MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
ソリッド・スネークは、肉体の老化によりポテンシャルが下がっている。場合によっては、死ぬ事も考えられる。
あの不屈とも呼べる血がそれを吉とするかは別だが。
どちらにしても、彼は巻き込まれざるを得ない。
16話
2011.10.01
静かな夜の住宅街を、3人の少女が駆けていく。それは部活動の為の鍛錬でもなく、若さ故の衝動でもない。
異常からの逃避だった。
「転校生っ、ちゃんとついてきてる!?」
「当然よ。それより、何処に向かうつもりなの?」
美樹さやかと暁美ほむら。
互いに相性が悪いと感じてはいるが、今はそれを飲み込み行動を共にしている。
あの後、2人は祭花火の家へ向かった。その間、2人は一切会話をしていない。
さやかは花火の家へと真っ直ぐ進み、その後ろをほむらは俯きながらも歩く。さやかへついて行きながら、ほむらはこれまでの事を思い出していた。
暁美ほむらは、魔法により過去へ移動する事ができる。
今まで何度もその力を使い、未来を変えようともがいてきた。
ほむらの願いはただ一つ。鹿目まどかの救済。
始まりに命を救われた。
病気で友達の1人もいなかったほむらの、大切な最初の友達。
10月16日に見滝原市に訪れる災厄の魔女【ワルプルギスの夜】と戦い、必ず命を落とす少女。
彼女を救う為、ほむらは魔法少女となった。
その困難な道を何度も繰り返した。
彼女のおかげで出来た友人達も、時には切り捨てた。
魔法少女の真実を知った時も、その心は折れる事は無かった。
全ては、友達を救う為。
そんな彼女に、新しい事実が判明した。
彼女の逆行に巻き込まれた少年の話。
今共に行動している美樹さやかの幼馴染みであり、鹿目まどかの想い人。
祭花火と暁美ほむらは、深い仲でもなんでもない。友達の友達。クラスメイトでしかない。
最初の印象も目つきの悪い男の子、といった感じだった。さやかとの掛け合いなんて、2人の仲を知らなければ嫌い合っている者達の会話にしか聞こえなかった。
そんな彼が、まどかと話す時だけは穏やかになる。暴言も吐かないし、皮肉めいた言い回しもしない。
3度目のループ。ほむらが、その決意を固めた時。まどかの最後の願いを、必ず叶えると誓った時。
その時も、彼に会った。
まどかに駆け寄ったその時の彼は、大きな安堵と、怒りを滲ませた表情をしていた。
彼がいつ、魔法少女の事を知ったのかわからないが、あの段階でループを自覚していたのかもしれない。
花火は、まどかに避難所へ向かうよう説得していた。キツい言葉を使っていたが、まどかの事を心配する故の言葉だったかも知れない。
最後は、無理矢理連れて行こうとしていたのを覚えている。
あの時彼に事情を説明していれば、何か変わっただろうか。
いや、何も変わらなかっただろう。運命は、そんな簡単に変えられない。
だって、たった1人を救う為に何度も同じ時を繰り返している自分がいるのだ。変わるわけがない。
「とりあえずここから離れんのっ!アイツらがなんでまどかを狙ったのか全くわかんないし、そもそも何で花火の家にいたのかもわかってないのよ!?」
さやかとほむらがあの場所に割り込めたのは、まさに奇跡だった。
ほむらと同じく、同じ時間を繰り返している花火の元へ向かう予定だったが、花火の家に近付いた時に見えた桃色の髪の少女の存在に驚いたものだ。
さやかが声をかけたが、まどかはそれに反応せずに慌てた様子で家に入っていく。何があったのかと怪しめば、花火の家から魔女とは違う魔力の反応を感じた。
ほむらも、さやかの声に思考を中断して顔を上げる。そして、切羽詰まった様子のまどかに違和感を覚えた。
さやかが知っている限り、今花火と共に行動しているのは杏子とマミだが、2人が無闇矢鱈に魔法を使うとは考え難い。そこに行き着いた時、さやかの脳裏に数日前の話し合いの事がよぎった。
もしかして、敵の魔法少女なのでは?
もしそうだとすれば、花火達はどうなっているのだろうか。
あの2人がいて、負けるとは思わない。しかし、逃げたりはしているかも…。
1度考えてしまうと、想像は悪い方へと流れていく。
とにかく今は、まどかを追わなければならない。
その思考を切り替えたさやかは、後ろにいたほむらへと向き直る。
ほむらも、さやかの表情と先程のまどかの態度から、何かの異常があった事を察した。
急ぎ花火の家へと向かい、リビングと外を繋ぐ大きな窓の前で止まる。偶然、カーテンの隙間から見えた光景から猶予がない事を理解し、さやかは窓を叩き割りリビングに入った。その勢いのまま、まどかの近くにいたフルフェイスのヘルメットを被った男を蹴り飛ばし、まどかを助け出した。
逃げながらも、さやかはこの状況の打破の為に頭を回す。しかし、都合良くそんなもの思い浮かびはしない。
そもそも、情報が少なすぎるのだ。
昨日の夜の段階で、花火は杏子とマミとの3人で病院に向かっている事がわかっている。しかし、その後どうなったかまでは分からない。
花火の家にいるはずのハルとスネークは、何故か家を留守にしていた。
代わりに家にいたのは見た事の無い服を着たさやか達より幼く見える子供と、ヘルメットを被った大男。どちらも、まともとは言えない服装をしている。
まどかに至っては、花火から極力家に来ない様に伝えられていた筈だったのに、こんな危険なタイミングで家にいた。
「まどかっ、花火に電話ってできる!?」
「う、うん。ちょっと待って…。」
さやかに抱えられながら、まどかは携帯電話を取り出した。走りながらの為、ブレて上手くボタンが押せない。
いや、コレは震えだ。
あの時に感じた生命の危機。
恐らく普通に生きていれば巡り合う確率は極めて低い恐怖が、逃げ出す事ができた今でもまどかを縛っている。
震える手でなんとか電話をかけた。繋がるまで待つ。
繋がらない。待てども、花火が電話に出ない。
不安が押し寄せる。こんな時に電話に出てくれないのが、何かの暗示の様に思えて嫌な気持ちになる。
「…出ない。」
「タイミング悪すぎ…っ。マミさんは?」
思わず出た悪態の後、次の提案。とにかく、事情の分かる誰かと情報の共有がしたかった。今ここにいる中で、メタルギアに関わる事を知っているのはさやかだけだ。
「…っ!?追ってきたわ!」
進展しない状況に苛立ちが募るほむらは、背後から伝わる嫌な気配に振り向き、叫ぶ。
その言葉に、さやかも後ろを確認して、驚く。
まだ離れてはいるが、複数人の男達が追いかけてきていた。そのどれもが、同じ姿をしている。
黒い防具にフルフェイスのヘルメット、両手で銃を持った兵士達。先ほど、さやかが蹴り飛ばした奴と瓜二つの集団。
「何であんなにいんのよ!?」
さやかの叫びにほむらは同意した。あの時、花火の家にいたのは2人だけだった。あの数の人員がいるなら、さやかが突撃する前に自分達を捕獲出来ていた筈だ。
どんな連中なのかわからないが、見た目からして普通の奴らではない。魔法少女とも違う脅威だ。
なら、アイツらも普通の人間ではない…?
「まさか、アレが魔法って事?」
「兵隊を増やす魔法っ!?まるで魔女の使い魔じゃんか!」
さやかの言葉は、まさに真実だ。
魔法少女は魔女になる。なら、使い魔を操る魔法少女がいても何ら不思議ではない。
問題は、あの黒装束達が人間と違う生物なのかの確認ができない事。
殺すという行為は、それだけで人の神経を蝕む。
心の有り様で魔女へと変貌する魔法少女にとって、負に傾く事は避けるべきモノだ。
悪感情はソウルジェムを濁らせる。魔女になってしまうのもそうだが、この状況で魔法が使えなくなるのは厳しい。
早い話、人間相手だと美樹さやかは戦えない。それが、ほむらの結論だった。
さやかが魔法少女になる経緯もあるが、普通の人間は簡単に殺しなんて出来はしない。
魔法少女なんて特別な力を得て気が大きくなっていても、魔女を殺すのとは訳が違う。
咄嗟の感情に任せて人を傷つける事はあっても、止めを刺すのは覚悟のいる行為だろう。
問題なのは、黒装束達が人間か使い魔擬きなのかだけではない。人間の形をしているという事だった。
「このままじゃ追いつかれるわ。ここで始末するべきよ。」
「あんなの、どうやって止めるつもりよっ?」
「使い魔と同じよ。殺すの。」
さやかが信じられないモノを見る目をほむらに向けた。そこで、ほむらの懸念が的中する。
やはり、美樹さやかは甘いのだ。
マミへの憧れが強いせいか、彼女は人を守る事に執着する。
魔法少女になる為の願いが今までと変わらないなら、余計にそういう思考に傾くだろう。
もし人を苦しめたなら、さやかは自分を許せないだろう。人を殺す事になれば、更に気を病むだろう。
上条恭介を救う事で得た力で他者を傷つける。その事を彼女は許容できない。
あまりにも魔女になる素質の高い魔法少女なのだ。
「あんた本気!?」
「私はやるべき事があるの。それに、アレが人間だとは思えないわ。」
「そんなのわかんないじゃない!」
「もし人間なら、彼女を助ける為に突撃した段階で乱入してきたはずよ。」
熱くなるさやかに、淡々と返す。冷静でいなければ、また取りこぼすことになる。ほむらは、それを理解している。
「今重要なのは、狙われているのが何の力も無い彼女だという事。あの数相手に、そんな事を気にしている余裕があるのかしら?」
「一々癪に触るわよねあんたって…っ。」
ほむらの言葉にさやかの怒りが増すが、そんな余裕がないことも理解していた。ここで仲間割れを起こしても、まどかに被害が出る可能性がある。なら、やれる事をやるしかない。
さやかは、腕の中で不安そうにこちらを見るまどかと目が合った。思わず、肩を抱く力が強くなる。
そうだ。彼女を守る力があるのに、何を躊躇しているのか。誰かの為の願いで魔法少女になったのだ。その力が、誰かの為に役立たない筈がない。
「…わかったわよっ。それで、どうやってアイツらとやり合うつもり?」
決意を終えたさやかがほむらへ促す。気に入らなくても、許せなくても、今この状況で仲間割れをしている場合ではない。
話を振られたほむらは、今の状況からの脱却の為に頭を回す。
現在、3人は住宅街から離れようとしている。ここからだと迎えるのは2つのルート。
1つは学校方面。時間が夜だという事もあり、人通りの少ない場所だ。ここならば、多少周りを気にせずとも戦闘が出来る。無関係な人間を巻き込む事もないので、自由に行動できる。しかし、それは向こうも同じ。今でこそ追いかけてくるだけだろうが、そんなところへ向かえば必ず銃を撃ってくる。
もう1つは駅方面。この時間でも人はいるだろうし、人混みに紛れてやり過ごす事が出来るだろう。だが、本当に逃げ果せる事が出来るかと言われれば不安が残る。それに、黒装束達が周りの被害を気にしないのであれば、それこそ地獄の様な光景がまどかの目に映るだろう。それは極力避けたい。
「…学校へ向かうわ。今の時間なら、人もいない筈…。」
「了解!まどか、ちょっとスピード上げるから…っ!」
前者を選ぶ。もし、今後協力を取り付けるのであれば、さやかの心情を逆撫でするような行動は避けるべきだ。だとすれば、周りを巻き込まない様に配慮するのがベストだろう。
地面を強く踏みしめ、3人は学校へと走り出した。
しばらくして、校門が見えた。案の定入り口は閉鎖されていたが、ここにいるのはアスリートを超える肉体を持つ魔法少女だ。
ほむらも、まどかを抱えたままのさやかも、簡単に塀を飛び越える。
少しして、黒装束達が追いかけてくる。
奇襲を受けるのも面倒なので、極力見失わないレベルの距離を保っていた事が功をなしたのか。
10人全員が、列を乱さず学校へと向かってきていた。
「まどかはちょっと離れてて!」
「う、うん…!」
「美樹さやか。私が援護するから、前衛をお願いするわ。」
「なら、あんたにまどかは任せるからっ!」
同じように塀を飛び越えてきた黒装束へ向かい、さやかは接近する。
さやかの魔法は、数多の剣を生み出せる。
それを自らが走るルートに予め用意して、その間を駆けながら剣を手に取り、投擲していく。
飛んでくる無数の剣を避けながら、黒装束はさやか目掛けて走る。途中、奥にいた2人の身体に剣が深々と突き刺さった。
「…っ!」
その光景にさやかの顔が強張るが、すぐに気持ちを切り替えたのか投擲をやめない。
銃を盾にしようとした1人が、その銃ごと剣で縫い付けられ蹲る。
ある程度の距離にきてから、黒装束がその銃の引き金を弾く。両手で構えたサブマシンガンが音を響かさせる。
しかしそんなモノでは魔法少女は、美樹さやかは止められない。
走る方向を横へ変える。回り込むように走りながら、その銃弾のスピードから逃れる。
的確に剣を投げ、更に2人の黒装束の銃を弾き落とした。
その隙を突き、あっという間に距離を縮めれば、両手に剣を持ち、2人の四肢を斬りつける。
立つ事が出来なくなったのか、2人はその場に崩れ落ちた。
1人が、銃を捨てる。腰からナイフを引き抜き、さやかへと切り掛かる。
それを防ぎ、姿勢を下げながら回転、その勢いで剣で横一線に膝を斬りつける。
両膝をついた1人の背中を蹴り、うつ伏せになったところで肩あたりに剣を突き刺した。
動きの止まったさやかの背後から、2人がナイフを持ち襲いかかる。それを高く飛び上がり回避する。
2人の背後に着地して、振り向いたところで動体に剣撃。あっという間に2人は崩れ落ちた。
残り2人は、さやかを挟み込むように向かってくる。一度距離を取ろうと足をーーー動かせない。
先ほど倒れた2人が、さやかの足を掴んでいた。
「やっば…っ!?」
「さやかちゃん!?」
思わず飛び出たまどかの悲鳴に、応える者がもう1人。
大きな発砲音とともに、さやかの背後から迫っていた1人が頭を揺らして倒れた。
まどかが隣を見れば、大きなライフルを構えたほむらが片膝立ちで引き金を引いていた。
そして、さやかに向かって叫ぶ。
「コイツら、血が出ないわ!」
つまり、それは人ではないという事。
その言葉に、さやかの心が決まる。
両手に持つ剣を、足を掴む2人の頭部へと突き刺した。一度身体が震え、沈黙した事を確認する。
ナイフを振りかぶる最後の敵の懐へ飛び込み、ナイフを持つ腕を切り落とす。硬直した1人の首へ、剣で一線。
頭のなくなった1人は、ゆっくりと地面に伏した。
☆☆☆☆
「…眠れねぇのか?」
工場の事務室の奥。仮眠用に設けられたであろう小さな部屋の中で、簡易ベッドに座る花火に声がかかる。
向かい側に置かれたベッドに横になる杏子からの言葉に、花火は少し悩んでから言葉を返した。
「…いや、鹿目はどうしてるかと思ってな…。」
「なんだ、あの子か…。やけに気にするじゃん。もしかして好きな人か?」
「そんなんじゃない。ただ…なんだ。家族みたいな奴だよ…。」
「家族、ねぇ。」
家族。
祭花火に、血の繋がった家族はいない。1人、存在の見えない父親がいるが、それが何処にいるのかも分からない状態だ。
鹿目家は、そんな花火にとって家族と呼べる人達だろう。
今回のループでは、まどかの誕生日プレゼントすら買えていない。そんな余裕も無かったし、それどころでは無かったのは事実だ。だがそれが、花火の心に申し訳ない気持ちを湧き上がらせる。
本当なら、彼女と共に平和な日常を過ごしたがった。もちろん、まどかだけじゃない。
さやかとの勉強会や、マミとのひと時もそうだ。どれも、花火にとってかけがえの無い穏やかな日々。気付けば、それを堪能する余裕もなくなっていた。
どうしてこうなったのか。そう言われても、何が原因かさっぱりだ。
時間移動する謎の魔法少女。いや、そいつだけが悪いわけじゃない。寧ろ、この状況もループが無ければ辿り着けなかった。
魔法少女やメタルギア等の非日常。果たして、この2つは巻き込まれたと言えるのか。どちらかといえば、踏み込んだのは自分からだった気がする。
ベルトライン。花火の母が作った組織。今では、周りを巻き込んで暴れ回るテロリスト集団だ。
どれもが悪い気もするが、本当に自分はこんな事がしたかったのか。普通に生きたいなら、この街から離れれば良かったのではないか…。そう考えて、否定した。
どれほど逃げようが、この後に起きる結末は世の中を巻き込む。そうなれば、間違いなく後悔するだろう。
友人も、家族も死ぬ。それだけは避けたい。
「…なぁ。アンタの母親って、どんな奴だったんだ?」
杏子の言葉で、思考の海から意識が浮上する。花火は過去の事を思い出しながら、母の事を話す。
「…とにかく、凄い人だったよ。俺が知ってる限り、なんでもできた。」
「えらく抽象的だな。」
「今よりも子供の時の記憶だからな…。料理も美味いし、綺麗好きだから家の中も埃一つ落ちてなかった。頭が良くて、人にモノを教えるのも上手かったな…。身内贔屓だろうが、見た目も綺麗だった。」
思い出すのは幼い頃の思い出。
花火が語学の勉強を始めたのは、母親であるヨゾラが流暢に話す姿が格好良かったからだ。
花火がサッカーを始めたのも、ヨゾラに褒められたからだ。
祭花火にとって、ヨゾラ・マツリは道標だった。
「そういや、あの玄関の写真って…。」
「見たのか…。母さんの写真だ。」
「アレな…。」
何故か気まずそうな杏子に、花火は何も言えなくなる。彼女の心境が、花火には良く理解できていた。
似ているのだ。杏子とヨゾラは。杏子が髪を下ろせば、ヨゾラのミニチュアに見えてしまうくらいには。
もちろん、ヨゾラと杏子に親子関係なんてものはない。偶々、容姿が似ていただけの話だ。花火にも、それはよく分かっていた。
「…母さんを重ねたつもりはないが、初めて会った時は驚いた。」
「だろうな。アタシだって、思わず二度見したくらいだ。」
花火の言葉に杏子は同意する。
確かに、ヨゾラと杏子は良く似ている。しかし、性格まで同じだったかといわれると分からない。
既に6年だ。昔の思い出が忘れていく事は仕方ない。多感な時期なのもあり、細かい所は思い出せなくなっていた。
時間というものは残酷だ。例えどれだけ足跡を残しても、その痕跡をゆっくりと消してしまう。
しかし、それもまた仕方のない事だと飲み込む事しかできない。
「…。」
「…どうした?」
「な、なんでもねぇよ…。」
無言で花火を見る杏子に、花火は疑問を覚える。しかし、杏子は目を逸らしてしまった。
心なしか頬が赤い様に見えるが、体調でもわるいのだろうか?
「…あぁ。」
そこまで考えて、先ほどの会話を思い出す。そういえば、先程母の容姿を褒めた事を思い出した。
「佐倉、お前は世間一般でも可愛い部類に入ると思うぞ。」
「誰がんな事聞いたよっ。」
枕が飛んできた。
花火としては、母に似ている杏子の前で綺麗だと褒めたのが、杏子からして老けていると捉えたのではないかという配慮だったのだが、何処かで言葉を間違えたらしい。
「…女の敵め。」
「…すまない。」
「気のない謝罪なんざいらねぇっての。」
どうやら怒らせてしまった様だ。投げてきた枕を返そうとするとひったくられる。そのまま、花火に背を向けて横になってしまった。
出来れば、世話になりっぱなしな彼女には恩を返していきたいのだが、このままだと居なくなってしまうかもしれない。
何とか気分を良くしてもらおうと、花火は考える。
しかし、中々いい案が思いつかない。結局、言葉で伝える事が1番大事なのではと考え、口を開く。
「…俺は、お前に感謝している。ここまで、色んな事があったが…お前がいなきゃ、俺は死んでいた。」
杏子からの反応はない。それでも、黙っている辺り話は聞いてくれているようだ。
そんな彼女に感謝し、言葉を続ける。
「お前に会えなければ、ここまで来れなかった。お前に出会えて、本当に良かったと思っている。もちろん、この契約の事だけじゃない。」
「…。」
「このふざけた騒動を早く終わらせても、お前とは関係を切りたくはない。もし、お前が嫌じゃ無ければだが…俺の家にいてくれないか?」
友人として、杏子の現状を何とかしてやりたいと考える花火。大きなお世話だとは思いつつも、契約を終えてハイサヨナラとなるのは嫌だった。
まどかのような家族とは違う。
さやかのような幼馴染みとは違う。
マミのような友人関係とは違う。
花火にとって、佐倉杏子は大切な相棒なのだ。
沈黙が続く。眠ってしまったのか、答えたくないのか。返事を求めているものでもなかった為、それ自体は気にはならなかった。
「…悪い、変な事を言ったな。おやすみ…。」
花火も、ベッドに寝そべり目蓋を閉じる。静かな時間が、2人を包む。
そんな中、心中穏やかでないのは杏子だった。
短い付き合いではあるが、花火の言葉に裏がない事を杏子は良くわかっていた。
恋愛的な意図もなく、ただ友人として離れるのは寂しいと、本気でそう考えて言っている言葉なのも理解していた。
しかし、それとこれとは別である。
「(こんのバカ野郎…。)」
急に恥ずかしくなるような事を言ったと思ったら、同棲しようなどと捉えられても仕方ない言葉がでてくるとは、流石に杏子も予測していなかった。
恥ずかしがっているのが、恐らく自分だけだという事もわかってしまうので、余計に腹立たしい。
あの日、2階で会った桃色の髪の少女。どうにも、花火の事が好きなんだという事が良くわかった。というよりも、そうとしか思えなかった。
あんな可愛い子に好かれているというのに、男の方は家族だなどと言っている。
思春期らしい恋愛観をぶつけられても困るが、花火の様に枯れている様な人間だと、それはそれで面倒くさい。
特に今の様な状況だと尚更である。
顔が熱い。心臓の鼓動が大きく、早くなる。
聞こえないとは思っているが、もしかしたらと恥ずかしい気持ちは強くなる。
嬉しい気持ちもあるが、こんな唐変木に振り回されている事が悔しかった。
「(…まぁ、でも…。)」
もし彼と過ごすことになれば、それはそれでいいのかしれない。
グリーフシードの事を考えなくてもいいし、態々ホテルを転々とする生活ともオサラバ出来る。屋根のある場所で確実に眠れるのは、安心面でも捨てがたい。
ATMを壊して、金を盗むような毎日に不満が無いわけではない。小言は多いだろうが、それなりの自由は確約できるだろう。
花火との生活は、楽しいモノになるような気はしている。
でも、踏み込めない。
過去は過去だ。
今更どう足掻いても、杏子の家族は帰ってはこない。
それが、杏子のあと一歩を縛り付ける。
自由に生きる事を選んだのは、他者の優しさを捨て去る為でもある。次に失うことになれば、杏子は耐えられないかもしれないから…。
そこまで考えて、杏子は思わず呆れた様に頬が緩んだ。どうにも、自分はあの男に絆されているらしい。
恋なのかどうかはわからないが、それなりの信頼をあの男に感じていた。
深入りするつもりは無かった。さっさと契約を終わらせて、お別れするつもりだったというのに…。
しばらくして、花火の規則的な寝息が聞こえてきた。今日は激動の1日だった。安心して眠る事が出来るのはツイていると思えるくらいに。
「…ま、悪くねぇな。」
それにどういった意味が込められていたのか、杏子にすらわからない。しかし、今はそこまで気にしなくてもいい。
今は、やらなければならない事がある。
もし、それを終わらせた後に2人とも生きていたなら。
さっきの返事をしてやってもいいかもしれない。
間に合わなかった。(毎週更新)
今回はまどかの救助と杏子との会話回。
予定より全然進みが悪くて困惑してます(計画性ゼロ)
あ、後バーが赤くなりました。皆さまありがとう!
これからも感想とか評価とかよろしくお願いします。