MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ11


あの2人はグリーフシードの研究に大いに役に立った。
1人は扱いやすい。誘導も楽だった。無能であり、天才である。
もう1人は、罪悪感に苛まれている。その中途半端な善性は捨てるべきだ。

場合によっては、開放も視野に入れるべきだろう。


争いを生む

11話

 

 

2011.09.29

 

 

花火が、最後に自分の寝室に入ったのはいつだっただろう。ループする前なら、鹿目まどかに投げ込まれた時以来だ。

一人暮らしを始めてから、ソファーで眠るのが常となっていた。意外と寝心地が良いことがわかると、二階に上がる気になれない。

 

そんな寝室のベッドでは、幼馴染みである美樹さやかが眠っている。床に座り、壁に背を預けている花火には見えないが、規則的な呼吸が聞こえる辺り、眠ったと考えて良いだろう。

 

思わず、小さなため息を吐く。別に、彼女が起きていると不都合があるわけでは無いが、気持ち的には眠ってくれている方がありがたい。

 

「とりあえず、何とかなりそうだ。」

 

小さな声で、自分に言い聞かせるように呟く。先程のため息は、恐らく安堵から来るものだろう。

彼女がここにいる限りは、恐らく死ぬことはないだろう。今後の課題は、今回のループを終わらせる事だけでいい。

 

基地から盗まれた武器は、恐らくメタルギアを所持する組織の元にあると考えてもいいだろう。相手は数も、装備も、恐らくは質も上だ。

しかし、今回は潜入のプロで戦場に慣れているスネークだけではない。魔女なんて化け物みたいな存在相手に立ち向かうことのできる杏子やマミもいる。

 

その時に、ふと前回の最後を思い出した。

鹿目まどかは、あの場所で何をしようとしてたのか…。

 

恐らくだが、あの時のまどかは魔法少女だった可能性がある。魔法少女のするべきことは、魔女を倒す事だ。しかし、あの場所にそんな物は見当たらなかった。

しかし、あの時のまどかと暁美ほむらの2人は、明らかに周りや空に視線を向けていた。

なら、あの場所に魔女はいたのか?

 

今回、杏子に連れられて魔女の結界にも入ったが、魔女が見えないなんて事はなかった。なら、何故あの時は魔女を見る事が出来なかったのか。

考えているうちに、一つの仮説を思いつく。

 

「…あの時見えなかったんじゃない。あの時から見えるようになっていた?」

 

2人が去った後の出来事。ドレッドヘアーの女が見せたソウルジェム。

あのモヤを吸い取り、その力を使ったからこそ魔女を見る事ができたのではないか。

 

しかし、それならおかしい事がある。

そもそもあの機能を知る前から、無意識にあの能力を使っていた。例えば、仁美と共にチンピラから逃げた時だ。

もし力を使う事がトリガーなら、あの時点で魔女が見えなければおかしい。

 

なら、モヤを吸い取ったから見えるようになった。

恐らくそれが理由だろう。しかし、それだと意味がわからなくなる。どうして、モヤを吸い取る事が魔女を見る事に繋がるのか。

 

「俺の目は、最初どうやって力を蓄えた?」

 

それも謎の一つだ。

記憶の中で、身体が異常に軽い時があった。感覚としては、モヤを吸い取ってから起きる現象によく似ている。

しかし、同じ状況を経験したのなら魔女は見えるはずだ。だが、見えない。

 

この2つの違いがわからない。ソウルジェムから吸い取る事が、何故魔女を目視することに繋がるのか。

 

「…そもそも、ソウルジェムってなんだ?」

 

さらに思考は深くなる。

ソウルジェムとグリーフシード。魔女がグリーフシードを産み、グリーフシードはソウルジェムを綺麗にする。

ソウルジェムとは、一体なんだ?

 

マミや杏子の話では、ソウルジェムは魔法少女になる為のアイテムだと言っていた。だが、ソウルジェム自体が何で出来ているのかわからない。

 

そして、魔女がどうやって生まれたのかも不明だ。

大体、食物連鎖の法則で考えてもおかしい。植物を食べた動物を、人間が食べる。人間の遺体を肥料に植物は育つ。実際もっと複雑なのだろうが、食物連鎖とは大体はこういった円を書くような形になる。

なのにも関わらず、魔法少女は一本の線しかない。もし、もしもだ…。

 

魔法少女が魔女となるなら?

 

「…馬鹿馬鹿しい。」

 

花火はその考えを一蹴する。使い魔や魔女を何体か見てきたが、とても元人間には見えない。

あり得ない考察をやめ、立ち上がる。眠る気になれないので、部屋の本棚を眺めた。

 

特に面白味のある本はない。全て読んでしまったのもあるが、どれもこれも語学の勉強の為の本だ。しかも、子供向けの。

何故読み終えた本を態々保管しているのか、花火自身もよくわかっていない。まぁ、捨てるのも勿体なかったのだろう。

 

そんな本の中に1冊、どうにも系統の違う本が混ざっていた。思わず、それに手を伸ばす。

 

「…腹腹、時計?」

 

古い本だ。表紙はボロボロで、辛うじてタイトルが読めるほど。表紙からそれ以外の情報は、読み取れない。本を開き、中身を確認する。

 

書いてあったのは、簡易爆弾の作り方。しかも、わかりやすく図面で表記されている。1から10までの作業工程も記載されており、花火でも作ろうと思えば作れる事が恐ろしかった。

 

しかし、こんな物をどこで手に入れたのか。幼い頃の自分が、爆発物に興味を持っていたとは思わない。

しかし、現に花火の部屋に置いてある以上、これは花火の私物なのだろう。

 

「これで君もテロリスト…ってか?」

 

本棚には戻さず、勉強机の引き出しに仕舞う。こんな物、見られた時の言い訳が面倒だ。

 

「………眠れないな。」

 

思わず呟いた。気持ちが高揚している訳でもない。ただ、眠れない。

せめて、不安であったり等の理由があれば気を紛らわす方法でも考えたはずだ。しかし、何もないならできる事はない。

 

壁に背を預け床に座り込む。

壁にかけられた時計は、既に電池が切れていたのだろう。その針はどれも動かない。

静かな暗闇の中、時間だけが過ぎていく。

 

 

花火がそんな時間を過ごしている中、花火の母親の寝室にいる佐倉杏子はベッドの中で目を開いていた。

横には、杏子の腕に抱きつき寝息を立てている巴マミがいる。杏子は、これまでの事を思い出す。

 

初めは何でもない。ただの便利アイテムとしてしか、祭花火を見てはいなかった。

彼の話にも、驚きはしたが余計に踏み込むつもりはなかった。

 

核を撃つ事のできる兵器、メタルギア。

日本でそれが動く事により生じる問題。

見滝原市の裏にいるテロリスト。

 

既に話は杏子の想定の範囲外だ。1人で生きていく事を決めている彼女にとって、花火達のようなお人好し集団ほど邪魔なものは無い。

 

しかし、引けない。

 

約束もある。あの日、一見無愛想な少年からの頼みを聞いた時、杏子は目の前の少年の中の必死さを見た。

 

佐倉杏子が協力してくれる事に、その命をかけたかのような。

 

それが杏子の頷いた理由なのだろう。彼は、生きるために必要なモノをわかっている。

その為に、他者を使う事に戸惑いはない。

 

要は付き合いやすいのだ。杏子にとって花火という存在は。

芯があり、他者を利用する事で生じる自分の評価を重要としない。

大切な誰かの為ではなく、自分が生きやすい未来の為に動く人間。それは、マミと同じ生き方だ。

 

巴マミは独りの辛さを知っている。だからこそ正義の味方のように振る舞っているが、本質は違う。

魔女に命を奪われる人間がいたとして、その人間には親しい者がいるはずだ。それが家族なのか恋人なのか、友人なのかはわからない。だが、きっとその人間の事を想い涙を流す者がいるのだろう。

 

巴マミは、恐らくそれが気に食わないだけだ。

本人は気付いていない。それを見ると悲しい気持ちになるから、なんて言葉で本当の心の声を隠す。しかし、杏子は知っている。

 

同情ではない。嫌悪なのだ。

何故、そんな見たくもない悲劇を見せられなければならないのか。

まるで責められているようだ。気分が悪くなる。

だからこそ、善人ぶって人助けをする。

それは彼女にとって醜い感情だ。だから、必死になって隠す。その結果が【正義の味方】だ。

 

そんなものになりたかったのかはわからない。恐らく、本当は嫌なのではないかと思う。

勝手に期待して、勝手に落胆する。

 

 

人嫌い。それが巴マミの本質だ。

 

だからこそ、彼女の小さな内側の世界にいる住人を、彼女はなによりも尊ぶ。

本当に小さな輪の中にいるのは今のところ、杏子とさやかの2人だけだろう。

同性である分、マミの心の検問も甘くなる。

 

なら、花火はどうなのか?

杏子にとって、実はこれこそが最大の懸念材料だ。

単純な好き嫌いだけで考えるなら、杏子はさやかを嫌う。それは、佐倉杏子の願いに起因する。

 

佐倉杏子は、教会で神父をしていた父がいた。母、妹を含めての4人暮らし。

父は心の優しい人物だった。遠いどこかで悲劇が起きたとして、その事を聞いただけで心を痛め涙を流すほどに。

 

だからこそ、父は1人でも多くを救おうとする。神の教えを説き、せめてその心だけでもと。

しかし、悲しみは途切れる事はなかった。

 

その中で父が出した結論は、人に認められる事はなかった。

聖書に載っていない事まで話し始めた彼に、人々は離れていく。幼い杏子にとって、それはとても悔しい事だった。

 

そんな時にキュウべぇと出会った。キュウべぇは杏子に囁く。願いを叶えてあげる、と。

そして、杏子は願ったのだ。

 

『皆が父の言葉に耳を傾けるように』と。

 

魔法少女としての生活が始まった。巴マミと出会う事で戦う技術を教わった彼女は、こんな事を考えていた。

 

表の世界は父が救う。

裏の世界は私が救う。

 

魔女に対する恐怖も、この想いがあったからこそのりこえられた。まるで、物語の救世主になった気分だ。とても心地よかった。

 

魔法少女としての姿を、父に見られるまでは。

 

父の動揺に、慌てて杏子は説明を行なった。

もちろん、その願いの内容までも。

 

後は、ただ転がり落ちるだけだ。

 

父は、めちゃくちゃな内容の言葉にも頷く信者が欲しかったのではない。自分の言葉で、1人でも多くを癒したかっただけなのだ。

父は杏子を魔女と罵った。酒に溺れ、暴力を振るい。

そして、母と妹と共にこの世に別れを告げた。

 

それ故に、杏子は理解した。

他人の為に願っても、本意が届く事はない。

願いには対価が必要で、幸福と不幸は等価である。

だからこそ、他人の為に願う美樹さやかを認める事ができないのだ。

 

しかし、それは耐えられない事じゃない。

元々、花火には救いたい人間がいて、ループにより何度も死ぬ彼女の為に協力者を求めていた。

その手を取った以上、杏子は花火に手を貸すだろう。

例えさやかが気に食わなくても、多少の我慢は必要だ。

 

では、花火とマミはどうか?

花火はマミを慕い、マミも親しく接している。特に悪い所は見当たらない。

 

だが、杏子は危惧している。

この2人の相性が最悪である事によるトラブルを。

 

2人とも、似たような生き方をしている。

両親がおらず、事故で生死を彷徨い、他者には無い力を持っている。

だが、花火には他の誰かとの繋がりがあった。

 

マミにとって、花火は特別だ。マミはそう思わない様に努めているが、もう手遅れなほどに花火はマミの内側にいる。

さやかや杏子とは比べものにならない程に心の奥底。

花火に何かあった時、その内側の蓋が開くだろう。そうなれば、もうマミは止まらない。

 

大事なモノを壊れない様な場所に仕舞うのと同じだ。2度と怪我などしないよう、手元に置きたがるだろう。

 

その感情は依存だ。それも、極めて重度の。

 

幸せな顔で眠る彼女がその感情に気付けば、ここにいる人間にも被害が及ぶだろう。仲間内での揉め事ほど、厄介なものは無い。

 

そんな不安を募らせながらも、杏子は瞳を閉じた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

2011.10.01

 

 

 

「矢崎茂雄…。確か、前に伝えたビルの社長だったよな?」

 

花火の言葉にハルは頷く。アレから2日経ち、少しずつ情報が纏まりつつあった。

今この場にいるのは、さやか以外の全員だ。さやかは両親もいる。流石に何日も家を開けさせる訳にもいかない。

本人は不服そうだったが、花火の説得に何とか応じてくれた。

 

「こんだけ巻き込んどいて仲間外れは酷くない?」

 

「お前だけならそうかも知れんが、お前には両親もいるだろう。何かあったら、おじさんやおばさんに顔向けできない。」

 

「うっ…。そ、それはそうだけど…。」

 

「それに、鹿目が巻き込まれたりしたらマズい。アイツ、魔女に遭遇してるんだろ?何かあった時のために、アイツと一緒にいてくれ。」

 

「…ほんっと、まどかには甘いわよね花火って。ま、さやかちゃんに任せなさい!」

 

とりあえず話が纏まった事に安堵した花火だが、やる気のあるさやかを見て不安も覚える。

彼女のやる気は基本空回りする事が多い。余計なトラブルを持ってこなければいいのだが…。

 

「あぁ。ハナビが事前に教えてくれたおかげで、スムーズに調べる事ができたよ。ヤザキコーポレーションに運ばれた荷物の中に、記録されていないモノが確認できた。」

 

「俺たちの次の目的は、このシゲオ・ヤザキとの接触。そして、ヤザキに武器の密輸を命令した組織の居場所を聞き出す事だ。」

 

スネークの言葉に、花火は息を飲む。言うならば、決戦だ。自分にとっての壁。10月16日以降の未来を掴むには、必ずコレを乗り越えなければならない。

 

「僕も今回の大元の探索をしているけど、こちらからは何も発見できなかった。僕のやり方の裏を掻くように逃げられる。」

 

「スネーク。それってそんなに凄い事なのか?」

 

「オタコンと組んでかなり経つが、こんな事は今まで無かった。相手も相当の手練れなのは確かだ。」

 

既に半月が過ぎた。しかし、今の段階で組織の名称も分かっていない。ハルほど優秀な人物から逃げ切るのは至難の技のはずだ。

 

「それで、アタシ達はどうすれば良い?」

 

空気を変えるためか、杏子が話を進める。ハルは、パソコンを操作しモニターに資料を写す。

 

「僕とスネークはヤザキコーポレーションへの潜入。機密資料があるなら、ここに奴らの情報があるはずだ。ハナビ、キョウコ、マミの3人は、ヤザキ氏が過去に勤めていた病院に向かって欲しい。」

 

ハルが印刷した紙を受け取る。その病院に、花火は覚えがあった。

 

「ここは…。」

 

「知ってんのかよ、花火?」

 

「昔入院していた病院だ。交通事故で怪我してな。そこまで重症では無かったが、検査入院だかで長く居座らされた。」

 

花火が母を失う直前の出来事だ。母の死の衝撃が強かったのもあり、あまり良く覚えてはいない。

覚えているのは、そこまで大した怪我では無かった事くらいだ。

 

「私達は、この病院で何をすれば良いのですか?」

 

マミが、詳細をハルに問う。

 

「君達にお願いしたいのは、ヤザキ氏の辞職の理由の確認だ。彼が辞めたのが今から6年前。それからすぐにヤザキコーポレーションを設立している。」

 

「6年で有名企業か…。いくらなんでも早過ぎないか?」

 

「そう。つまり、この会社を立ち上げるまでに誰かとの接触があったはずだ。」

 

彼らの役目は、矢崎茂雄を知る人物に、辞める前の人間関係を探る事。

しかし、ただの中学生では碌に取り合って貰えないのではないのだろうか?

 

「それをさぐるって事か…。だが、どうやってだ?病院は暇な時間なんて中々ないだろ。関係者でない俺たちにできるか?」

 

「それは問題ないよ。だって、君がいるじゃないか。」

 

ハルはそういって花火を指差す。

 

「君の事故。担当医はヤザキ氏だ。つまり、君は彼を調べても怪しまれる事はないし、取り合ってもらえないなんて事も無いはずだ。」

 

ハッキリと言い切ったハルに困惑するも、ここで足踏みしている時間もない。花火は、その細い理由を頼みの綱として、病院に向かう事にした。

 

3人が準備をしている中、スネークが花火に近づいて行く。財布を胸ポケットに入れた花火は、スネークに向き直る。

 

「ハナビ、コレを持ってろ。」

 

「…ガキに持たせる物じゃないだろ?」

 

渡されたのは、黒い拳銃だった。コンパクトな自動式拳銃は、その色の事もあり花火にはトラウマの一つだ。まぁ、足を撃たれたのだから仕方ないだろう。

しかし、スネークは花火の問いに返さず、銃の説明を始める。

 

「こいつはシグザウエルP232。お前くらいの体格なら、使っても負担はそこまでかからん。」

 

「いや、俺達は話を聞くだけだ。こんなモノを使うつもりは」

 

「弾は.32APC。小型で威力も低いが、その分反動も低い。」

 

「話を聞いてくれよスネーク。俺は」

 

「ハナビ。」

 

口を、閉ざした。

スネークの真剣な雰囲気に、続きを口にする事が出来ない。

そんな花火にしっかりと言い聞かせるように、スネークは口を開く。

 

「今回の件、お前からの話、全て聞いた。それを踏まえて、俺はお前が狙われている可能性があると踏んでいる。お前には自衛手段がない。なら、せめてこれくらい持っておけ。」

 

スネークとしては、銃に触れさせるどころか、今回の件すら関わらせたくはない。

メタルギアの事件は、本来ならスネークとハルだけで挑むべき事件だ。

 

アウターヘブン。

シャドーモセス島。

ビッグシェル。

 

この事件の全てが、スネークと関わりのある人物が関係している。いや、関わりなんてモノではない。

 

ビッグボスも、

リキッド・スネークも、

ソリダス・スネークも。

 

その全てが、スネークの血筋になる。

父。兄弟。父のクローン。

 

そして、今度は息子。

 

まるで呪いだ。この血は、何処かで争いを生むか、何処かの争いに巻き込まれる。

祭花火に銃を持たせるという事は、その争いに立ち向かわせるという事だ。

例え、それを選んだのが彼であるとしても、心情的には持たせたくない。

 

それでも、持たせなければならない。

この事件から生き残る為に。

 

「…撃ち方は?」

 

じっと手渡された銃を眺めていた花火が、顔を上げスネークに尋ねる。スネークは花火の後ろに周り、花火の手を自身の手で覆う。

そのまま銃を握らせ、説明を始めた。

 

「まず持ってみろ。まずマガジンだ。そう、そのまま下ろせ。弾は8発だ。忘れるな。スライドの持つ場所はここだ…そう。引いてみろ。」

 

「っ…意外と、重いな。」

 

「そんなもんだ。次に、サイトを見ろ。ここだ。足を肩幅まで広げて腕を軽く曲げる。そのまま目標に向けて…撃て。」

 

「…。」

 

「よし。撃つ時は、両手で構えろ。腕は伸ばしすぎるな。反動で痛い目を見るぞ。」

 

スネークの言葉に素直に従う花火。数分の間ではあったが、的確な指摘と分かりやすい説明のおかげか、形だけは何とかなったようだ。

 

ショルダーホルスターを渡され、それをつけて銃をしまう。上からジャケットを羽織れば、見てくれからの違和感はない。

 

「花火、こっちは準備…どうした?」

 

2階から降りてきた杏子とマミが、服装を確認している花火に違和感を抱く。

花火は常にシンプルな服装をしている辺り、お洒落にそこまで執着のあるような人間には見えない。

 

「いや…変か?」

 

「いつも通りだけど…。」

 

「何かあったのかしら?」

 

「…後で説明するさ。」

 

2人の言葉で、一見銃を持っているようには見えない事がわかった花火は、スネークの方へ向き笑う。

 

そのまま、3人は病院へと出かけていった。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

駅の改札を出て、病院へと向かう3人。人通りの多い中、側から見て可愛らしい少女2人を侍らせる花火はそれなりに注目されていた。

 

「…さっきから視線が気になるな。」

 

「うざってぇ。目を合わせもしねぇ癖にな。」

 

「佐倉さんは睨みつけてるからでしょ?祭君は…ほら、ハーフだからって事じゃないかしら?」

 

「生まれも育ちも日本なんだがな…。まぁ、昔からだ。諦めてるよ…。」

 

パッと見た感じ日本人に見えない花火は諦めのため息をこぼし、野良猫のように警戒する杏子は周りを睨みつけ、マミはそんな様子に苦笑いを浮かべている。

 

結局視線は途切れる事はなく、とうとう病院についてしまった。

 

「…懐かしいな。」

 

「てか、なんで花火が東京寄りの病院にいたんだよ?」

 

「昔、サッカーをやっててな。試合の為にこっちに来てて、そこで車に轢かれたんだよ。」

 

近場に病院があり、すぐに対応してくれた事は幸運だったのだろう。その時の記憶は曖昧だが。

 

「さて、矢崎茂雄さんの事を聞きに回るか。」

 

病院の中へと入り、受付まで向かう。

受付の女性が、ニコリと微笑んだ。

 

「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」

 

「昔、この病院にいた者です。矢崎先生はいらっしゃいますか?」

 

「矢崎、ですか?失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

 

「祭花火です。」

 

そのまま笑顔で待っていてくださいと言われ、女性は席を離れた。

待合室の椅子に座り、答えを待つ。

 

「なんで態々居ない奴を呼ぶんだよ?」

 

「それを知ってるならここに来る意味はないからな。俺たちの目標は、矢崎茂雄さんを知っている人物だ。」

 

「当時一緒に働いていた人なら、何か知ってるかもしれないってことね。」

 

しばらくして、1人の女性が花火達の下へ歩いてくる。先ほどの受付の女性とは違う。それなりにお歳を召した方のようだ。

それを察した3人は、椅子から立ち上がる。

 

「君が、祭君?」

 

「はい。あの…貴方は?」

 

「…私は、矢崎先生がいた当時にもここにいたの。貴方の事も知っているわ。」

 

ついてきてと言うと、女性は奥へと歩いていった。

3人は大人しくその背についていく。

やがて、一つの部屋に案内された。置いてあるのはテーブルとソファー。湯呑みやポットもあり、商談部屋のような印象を受ける。

学校と同じように、窓側には壁はない。その一面がガラス窓に置き換わっている。

 

ソファーには、既に1人の男性が座っていた。

 

灰色のスーツにそれなりに膨よかな体型。大きな眼鏡をかけた優しそうな人物。

それが誰なのか、花火は良く知っていた。

 

「…矢崎茂雄、先生?」

 

「やぁ、久しぶりだね。祭花火君。」

 

さぁ、かけなさい。落ち着いた声色で3人に座るよう促す男性ーーー矢崎茂雄。まさかの本人の登場に戸惑いながらも、花火達はソファーへ身を沈めた。

女性は4人にお茶を入れ、テーブルに置く。一礼すると部屋を去っていった。

 

3人の心にあるのは焦りだ。まさか、これからスネークが潜入しようと考えている会社の社長が、目の前にいるとは思わなかった。

そんな内心を察したのか、それとも緊張していると考えたのか。

矢崎は敵意の感じさせない笑みで話しかけた。

 

「安心しなさい。君達の事は、奴らに話すつもりはない。」

 

「…奴らってのは?」

 

「魔法少女と呼ばれる子たちを部下にする、傭兵集団のことさ。」

 

いつでもシラを切れるように言葉を選ぶ花火だったが、矢崎はそれすらわかっていたのか、そう返した。

 

「彼女から、君達が来ていることを聞いた時…なんと言えばいいのかな。遂にその時が来たのかと思ったよ。」

 

「あの、貴方はどこまで知っていらっしゃるのですか?」

 

「祭君の事はあの時から知っているよ。君達の事はわからないが…彼が連れてきたくらいだ。なら、魔法少女である事は想定できる。」

 

マミの質問にも当然のように答える。まるで、そうするのが当然だとでも言うように。

そんな彼の対応に、花火は眉を顰める。

 

「聞きたい事は幾つかある。一つ、アンタの裏にいる奴らの総称。二つ、ここにいる理由。三つ、俺の目について。」

 

「…そうか、それも知っているのか。」

 

申し訳なさそうに眉を下げる矢崎。しかし、お茶に口をつけて息を吐くと、覚悟を決めたような表情で花火を見た。

 

「奴らの総称は【ベルトライン】。過去の事はわからないが、今は私設の武装集団だ。良く言えば傭兵。悪く言えばテロリストだね。」

 

「…マジかよ。」

 

杏子の呟きに、花火もマミも同意する。確かに、裏がある事はなんとなく察していた。しかし、本当にテロリストが絡んでくる事になるとは思ってなかった。

いや、思いたくもなかったと言うべきだろう。

自分達の周りで、銃火器を持つ集団が何処かに潜伏している事実は、決して普通ではないのだ。

 

「これは三つ目の質問にも関わるが、彼らの目的の一つに私は関与している。」

 

「それは一体…?」

 

「グリーフシードの改造だ。医療目的のね。」

 

それに驚いたのは、杏子とマミだ。魔法少女として、少なからずグリーフシードと関わってきた。アレに、そんな事ができる力があるとは思わない。

 

「実験の成功例は2つ。一つは、私の会社の地下にある。そして、もう一つは…。」

 

「…俺の目、か?」

 

頷く矢崎を見た時、花火は視界がグラリと揺らいだ気がした。精神的に追い詰められるとはこの事なのかというくらい、衝撃的な内容だった。

 

「グリーフシードには、魔法少女が魔力を使った際に出る穢れを吸い出す力がある。この穢れを溜めておくと、グリーフシードは羽化し魔女となる。それは知っているね。」

 

「それがアタシ達の仕事だ。だからこそ解せないね。そんな危ねぇモノを何に使うんだよ?」

 

「穢れとはいえ、魔力だ。奴らが目をつけたのは、魔法少女の魔力を使った回復だよ。」

 

思い当たる節はある。杏子もマミも、無傷で魔女と対峙してきた訳ではない。

最初は、死にものぐるいだった。大きな怪我も当然あった。

その度に、ソウルジェムはその傷を塞いできた。

 

「魔力を人の治癒能力を促進させるエネルギーとするなら、穢れであれそれは可能だ。その結果が、会社の地下にあるグリーフシードだよ。私達は【グリーフシード・メイク】と呼んでいる。」

 

「グリーフシード・メイク…。それは、普通のモノとは違うのですか?」

 

「その本質は変わらないよ。グリーフシードは空気中に僅かに残っている穢れを吸い取る。人通りの多い所や、魔女が通った後の道。そういったグリーフシード本来の機能を、ただ増大させただけだ。」

 

グリーフシードは、ソウルジェムに溜まった穢れを取り除く。しかし、放置されたグリーフシードは周囲の妬みや恨みの感情を溜め込み、羽化してしまう。

 

「それじゃあ、花火の目のグリーフシードはとっくの昔に魔女になっちまうだろうが。」

 

杏子の言葉は尤もだろう。現に、そういった過程を踏み羽化した魔女を散々見てきた。その上で倒してもきた。

 

「もちろん。それを解消する為、ろ過装置を作った。私は少し手を貸しただけだがね。」

 

「それの効果により、グリーフシード・メイクに溜まった穢れを魔力として利用する事ができたって事か…。」

 

「その通りだ。君の頭蓋骨は、約3分の1ほどがその装置と入れ替えられている。」

 

花火は、自分の指で眉に触れた。自分の顔の骨が機械の部品だなんて、まるで笑えない脚本のボツシーンみたいだ。

マミが心配そうに花火を見ているが、生憎気の利いた返事も返せそうにない。

 

とにかく、組織の名称と花火の秘密はわかった。聞く事も増えたが、残りの質問をしなければ。

 

「…それで、アンタがここに居る理由はなんだ?」

 

花火の質問に矢崎が答えようと口を開いた時、急にテーブルが赤く染まった。

 

「…は?」

 

一部に穴が開き、そこからヒビの入った窓。

矢崎の頭部は、まるで抉られたように消し飛んでいた。




正直、銃の事を調べるのが一番大変だった。

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