MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
暁美ほむらの逆行に巻き込む際、恐らく不備が発生する可能性がある。彼の意識の無い間に逆行が発動した時、多少のラグが出るかもしれない。元々、他者の魔法への相乗り自体が無謀なのだ。
それが、最大の懸念である。
10話
2011.09.29
花火は2人の手を引いてファミレスに入る。
そのまま、奥の席へと歩き出した。
「花火、さっきの人知り合いなの?」
「知らん。たまたま2人を見つけたから声をかけただけだ。」
さやかの質問に、外を見ながら答える。どうやら、先程の『女性』はもういないらしい。人の趣味に文句を言うつもりはないが、白昼堂々と未成年をナンパとは気味が悪い。
窓側から離れ、店の中でも視線の向きにくいテーブル席に辿り着く。そこには、佐倉杏子がパフェをつつきながら座っていた。
杏子を見た瞬間、さやかが花火の前に立つ。
「なんであんたがここにいんのよ…っ」
「関係ないだろ、そんな事。ホラ、さっさと座んなよ。」
さやかには目もくれずに呟く。花火は杏子の隣に座る。さやかも、マミに促され不満はあれど席に着いた。
「…飲み物は?」
「大丈夫よ。呼ばれた理由を聞かせてくれる?」
花火が訪ねるが、マミがそれを断った。花火も、一応の確認のために聞いたのだろう。特に反応を見せる事もなく、本題を話し始める。
「まず、昨日はすみません。まさか貴女が魔法少女だとは思っていませんでしたので…。」
「そうね。軽々しく口に出来る事でもないもの。」
「はい。今更ながら、俺もそう思います。」
さやかは、マミと話す花火を見て驚いていた。あの花火が、敬語で話している。その光景は何と言えばいいのか。正直、違和感が凄かった。
「さやか、お前にも謝らないとな。すまん。」
「えっ?あ、うん。大丈夫…。」
そんな事を考えていた為、花火に謝罪を受けて咄嗟に返事を返してしまった。ホントは、色々と言ってやりたい事もあったのだ。
「今回2人には、ある事に協力してもらいたくて呼んだんだ。」
「祭君。その前に聞きたいのだけれど…。」
花火が今回の集まりの目的を話そうとした時、マミから待ったがかかる。
さやかには話を止められる事もあるとは考えていたが、マミに止められるとは思わなかった。
「…なんでしょうか?」
「今日の集まりに、なぜキュウべぇが来る事を拒否したの?」
「え、そうなんですか?」
マミにとってキュウべぇは友人である。命を救ってもらい、生きる目標もくれた。だからこそ、花火がキュウべぇを拒絶した意味がわからない。
花火はその疑問に、迷いなく答える。
「信用が出来ないからです。」
「キュウべぇは私のお友達よ。決して悪い子ではないわ。」
「いや、もっと根本の話ですよ。」
花火は、キュウべぇという存在に胡散臭い何かを感じ取っていた。
杏子は魔法少女となり、独りで生きていた。
マミもまた、同じく独りだった。
キュウべぇは、どんな願いでも叶える事の対価に、彼女達に魔法少女として魔女と戦って貰う契約を結んだ。
なのにも関わらず、だ。その願いが何であれ、釣り合っているとは思わないのだ。
奇跡を願い、それが叶えば、人は幸せになるはずだ。しかし、彼女達の境遇は、決して幸せとは言い切れない。
「俺はそのキュウべぇと会った事がない。信用も何もないんですよ。それに、今回の話は魔法少女だけじゃない。不安要素は取り除いておきたい。」
「…不安要素、ね。」
「そもそも、佐倉から聞いていた魔法少女が先輩だなんて想定外でした。」
「元々話すつもりは無かったのね。」
「はい。とにかく、キュウべぇについては後で。今は、説明を先にします。」
そう言うと、花火はカバンからタッチパネルのディスプレイを取り出した。それを起動しながら、今回の目的を話す。
「単刀直入に言うと、魔法少女が所属しているであろう組織が、日本で核を撃とうとしています。」
「…はい?」
さやかから間抜けな声が漏れた。それもそうだろう。さやかが知る常識から、これほど外に漏れた話もない。
マミですらも、その突拍子のない話に目をパチクリさせている。
「…よく出来た話ね、と言えば良いのかしら?」
「…何か、間違えたか?」
「端折りすぎだバカ。その説明ならこの反応が普通だよ。」
絞り出したようなマミの感想から、上手く伝わっていない事がよくわかる。その反応に心底不思議そうな顔をしている花火に、杏子からのダメ出しが入った。
「マミ、アタシ等は別におかしくなったわけじゃないさ。アンタなら、メタルギアって兵器の事知ってるだろ?」
「え、えぇ。2005年にシャドーモセス島で作られた兵器よね?」
さらりと出てくるあたり、巴マミという人物の好みがよくわかる。魔法少女の力を正しい事の為に使うというのは、実はとても難しい事だ。
シャドーモセスの真実は、見方によっては現代の英雄録だろう。マミにとってはバイブルと言えるかもしれない。
「そう、だったっけ?アタシはあまり詳しくないけど。とにかく、それがこの見滝原市の何処かにあって、それを作った集団の中に魔法少女がいるんだよ。」
「…それ、本当なの?」
「あ、あのー。私には何が何やらさっぱりなんですけど…?」
マミは、この話の重大さをここで理解した。
それがもし、日本から何処かの国に撃たれることがあれば、もうこの国に平穏は当分来ないだろう。もしかすると、一生来ないかもしれない。
「さやか。第二次世界大戦で、日本に落とされた原子爆弾があるだろ?アレより強力な兵器が日本から別の国に撃ち上げられるかも知れないって話だ。」
話について来られなかったさやかに、花火が簡単な説明をする。数度頷き、その意味を理解したのだろう。顔を引きつらせ呟いた。
「ヤバいじゃん…。」
「上出来の反応だ。後は騒がなければ完璧だな。さやか、落ち着けよ?」
「祭君。この話が本当なら、日本という国が動いてるはずよ。」
「見滝原市は急激な発展を遂げた都市です。その過程で少しずつ物資を持ち込まれれば、誰もそれに気付かない。」
ディスプレイを使い、花火は2枚の画像を表示した。今現在の見滝原市の写真と、十数年前のもの。後者に広がる田畑が、今ではビル群になっているのだ。作り上げるには相当な量の材料がいる。その月日の中で、ゆっくりと部品をまぎれこませれば、気付くのは難しいだろう。
「アタシ達の目的は、この核を止める事。」
「細かい話は家でするつもりです。協力してください。」
マミは、2人が共に行動している理由にやっと納得ができた。そもそも、前提から違っていたのだ。
杏子が花火を連れているのではない。花火が、杏子を連れているのだ。
マミは、杏子の境遇を知っている。彼女が、天涯孤独である事も理解している。
そんな彼女が、こんな規模の大きい話を耳にする手段は無いはずだ。
なら、それは花火からもたらされたと考えていい。
花火は、何らかの方法でこの事を知った。そして、魔法少女である杏子に協力を求めたのだろう。
なんだ、貴女は変わってなかったのね。
そんな事を思いながら、マミは杏子を見る。
魔法少女となり、マミの後ろをついて来てくれた優しい女の子。不幸が彼女を変えてしまった。それでも、その優しさだけは変わらないでいてくれた。
今は、それが嬉しかった。
さやかは、不謹慎だがこの状況を喜んだ。
敵は国家転覆を狙うテロリスト。組織の規模もわからない。勝てるかなんてわかるわけない。
だが、幼馴染みが頼ってくれたのだ。
どんな理由があれど、いつも助けてくれた人が助けを求めているのだ。
なら、自分のするべき事は一つだけだ。
「もちろん、協力するわ。」
「任せてよ。私も手伝うから。」
☆☆☆☆
「…おかしい。」
暁美ほむらは、自分の部屋で今回のループについて悩んでいた。
鹿目まどかを救う為だけに1ヶ月を繰り返して、コレで【9回目】だ。しかし、今回は今までと何処か違っていた。
9月16日に目覚め、最初に行うのは武器の確保だ。自衛隊や暴力団から、ありったけの銃火器を盗む。
その後、魔女を倒してグリーフシードを確保する。10月16日の為には、幾つあっても足りないくらいだ。
仲間はいらない。必要ない。このループの中で、何度も足を引っ張られた。まどかはその度に悲しみ、苦しみ…魔法少女になってしまう。
彼女を救うには、それだけは避けなければならない。
だから、まどかの周りの魔法少女達の監視も必要だ。彼女達が行った事で、まどかが魔法少女になる可能性もある。
その為に監視を続けていたが、今回の世界はそこからすら上手くいかない。
まず、佐倉杏子が見当たらない。基本、風見野で活動しているはずの彼女は、ほむらがコンタクトを取ろうと向かった時にはいなかった。
彼女がよく通っていたゲームセンターにも、その姿は見られない。
巴マミと美樹さやかは共に行動している。しかし、まどかの姿はそこにはない。
確かに、まどかには魔法少女にならないよう釘を刺しておいた。魔法少女と共に行動しなくなったのは喜ばしい事だが、何故今回だけこうなったのかわからない。
そして、3回目のループ以降見なくなった男が、今回のループには登場している。祭花火だ。
初めて会った時は、怖そうな人以上の感想は湧かなかった。しかし、そんな彼がまどかと仲が良かったのは驚いた。
『花火君はね、私の憧れなの。強くて、優しくて…。実は見た目よりずっと繊細なんだよ?』
彼の事を聞いた時、まどかは笑顔でそう答えた。彼は不器用な人だから、もっと彼の優しいところをみんなに知ってもらいたい。そんな事を話していた。
その時ほむらが感じたのは、羨ましさだった。
まどかは、暁美ほむらの憧れだ。そんな彼女の心を占拠している彼に、嫉妬心が湧くのは仕方ないと思いたい。
しかしあの決意の日以降、彼の姿を見る事はなかった。周りも彼のことを知らないようで、ほむらは妙な安心感を覚えていた。
今回の世界には、彼がいる。特に関わる事もないと考えていたが、そうはいかない理由ができた。
花火が、佐倉杏子と行動を共にしていた。
何故かはわからないが、共に魔女の結界に入っていく姿を目撃した。最初は、杏子が花火を魔女の餌にするつもりなのかと考えたが、それをすぐに否定する。
使い魔に餌をやれば魔女に成長するが、魔女に餌をやっても利点はない。
佐倉杏子は、そんな無駄なことをする人物ではない。なら、彼が関与している事は明白だろう。
祭花火がいる上で、鹿目まどかが魔法少女になっていない世界は初めてだ。不安もある。
だが、止まるわけにもいかない。
「まどかを、救い出す…っ。」
それが暁美ほむらの存在理由だ。それ以外のモノは必要ない。
その為なら、どんな犠牲も厭わない。障害になるなら、友人だった者たちさえ殺してみせる。
だが必要でないなら、中立の立ち位置にいてもらえる方がいい。
美樹さやかがいる以上、巴マミはほむらに敵意を向くだろう。なら近づかない方がいい。
やはり、佐倉杏子だけは確保しておきたい。経験があり、冷静になって物事を考えられる。取引にさえ応じてくれるなら、悪い相手ではない。
「やはり、祭花火に接触する必要がありそうね。」
結論の出たほむらは、家を出て夜の街へと歩いていく。夜は魔女の時間だ。グリーフシードを集めるならこの時間が望ましい。
だが、暁美ほむらは気付かない。彼と接触する事。それだけで、彼の逆鱗に触れてしまうことに。
月の光が、彼女の腕時計の王冠のチャームを輝かせた。
☆☆☆☆
「あ、あの!サインいただけませんかっ!?」
コレは一体誰なんだろう。花火は、自分自身に問いかけてみた。
しかし、どうにも心の中の花火は調子が悪いらしい。あのキラキラした目でおじさんに絡む少女を、巴マミだというのだ。
そんなわけがない。と否定するが、少女のチャームポイントのドリルが左右に揺れている。確か、巴マミの特徴だったような…?
「…ハナビ、スネークの事をどんなふうに話したんだい?」
「話してない。先輩があの暴露本のファンだっただけだ。」
「こ、コレが本物のギャップ萌え…っ!」
ハルの目を見る事ができない。あんなに詰め寄られてるスネークのどうしたらいいかわからないみたいな顔も見えない。見たくない。
ついでに、さやかの訳の分からない言葉はその意味すら理解したくない。
「そうか、アンタあんな感じのマミ知らないのか。」
「知るわけないだろう。なんだアレは?」
「いや、思い出した事があってさ。マミって昔からどこの言葉がわかんない本をよく読んでたんだけど、あの本だけは何故か翻訳された分も置いてあったんだよ。スゲェ勧められたんだけど、アタシ本に興味ないからさ。」
「なるほど、布教用ってわけね。」
話を聞いていたさやかから、またよくわからない言葉が飛び出した。もしかして自分が知らないだけで、あの男は神様だったりするのだろうか?
「オタコン、新しい宗教が始まる前に弾圧しよう。」
「彼女のようなファンは沢山いるだろうから、火種の一つを潰すだけになるだろうね。そもそも、スネークはどちらかと言うと神の子になるのかな?」
「あんな爺さんな子供がいてたまるか。ベンジャミン・バトンでももっと愛嬌がある。」
「14歳で愛嬌を捨てた君が言うと説得力あるね。」
「祭君、スネークさんはお爺さんなんかじゃないわ!素敵なおじ様よ!」
「仲がいいのは結構だが、そろそろ彼女を落ち着かせてくれないか?」
少なくとも、家に入るまではシリアスだったはずだ。杏子とさやかはそう思った。
暴走するマミに、事が終わればサインを書かせる事を花火が約束し、やっと混沌とした空間に静けさを取り戻す事ができた。
「さて、ちゃんと自己紹介させて貰おうかな。もう知っていると思うけど、彼はスネーク。そして、僕は彼のサポートをしているハル・エメリッヒだ。」
「ハナビから話を聞いているだろうが、俺たちの目的はこの街にあるメタルギアの破壊だ。」
「は、はい。それで、私たちも協力するって話ですよねっ。」
スネークの眼光に緊張して固くなるさやかが言葉を返す。ハルが、その言葉に頷いた。
「そう。魔法少女の事に関しては、君たちの方が詳しいだろう。だけど、危ないと感じたらすぐに逃げる事。君たちはまだ子供なんだからね。」
「大丈夫だ。最悪俺が首根っこ引っ掴んででもコイツらと逃げる。」
ハルの注意は最もだろう。それに対し、反論する者はいない。その道のプロの言葉だ。大人しく聞いておく事が延命に繋がる。
それから、ハルが主導で話を進める。マミもさやかも、静かに話を聞いていた。今の情報が共通認識となった後、さやかが口を開く。
「…花火。その話ホントなの?」
未来の事。もちろん、花火にそれを証明する手段はない。さやかに彼女が過去に死んだ事を聞かせるのは胸が痛んだが、それでも通らなければならない道だ。
「あぁ。時間が戻ったとはいえ、お前は俺の前で一回死んだ。」
「…そう。な、なんかアレよね。こう、なんとも言えないというか…。でもホラ、今は魔法少女になってるわけだし、瓦礫なんかでやられたりしないって!」
「…そうだな。もし、それ以外の原因が現れても死なせないから安心しろ。」
少し残念そうにさやかが目を逸らす。どうにも、花火は言葉選びを間違えたらしい。それが何処なのかは、花火にはわからない。
空気を変えるためか、ハルがハナビに話しかける。
「ハナビ、少し気になる事があったんだ。」
「気になる事?」
「うん。このニュースを見てくれ。」
パソコンを操作して、一件のPDFを表示する。題名は【基地での重火器損失について】。どうやら、自衛隊基地内の報告資料らしい。
内容を確認したところ、どうやら第十二旅団駐屯所で大量の銃器、爆発物が盗まれたとの事。弾の1発や2発なら紛失も考えられるが、この量だと盗難にあった可能性が高いらしい。
問題は、犯人の痕跡が一切見当たらない事。
「…スネーク、出来るか?」
「無理だ。潜入なら何とかなるだろうが、今回失われた武器のリストを見る限り、大型のワゴン車がいる。何度も往復する間に、自衛官に発見されるだろう。」
資料に目を通していたスネークの言葉に、花火は考え込む。スネークが無理なら、コレをやった人間は少なくともスネークより上の実力を持つ事になる。
身体の動かし方を軽く教わったが、その時にスネークの身体捌きを素人なりに理解した。明らかに常人とは思えないのに、それより強い人間がいるとなると笑えない。
「…確かに、面白くない内容だ。それで、コイツが何なんだ?」
「この資料で気になったのは、その手段なんだ。どうやって盗んだか…それがとても気になった。それで、軽く調べたんだけどね。」
ハルが現場写真を何枚か画面に表示する。武器庫である倉庫には、電子ロックが施されていた。
「…コレが何なんだ?」
「この電子ロックは、責任者の指紋と眼球の承認登録が必要だ。つまり、目と指がいるね。それを誰にも気付かれず、その上無傷なまま現地で手に入れる方法を思いついたんだ。」
例えば、時間をとめるとか。
花火の目が見開かれる。それは、今までその存在すらあやふやだった手がかりだ。
花火に時間旅行をさせている下手人が残した、明確な証拠だった。
「なるほど、時間停止ね。確かに、コレは魔法少女の仕業になるわね。」
「態々武器を調達したって事は、それ以外の武器が作れないタイプだな。わかってんのは、時間停止と過去に戻れる事、後は、大量の武器を収納できるポケットみたいなのを持ってるって事か…。」
マミ、杏子の考察が入る。この世界に長く居続けた身としては、これくらいの予想を立てておくのは必然だ。
花火は、写された画像を睨みつけ笑う。
「…ついに、見つけたぞ…っ!」
相手が誰だろうが関係ない。何度も残酷な光景を見せられた。失われた命の重さが、どれほど人の心を苦しめるのかを教えてやる。
2人の会合は近いだろう。なら、決着はその時に付けてやる。時間旅行の代償を必ず払わせてやろう。花火は、そう心に誓う。
そんな花火の視線が、壁にかけられた時計に向かう。既にかなり夜も遅い。仕方ないので、そろそろお開きにしようと考えーーー思い出した。
「そうだ、オタコン。今日は2人を泊めようと思うんだ。」
「「えっ?」」
「はぁっ!?」
マミ、さやかは突然の花火の発言に戸惑い、杏子は大きな声を上げた。確かに伝えてはいない事だが、何をそこまで騒ぐのか。
「あ、あのね、祭君。女の子を連れ込んでその日にお泊まりっていうのは、あまり感心できた事じゃないのよ?」
「そーだぜ花火!てかアタシはコイツと一緒にいるのはゴメンだね!」
「あんたは後でぶっ飛ばす!それと花火っ、私たち着替えも何も無いんだから無理に決まってんでしょ!?」
杏子の好き嫌いに何かを言うつもりはないが、マミとさやかの意見は最もだろう。しかし、比較的常識的に否定するさやかに対して、マミは何故かソワソワしている。
花火としては、2人を家に返すのはリスクがあるため避けたいのだ。その理由は、ファミレスの前で会ったあの女の存在である。
「オタコン。オレンジの髪、女性、身長180センチ以上。この特徴に合う犯罪者とか傭兵がいないか探してほしい。」
「ど、どういう事だい?」
「今日、2人に絡んでいた奴だ。どうにも気味が悪くてな。」
花火の言葉に、ハルは表情を引き締めて作業に取りかかった。次は、乗り気で無い3人の説得である。
まずは、比較的簡単そうなマミに目を向ける。目があったマミは、顔を赤らめて視線を逸らした。
「巴先輩。」
「な、何かしら?」
「お泊まり会、しませんか?」
「…仕方ないわね。」
「マミさん!?」
さやかの悲痛な声が聞こえた。
マミはきっと、参加したいけど年上だからと遠慮してしまったのだろう。なら、後輩である花火が頼み込めば何とかなる。
次に、杏子を見た。不機嫌そうに花火を睨みつけている。
「なんだよ?」
「怪しい奴がいるんだから、協力してくれないか?」
「今回は無理だね。アタシはコイツが嫌いだ。」
「…今度、お前が食べたいものをなんでも取り寄せる。」
「ったく仕方ねぇな。今日だけだぞ?」
あっさり手の平が回った。使わずに貯めていたお金が湯水の様に消えていく。この騒動が終わった後は、当分の間もやし生活になるだろう。やはり、豆は素晴らしい食品だ。
最後に、さやかを見る。何故かは知らないが、彼女の花火を見る目は冷たい。軽蔑しきったと言わんばかりの対応に戸惑うばかりだが、彼女も説得しなければならない。
「さやか。」
「なによ、節操無し。」
身に覚えのない言葉のジャブだ。彼女が何を言ってるのか理解が出来ない。節操無しと言われる様な事をした記憶がない。
「頼む、今回は互いに罵り合うのはやめよう。」
「あの光景を見せられて?巨乳の可愛い先輩を持ち帰って、野良猫拾ってまだ足りないの?」
「誰が野良猫だオイ!」
「表現が下品だ。友人を家に止めるのは普通だろう。それに、拾った猫の機嫌を取るのも普通だ。」
「オメェもかよ花火!アタシは野良猫じゃねぇ!」
「佐倉さんっ、久しぶりに一緒に寝ましょう?」
「アンタがボケたら負荷が凄いんだよマミ!」
黄色がふわふわした雰囲気で赤色に絡んでいる。突っぱねたら落ち込んで面倒くさいなぁなんて事を考えてしまう辺り、赤色の性根の良さが窺えるだろう。
茶色は浮気がバレた男の様に気難しい顔をしてるし、青色は女の敵を見る目をしていた。
「何?私がそんなに信用できないって事?」
「違う。無駄な危険は避けたいと言ってるんだ。」
「あー分かった。花火くんは私がナンパされて悔しいんだー。確かに、あの人イケメンだったもんねー。」
「気になっていたが、アレは【女性】だぞ?お前そっちの趣味があったんだったか?」
「はぁ?どう見ても【男】だったでしょうが。」
「そんなわけあるか。体格的にアレは【女】だ。」
だんだんと2人の話が逸れていく。この2人が言い合いになると大体こうなる。昨日のご飯についての会話が、プラスチックの可能性へとシフトしていった時もあるのだ。コレくらいなら平常運転だ。
「どっちでもいいわよ!大体、泊まるにしても服がいるでしょ!?」
「佐倉の分は既に購入済みだ。2人には、来客用のセットが母の部屋にある。」
「この変態。じ、じゃあ寝るとこはどうするのよ?」
「巴先輩と佐倉には母の部屋で寝てもらう。どうにも仲が良いみたいだからな。」
杏子が抗議の声を上げようとしているが、テンションの上がったマミに抱きしめられて動けない。
「俺の部屋はスネークに使ってもらっている。」
「なら、私はどうするのよ?」
花火は、いつも使っているソファを指差した。
「帰るわ。」
「何故だ?寝心地は保証するぞ?」
「泊める事を勧めるなら、せめて布団くらい用意しなさいよ!」
「硬い床だと身体に悪いだろう?」
「その気遣いをもっと別の事に使えば良いじゃない!」
「おい。」
ヒートアップする2人を、低い声が止めた。2人が声の主を見る。
頭に手を置き、心底疲れたと言った顔で2人を睨むスネークは、思わず黙ってしまうほどには恐ろしかった。
「お前らはベッドだ、いいな?」
「「…はい。」」
有無を言わせないスネークの命令に、黙って従う2人。
こうして、騒がしい時間は終わりを告げた。
茶番回があるとその後の鬱回が映えると聞いたので(愉悦)
次回もお楽しみ下さい。
後感想も下さい