MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
彼と出会えたのは、まさに奇跡としか言いようが無い。
どう計算しても、2011年までに死んでいるはずなのだ。
彼を【ボス】としたのは、わざとなのだろうか。
だが、彼ほどメタルギアに精通している人物は少ない。
13話
2011.10.01
「佐倉っ!巴先輩を放っておくつもりか!?」
杏子は花火を担いだまま、建物の屋上を飛び越える。花火から非難の声が聞こえるが、それも無視して走る。
あの場から一刻も早く走り去らなければならない。マミの時間稼ぎがどこまで持つのかわからない今、少しでも距離を稼がなければならない。
腸が煮え繰り返るとはこの事を言うのだろうか。花火の言葉は、杏子の心の中の自分からの言葉でもあるのだろう。
しかし、全滅するくらいならこれでいい。
命は投げ出すものではないのだ。
「佐倉っ!」
「うるっせぇぇ!」
何度か飛び越えたビルに、花火を投げ飛ばした。限界だった。いい加減、文句を言ってやらないと気が済まない。
バランスなんて取れる筈もなく、コンクリートに身体を叩きつけられた花火に近づき、その胸倉を掴む。
「甘いんだよお前はっ!あの状況なら、誰かが囮になるのは普通なんだよっ!あの野郎に勝つには、一旦体制を整えるのがベストなんだ…っ!」
八つ当たりも入っている。別に知らない仲じゃない。
彼女から生きる術を教わった。初めの頃の恐怖も、彼女がいたからこそ乗り越えられた。
「なら、あの時俺が行けば…っ」
「そんで1人死んで後は知らねぇってか、あぁッ!?」
「違うっ!だが、足手纏いの俺よりお前らが」
「ふざけんなっ!アタシはアンタがくたばるつもりなら降りるっ。マミも美樹さやかも、メンタルがやられてまともには戦えねぇ…!」
杏子の言葉に、花火は戸惑う。
それが、杏子の苛立ちを増長させる。
祭花火は理解していない。彼が死んでしまえば、それを気に病む人間がいる事を。
他人の死に心を痛めるくせに、その逆を想定できない。
「アンタのエゴで迷惑する人間が何人もいるんだっ。命を粗末にしてんじゃねぇよ!」
荒々しく襟から手を離し、荒い息を整えながらも杏子は花火を見下ろす。
花火は、今まで考えもしなかった。
自分が死ねば、誰かが悲しむ。そんな事が起こり得るなんて、思ってもいない。
しかし、杏子の言う通りなのだ。人の死は…例えそれが見知らぬ他人だとしても、決して気分の良いものではない。
それが、見知った人間であるなら当然悲しむ。
花火だって、さやかの死に悲しんだ。
辛くて、苦しくて、ただただ涙した。
祭花火は、自分が死ぬ事で誰かを悲しませる事を、今初めて理解した。
杏子の言葉に、花火の顔が歪む。言い返せない悔しさを中心とした幾つもの感情に、花火は歯を食いしばった。
「…マミなら、きっと大丈夫だ。アタシよりも長く戦ってる。勝てるとは言わねぇが、逃げ切るくらい出来る筈だ…っ。」
杏子は、花火を安心させるように呟く。それは、自分に言い聞かせる言葉でもあった。
事実、巴マミはベテランの魔法少女だ。
負ける事なんてあるわけがない。
そんな根拠のない言葉でも、言わずにはいられなかった。
「行くぞ。そろそろ地上に降りる。タクシーでも何でも捕まえて、さっさと見滝原に帰る。」
「…あぁ。わかった。」
絞り出すような声で杏子の言葉に返事をして、花火は立ち上がる。
とにかく今は、この場から離れる事が重要だ。いつ、あの気味の悪いオレンジ髪の女がやって来るのかわからない。
複数のパトカーのサイレンが、病院へと向かって遠くなる。それは、花火が過ごしてきた日常の中で聞いた事のない音量なのは確かだ。
杏子が、屋上からビル内に入るドアを開ける。どうやら、鍵は掛かってはいないらしい。少し錆び付いた音が鳴り、2人はビル内に入っていく。
中は細く短い廊下に、ドアが3つ。2つのドアにはcloseと書かれた看板がかけられているのを見るに、どうやら飲み屋の集まったビルのようだ。
奥にあるドアを開けると階段がある。窓や下の階を警戒しながら、慎重に地上へと降りていく。
一階付近まで来てから、杏子は持っていた槍を消した。花火も、手に持つ銃をホルスターへと収める。
今は夕方頃だろうか…先日、携帯電話を破損してしまった杏子も、先ほど手放してしまった花火も、時間を確認する手段を持っていなかった。
「…オタコンと連絡するため、公衆電話を探すか?」
「その間に見つからねぇ保証があればな。さっきの騒動のせいか人も多いし、バレたらコイツらがみんな敵になる。」
病院の一件で、普段見た事のない量のパトカーが通り過ぎた後だ。何があったのかと人がごった返している。
この中にいる事をリトライにバレた場合、あの腕の針で周りの人は襲われるだろう。
その後はまるでゾンビ映画の再現だ。その人集りに追いかけ回されて、逃げ切れる保証はない。
反撃しようにも、杏子にはマミと違い高性能な拘束武器はない。つまり、身体に穴が空いていても動き回る相手を動けないようにしなければならない。
気絶させる事は無理だろう。生かすなら、最低でも四肢を折る事になる。
それでも動かれたら…?
「…マズいな。追い込まれてる。」
「やっぱりアンタは甘いよ。アタシは割り切る。」
状況ではなく、精神の話。
祭花火は、ドラマのある人生を歩んでいる訳じゃない。
母親を早くに亡くしただけ。偶々、優しい人に拾われただけ。それだけの、普通の中学生だ。
高潔な人物でもなく、冷血な性格でもない。考え方も、世間一般のモラルに沿っている。
そんな子どもに、世の中がいきなりこう告げるのだ。
道を阻む者は殺しなさい。
馬鹿げてる、なんて話ではない。
手で叩いても、そこまで嫌悪感の湧くことはない小さな羽虫とは違う。
それぞれの人生を生きて、それぞれが友人や恋人、家族…様々な繋がりがある人間を、どうして簡単に殺せるというのか?
「問題ねぇ。周りに人がいなきゃ、アイツの魔法は使えない…。」
「そう…だな。とにかく、早くオタコンと合流しないと…。」
杏子の言葉で、沈み続ける気持ちを切り替える。このまま思考にのめり込んでも、良いことはないだろう。
進行方向の先に、バス停が見えた。ここから離れる事が出来る上、車内に隠れられるバスは便利だと考えた花火は、杏子の肩を叩きバス停を指差す。
「なるほどな。だけど、バレたら逃げ場がねぇぞ?」
「走るバスで動き回るなら、場所は限られてる。」
花火の指が空へと向いた。それを察した杏子は、丁度止まったバスに向かい速足になる。
花火もそれに続き、真ん中の入り口からすぐ左の席に座る。ドアが閉まり、追われる息苦しさから気持ちだけでも解消された花火は、小さく息を吐いた。
バスはゆったりとしたスピードで走る。いつでも立ち上がれる状態のまま、後ろの席の方へ目を向けた。
談笑しているカップル。本を読むサラリーマン。音楽を聴いているのか、イヤホンを耳に付けたまま眠る女性。運転手を含め乗客は7人。
後方の窓からは、不審なモノは見当たらない。
今のうちにハルと連絡を取りたいが、生憎携帯電話が手元にない。
杏子の携帯電話も破損しており、手段はほぼ絶たれていた。
ここにいる誰かに携帯電話を借りれればいいが、恐らく断られるだろう。花火や杏子は、側から見てただの学生だ。ある程度の年齢で、警官などの役職についていたのなら、可能性はあったのかも知れない。
アスファルトの凹凸が原因か、バスが揺れる。心なしか、バスの速度が上がっているようにも感じた。
次の停車駅が近づく。本を読んでいたサラリーマンが、停車ボタンを押した。
変わらぬスピードのまま、バスは停車駅へと近付きーーー通り過ぎる。
「おい、何で止まらないんだ!」
サラリーマンが声を上げた。起こった様子で運転手に近付いていく。運転手に止まるように言おうとした彼の口から漏れたのは、文句ではなく悲鳴だった。
「ひ、ひぃぃ…っ!?」
「ァアア゛…」
情けない声の後に聞こえた絞り出すような声に、花火は思わず立ち上がった。
運転手から聞こえたそれは、病院で嫌というほど聞いたある種の悲鳴だった。
どこだ…何処にいる…っ!?
周りを見渡すが、走っているバスの窓から見える場所には怪しいものはない。外には、ヤケに飛ばすバスを見る通行人が見える。その視線の先は、バスの上。
「佐倉っ!」
「マジで来やがった…!」
「奴はバスの屋根の上にいるっ。運転手をやられた…っ。」
運転手は呻き声を上げながら、アクセルを踏み込んでいく。既にバスは道路で指定されている速度を超え始めている。
先ほどからフラフラと揺れ、前を走る車にぶつかりながらも走っている。
乗客の慌てる声が響く。カップルの男の方が怒鳴り声を上げていた。
バスの後方を見ながら焦る花火の横で、絞り出すような杏子の声が聞こえた。
「オイオイ、冗談だろ…っ!?」
花火はその声に釣られて運転席の方へ振り向きーーーバスを止めようと走り出す。
見えたのは子どもだった。年齢はわからないが、ランドセルを背負っている事から考えて恐らく小学生の女の子。
暴走するバスに驚いているせいか、横断歩道で立ち止まってしまっている。
運転手をどかしブレーキを踏もうと近付いた花火は、フロントガラスの向こうから紐に繋がった針を確認した。
勢いよくガラスを突き破ってきた針は、花火の首へと迫る。
偶々、針が何処に向かって飛んでくるかを知っていた花火は、奇跡的にその針を掴み止めた。
「っ!?オオオォォ!?」
だが、針の勢いは止まらない。花火の身体が持ち上がり、バスの床に叩きつけられる。
そんな異常な光景を見た乗客の悲鳴の中、花火は首に迫る針を受け止めながら叫ぶ。
「佐倉ぁ!あの子を助けろぉぉ!!」
杏子は動く。バスを止める方法と、少女を救う方法。屋根の上に居るであろう敵、リトライを倒す方法を頭に描きながら。
「テメェら、バスにしっかり捕まってなっ!」
バスの速度、子どもまでの距離…。今からブレーキを踏んでも恐らく間に合わない。なら、別の方法で止めるしかない。
手元に槍を出した。そのまま、フロントガラスを薙ぎ払う。砕けたガラス片から顔を隠しながら、子どもの元まで飛び出した。
魔法少女の身体能力は、杏子を子どもの元まで届ける。
何が起きたかわかっていない子どもを抱きしめ、垂直に飛び上がる。バスの屋根から、リトライが杏子を見上げていた。
「飛び乗り乗車はご遠慮ください…ってなぁ!」
槍を先程までいた地面へと投擲した。
突き刺さった槍に向かってバスは走る。勢いよくぶつかったバスは前方がひしゃげながらも停車する。屋根の上にいたリトライは、急に止まったバスから放り出され前方へと飛んでいき、路上駐車していた車に激突した。
歩道へと着地した杏子は、少女を解放する。未だに唖然としたままの彼女を無視して、潰れたバスへと走り出した。
「花火っ、大丈夫かオイッ!?」
割ったフロントガラスのあった所からバスの中を見る。運転手は、どうやらエアバッグに守られているようだが…首から流れる血から考えても、走っている時には事切れていた可能性が高い。
後方の乗客達も、どうやら無事のようだ。文句を言っていたサラリーマンも、先程花火達が座っていた席で身体を丸めていた。
しかし、花火がどこにも見当たらない。
杏子の中で、焦りが湧き上がる。しかし、さっきの衝撃でバスから放り出されたのはリトライのみ。花火は、このバスの中にいるはずなのだ。
「…さ、佐倉…っ。」
声が聞こえた。近い。
杏子は、手前にある出口に目を向けた。
階段の底で、ひっくり返る花火と目が合う。
「…生きてっか?」
「…あぁ。生きてる、よな?お前が…悪魔じゃないなら、生きてる。」
どうやら、無駄口を叩けるほどには元気らしい。杏子はバスの中に入り、花火を引っ張り立たせた。
先程の衝撃のせいか、バスの運転システムが稼働したのだろう。エンジンは完全に止まり、ドアが勝手に開く。花火を支えながら、杏子は外に出る。
丁度、警察もこちらに到着したらしい。病院があの状態の今、限りがあるとはいえ動けるのは警官くらいだろう。
歩道へと歩き、花火を地面に座らせる。
額から流れる血を拭いながら、花火は呟く。
「…アイツは、どうなった?」
「頭から車に突っ込んでったよ。魔法少女でも、首が折れりゃ死ぬ。」
つまり、そういう事なのだろう。安全を確保出来たことに、花火は緊張を吐き出した。
「…とりあえず、ここから離れないとな。」
「賛成だ。サツが絡むとアタシも面倒だし。」
「俺なんてお守りを見られたら一発逮捕だ。」
あぁ。と、杏子から納得の声が漏れた。花火の持つシグザウエルは、海外ではお守りかも知れない。しかし、日本では違法な凶器だ。
ここから離れたいが、どうにも今回の事故で交通規制がかかったようだ。事故に釣られた野次馬や事故に巻き込まれた被害者で、この辺りはごった返している。車で向かっているであろうハルは、今頃何処にいるのだろうか。
「ハナビ…?ハナビじゃないか!?」
声のした方へ顔を向けた。そこには、スーツを着た金髪の外国人がいた。切羽詰まったような様子で花火達へと走ってくる彼に、杏子は警戒を強める。
「知り合いか?」
「いや、会ったことは…あぁ。思い出した。」
紺のスーツと金髪、年齢は30代後半ぐらい。初めて会ったのは今回のループの初日。
ヘンリーだ。
綺麗なスーツが汚れる事も気にせず、ヘンリーは花火の元まで走ってきて膝をついた。
「大丈夫かいっ?何でこんなことに…。」
「あー…ヘンリー。あんまり騒がれるのは困るんだが…。」
「ギャングと喧嘩でもしたのかい?せっかく会えたのに、これじゃディナーも行けないじゃないか。」
胸ポケットからハンカチを取り出し、財布から取り出した袋を開ける。中には液体が入っていたのか、それをハンカチに浸して花火の額の傷口へと押し当てた。
染みるような痛みに花火が顔を顰める。
「っ…。」
「今のは消毒液だ。ホラ、これでしっかり押さえて…。とりあえず、私の車に乗るといい。離れるけど、病院に連れて行こう。」
杏子が花火を見る。初対面の杏子としては、この男が信用できない。
先ほどから2連続で襲われ、両方が外国人なのだ。3回目がある可能性を考えるべきだし、タイミングも良すぎる。
花火も、正直彼を怪しいと考えている。
風見野で初めて会った時、仕事の休憩中だと言っていた。スーツを着ているなら、今日もそうなのだろう。
だが、ここは東京都内だ。風見野までは車で1時間以上の距離。ここにいる理由がわからない。
だが、ここで断るのも勘付いたと怪しまれかねない。
「…わかった。ならとりあえず彼女も一緒に頼む。」
「もちろん。君は、ハナビのガールフレンドだネ?」
「ちげぇよ。ただの友達だ。」
素っ気なく…だが、しっかりと言葉を返す。
そんな彼女の態度にも、ヘンリーは笑顔のままである。
ヘンリーは花火を背負い、歩く。その後ろを杏子がついて行く。
少し歩いた先に、ブルーの車が路上に止まっていた。
花火を後部座席に座らせ、杏子もその横に座る。ヘンリーは運転席に座り、エンジンをかけた。
「さて…まずはその怪我の治療が必要だネ。あ、そうだ…ホラ、携帯電話だよ。」
「…助かる。」
ヘンリーの携帯電話を受け取った花火は、早速ハルに電話をかける。
1コールもしない内に、慌てた声が聞こえてきた。
『ハナビ!大丈夫か!?』
「何とか、大丈夫だ。そっちは?」
『もうすぐ東京って所だ。ヤケに道が混んでいてね。』
「あー…なるほど。こっちもトラブル続きだ。」
ハルの到着はどうにも遅れそうだ。しかし、見知った人の声が聞けたのは精神的にも落ち着ける。
命がけの逃走劇は、平和な世界で生きてきたはな花火には刺激が強すぎる。
「とりあえず合流したい。そこで、何があったのか話すよ…。」
『わかった、場所を決めよう。』
ヘンリーに目的地を確認し、住所をハルへと伝える。電話を切り、ヘンリーへ返した。
「助かったよ、ヘンリー。」
「構わないさ。頼られるのが好きでネ。」
「それより、何処の病院に行くつもりなんだよ?」
杏子が目的地の詳細を訪ねる。その言葉に、ヘンリーは笑顔のままこう返した。
「私の家だネ。」
「「…はぁ?」」
☆☆☆☆
「…。」
夕空の中、美樹さやかは1人で帰りの道を歩いていた。その表情は、普段の元気な印象は見られない。
今日、志筑仁美から話があると声がかかった。
放課後に、何の話なのかと聞いたのが、先程。
内容は、上条恭介の話。
聞けば、仁美は恭介のことが好きだという。そして、その事を恭介に伝えるつもりであるという事。
さやかとは親友であるからこそ、その事を伝えておきたかった、という事。
どう答えていいのかわからなかった。
確かに、さやかは恭介に恋をしている。幼い頃から、ずっと彼が好きだった。彼と恋人になれるなら、それは幸せな未来だと思う。
だが、それが恭介の幸せなのかはわからなかった。
美樹さやかの願いにより、彼の左手は事故で動かなくなる以前に回復した。
回復した翌日に、さやかの前で弾いてくれた演奏は、彼女にとってこの世で1番に素敵なモノであった。
とにかく嬉しかった。彼がまた、大好きなヴァイオリンと向き合うことが出来るのが、何よりも幸せだった。
さやかは思う。
自分よりも仁美と一緒にいる方が、恭介にとって幸せなのではないか。
仁美は自分と違い、要領も良く、頭も良い。見た目も綺麗で、何よりも優しい。
しかし、さやかもまた、恭介の事が好きなのだ。そんな理屈でどうにかなるなら、ここまで苦しくはならない。
とにかく苦しかった。
親友として、仁美の恋を応援したい。
だが、それは同時に、自分の気持ちを抑え込む事になるのではないか?
いつもならこんな時、無愛想なもう1人の幼馴染みが近くにいた。
彼ならきっと、この問いの正解を教えてくれるのではないか。
いや、彼の事だ。最後は自分で決めろと突き放すだろうな。
そんな事を考えて、思わず笑みが漏れる。
こんな時でさえ、美樹さやかは祭花火に頼らなければならないらしい。
いつも隣にいた花火がいないだけで、自分の心がここまで脆くなるとは思わなかった。
今まで対等だと思っていた彼に、実際はおんぶに抱っこ状態だったと思わなかった。
それが、たまらなく悔しかった。
下を向いて歩く彼女の前に、影が見える。どうやら、目の前に誰かがいるらしい。
ふと顔を上げると、そこには黒髪の少女がいた。
辺りには、人気は無い。いるのは、美樹さやかと彼女だけだ。
「…何のよう?」
思わず、キツい口調になる。せっかく自分を見つめ直せる時間が出来たというのに、酷い邪魔が入った。
暁美ほむら。
先月からさやか達のクラスに転校してきた少女。魔法少女であり、冷たい嫌な女。それが、美樹さやかから見た彼女の印象だった。
魔女に初めて襲われた時、まどかに銃を向けていた。咄嗟に消火器を吹き付けて、まどかを助けた。
キュウべぇという、猫のような生物を襲っていたようで、それを庇うまどかに銃を向けていた所だったらしい。
そのキュウべぇの話を聞き、魔法少女になる事を決めたさやかにとっては、暁美ほむらは悪い魔法少女なのだ。
「美樹さやか…貴女に少し、お願いがあるの。」
「お願い?何で私があんたの話を聞かないといけないわけ?」
「貴女が、まどかの次に適任だからよ。」
ほむらの言葉に眉を潜めた。一体、何の話なのかがわからない。
続きを促すように、顎で使う。そんな態度にも、ほむらは顔色ひとつ変えずに続けた。
「祭花火と会わせて欲しいの。」
「…花火に何の用?」
苛立ちが増した気がした。花火とほむらには、ロクな接点は無かったはずだ。花火はメタルギアの件もあって、最近学校を休みがちだ。ほむらが転校してきた時も、学校には来ていたが授業中も含めてずっと寝ていた。
彼女と会話していた記憶もない。
「貴女には」
「関係あるに決まってるでしょ?あいつは私の友達なんだから。」
ほむらの言葉にかぶせる。関係無いなどとは言わせない。もし、花火に害をなそうとしていたなら、彼女を許すわけにはいかないのだ。
「…安心して。彼に手を出すつもりはない。」
「だったら何をするつもりよ…っ。勿体ぶってないでさっさと話したら?」
さやかの口調がだんだんと荒くなる。ほむらが、花火に話したい内容を聞くまでは、花火と会わせるつもりはない。
それが原因で花火にもしもの事があれば、さやかは自分を許せなくなる。
さやかの意思が通じたのか、ほむらは1度目を閉じてため息をついた。少し間が空き、その間に話す内容を決めたのだろう。さやかに内容を話す。
「仕方ないわね…いいわ、貴女にも声をかけるつもりだったから…。彼が何の目的で魔法少女と関わっているのか知らないけど、出来れば身を引くように伝えたいの。」
「…どういう事よ?」
「私には時間がないの。貴女も含めて、複数の魔法少女の力がいるのよ。だから、よくわからないお遊びをしている彼に、こちらの世界から離れてもらうのよ。」
込み上げる怒りを抑え込む。ほむらの言葉に、思わず手が出そうになった。
花火から聞いた話…。何度も過去に戻り、その度に苦しんでいたであろう。今も、その地獄から抜け出そうと必死になっているのに、それをお遊びとバカにされたのだ。
彼女が、花火の事情を知らないからこそ耐えようと思ったが、そうでなければ剣を抜いていた自信がある。
「…それで、あんたの事情って何よ?」
「…もうすぐ、ここに【ワルプルギスの夜】が来るわ。」
「ワルプルギスの夜?」
「結界を必要としない巨大な魔女よ。其奴が来たら、見滝原市は崩壊するわ。」
その確信めいた発言に、さやかは花火達との会話を思い出す。
花火が魔法少女と関わる事になった原因。
花火がメタルギアと関わる事になった原因。
花火が平和な日常から弾き出された原因。
もしかして、もしかしたら…。
「…なんで、そんな事が分かるのよ?」
「…どうせ信じないでしょうけど、一応話すわ。
私は1ヶ月後の未来から来たの。」
さやかの頭の中で、パズルのピースが組み上がる。
特別な力なんて無かったはずなのに…。自分が知らない間に毎日苦しんでいた幼馴染みの、目的。
それが、今ーーー目の前にいる。
「…そう…。なら、あんたが自衛隊の基地から武器を盗んだのよね。」
「…何の話、かしら?」
困惑が、ほむらを包む。
今まで、この話をした時の反応は様々だったが、大体は否定からのスタートだった。
あっさり信じられた上、自分しか知り得ない筈の行動を知られていた事に驚いた。
「だって、時間を止めるか、巻き戻すのがあんたの魔法だから。武器がないんじゃ、調達するしかないもんね…。」
「…どうして、それを?」
気味が悪かった。目の前にいるのは、間違いなく美樹さやかだ。人間で、魔法少女。決して魔女なんかではない。
なのに、この胸のざわめきは何なのだろうか?
さやかから発せられる何かに、ほむらは気圧されていた。
さやかは、溢れる怒りを押さえつけられないでいた。
不器用で、繊細で、皮肉屋なところもあるが優しくて、そんな幼馴染みを苦しめている原因が目の前にいる。
それが、どうしても許せなくて…。
「あんたが…っ。あんたが、花火を苦しめたのかぁ!」
「っ!?」
遂にその怒りは溢れ出す。激情のまま、さやかは魔法少女へと変身して、ほむらへと切り掛かった。
まどマギらしさ(絶望)
メタルギアらしさ(凄惨)
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待ってます。