リアス先輩たちと合流だ!」

 

 リアス先輩たちの気の場所は把握出来ている。とりあえず、そこに向かおう。

 

 

※※※

 

 走ってイッセー先輩たちの気の元にたどり着くと、病院というより、シェルターのような場所だった。

 病院関係者の人から立ち入り禁止みたいなこと言われたけど、グレモリーの眷属だとわかって貰えたみたいですぐに通して貰えた。

 中に入ると憔悴したようなリアス先輩。アーシア先輩が近くにいないのは少し気になる。

 それに加えて、魔法陣から伸びる鎖により拘束されている赤い龍を模したような鎧の人。気から感じる限りイッセー先輩なのは間違いないけど、どこか様子がおかしい。

 

「リアス先輩」

「カイキ……? カイキ! イッセーが、イッセーが……!!」

「落ち着いてください。とりあえず、何があったんですか?」

 

 縋るように僕の病院服を掴むリアス先輩の気を落ち着かせ、尋ねる。

 

「ライザーを倒したあと、イッセーも気絶して……それからオカルト研究部の部室に戻ったあとに急にイッセーの様子がおかしくなったの。一体イッセーの身に何が起きているの?」

 

 ……特にイッセー先輩の気が乱れているような様子は無い。

 

『そういう事か。気が乱れてねぇのは意識があるからだと思ってたが、こりゃあれだな。兎尾の野郎のが暴走してやがる。元々仙術が原因で死んだようなやつだ。宿主みてぇに気を最適化できる訳じゃぁねぇ。意識自体はあの変態のもんだから、神器ん中にいるあの女の気までは気づけなかったぜ』

 

 ……てことはつまり……

 

「イッセー先輩から兎尾姉ちゃん回収できたら終了ってこと?」

『そういうこったな。やれやれ、死んでも面倒な女だわ。あいつぁ』

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