MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
元々メタルギアでワルプルギスを倒したかった話。オリ主の予定はなかった。しかし、時系列的に照らし合わせようとした時にどうしてもスネークを動かせる余裕がない。
なので妥協した。
1986.12.01
時刻は夜。まるで世の中のものすべてを子供の落書きに変えてしまったかのような世界で、1人の少女は立っていた。
目の前には、決して美しいとは言えない何か。周囲には、持ち手の先が異様に尖った箒のような物が多数浮かんでいる。
「さぁ、君の願いは決まったかい?」
いつからいたのだろう。少女の肩に乗った白い猫のような生物が、少女に問いかける。
「うん。私の願いはねーーー」
その先の言葉に白い生物は頷いた。そして、少女を中心にして白い光が溢れる。
「おめでとう。君の願いは、エントロピーを凌駕した。」
☆☆☆☆
2011.09.16
窓から入る日の光に照らされ、目が覚めた。
気怠げにソファーから身を起こせば、飲みかけの水が入ったコップが、テーブルで結露して染みを作っている。
水の入ったコップを手に取り、キッチンへ向かう。それをそのままシンクに置いて新しいコップを手に取った。
蛇口から水を出し、コップに注いだそれを飲む。少しだけ、目が覚めた。
残った水を持ったままソファーに向かい、テーブルに置いてあった携帯電話のライトが点滅しているのを確認する。どうやら、誰かから連絡があったらしい。
着信を確認したところ、履歴は2件。1人は昨日の夜に連絡してきたらしい。もう1人は、午前3時と非常識な時間だ。
小さく息を吐いた後、非常識な人物に連絡を入れた。
何度かのコール音の後、電話が繋がった。眠たげな声が聞こえるあたり、向こうもイイ時間らしい。
「おはよう、邪魔したか?」
『いや、いい目覚ましになったよ。ありがとう。おはようハナビ。元気してたかい?』
何処となく気弱さを連想させる男性の遠回しなクレームに、少年は内心で仕返しが出来たと眉唾を下げる。滅多に連絡してこないレアな人物との会話は、中々に楽しい物があるのは事実だ。
「それなり、だな。アンタの約束通り、まだ酒もタバコも手をつけちゃいないよ。」
『そいつは良かった。バレると、怒られるのはきっと僕だしね。』
「一体何処の誰が文句を言うのか、そろそろ教えてもらいたいもんだ。」
『それは秘密さ。なんてったって、僕は【足長おじさん】だからね。』
聞くな。
そう言われてしまえば、此方としては余計に気になるところだが、金銭の援助を受けている身としては少年は彼に逆らえない。
どうせ後数年もすればこちらから伺うつもりだ。その時にたっぷり聞いてやろう。
「それで?態々遠く離れた何処かから連絡してきたんだ。日本の時差も計算せずにな。きっと御大層な要件なんだろう?」
『参ったな。そんな皮肉の聞いたセリフ何処で習ったんだい?』
「もちろん。素敵な【足長おじさん】からさ。」
相手の顔すら見た事はないが、どうやら苦笑いでもしているのだろう。口で勝てた記憶はないので、これが初勝利になる。今日は良い日になりそうだ。
そんな事を考えていると、【足長おじさん】は少し悩んでいるかのように黙ってしまう。どうにもこういう空気は苦手だ。そんな少年の心境を察したのか、慌てたように声が聞こえた。
『あぁ、すまない…少し取り込んでいてね。』
「構わないが…良くない話か?」
『いや、まぁ…ね。君の気にする事じゃないよ。ただ…当分は連絡できそうにない。』
「なるほど。まぁ、金ならアンタが送ってくれた分がある。贅沢さえしなけりゃ、生きていけるさ。」
『悪いね、ハナビ。』
「そう思うなら、アンタと母さんがどういった繋がりなのか教えてくれよ。」
『それは秘密さ。まだ、それは教えられない。』
「まだ、ね…。全く、この家の地下の扉といい、アンタといい…うちの母親の謎が深まるばかりだな。」
この後も軽く探りを入れてみたが、のらりくらりと誤魔化されてしまい、楽しい会話は終了した。電話が切れる直前、誰かを呼ぶような低い声が聞こえたが、はてさて…。
そこそこ長くまで話していたのか、携帯電話の時刻表示は7時半を過ぎていた。せめて顔くらいは洗おうと洗面所に向かう。
濡れた顔をタオルで拭い、鏡を見る。
茶色い髪は程よい長さに切り揃えられ、日本人にしては少し白い肌に、青灰色の瞳が目立つ。
身長は165センチあり、14歳の日本の少年としてはそこそこの高さだ。
しかし、彼はその姿を鏡で見るたびに妙な不快感を覚える。
幼い頃、一緒にいた母とは何一つ一致しない特徴。その度に、彼は母の言葉を思い出す。
『アナタは間違いなく私の息子よ。だって、そっくりだもの。』
そういって笑顔になる母に、彼は安堵したのかどうか覚えていない。既にいなくなった人を心の支えにするのは正解なのか。そんな哲学的なことばかりが頭に浮かぶ。
軽く頭を振り、キッチンへと向かった。トースターに食パンを2枚入れ、ガスコンロに火を付けてフライパンを温める。軽く油を引き、ベーコンを乗せた。香ばしい匂いのそれに卵を破る。塩胡椒を軽く振って、蓋をのせて蒸し焼きにして数分。安っぽいトースターの音が鳴り、それを合図に火を止める。皿の上に乗せたベーコンエッグの匂いに上出来だと褒めた。
食パン、ベーコンエッグをテーブルに置く。テレビをつけ、特に中身のない情報番組をBGMに腹を満たす。ベーコンエッグをコーヒーで流し込み、一息。
制服に着替える。適度に身嗜みを整え、カバンの中身を確認して背負った。
朝のルーティンをこなせば、後は学生としての本分を全うするだけなのである。
「行ってきます。」
玄関の靴箱の上に立て掛けられた写真。そこで笑う赤髪の女性にそう告げると、彼は外へと歩き出した。
☆☆☆☆
2011.09.25
「おはよ、不良少年。今日も不機嫌そうだねぇ。」
「全くだ。今日も青いバカに会わないといけないからな。」
教室で腕を枕に目を閉じていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
この声の主とは幼い頃からの付き合いである。親友といっても過言ではないかもしれない。そんなわけで、彼女との会話は楽だ。
今もなんだとー?と凄むバカを、2つの声が諫める。顔を上げれば、案の定いつもの2人がいる。
1人は志筑仁美。
良いとこのお嬢様ではあるがそれを鼻にかけることもなく、物腰の柔らかな少女だ。しかし、どうにも世間知らず故か天然な所があり、たまに妙な事を口走る事がある。
もう1人は鹿目まどか。
以前とんでもなく世話になり、頭の上がらない少女だ。以前は気弱な奴であったが、ここぞという時は譲らない頑固さが垣間見えた。今は自信でもついたのか明るくはなったが、愛も変わらず小動物のような印象は変わらない。
「おはよう御座います、祭さん。昨日は良く眠れませんでしたの?」
「おはよう、花火君。寝不足は良くないよ?」
「おはよう志筑、鹿目。いや、眠いのはいつもの事だ。今日は、まぁアレだ。朝に電話があってな。」
「あー、あの【足長おじさん】って奴?それであたしの電話無視したんだー。ふーん。」
「そういえばもう一件電話があったな。アレ、お前だったのか。」
「気にも留めてない…だと…っ!?」
青いのが赤くなって煙を上げるが、それを若草色とピンク色が納めた。何も変わらない。いつも通りの毎日だ。たまに刺激が欲しいと思うのは、夢見がちな時期だからだろうか?そんな無い物ねだりに意味はないと花火は結論付けた。
文字通り姦しい3人の話を聞き流し、そろそろ我らの担任が来る頃だと考える。今日はどんな難題が飛び交うのだろうか。恐らく『お弁当に振りかけは必要か否か』ではないだろうか?まぁ、どうせ答えるのは自分ではない。
「目玉焼きは半熟ですか、かた焼きですか?ハイッ、中沢君!」
「どっちでもいいんじゃないですかね?」
中沢君逆光源氏計画RTAが進行されている。どうやら、今日も我らの担任である早乙女和子は振られたらしい。見てくれは悪くないが、妙な拘りと男を見る目の無さにより、交際人数が一つカウントされた。これは、恋多き女性というべきだろうか。
青いバカワイイ代表の美樹さやかが、「またダメだったか。」と締め括る。中学生に呆れ笑いされている彼女が不憫でならないが、確か鹿目まどかの母と同年代だった事を思い出す。なるほど、焦りは人をピエロにするらしい。焦ってないピエロは大体サイコパスだ。映画で見た。
「今日は転校生を紹介します。」
彼女も大概それよりの思考かもしれない。
すっかり忘れられたのが悲しかったのか、微妙なタイミングで呼ばれて身体がついていかないのか、とにかく妙に機械を連想させる程のぎこちない動きで1人の少女が教室へと入ってくる。
担任の隣まで来た少女に視線が集中する。慣れてないのだろう。口を開く度に顔を赤くして、また視線を下げた。長い黒髪を三つ編みにして、メガネをかけた人見知りな少女。まさにテンプレ通りの文学少女だ。そこまで考えて、はて?と花火の頭に疑問が湧いた。
会ったことのない人間にそんなイメージを決め付けるような性格だっただろうか?
しかし、自分の中のイメージはそれが定着している。もしかして、何処かで会ったのか?
結局、緊張のし過ぎで喋れない彼女に担任は助け船を出す事にしたようだ。そもそも、彼女の愚痴のせいでタイミングを逃したのが始まりかもしれないので、それくらいのフォローは必要だろう。
「彼女は暁美ほむらさん。少し前まで心臓の病気で入院していました。退院したばかりでまだ体力も少ないでしょうから、彼女が困っていたら皆さんも助けてあげてくださいね。」
「よ、よろしくっ、お願いひぃましゅ。」
噛みよった。
妙な空気が教室内を満たす。トマトに髪とメガネを付けたような状態である元凶少女には悪いが、微笑ましい目で見られるのは仕方ないと思って欲しい。
担任の説明だと、どうやら彼女はつい先日まで入院していたようだ。人馴れしていないのはそのせいなのかもしれない。
そんなわけで、毎日時間内に薬を飲まなければならないらしい。そこで立ち上がったのは、保健委員を務める鹿目まどかだ。
「わたし、鹿目まどか。まどかって呼んでっ」
「よ、よろしくお願いします。」
まどかが彼女とお話ししているのを見て、花火は暁美ほむらへの不安を解消した。まどかは面倒見のいい少女だ。それに、人に心を開かせるのも上手い。人誑しな彼女に絡まれたのなら、今日中に仲良くなれるだろう。
「どうしたのよ花火?もしかして、転校生に惚れたかぁ〜?」
「これから先お前がテストで赤点を取って学校に居残りさせられる事になっても、俺は手を差し伸べないだろう。」
「わーっ!?うそ、嘘だってぇ〜。ちょっとからかっただけじゃないですかぁ〜。」
全くこのお喋りめ、と花火はため息を一つ。長い付き合いのためか、さやかの弱点など多数知っている。勉強以外なら、昔やった悪戯とか、もう1人の親友の事とか。後、可愛いだのと容姿を褒めまくってやれば簡単にしどろもどろになる。実に打たれ弱い奴である。
☆☆☆☆
2011.09.28
「あ゛〜。もう無理ぃぃ。」
放課後のファーストフード店。美樹さやかは眼前に広がる数字の羅列に項垂れていた。向かいの席には、すでに食べ終えたハンバーガーの包みを綺麗に畳みながら、呆れた目をしている祭花火がいる。
中学生になった辺りから定期的に行われるこの勉強会。現在はさやかと2人だけだが、元はもう1人を入れて3人で行われていた。
理由は2つ。1つは、さやかともう1人、上条恭介の成績の悪さである。元々よろしくないさやかは当然として、中学に上がり勉強のレベルが上がったため、だんだんと遅れが目立つ恭介も参加する事となった。彼の場合、大好きなヴァイオリンにのめり込みすぎたのが原因だろう。本人も自覚があったのか、学ぶ姿勢だけは崩さなかった。
「数学なんて絶対社会に出たら使わないじゃんかぁ。」
「それをいえば、歴史も理科もいらんだろうに。国語だって、漢字ぐらいしか使わんだろう。ほら、手が止まってるぞ。」
「ぐぬぬぅ…っ。なんであんたはそんなに頭いいのよ。」
努力しているからだ。といっても、彼女は納得しないだろう。それに、本気で恨まれているわけでもない。この催しは、彼女にとってもプラスなはずだ。
「勉強しているからだよ。海外に行くには、それなりの知識と学歴が必要だろう。」
「…お父さんを探しに行くってやつ?」
「実際は、例の秘密主義の男にだけどな。」
既に母が亡くなって6年。【足長おじさん】との関わりもそれくらいだったと、花火は思い出す。
当時やっていたサッカーの試合後に事故に遭い、退院後に聞かされた母の死。ガタイのいい外国人が黒スーツで家に来た時は、思わず叫び声を上げそうになった。結局、その後もあげることはなかったのだが。
あの外国人は母と仕事仲間ではあるが、殆ど組んだ事がないと言っていた。息子の話も、酔っていた時にチラッと聞いただけらしい。今になって考えてみれば、それだけでも声をかけてくれるあの人物は、相当に良い人間だったのだろう。
とにかく母が死に、さやかや恭介に当たり散らし、何も食べずに引きこもり、危険だと判断して外へ食べ物を買いに行くには遅すぎて、道中で倒れてしまった。
倒れた場所に建てられた家が鹿目まどかの住居だったのだから、自分はとても運が良い。
さらに、まどかの母である詢子さんや父である知久さんの提案で、鹿目家に住まわせて貰えたのだ。いまだにあの2人には頭が上がらない。
せめて、給料のいい会社に勤めて恩返しをしなければ気が済まないというものだ。
「それに、恭介が退院してきたときに勉強を教えてやるんだろ?世話焼き女房。」
「ちょ、ちょっと!?空気読んでしんみりしてたのにそれは無いんじゃないっ?」
「あぁ、多少の刺激はやる気に繋がるからな。」
2つ目の理由がコレだ。
美樹さやかは上条恭介に惚れている。幼少期から続いている片想いは、未だに羽化する事もなく巣の中で燻っているのだ。いい加減見てられなくなったので、手っ取り早く一緒に入れる機会を作ってやったのだ。まぁ、早々に恭介が事故に巻き込まれて計画は破綻したが。なんとも間の悪い。
「後その…せ、世話焼き女房ってのやめなさいよねっ。」
「そうか。しかし、今のお前の行動を的確に表現する言葉が見つからないぞ?あぁ、アレか。『まだ』女房ではないってことか。」
顔を真っ赤にした少女が拳を握った。
「勉強」の一言でプルプルと震えて止まった。
「そ、そういうあんたとまどかはどうなのよっ!」
さやかは反撃を試みる。
付き合いの長い彼女も、彼の事をよく知っている。だからこそ、彼がまどかと仲がいいのはそういう事だろうと当たりを付けた。
そんな彼の顔色は今の自分と同じ様に赤く染まる…事はなかった。
「ん?まぁ。そうだな。あー…。」
妙に端切れが悪い。どういったらいいのか悩んでいる様だ。実際、花火はどう答えるべきか悩んでいた。
「え、何その反応?も、もしかして既にっ!?」
「付き合ってないぞ。そもそも、告白してもされてもない。」
「だったらなんで思わせぶりなのよ?」
「なんと言っていいのやら…。」
しばらく悩んだ後、漸く答えが出たのかボソボソと話し始める。
「まずだな。確かに俺は、鹿目にそういう想いを抱いていた時期があった。と言っても、すぐになくなったが。」
「は?それって、どういうことよ?」
「言ってしまえば何だが…距離が近すぎてな。今じゃ妹みたいにしか思えん。」
なんとも言えない結論だった。しかし、無理はないかもしれない。
祭花火にとって、鹿目まどかは命の恩人である。捻くれ者な傾向のある彼ではあるが、受けた恩には必ず報わねばといった長所らしい所もあるのだ。
そんなわけで、引き取られた頃は進んで役に立とうと躍起になった。そんな光景を見ていたまどかだが、最初は一緒になって手伝いをしていたものの、だんだんと落ち込む様になったのだ。
元々彼女は自虐的な人間である。その為、花火と自分を比べる事が増えた。花火は恩返しの為に手は抜かないし、そもそもが他人の家だ。妥協なんて出来るはずもなかった。
日が経つにつれ花火に対して余所余所しくなるまどかにやっと花火も気付くが、一体どうしたのだろうと言った具合だ。
ある日2人きりになった時に、まどかの態度にモヤモヤした花火は直接聞く事にした。
そこで、まどかが初めて自分の内を彼に話す。
花火君みたいに愛想よくできない。
花火君みたいにお手伝いできない。
花火君みたいに…。
最後の方は涙まじりの声ではあるが、彼女の言いたい事が何となくわかった。恐らく、自分に両親を取られたような気分なのだろう。
居場所が無くなって悲しいが、そもそもその原因を助けたのは自分だ。
そんな風に考えてしまう自分が嫌で、彼女はまた涙を流す。
花火は、この時初めて鹿目まどかという少女を見たのだ。今まで、命の恩人として神格化しすぎていたのかもしれない。
花火は、涙を流す少女の手を取る。
俺がここで頑張ってるのは、お前のためだ。
ゆっくりと、彼女に語りかける。
お前の両親はお前を愛しているし、お前の頑張りもしっかりみている。
一人ぼっちになった俺を救ってくれたのは、他ならないお前だ。
言い終えて彼女を見ると、さっき以上に泣いてしまった。まさかこんな事になると思わなかった花火に焦りが生まれる。帰ってきた知久に慌てて言い訳をしようとするも、彼は少し笑った後に。
「ありがとう、まどかをちゃんと見てくれて。」
と言って頭を撫でられてしまう。
この日はとうとう何も言えなくなってしまったと、思い出して少し笑った。
そんなわけで、まどかと彼の距離は近くなった。問題はここからである。
まどかは何かと花火に世話を焼くようになったが、その背伸びしたような行動に、花火の中で恋愛感情ではなく親愛のような何かが生まれる。
憧れの少女が精一杯頑張る度、妹を想う微笑ましい気持ちは強くなっていった。
そんな複雑な心境を言葉にするなら、『距離が近すぎる』の一言に尽きるだろう。
「そ、それはなんと。まぁ…。」
「元の家に戻っても、一人暮らしは大変だからって聞かなくてな。結果、スペアキーを渡す事になった。」
「なんですとぉっ!?」
さやかはまどかに同情した。いや、まどかが花火をどう思ってるかはわからないが、さやかからすれば、これは好きな子へのアタックでしかない。
そもそも、スペアキーなんて何でもない異性に渡すようなものだろうか?
こんなのあんまりだよ、酷すぎるよ。
上条恭介と祭花火。二人の仲が良いのは、互いにそういう事に疎いからかも知れない。
鈍感系という奴はどこでも厄介である。
☆☆☆☆
2011.10.03
目の前には見るだけで『美味い』とわかる料理が並んでいる。そして、真ん中には苺のケーキが鎮座していた。周りに刺さった蝋燭に灯った火が、暗闇を揺ら揺らと暖かく照らしている。
今日の主役であるまどかは、年頃なのか恥ずかしそうにしている。いや、実際にはもっと恥ずかしい理由があるのだが。
楽しそうに誕生日の歌を歌う家族達。
鹿目知久──父は当然だろう。このご馳走は彼の手によるものだ。
鹿目詢子──母も問題ない。この日の為に早く帰ってきてくれたのは素直に嬉しい
鹿目タツヤ──弟も普通だ。舌足らずにも一生懸命歌ってくれるのに喜ばない訳がない。
祭花火──いや、何かおかしい。
外国人の血が濃いのか日本人離れした顔立ちは、今真剣な顔で彼女を見ている。いや、正確には彼女を撮っているハンディカメラの画面をだが。
顔を赤らめながら頑張って蝋燭に息を吹きかけた。
拍手の後、電気がついて明るくなる。
知久が、ご飯の後にとのことでケーキを一度しまった。戻ってきて、みんなで手を合わせる。
「いや、ちょっとまって!?」
「どうしたまどか?何かあったか?」
挨拶も早々に酒を飲む詢子が惚けた。もちろん、ニヤニヤと笑いながら。
この母、確信犯である。
姿勢正しく綺麗に箸を持った花火は、知久の料理に舌鼓をうっていた。美味い、これが食か。
「な、なんで花火君がいるの?」
「ん?詢子さんに誘われたからだが。」
「去年は恥ずかしがってこなかったじゃん!?」
「語弊があるな。正確には、『歯(親知らず)がずれて生えてきたので痛くて行けなかった』だ。あんな状態では知久さんの料理が食えない。」
「だ、だからってこんなのあんまりだよぅ!」
いくら気心知れた仲でも、相手は同年代の異性の男の子なのだ。あまりにも恥ずかしすぎる。真っ赤な顔のまどかの抗議に、詢子は楽しそうだ。
「いいじゃないか、まどか。花火もまどかを祝いたかったんだよ。」
「そーそー!あたしが『まどかの恥ずかしがる可愛い姿をビデオで撮ろう』って誘ったら即答してくれたし。」
「ママっ!?」
優しい父のフォローを消し飛ばすような母の種明かし。ちなみに、花火の心境としては『鹿目には悪いが、詢子さんには逆らえない』である。鹿目家の大黒柱は決して伊達ではないのだ。
味方がいないことを悟ったまどかはたつやに抱きついた。幼児は無邪気な笑顔でまどかの頭をポンポンと撫でる。あぁ、すっごく癒される。もちろん、そんな光景も花火のカメラは残さず捉えていることをまどかは忘れている。
結局、まどかは若干やけ食いをはじめ、花火は知久と詢子にお酌をし、たつやはマイペースにトマトを口に運んだ。
知久がケーキを切り分けて戻ってきてから、花火は椅子に項垂れて座る鹿目に近づいた。
「鹿目、少しいいか?」
「ふぇ?う、うん。」
いつもより真剣な花火の声にたじろぐまどか。先程までの悪ノリのせいで、今度は何をされるのかと戦々恐々である。しかし、花火は一度玄関の方へ歩いていってしまう。困惑するまどかに、詢子は声をかけた。
「いいから、座ってまってな。」
「えっと…えぇ?」
優しい笑みの母からの言葉通り、緊張しながらも座ったまま待つまどか。少しして、花火が小さな紙袋をもってやってきた。
その中から黒い正方形の箱が出てくる。サイズでいえば、りんごより少し大きめといったところだろうか。そんな微妙な感想は、次の花火の言葉で吹き飛んだ。
「誕生日、おめでとう。」
短く告げられた言葉にあっ、と声が漏れた。そうだ。今日は私の誕生日だ。なら、これはきっと私への誕生日プレゼントなんだろう。
「…開けて、いい?」
「あぁ。」
花火の言葉に、その黒い箱をゆっくり開ける。そこには、淡いピンクの時計が入っていた。全体的に上品な印象を受けるが、所々力強いデザインとなっており、小さくついた王冠と惑星を模した様なチャームが可愛さを引き立てる。
まどかは、それを手に取りほぅ…っと息を漏らす。何処か優雅なそれに見惚れてしまったのか、どうにも心ここに在らずのようだ。
しかし、そんなまどかを見て『あまり欲しくなかったのだろうか?』とだんだんそわそわし始める花火の視線に気付いたのか、まどかは慌てて弁解をはじめた。
「あ、ち、ちがうのっ!そ、その…あまりにも綺麗だった、から…。」
「そ、そうか。喜んでもらえて何よりだ。」
顔を横に逸らし頭をかく花火の顔は、ほんのり赤らんでいる。どうにも、普段から笑う事の少ない彼が頬を染める姿は似合わない。なんだか可笑しくて、でも、こんなに素敵な物を選んでくれた事が嬉しくて。
「あ、あの…付けてもらっても、いい、かな?」
「あ、あぁ。もちろんだ。」
緊張した面持ちで、花火は時計を取った。まどかの手を壊れ物を扱うかの様に優しく持ち上げる。そんな繊細さを維持したまま、腕時計を付け終えた。
まどかは自分の腕についた時計を眺め、その輪郭を撫でる。嬉しくて、それ以上に恥ずかしいのに、眺めているだけで嬉しいが溢れてくる。
「ありがとう、花火君。すっごく嬉しい…。」
少女は彼に微笑んだ。その、普段見た事のない大人びた笑顔に、彼は言葉を返せなかった。
☆☆☆☆
2011.10.16
薄暗い雲の隙間から、雷が見えた。
人の集まる避難所で、花火はそれをじっと見つめる。
ガラスを風が叩き、心臓に悪い音が響く。
この時期ならよく起こる台風なのに、今回はまるでこの世の終わりの様な印象を受けた。
「おーい、花火ー。」
背後から知っている声がかかる。声の主である美樹さやかは、小走りで花火に近づいた。
「いやー、すごいねぇ今回のヤツ。」
「あぁ、お前もちゃんと避難してたんだな。」
「恭介が心配だったから、病院まで行った後だけどね。」
「ブレないなお前は。まぁ、だが…無事で良かったよ。」
そういって窓越しの空へ視線を戻す花火に、さやかは何も言えなかった。普段から貶しあうのがいつもの楽しいやりとりだったので、こうやって素直に心配されると反応に困る。つまり、照れているのだ。この少女は。
救いがあるとすれば、この赤い顔を彼に見られない事だろうか。
そんな事を考えていると、花火の携帯電話は鳴る。誰なのかと画面を確認すると【足長おじさん】と記されていた。
電話に出てみるが、台風の影響かやけに電波が悪い。
『は…[ザザッ]……えるか[ザザッ]…』
「どうしたんだ?雑音が酷くて聞こえない。」
『[ザザッ]すぐ………[ザザッ]るんだ[ザザッ]………ルギ…[ザーッ]」
「おいっ、何かあったのか?…切れたぞ。」
「ねぇ、大丈夫なの?」
隣で電話を聞いていたさやかが、不安そうにしている。大丈夫だと言ってやりたいが、全くと言っていいほど何も聞こえなかったのだ。どうしたものか。
そんな悩みなど、過去になるような事が起こる。
荒い息と足音がきこえた。誰かと思い視線を向けると、鹿目詢子がいた。
肩で息をしており、見るからに冷静さを欠いている。花火とさやかは慌てて彼女を支えた。
「ちょっ、おばさん!?どうしたんですかっ!?。」
「詢子さん、大丈夫か?」
2人は息を整えるように勧めるが、詢子は花火の肩を掴み声を荒げた。
「いないんだっ。」
「…いな、い?」
「まどかが…っ、まどかが何処にもいないんだよっ!」
花火の頭が真っ白になる。
避難所への招集はもう随分前から始まっている。さやかがここに来たのも、少し遅いくらいだ。詢子がいるなら、知久とタツヤはいる。なのに、まどかはいない。なら、もしかして逃げ遅れている。しかし、なぜ?
待て、待て、待て。
まさか…。
「さやか、詢子さんを頼むっ。」
「えっ、ちょっと花火!?」
詢子の身をさやかに預け、花火は外へ飛び出した。強風の中、中学生ながらも高い身長の彼の体重は比例して重めだ。吹き飛ばされないようにバランスを取りながらも、霞む視界の中を走る。
あのお人好しなら、逃げ遅れた人がいたら見捨てない。そうとしか考えられない。
不安をかき消すようにまどかの名を叫びながら走る。強すぎる風に目蓋を閉じそうになるが、腕で防ぎながら何とか辺りを見回す。
強風の中、爆発音が聞こえた。同時に感じた揺れに対し、地面を踏み締める事で耐える。音の発生源のビルは、まるで一部がえぐれたように無くなり、そこから黒煙が上がる。
花火の中の焦燥は加速する。おかしい。いくら台風が来たからって、あんな壊れ方はしない。まるで、アクション映画で爆弾を使ったような光景だ。
「違う、今は鹿目だっ。早く見つけないと…っ。」
我に帰り、歩を進める。
しかし、いくら叫ぼうが返事は無い。それでも、必死になりながら探した。
突然、風が止む。同時に、花火の中の警戒心が悲鳴を上げた気がした。本能に従い、しゃがみ両腕で顔を覆う。その瞬間、今まで無いほどの強い風が吹き荒ぶ。
恐らく、耐えるために声をあげただろう。そんな事もわからないほどに、無我夢中で風に抗った。
風が止む。今度は、何も感じなかった。既に服はボロボロになっており、所々血が滲む。しかし、そんな事も忘れて歩きはじめた。まどかを探すために。
「…な、ん……。」
叫びすぎたのか、声がうまく出ない。『なんだこれは?』と、言いたかったのだろう。
あの風の方向へ歩いてみれば、そこには何もなかった。
この辺りはそれなりに建造物もあった筈なのに、その全てが更地へ変わっている。
奥の方に、誰かがいた。声を上げているが、良く聞こえない。とにかく近づこうと足を前にだして。
ソファーで目が覚めた。
2011.09.16
書いちゃった。
感想いっぱいくれたら続き書きます(書くとは言ってない)