MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
佐倉杏子は、彼の育成に便利な存在だ。時に師となり、壁となり、友となる。
ザ・ボスと比べると見劣りしてしまうが、それに近しい立ち位置にいてくれると心強い。
だが、それは高望みだろう。
縛られない存在、それが彼女だ。
15
2002.05.21
音色が聞こえる。
それなりに大きな会場の舞台の中心で、小さな少年がヴァイオリンを弾いている。その音は会場を包み、その旋律は人の心を動かせる程のモノだった。
音色が聞こえる。
誰もが、少年に視線を注いでいた。ただ、彼の奏でる音に聞き惚れる者もいれば、その才能に未来を見た者もいた。
音色が聞こえる。
観客席に、2人の子供がいる。少女は、奏でる音と共に踊る少年を見ていた。
素敵だと、綺麗だと感じていた。少女は、少年に夢中だった。
その美しいものに、目を輝かせていた。
音色が聞こえる。
観客席に、2人の子供がいる。もう1人の少年は、そんな少女を見ていた。
舞台でヴァイオリンを弾く少年に見惚れている少女の横顔に、もう1人の少年は見惚れていた。
綺麗だと思った。その笑顔が、これからも続く事を願った。それを、守ってやりたいと思った。
音色が聞こえる。
1人は、音の世界で生きたいと願った。
1人は、共に歩きたいと願った。
1人は、それを護りたいと願った。
これは、初めての◼︎だった。
☆☆☆☆
2011.10.01
4人を乗せた車は、人のいない廃工場に止まった。辺りはすっかり暗くなり、工場内は明かりが無いと何も見えないくらいだ。
ハルが車を中に止め、懐中電灯を照らす。機械類は既に撤去されたのか、置いてあるのは鉄屑の入った大きなカゴくらいだ。
奥に懐中電灯の照らす先には、扉が一つある。
「…ここは?」
「ハナビからの連絡で、情報が漏れてた可能性が出てきただろ?だから、拠点を変えることにしたんだ。ここは、君の家に行く前に用意していた場所さ。」
花火の家から必要最低限の物だけを回収し、彼らを迎えに行くために車を走らせたハルは、車に積んでいた荷物を持って扉の奥へと入っていく。
室内はそれなりに子綺麗に掃除されていた。恐らく、パソコンや装備を保管するために必要だったのだろう。
広い空間では無いものの、一時的な拠点としてなら十分活用できる。
壁には、見滝原市の部分を拡大した大きな地図が広げられている。色付きのマーカーで塗られているのは、有事の為の逃走経路だろうか。
それを、見知った1人の男が見つめていた。
「おまたせ、スネーク。」
「戻ったか…。ソイツは?」
スネークが、ヘンリーを見る。その鋭い眼孔に臆す事もなく、ヘンリーは落ち着いた様子で近付いていく。
「はじめまして、スネーク。私はヘンリー…CIAの人間です。今回は、貴方に協力を求めに来ました。」
「CIA…アンタ達が出張るような事があるとはな…。」
「アメリカの失態でこの国が戦火に包まれようとしています。我々も、余裕がないのでネ。」
「詳しい説明はこれからするよ。ハナビ、まずは君の話を聞きたい。」
「…わかった。」
花火は、今日1日の出来事をハルへ伝える。
矢崎との会話、自分の右眼の件、病院での戦闘、リトライとブラインドの情報、マミが足止めの為にここにいない事。
話終わり乾いた喉を、ペットボトルの水で潤した。
「…なるほど。彼女との連絡は?」
「…アタシは電話を持ってないし、花火のも落としちまった。マミは早々簡単にヤられる奴じゃない。今頃、花火の家に戻ってるんじゃねぇか?」
「だとすれば、どうにかして合流しないとな。オタコンが言った通り、俺の家は盗聴器か何かで情報が筒抜けの可能性もある。出来れば、自分の家に戻ってくれてる方がありがたいんだが…。」
必死に…そんな表現がわかりやすい。
杏子も、花火も、マミが生きている事を信じている。いや、信じたくて仕方ないといったところだろう。
それがどれほど夢物語なのかも分かってしまう程に、彼らの過ごしたこの数日間は非日常だ。
杏子は慣れているかも知れない。例えマミが死んだとしても、その心は折れたりはしない。
それは、スネーク達とは別の世界ではあっても、命をかけてきた下地があるからだ。
魔法少女とは、夢や希望の象徴として存在する。願いを叶えるという行為は、その年頃の子供達にとっては煌びやかに映るだろう。
しかし、実際は私欲を無理矢理実現させているだけだ。努力もなく手に入る希望に、輝かしいという表現は少し過敏だ。
悲しい事に、その代償がどれ程暗いモノなのかを、人はその時が来るまで気付く事はない。
後悔先に立たず。それを佐倉杏子は理解していた。
花火は、ただただ気付かない振りをしている。彼女と違い、花火にはその下地がない。
花火が夢物語に憧れるような人間ではない事はわかっていても、現実を見れているかと言われると疑問が浮かぶ。しかし、それは当然なのだ。
花火の知る現実は、決してこんなに薄ら暗いモノではない。
杏子やスネーク達が見てきた現実と、花火の見てきた現実はあまりにもかけ離れていた。
それが、花火に巴マミの生存を信じさせている。
今この場で、マミが生きている事だけを信じているのは、祭花火だけだった。
「…お前の、目の事だが…。」
スネークは、話題を変える事を選ぶ。今この場で、花火に現実を突きつけるべきなのだろう。しかし、それをすれば花火は無理にでもマミを探しに飛び出すだろう。それだけは避けなければならない。
スネークの言葉に、花火が思考の海から這い上がった。
「あ、あぁ…。どうにも、まだよくわかっていないんだけどな…。」
「グリーフシードの事は、サクラの方が詳しいだろうけど…可能なのかい?」
花火の言葉は、その心境そのままだった。突然、自分の頭蓋骨が機械で、右眼が魔女の卵だと言われても困る。そして、それが改造されているとくれば、あまりにも情報過多な状態だろう。
「アタシにわかるかよ。アタシらにとって、グリーフシードってのはあくまで魔力を使えるようにする為の回復アイテムだった。確かに、穢れの溜まりすぎたグリーフシードは羽化して魔女になる。だからって、そのエネルギーを怪我の治療に使うなんて話がぶっ飛びすぎてる。」
魔法少女としての立ち位置からしても、矢崎の話した内容は眉唾物だった。
そもそも、そんな事に応用出来るなんて話自体、想像した事もない。魔法少女が魔力を使う際に発生する穢れが、人の傷を癒すエネルギーとして使用出来るとは考えも付かない。
ガソリンを使って走る車から漏れる排気ガスを、別の事に運用しようと思わないように。
「ハナビの眼に関しては、これから解明していくしかないね…。」
「俺としては、あの気味の悪い物体が身体に入ってるのは容認したくはないんだけどな…。スネークは、ヤザキコーポレーションに入ったんだろ?なら、グリーフシードを見たんだよな?」
「あぁ。確かに、アレが人の身体に埋め込まれてプラスの働きをするとは思えないな。オタコン、本当に調べられるのか?」
「だろ…?いや、ちょっと待て…。調べられるってどういう意味だ?」
「もちろん、グリーフシード・メイクの研究だよ。確かに、ハナビの眼を取り出すわけにはいかないけど…幸い、もう一つあるみたいだからね。」
テーブルに置いてあるアタッシュケースをハルが開ける。そこには、あの時写真でしか見た事のなかったグリーフシード・メイクが入っていた。
「…マジかよ。」
「コレを調べる事で、ベルトラインの目的がわかるかも知れない。なら、実物を入手するのが1番だろ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるハルに、花火は言葉が出ない。確かに、実物があればわかる事も増えるかも知れないが、まさか盗み出すとは思わなかった。
「発信器の有無も確認済みだ。コレには何もなかった。」
「ありがとうスネーク。サクラ、君の見てきたグリーフシードとこのグリーフシードに、何か相違点はあるかい?」
ハルの言葉に、杏子はグリーフシード・メイクを観察する。少しして、ポケットからグリーフシードを取り出すと、グリーフシード・メイクの横に置いた。
隣で共に観察していたハルが、2つのグリーフシードを見比べる。
「…形が違うね。」
「グリーフシードにも多少のデザインの違いはある。魔女にも種類があるからね。でも、形が違うってのは初めてだ…。」
本来グリーフシードは、真ん中の部分が球体となっている。それに対して、グリーフシード・メイクはその部分が卵型に変わっていた。2つを見比べるとその違いが良くわかってくる。
グリーフシードには、羽化する魔女によって上部のエンブレムと球体の装飾に違いがある。
グリーフシード・メイクにも上部にエンブレムが施されてはいるが、本来のモノと比べると幾らか簡易的に見える。更に、卵型の部分は球体の部分とは違い、全体を包むような装飾は無い。
更に、下部の針の部分も、グリーフシードと比べると短い事がわかる。
「…まるでソウルジェムに針をつけたみたいだよな、コレ…。」
杏子の呟きが、その異様さを表している。
まるで小さくした黒いソウルジェムに、エンブレムと針をつけたモノ。それが、グリーフシード・メイクを表現する言葉だった。
「サクラ、グリーフシードは消耗品と言ってたけど、それはどうやって判別しているんだい?」
「わかりやすい目安みたいなのはねーよ。グリーフシードを長い事使ってると、何となくその分量ってのを感覚で覚えるんだ。」
「コイツはどうなんだ?長く使えるのか?」
スネークの疑問に答える為、杏子は自らのソウルジェムを取り出した。目配せで少し距離を置くように伝え、ゆっくりとグリーフシード・メイクに近づける。
スネークはハルや花火の前に立ち、いつでも対応出来る様に銃を構えた。
少量の穢れを纏った杏子のソウルジェムから、グリーフシード・メイクへと穢れが移っていく。ソウルジェムが元の輝きを取り戻しても、グリーフシード・メイクに変化は見られなかった。
「…どうだ?」
「さぁな…。いつもなら、後1回くらいは使えるとは思うけど…。」
「ここまで反応が無いとは思わなかったよ。」
落胆の空気が広がる。現状だと、これ以上分かる事はなさそうだ。ハルは、アタッシュケースを閉じた。
「それで…これからどうする?」
椅子に座った花火が呟く。現状、打てる手は出尽くしたと言ってもいいだろう。
ベルトラインと関わりのあった矢崎は殺され、襲撃してきたリトライは死んだ。ブラインドは不明だが、マミと戦闘後にどうなったのかは不明だ。
「ヘンリー、君は何かわからないか?」
「私の方でも探してはいますが…かなり難航していてネ。パソコン、お借りしても?」
ハルの許可を取り、ヘンリーはポケットに入れていたUSBを取り出した。表示されたファイルを開くと、会社の名前が記載されたリストが現れる。
「私がヤザキコーポレーションに潜入してから、職員の目を盗んで獲得した取引先のリストです。ただ、想定よりもその範囲が大きすぎてネ。」
「日本に留まらず、海外にも製品が送られている…確かに、苦労しそうだね。」
数ある医療機関だけではなく、小規模な傭兵会社の名もそのリストには記載されている。製品も、大型の医療機器から義手・義足等の小型のモノまでバラバラだ。
「そういえば…。」
「どうしたんだよ花火、何か気になる事でもあんのか?」
「いや…。以前、恭介…俺の友人の手の治療が出来ないか調べた時も、ここの製品だった事を思い出してな…。」
動かない彼の左手をなんとかする為、わからないながらに補助器具のようなモノがないか探し回った。その時見つけたのは、手首を覆うような機械だった。
今では、必要のないモノだ。
上条恭介の左手は、さやかの願いにより直ってしまっている。
花火の言葉を聞いて、杏子の眉間にシワがよる。
「あー。嫌な奴の事思い出させんなよな…。」
「…すまん。しかし、そんなにさやかが嫌いか?」
「当たり前だろ?あんな奴、アタシは認めない…。」
静かな怒り。
根本的な部分での相性が悪いのか。杏子はさやかをやたらと毛嫌いする。
花火としては、明るい性格の2人は仲良くなれそうだと思っていたが、そうでもないらしい。出来れば仲良くしてもらいたいが、押し付けるわけにもいかない。
「…なんだよ?」
「いや…すまん。」
「謝んなよ、バカ。アタシだって、私情持ち込んで足引っ張るつもりはねぇ。」
顔に出ていたのだろうか…。花火の言わんとしている事を察した杏子が、不貞腐れたかのように呟く。そういう対応が出来るあたり、やはり佐倉杏子という人物は人が良いのだろう。
そんな彼女へ、花火は心の中で感謝を送る。口にしてしまえば、彼女は怒るだろうから。
☆☆☆☆
「…花火君。」
鹿目まどかは、自分の部屋でじっと携帯を見ている。
開いているのは、メール受信画面。待っているのは、祭花火からの返信だ。
今日も、彼からの連絡はない。午前中に送ったメールを、果たして見てくれているのだろうか?
「まどか、花火に3日に顔出すように伝えといてくれない?」
母、詢子から言われた言葉に返事をして、すぐに電話をかけたが繋がらなかった。仕方なくメールを送ったはいいが、やはり彼からの返信はない。
それが、まどかへ寂しさを与えてくる。
鹿目まどかは祭花火に恋している。
理由…と言われると難しいが、やはり真っ直ぐ自分を見てくれた人だからだろうか。
心身共にボロボロの彼を見つけた時は、とにかく助けないとという気持ちが強かった。
目を覚ました彼の、まるで全てに絶望したような瞳を今も覚えている。
「なんなんだよ、お前!俺の事なんかどーでもいいだろ!?」
放っておいてくれと突き放す彼に、そんな事が出来ないと世話を焼くまどか。我慢の限界だったのか、花火が叫んだ言葉にまどかの弱い心が揺れる。しかし、その時のまどかはそれを抑え込んだ。ただがむしゃらに、彼を助けたかった。
「そ、そんなこと…っ。そんなこと、言わないでよ!貴方が悲しいと、悲しくなる人だっているんだよ!」
目に涙を浮かべて、出した事の無いような大声を上げたのを思い出した。今となっては、凄く恥ずかしい。
熱を帯びる顔を左右に振り、冷ます。
想えば、アレから彼は変わった気がする。態度も、同年代より大人っぽくなった。普段は誰にでも無愛想な態度ばかりなのに、まどかと話す時はいつも穏やかな印象で…。なんだか嫌な人みたいだが、その特別感が嬉しかった。
「…でも、名前は呼んでくれないよね…。」
花火が名前を呼ぶのは、幼なじみである美樹さやかと上条恭介だけだ。それ以外だと、まどかの両親である詢子と知久くらいだろうか。同年代だと、他の人の事は全て名字で呼ぶ。
さやかに申し訳ないが、その事にまどかは少し嫉妬している。
出来れば、名前で呼んでほしい。きっと、それは凄く幸せな事なんじゃないかと思う。
でも、面と向かってそれを伝えるのは、恥ずかし過ぎて戸惑われる。
それでも…頑張ってお願いしてみたらどうなるのだろう?
「……っ!うぅ〜…っ!」
ベッドにうつ伏せになり、ぬいぐるみに顔を埋めるまどか。足はバタバタと動き、それなりに綺麗にしている室内でも埃が舞う。
あまり煩くすると怒られると思ったのか、足の動きがピタリと止まった。
「…花火君のバカ。」
思わず付いた可愛らしい悪態は、恋する乙女の発作のようなモノだろうか。
ぬいぐるみの中で籠った声は、幸い誰の耳にも入らなかった。
ぬいぐるみから少し顔を上げ、その視線が携帯電話を捉えて…まどかの表情が悲しそうになる。
そんな彼と連絡が取れないのは、まどかの心に寂しさを募らせる。
いっその事、会いに行ってしまおうか…。
そんな事を考え、自分に言い聞かせる。ダメだと。
結局この前も、何をしているのか教えてはくれなかった。気付けば、さやかだけではなくマミもその秘密を共有しているのに。
そこから導き出される結論に、まさかと否定する。
しかし、もしかしたらと思う自分もいるのだ。
魔法少女。
まどかが知る、唯一の非日常。もし、魔女のような化け物との戦いに巻き込まれているなら、花火はどうなってしまうのか。
花火は、普通の人間だ。
魔法少女でもない彼では、魔女の結界に入ってしまった時点で助かる見込みはない。
もし、そんな事態に陥ってしまったら。それで、花火が死んでしまったら…。
まどかの瞳に涙が浮かぶ。
「…そんなの、ヤだよぅ。」
しかし、まどかには何もできない。本当は、助けたくて仕方ないのに、まどかにはその一歩を進む勇気が無かった。
「まどかっ!」
「ひゃぅっ!?」
そんな彼女の背後から、切羽詰まったような大きな声が聞こえる。小さな悲鳴を上げながら思わず距離を取りながら後ろを振り返る。
そこには、白いネコのような生物がいた。赤いクリクリとした眼は、その生物を愛くるしい印象に見せる。
そして、まどかはその生物を知っていた。
「…キュウ、べぇ?」
「ごめんよっ、でも大変なんだ!」
キュウべぇ。そう呼ばれた生物は、その口を閉じたまままどかに焦ったようにまくし立てる。一体、何処から声を出しているのだろうか?それを疑問に思う人物は、この場には存在しなかった。
そしてキュウべぇから放たれた次の言葉に、先程まで寂しさと切なさ、少しの愛おしさを行き来していた鹿目まどかの心は凍り付いた。
「祭花火が魔法少女との戦いに巻き込まれたんだ!大きな怪我もしていた!」
「…え?」
思考が止まる。キュウべぇの言葉の意味がわからない。理解できない。理解したくない。
しかし、時間は彼女の脳を回転させてしまう。嫌でも、キュウべぇの言葉の飲み込んでしまう。
停滞、後に疑問。
何故?どうして花火が巻き込まれたのか。その理由を考えようと躍起になり、結局分からずじまい。結果、その事実を受け止めざる負えなくなる。
そして、否定。
花火が巻き込まれた、嘘だ。
怪我をしていると言った、嘘だっ。
もう、彼には会えない。
「嘘…嘘、嘘嘘うそ…っ。」
「まどかっ。落ち着いて!冷静になるんだっ!」
身を縮まらせ、肩を抱く。想い人に会えなくなる恐怖が、彼女をゆっくりと締め上げていく。その絶望に呑まれそうになって…持ち堪える。
「き、キュウべぇ!花火君は何処っ!?」
「今は誰かの車に乗っていたから、家に居るかも知れないっ!」
部屋を飛び出した。
急いで玄関に向かい、靴を履く。途中、知久から声をかけられたが、ちゃんと返事を返せていたかも思い出せない。
すっかり暗くなった道を、息を切らしながら走った。
「花火君っ、やだ、やだよぉ…っ!」
譫言の様に呟きながらも、必死に足を動かす。幸いだったのは、花火の家がまどかの家から比較的近い位置にあった事だろう。
まどかの体力は決して低くはないが、それでも部活動のしていない女子中学生の体力なんてたかが知れている。
そろそろ限界が近付いた辺りで、花火の家が見えた。限界だと溢す身体に鞭打ち、何とか家の前までたどり着く。
少しだけ、ほんの少しだけ息を整え、玄関のドアを叩く。
「花火君、聞こえる!?大丈夫なのっ、ねぇ!ここを開けてっ!」
一階の窓から光が見える。どうやら、誰かしら人がいるのだろう。しかし、誰もドアを開ける事はない。聞こえていないわけでもないだろう。つまり、中にいる人物はその余裕がないのでは…。なら、花火は…。
そこまで考えて、まどかはスペアキーの存在を思い出した。ポケットを弄り、何とか鍵を取り出す。震える手のせいで、上手く鍵が差し込めない。
何とか鍵を差し込んで、ドアを開ける。
「花火君っ!」
靴を乱雑に脱ぎ捨て、リビングのドアを開けた。そして、息を呑む。
空き巣に入られた被害者の部屋が、この様な感じだろうか。テーブルは倒され、その上に乗っていたであろう食器類が割れて床に落ちている。花火が普段愛用しているソファーも、外のカバーが破れ中の綿が飛び出ていた。シンク付近の棚も全て開けられており、入っていた生活用品もぐちゃぐちゃになっている。
それだけでも衝撃的ではあるが、それよりまどかの目を惹いたモノがある。
緑の長髪の子供がいた。長い髪はその顔を遮り、どのような表情をしているかもわからない。それよりも、身に纏う衣装に見覚えがない。
白い服…これを服と呼んでいいのだろうか。
袖の先端部分は、反対側の脇の下辺りで縫い付けられており、手を外に出す事は出来ない。強制的に腕を組ませるかのように設計されていた。
足にもベルトが複数巻かれ、自力で歩けないようにされている。
悍しいモノを見た時のような寒気が、まどかを襲う。絞り出すように、小さく呟いた。
「…あ、貴方…誰?」
「…ターゲット、確認。」
綺麗な声ではあった。だからこそ、その内容に恐怖を感じた。
ここにいる事が危険だと判断した本能が、まどかの身体を下がらせる。しかし、背中に何かが当たりそれは遮られた。恐る恐る、後ろを振り返る。
「ひっ…。」
誰かがいた。背丈はまどかよりも大きい。体格的に、成人の男性だろう。黒ベースのバトルスーツに身を包み、頭部はヘルメットで隠されて顔を見る事すらできない。その手には、テレビでしか見た事のない銃を抱えていた。
その場で崩れ落ちるも、何とか距離を取ろうと身体を動かす。あまりにも無機質なその存在に、身体が震える。
「…抵抗、面倒。生存してれば、いい。」
子供の声が聞こえる。何をされるのか分からないことが、ひたすらに怖い。
その声に反応するように、黒装束が動き出す。ゆっくり、ゆっくりとまどかへその手を伸ばす。
恐怖は、身体を硬直させてしまった。もう、逃げる事は叶わない。
「っ…。だ、誰かっ…助け、て…っ。」
絞り出した声は、まどかの最後の抵抗だった。きっと、誰にも聞き取れないような小さな声だった。それでも、まどかは生きる為に必死になった。
そして、それを拾える者もいる。
「まどかに、手ぇ出すなぁぁぁ!!」
リビングのガラスが砕け、青い閃光が黒装束を蹴り飛ばす。黒装束は、キッチンへと無様に吹き飛ばされる。
突然のことに強く目を瞑ったまどかは、恐る恐る目を開けた。
そこには、自分の親友が立っている。
「まどかっ、大丈夫!?」
「…さやか、ちゃん?」
その場にしゃがみ込み、まどかを心配そうに見つめるさやかに、まどかは未だに戸惑ったままだ。突然の事態の連続に、脳が追いついていない。
そこに、別の少女の声が聞こえてくる。
「美樹さやか、早く来なさい!」
「っと。わかってるっての!ほら、まどか行くよ!」
「えっ、ちょっと!?」
まだ現状からの回復が出来ていないまどかを抱え、さやかは外へと飛び出した。
外には、黒髪の魔法少女がいた。
それは、まどかもよく知っている少女。最近転校してきた、不思議な女の子。
「ほむら、ちゃん?」
「ごめんなさい、鹿目まどか。今は説明している暇はないの。」
「ほらっ、さっさと行くわよ!」
さやかはまどかを横抱きに抱えたまま走り出し、ほむらはその後に続く。
残されたのは、異様な雰囲気の子供が1人。
「…追跡。」
一言。そう呟くと、子供の胸元辺りが緑色に光る。それが、合図だった。
リビングの床に、緑の魔法陣が広がる。そこから、黒装束達がゆっくりと這い出てくる。
数は10人。そのどれもが、同じ背丈、装備をしていた。手に持つ銃迄も同じモノだ。
子供の発した言葉通りに、黒装束達は外へと飛び出していく。先ほど、さやか達が去っていった方向へと走り出した。
静かになったリビングで、子供は立ち尽くしたままだ。少しして、キッチンから黒装束が現れた。
ゆっくりと子供へと近づき、その身体を抱き上げる。
「…修復。」
黒装束のヘルメットにヒビが入っていた。それを見た子供は、そのヒビを指でなぞる。なぞられたヒビは、まるで消しゴムで落書きを消すかのように、綺麗に直されていた。
「…帰還。お友達。」
お友達、とは黒装束のことなのだろうか。子供の言葉に小さく頷くと、律儀に玄関から外へと歩きだす。
荒らされた花火の家には、もう誰もいない。
っぶねー。もうすぐで週一更新出来なくなるところだった。
いや、平日はお仕事もありますので、空いた時間にどうにかとは思ってたんですけどね。
今回平日で書いたのが500文字以下だったからさ(白目)
さて、そろそろ次の犠牲者が出る頃でごさいます(唐突)