MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

18 / 24
ネタバレ18


3人のスネークに共通する人間性の欠如。
その遺伝子を持つ彼に一般的に近い環境で生活をさせたが、その兆候が彼にも見られた。

つまり、ビッグボス自体に刻まれた遺伝子がそうさせるのだろう。


親の想いだ。

18話

 

 

2011.10.02

 

 

簡易ベッドの置かれた部屋の扉を開き、花火が顔を出す。手にはタオルを持っており、先程までそれで身体を拭いていた。

シャワールームなんて都合の良い物は此処には無かった為、仕方なく代案として濡れたタオルで垢を取ったのだが、まだ身体が汚れている気がする。まぁ、無いよりかは遥かにマシなのだが。

 

「待ったか?」

「いんや。じゃ、次はアタシだから…。」

 

扉の前には杏子が立っている。花火と同じく、持っているタオルで身体の汚れを落とすのだろう。

まだ眠いのか、欠伸を手で隠しながら部屋に入っていく。扉が閉まり、鍵がかかる音が鳴った。

 

パソコンの置いている横長のテーブルには、ハルとヘンリーが頭を置いて眠っている。どうやら、昨日から一日中作業していたようだ。

そんな2人に毛布をかけ、ソファーに座りコーヒーを飲むスネークの横に座る。

コーヒーを持つスネークは、空いている手で資料を読んでいる。各企業の名が記載されたそれには、幾つか横線が引かれていた。

 

「…おはよう。」

「あぁ…。眠れたのか?」

「…正直、何度か目が覚めた。本物のスプラッタは初めてでな…。」

「それだけ話せるなら、まだ大丈夫だ。」

「だといいけど…。認識が甘すぎた。」

 

それは、花火の内心だ。

人が死ぬかも知れない。その覚悟はしておいたつもりだった。だが、実際はどうだ。

 

昨日だけでどれ程の命の危機があったか。矢崎だけではない。病院の惨事も、バスの暴走も…。

負傷者の数は恐らく100人を超える。たった一日でコレなのだ。これから先はもっと増えると考えたほうがいいだろう。

覚悟はしていた。その気持ちの甘さも、途中で理解した。

しかし、ここまで重いモノとは考えていなかった。

 

夢に見るのだ。

暗闇の中、花火は何かから逃げている。地面を蹴る足音と、荒くなる呼吸が耳に入ってくる。

後ろを振り返る。頭部の無い男が、ゆっくり歩いてくる。歩くたびに上半身が揺れ、血が飛ぶ。落ちた血は地面に広がり、花火が走る先までもを赤く染める。

2人の差は、離れない。寧ろ、逆に縮まっているようだ。

離れない。離れない。そして、捕まる。

 

身体能力は花火の方が上の筈だ。なのに、その腕を振り払えない。まるで、掴んだ部分を握り潰そうとしているかのような力が、花火を拘束する。

後ろのソレを気にしていた為、前方を見ていなかった花火の胸が小さな衝撃を感じた。

視線を向けると、そこには血に染まった青色の髪があった。

青色の髪の誰かが顔をあげる。顔すらも真っ赤に染まった美樹さやかが、片手を花火の顔に這わせた。

反対の腕は、途中で千切れてしまっている。その腕は、いつの間にか花火が手にしていた。

目が合う。怯えた花火の目と、悲しそうなさやかの目。そして、聞こえるのだ。

 

「助けて。」

 

気付けば、辺りには人が沢山いた。

首から血を流し、苦悶の表情を浮かべる人、人、人。

力無く開いた口から漏れるのは意味の無い音の筈なのに、花火の耳には救助を求める声が響く。

 

「助けて」「痛い」「死にたくない」

 

そして、目を覚ます。悲鳴を上げなかったのは男としての小さなプライドだろうか。いや、それすらも恐ろしかったからなのかも知れない。

 

「アンタは、夢に出たりするのか?その…救えなかった命の夢、とか…。」

「…無い。だが、戦場で似たようなモノに悩まされる人間はいる。だから、お前は間違ってはいない。」

「そうか?本当は、気にしちゃいけないんじゃないのか?」

「ダメだ。その苦しみを今投げ捨てれば、これから先もっと後悔する。辛いだろうが、飲み込め。」

 

花火のソレとは似ているようで違う。失う苦しみをしっかり乗り越えなければ、後にその苦しみを倍の重さで味わうことになる。

 

PTSD(心的外傷後ストレス障害)。

多くの軍人は、戦場から戻った後にそう診断される。それは何故か?

戦場で兵士達は団結して戦う。そこには人種も、宗教も、政党もない。

人種は言わずもがなだろう。今だって、黒人と白人で優劣をつけようとする人間は多い。数百年以上そうなのに、簡単に変わる事は無い。

宗教なんてどうだ。キリスト教という一つが、まず西方と東方に二分されている。更に、そこから細かく宗派は別れる。ローマ・カトリックやプロテスタント。ギリシャ正教やアッシリア。時代により増え、統合されたその種類それぞれを信仰する人間はいる。そして、宗教はキリスト教だけではない。

日本では馴染みは薄いだろうが、政党による壁もある。この人に国を任せたいと願うからこそ、争いが起こる事などよくある事なのだ。それが、市民の生活に直結するから。

 

話を戻そう。

これだけ多くの問題があっても、戦場ではそれは機能しない。それは、彼らには関係ないからだ。国の為に戦うのなら、肌の色も、宗派も、政治も関係ない。

隣にいる仲間と共に過ごし共に戦うには、そんな些細なモノに縛られている余裕はないのだ。

戦い、戦い。ここで、一つの試練が現れる。

 

戦場にいる仲間が死んだ。それを受け止めるか、仕方ないと割り切るか。

どちらも一緒のようで違うのだ。

受け止めるのは苦しいだろう。苦楽を共にしたのだ。悲しみは人を鈍らせる。下手をすればそれが原因で、自分も死ぬかも知れない。

割り切れるかはわからない。人はそんな単純な生き物ではないから。しかし、1秒先で状況の変わる戦場で悠長に悩む時間は無い。

 

そうして、兵士達は日常に帰る。

そして、違和感により壊れるのだ。

 

先に話した違う事によって生まれる確執が争いのタネとなり、言葉で、文字で、行動で表現されている日常。その時に、思うのだ。

 

「何のために戦ったのか?」と。

 

これが、兵士の心を壊していく。

割り切れず、受け止めもせずに目を逸らしてしまうと、日常に戻った時にこう考えてしまう。

戦友の死は、自分達の必死は、何のためにあったのだろうか。

それはゆっくりと心を蝕み、気がついた時には自らの手で命を終わらせてしまう事もある。

戦う事しか出来ないと溢す者たちの中には、死んだ仲間を想い止まれない者がいる。奪った命を想い止まれない者がいる。

 

だからこそ、自分の意志で戦う事が重要なのだ。

 

今の花火は、逃げる事も受け止める事も出来ず苦しんでいる。しかし、それをスネークは突き離さなければならない。

自分で受け止めさせ、自分で割り切らせる。

そうしなければ、花火もまた『スネーク』になってしまうかもしれないから。

 

「先人からの助言だ。踏み込みすぎず、だが投げ出すな。でないと、後悔する事になる。」

「…矛盾してないか?」

「そんなものだ。」

 

目を合わせず、会話は終わる。しかし、花火はスネークの言葉を覚えておく事にした。生きる世界が違うからこそ、その言葉の意味に悩むだろう。それでも、重要なんだとは感じるから。

 

「終わったぞ。」

 

寝室から杏子が出てくる。スネークが席を立ち、壁に寄り掛かった。開いた席に杏子が座る。

腕を上に上げ身体を伸ばす。簡易ベッドでは身体が固まるのだろう。小気味のいい骨の鳴る音が聞こえた。

 

「…目は覚めたみたいだな。」

「ぅんっ…はぁ…。あぁ。とりあえず、腹減った。」

「同感だ。といっても、ここにはキッチンなんて上等なモノは無いからな…。」

「引き出しに食い物がある」

 

スネークの言葉に、花火はソファーの横に置いてある引き出しを開けた。そこには、黄色の箱に入ったブロック携帯食が敷き詰められている。

一つを手に取り思わず、花火からため息が溢れた。

 

「またこれか。」

「悪いものでもないぞ?」

「現代の若者に食わすもんじゃないだろうに。」

「うっわ…。これ全部プレーンかよ。アタシ、チョコしか食った事無いんだけど。」

「持ち運びも容易で栄養バランスも完璧だ。」

「口の中の水分が奪われるけどな…。まぁ、贅沢は言えないか…。」

 

苦々しい顔をしながらも、花火は箱を開けて中身を取り出した。二本入りの袋が二つ、一つを杏子に渡す。

 

「佐倉、コーヒーでいいか?」

「水はねぇのか?」

「ちょっと待ってろ…。良かった。ペットボトルがある。」

 

杏子に水の入ったペットボトルを投げる。キャッチしたのを確認して、花火は自分の分のインスタントコーヒーを作り始めた。

 

杏子は先程受け取った袋を開け、中身を取り出す。分厚いクッキーの様なそれを眺め、一口。

ふんわりと広がる甘味とボロボロと崩れる食感を、色の無い表情で堪能する。乾燥する口内の要望に応えるため、水を呷った。

 

モソモソと口を動かしていると、隣に花火が座る。紙コップに入ったコーヒーを飲み、一息。そして、テーブルに置いてある袋に目を向ける。

 

袋を開けて、中に入ったバーを口に加える。それ程力を入れなくても噛み切れるそれを咀嚼し、飲み込む。

こういう時、どうしてハンバーガーが食べたくなるのか。やはり、味気ない食事は精神衛生上よろしく無い事の証明なのだろう。

 

「…良くそんなもん飲めるよな。」

「美味いぞ。コーヒーは最高の飲み物だ。」

「苦いだけじゃねーか?」

「だからだよ。気持ちが引き締まる。それに、鼻から抜ける豆の風味が素晴らしい。」

「あっそ。アタシにはわかんねぇな。」

 

杏子はスネークを見る。スネークは、タバコを加えて部屋の外を見ている様だ。

 

「…なぁ。タバコってそんなにいいものなのか?」

「ん?そりゃ美味いからな。」

「臭いだけじゃねぇのな?」

「コイツは風味も上等なものだ。それに、モスレムは副流煙が出ないから人に迷惑をかける事もない…。」

「…なるほど。」

 

それは、タバコに対して理解を示したのではない。

スネークと花火。この2人の妙な拘りはどうにも誰からもたらされたモノなのだろうか?

杏子の仮説でしかないが、おそらく2人は親子だ。なら、変な拘りは遺伝になるのだろうか?

 

代々そうなのであれば、何と愉快な一族だろうか。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「…ねぇ、ほむら?」

「何かしら?」

 

出発前、ほむらは家の奥に設けてある倉庫で武器の吟味を行なっていた。

大量に盗み出したはいいが、いざという時に使えなければゴミと同じだ。だからこそ、こういった細かいチェックは必要なのだ。

 

 

89式5.56mm小銃を手にとり、構える。言わずもがな、コレは自衛隊の主力小銃といえるモノであり、世界から見ても訓練の行き届いた自衛隊が管理してきた武器だ。

一通りの動作確認を行ったが、悪い所などあるわけない。しかし、ほむらはそれを部屋の隅に投げ捨てた。

 

その光景を、さやかは黙って見ていた。というより、どう答えて良いかわからず固まっていた。

 

それは、やはり部屋の隅に投げ捨てられた大量の武器を見たせいだろう。さやかの目から見ても、別に錆びているといった欠陥は見当たらないそれは、役目を全うする事なく放置されていた。

 

「いや、なんていうか…何やってんの?」

「…あぁ。それ?使えないのよ、その銃。」

「そうは見えないけど…どう見ても綺麗だし。」

「…そうね、知るわけないわよね。その銃、ID管理されているのよ。」

「ID管理?」

 

今度のは問題なかったのか、丁寧に銃を棚に収め、ほむらはさやかの疑問に答えた。

 

「アメリカの企業…だったと思うけど。どこかの誰かが、特定の人間でないと銃を撃てなくしたのよ。」

 

アームズ・テックという会社がある。

かつて、2005年にシャドーモセス島で開発された【メタルギアREX】と呼ばれた兵器の開発を請け負った企業だ。

ハル・エメリッヒはこの計画の開発チーフという役職についていた。これが、ソリッド・スネークと出会うきっかけでもある。

そのAT社が2010年後半にATセキュリティと社名を変更。開発した軍事用セキュリティツールの効果がこれだ。

兵士にナノマシンを投与し、特定のデータ反応が起きない場合、銃が撃てなくなるようにした。これに、一部の日本人が安全策として自衛隊への採用を提案したのだ。

このシステムは一見人権軽視と捉えられるかと思えたが、自衛隊に対して排他的な思考を持つ者が多い日本人はそう捉えなかった。

そもそも、武力を持つというのは日本という国に武器が溢れる事になる。もし、その武器が外に漏れてしまえば、これは重大な問題となるだろう。

だからこそ、もし武器が外に漏れたとしても問題の無い方法。つまり、銃そのものを使えなくしてしまおうといった考えだ。

 

結果、日本はこのシステムを採用する事にした。自衛官にはナノマシンが投与され、その精神面もプログラム管理された。

銃にはID登録が施され、特定の波長パターンを発生させるナノマシンを持つ者が所持しない限りは発泡が出来ないよう改造された。

 

ほむらにとって救いだったのは、それが実行に移されたのが最近で、全ての駐屯所で実行されていなかった事だろう。

彼女が窃盗した銃の中には、まだ未改造の銃も含まれていた。だからこそ、彼女は今まで戦えていたといえる。

 

「へぇ…そんな事になってるんだ。」

「暴力団事務所にある武器は、小型拳銃が多いわ。目に見える脅威としてではなく、確実に相手を殺す為に小回りの効いた武器を選んでいるのよ。だから、魔女相手には威力に欠けるの。」

「だから態々自衛隊に?」

「駐屯所で厳重管理されている物は、暴発なんて起こすことは無いもの。といっても、魔法で強化してしまえばどうとでもなる話よ。」

 

骨董品と呼ばれる様な銃だろうと、魔法少女には関係ない。魔法という理不尽は、そういった理不尽をどうにかしてしまえる代物だ。

 

話している間に準備が終わったのか、ほむらは銃の手入れをやめた。

 

「まどかは?」

「もう玄関で待ってるわよ。」

「そう。なら、早く行きましょう。」

 

ほむらはさやかの言葉に、さっさと部屋を出て行く。そんな彼女の後をさやかが追った。

 

ほむらの家を出て、まどかの家までを徒歩で目指す。外は明るい為、早々襲われる事は無いだろうと判断した。

 

「そういえば、今日っておばさん家にいるの?」

「うん。多分、もう起きてると思う。」

 

3人の家族を養いながらも、日曜日にしっかりと休みの取れる会社にいる彼女は、やはり有能な人間なのだろう。美樹さやかにとって、鹿目詢子は憧れの女性だ。

 

「なら、まどかの家に着いたら携帯電話を確認するわ。」

「わかった。ママからも連絡が来てるし。」

 

そう言ってまどかは自分の持つ携帯電話の画面を見る。そこには『早く帰ってくるように』とだけ記入されたメールがあった。

既に返信はしたが、まどかは妙な違和感を覚えていた。

鹿目詢子はどちらかといえばお茶目な人間だ。勿論、社会人らしく真面目な部分はあるものの、家族に対してはだらしない部分を見せることの方が多い。それに、メールの文章も絵文字を多用するタイプだ。

そんな彼女から、ここまで簡潔な味気ない内容のメールが届くのは珍しい。というよりはおかしい。

 

「へぇ。なら、早く帰らないとね。」

「…うん。」

「何か気になる事でもあるの?」

「ううん。大丈夫…。」

 

心配するほむらに安心させるように笑顔を見せる。しかし、心の中は異物が取れないようなもどかしさが渦巻いていた。

 

特筆するべき事もなく、3人はまどかの家に着いた。ほむらの提案で、花火の家には近づかないように少し遠回りして来たが、対した時間の差は無かっただろう。

まどかが玄関の鍵を開け、ドアを開く。中に入ろうとしたが、玄関前に既に誰かが立っていた。

 

「おかえり、まどか。」

「…ママ?」

 

詢子がたっている。

いつもとは違う。声色も硬い。まるで、悪い事をした子どもを叱る前の様な表情で…。しかし、そんな雰囲気には見えなくて。

どうにも、いつもの大人の余裕を感じさせる彼女ではない。

そんな母に困惑した心境のまま言葉を返せないまどかの後ろに、2人の少女がいる事に詢子は気付く。

 

「おや、さやかちゃんも来てたのか。おはよう。」

「あ…お、おはようございます。あの…昨日は急にすみません…。」

「それはいいよ。まどかからちゃんと連絡も貰ったし大丈夫。隣の子は?」

「はじめまして…。暁美ほむらです。」

「ほ、ほむらちゃんは先月転校して来たの。それで…。」

「あー、なるほど。…うん。ホントなら、せっかく来てくれたんだしおもてなしの一つしてあげたいんだけどね…。」

 

娘に友人が増えるのはいい事だ。しかし、詢子にとってそれは今対応すべきことではなかった。

まどかも、何となく気づいたのだ。今の母には、余裕がない。焦ってる…というよりは、悩んでるといえばいいのか。

 

とりあえず家に入ることが出来た3人だが、さやかとほむらはまどかの部屋に通され、まどかは詢子とリビングへ向かう事になった。

有無を言わせない雰囲気の詢子の背中を追うまどかは、リビングに付いてからまた固まってしまう。

 

知らない男の人がいた。カウンターの椅子に座って、一枚の写真を眺めている。見た目は20代後半くらいだろうか。スーツ姿ではあるが、短髪で焼けた肌。その横顔から見えるキツそうな視線は、サラリーマンには見えない。

その向かいには、眠っている弟であるタツヤを抱えた父、知久がいた。

 

2人はまどかに気づくと、表情を和らげた。

知久がまどかに声をかける。

 

「おかえりまどか。」

「う、うん…ただいま。あの…。」

「あぁ。彼は本城さん。今日は、まどかに話があるんだ。」

 

知久がそう言うと、本城と呼ばれた男は椅子から降りてまどかへ近づく。胸ポケットから手帳を取り出すと、それをまどかに見せた。

 

「はじめまして。見滝原市警の本城です。よろしくね、まどかちゃん。」

「え…け、刑事、さん?」

「驚かせてゴメンね。でも、今日は君に聞きたいことがあるんだよ。」

 

不安そうなまどかを差し置いて、本城は話を続けていく。今度は、先ほどまで見ていた写真を見せた。

それは、家族の写真だ。花火が来て、タツヤが生まれてから撮った集合写真。そこに写る花火を指差し、本城はまどかに尋ねる。

 

「祭花火君。君のお友達…というより、兄や弟に近い関係かな。彼の事を聞きたいんだ。昨日、彼と連絡を取ったのかな?」

「えと…その…。」

「あー。不安なのはわかるよ。でも安心して。俺は君や彼に何かをするつもりはないから。」

「…まだ、連絡は取れてない、です。」

 

揺れるまどかの瞳。その不安を解消しようと本城は笑いかけ、詢子がまどかの肩に手を置いた。なんとか返答したまどかの言葉に、本城は詢子へと視線を向ける。それは何らかの合図だったのか、詢子は頷いた。

 

本城は、持っていた写真を詢子へと渡し、椅子の下に置かれた鞄から、ノートパソコンを取り出す。

それを起動して数分。画面には何かの動画が開かれようとしていた。

 

「今朝のニュース。まだ見ていないよね。」

「…はい。」

「なら、これで見るといい。少し、辛いかも知れないけどね。」

 

そこで、ニュースが再生される。

 

『昨夜、都内の病院にて大規模な殺傷事件が発生しました。被害者の数は150名以上となっており、既に100名の死亡が確認されております。遺体はどれも喉に穴を開けると言った猟奇的な手段で殺害されており、犯人はその後バスジャックで事故を起こしている模様です。犯人は逃走。警察は、被害者の身元確認を急いでおり』

 

動画が止められる。それは、まどかが耐え切れそうに無かったからではない。フロント部分が潰れてしまったバスの映像。その端に見える歩道に、茶髪の少年と赤髪の少女が映っている。

 

「…花火、君?」

 

それが誰なのか、荒い映像を見てもわかる。それは、鹿目家の全員に当て嵌まる事だった。

 

「彼は、このバスに乗っていたみたいでね。この後、誰かに支えられて姿を消している。」

「私の携帯からも花火に連絡してみたけど、繋がらなかった。まどかへの連絡もないって事は…。」

「昨日だけで、この付近で3件の事件がありました。犯人は恐らく複数犯。逃走した男の特徴から、組織的な犯行である可能性が高い。」

 

本城と詢子が話す内容を、まどかは聞き流してしまっていた。心に焦りが生まれる。

昨日、さやかから聞いていた内容から考えて、花火は病院で事件に巻き込まれた筈なのだ。そしてバスジャックに遭い、姿を消した。

 

「病院に、祭花火君の訪問記録が残されていました。目的は不明ですが、どうやら男性と会っていたみたいですね。この男なのですが…。」

「…いや、知らないな。」

「そうですか…。とにかく、彼は病院にいた。そこで事件に巻き込まれたと考えるなら、今は捕まっている可能性が高い。」

「すぐに見つけられるのかい?」

「捜査区域は広げています。都内はもちろん、見滝原や風見野でも…。必ず、息子さんは見つけ出します。」

 

それから2、3事言葉を交わし、本城は去っていった。

リビングに静寂が広がる。

 

「まどか。」

 

気付けば、詢子がまどかの顔を覗き込んでいた。まどかの身体が震える。その目から感じるのは、有無を言わせない迫力と、不安。

 

「本当に、何も知らないんだな?」

「…私は。」

「花火は、あの時から私達の家族だ。」

 

思わず目を逸らしたまどかに、詢子は語りかける。次に目を合わせると、そこには親の顔があった。

 

「私達が花火を引き取ったあの日から、花火は家族の一員になった。そりゃ、不安もあったけどね…。それでもこの6年間、まどかやタツヤと同じ様に愛情を注いできた自信がある。」

「…ママ。」

「花火の家、めちゃくちゃになってたんだ。窓も割れてたし、警察の話だとアンタくらいの年の子と、大人の靴の後があったらしい。なぁまどか。」

 

本当に何も知らないんだよな?

 

それは、親の想いだ。例え、腹を痛めて産んだ子でなくとも、自分達なりに親として接して来た。だからこそ、心配なのだ。

もし、知っている事があるなら教えて欲しい。その想いに、まどかは答えられないでいた。

 

「…私も、知らない。」

「…そっか。ゴメンな。」

 

震えるまどかを、詢子は抱きしめた。事実、まどかは花火の動向を知らない。何があったのかまではわからない。

だからこそ、詢子は嘘はないと捉えた。

彼女は親だ。娘の嘘くらいならわかる。何かを隠しているのだってお見通しだ。だから、今のまどかの言葉に嘘がない事くらいならわかるのだ。

 

それから、まどかは自分の部屋に戻った。今回の件で、気に病まないようにと安心させるような言葉をもらったが、まどかにとっては気休めにしかならなかった。

さやかとほむらは入ってきたまどかの表情から、何かがあった事を察した。

 

「まどか、どうしたの?」

「…祭花火の事?」

「…うん。病院の事で、刑事さんが来てたの。」

 

それから、まどかは先程の内容を2人に話した。ほむらは比較的落ち着いて聞いていたが、さやかは顔色が悪くなっている。

話し終えた後、さやかは落ち着かない様子で辺りを見回す。

 

「落ち着きなさい、さやか。」

「花火が危ないのに落ち着いていられるわけないでしょ…っ。」

「だからこそよ。今、何をするべきかを履き違えないで。」

 

小声のまま声を荒げるさやかを、ほむらは切り捨てる。冷静でないと、今後に支障が出る事を経験上知っているからこそだろう。

 

「あんたねぇ…!」

「…終わったわ。」

「へ?」

 

そんな冷淡とも言えるほむらにさやかが物申そうとしたが、突然呟いたほむらの言葉に止まる。

ほむらは、一枚の紙を手に持っていた。そこには、携帯電話の番号が記載されている。

 

「それ、まさか…。」

「まどかの話していた、オタコン…だったかしら?恐らくその人物の電話番号よ。」

「いつの間に…。」

「彼女の携帯電話に入っていた中で、それらしいのはこの番号だけだったわ。外国人なのでしょ?」

 

時間停止がどういったものなのか、それを他人が理解するのは難しい。ほむら自身は、部屋を出て、詢子の鞄を漁り、携帯電話を調べ、メモして戻って来た。

その一連の内容も、さやかやまどかからすればこの通りだ。一瞬で片がつく。

 

「後は、彼らと合流するだけなのだけれど…。」

「うん。多分、今日は外には出して貰えないかも…。」

「花火の事があるもんね。」

 

手詰まりの状態だった。

息子が行方不明の今、娘をホイホイと外に出す親は中々いないだろう。しかも、大量殺傷事件に巻き込まれた後なら尚更だ。

物理的にではなく、心情的に。3人は、外に出る事が出来ないでいた。

 

「…とにかく、今は電話をかけてみる?」

「…そうね。それしか手は無いわ。」

 

ほむらは、まどかに紙を渡す。まどかはそれに頷き、自分の携帯電話を使いその番号に電話をかけた。

 

コール音が続く。数分も経っていないが、何時間にも感じる。

もう出ないだろう、そう思い耳から離そうした時。

 

「…もしもし?」

 

花火の声が、電話から聞こえた。

 




感想に書かれていた事なのですが、どうやらまどマギとメタルギアは合わないと思われていた様です。
ピッタリだと思うんだけどなぁ。理不尽な部分とか。(鬼畜)

そんな感じで、今回は鹿目家な話でした。
病院襲ってニュースにならないわけ無いし、警察が動いて身元が割れないなんて早々無いんだよなぁ。

では、評価・感想・お気に入り登録たくさん待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。