MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ19


『ヘンリー』の情報はない。


残ったのは

19話

 

 

 

2005.05.11

 

 

住宅街から少し離れた場所にあるデザインハウス。そのリビングに、3人の人間がいる。

片方のテーブルには、1組の男女。2人とも同じ姓であるため、夫婦なのだろう。

男は鹿目知久。眼鏡をかけた彼は、物腰を見る辺り優しそうな印象を受ける。急な訪問があった為か、エプロンを付けたままの姿をしている辺り、主夫なのだろう。

女は鹿目詢子。勝気な印象の彼女は、スーツを着たまま向かいの男を見ている。この時代では珍しさも無くなって来たキャリアウーマン。

もう1人の男性は、テーブルを挟んで座っている。

細身の彼も、眼鏡をかけた優男といった風体だ。しかし、知久とは違いその雰囲気は優しそう…というよりは頼りなさそうにも見える。

 

そんな3人は今、1人の少年のことで話をしていた。

 

「…それで?アンタ達はどうしても、あの子の面倒が見れないって事?」

 

こんな事になったのには、少し長い話をしなければならなくなる。

 

日本のとある都市に、母と子の2人の家族がいた。ところが、母はある日亡くなってしまう。

その理由は、彼女の仕事にあったのだ。

彼女はCIAの諜報員として活動していた。日々、国の為に誰かの命を奪う事になる危険な仕事だ。

そんな事をしていれば、やり返されることもあるだろう。実際、彼女はミスを犯してしまったのか、返り討ちにあい亡き人となった。

 

そんな彼女は死の間際、1人の男に伝言を残した。そして、その伝言を受け取ったのは、その男に救われた彼だったのだ。

偶然なのか、それとも意図しての事だったのか。答えられる人間は誰もいない。

伝言の内容は子どもの事だった。その少年が男の息子だと知った彼は、生きているか確認する為に日本に渡ったのだ。

 

そして、その少年が行方不明である事を知り、探し回った。当時の彼はその男の事は詳しくは知らないが、どうやら国家規模で隠しておきたい秘密をもつ男だというのは聞いていた。

もし、少年がそんな陰謀に巻き込まれたらと思うと、いても経ってもいられない。男に救われた命だ。せめて、何か恩返しをしたい。

 

結果、彼は鹿目家にたどり着いた。インターホンを鳴らし、出てきた知久に尋ねる。

 

それから、少年が無事である事を確認出来た時は心底安堵した。

その後、知久の妻である詢子が帰宅し、今回の件の説明に入った。

10にも満たない子どもを置き去りにした事に、夫婦は憤りを隠せないでいたが、彼は何とか事情を話した。そうすると、少しの沈黙の後に詢子が訪ねたのだ。

 

少年はこれからどうなるのか、と。

 

正直、彼には子育ての経験はない。再婚した父から、義理の妹を紹介されたりもしたが、その距離感とはまた違うだろう。

それに彼にはやるべき事があり、それがあまりにも危険すぎる為に、少年を巻き込む可能性を懸念していた。

 

その為一度アメリカへ帰り、施設へと預ける事になると話した。正直、その方が少年にとっても安全であると伝えたのだ。

すると、それを聞いた詢子の表情が険しくなった。それは、1人の親としての想いだったのか。

 

「…我々では、彼を危険に晒してしまう。それは、1番に避けなければなりません。」

「ガキ1人守れないのに何が出来んのさ。さっきの話だと、父親はこの事を知らないんだろ?」

「そう、ですね。ですが、すぐにお伝えするつもりです。」

「そんな事を聞きたいんじゃないんだよこっちは。もし父親が面倒見れないとわかった時に、あの子がどんな思いするかとか考えてんのかって事。」

「…耳の痛い話です。しかし、もし彼の子どもだとバレたら彼も狙われる可能性があります。」

 

男性は、詢子の話を聞いた上で答えた。少年の事を思うからこそ、彼は引き取るという選択肢を取れないのだ。社会的な生存競争とは違う。たった一つの小さな鉛で消えていく命。その抜け殻がそこらに転がる様な世界に、少年を引き寄せたくなかった。

 

「…ねぇ詢子さん。」

「ちょっと待って。私はまだコイツに言い足りない」

「なら、僕達で引き取れないかな?」

 

詢子と男性が、ポカンとした表情で知久を見た。男性は勿論、詢子もまさか夫からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから。

 

「ちょ、ちょっと本気?」

「うん。僕は、彼を家族として迎え入れてあげたい。」

「そりゃ、家の事とかの心配はしてないけどね。そんな簡単な事じゃないんだよ?」

「わかってるよ。詢子さんが、本当はすぐにでも引き取ってやりたいのに、家の事を考えてその選択肢を取らない事。確かに、負担はかかるかもしれないけど。」

 

僕達なら大丈夫、だろ?

 

そう言って微笑む知久に、詢子は何も言えなくなった。そういえば、彼はそんな男だったと。

普段は大人しい癖に、頑固な部分は梃子でも曲げたりしない。そんな彼に、自分は心底惚れていたんだと。

 

思わず恥ずかしくなって、知久から視線を逸らした。知久の目から、詢子の赤くなる耳が見える。そんな可愛らしい姿に、思わず笑ってしまう。

そして、視線を男性へと向けた。甘々しい空気になってしまったが、それよりも知久の発言への戸惑いが強いのか、まだ動揺している様だ。

 

「そういう訳で、彼を引き取らせて貰えませんか?」

「そ、それは…確かに、貴方達の様な方がいれば、彼に安全な生活をさせてあげられます。しかし…。」

「大丈夫です。危険であることも承知しています。でも、僕はあの子を放って置けません。」

 

知久の瞳の奥に、男性は信念を見た。あの男とは違う。穏やかで、それでいて硬い信念を。

そこまで言われてしまえば、これから行うべき事は一つだ。

 

男性は立ち上がり、2人に深々と頭を下げる。

 

「どうか、よろしくお願いします。」

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

2011.10.02

 

 

どうやら、懐かしい夢を見ていたらしい。

ハル・エメリッヒは枕にしていた腕の痺れで目が覚めた。

身体を起こして上体を逸らす。座ったまま眠るのは慣れてはいるが、それでも身体は固まるものだ。解されていく肉体を堪能して、目の前のモニターに目を向ける。作業途中に眠ってしまったようだが、大体の絞り込みは完了していたようだ。

 

そんな彼の作業机に、紙コップが置かれた。その手の先を見ると、祭花火がいる。

 

「おはよう。まだ眠たそうだな。」

「おはようハナビ。そんなに酷いかな?」

「良い女が挙って声をかけてくるくらいにはな。ほら、コーヒーだ。」

「今のは笑えたよ。」

 

ハルが苦々しい笑みを浮かべれば、花火も笑顔を返す。渡されたコーヒーを飲んで眠気を誤魔化し、マウスを手に取った。

昨日の騒動は、恐らくニュースになっている筈だ。あれ程大事になったのだ。どこまで情報が出回っているかで、今後の行動も決まる。

 

一通り調べてみれば、かなりの情報が拡散しているようだ。特に、病院での出来事はほとんどのテレビ局が取り上げている。

死者100名以上。正に最悪の日と言えるだろう。

現場写真の数も凄い。あの付近にいた民間人が撮った映像まである。それに目を通して、気付く。

 

「…これは、不味いかもね。」

「どうかしたか?」

 

背後にいた花火が、ハルの呟きを拾った。

何処となく不穏な気配を感じたのか、ソファーに座っていた杏子や壁に寄りかかっていたスネークもモニターに近付く。

ハルは、一時停止された動画の映像を指差した。指の先には、歩道で座り込む花火と杏子がいる。

 

「俺たちだ。」

「まぁ、あんだけの騒ぎだ。誰かが動画を撮ってるなんてあり得る事だろう?」

「…オタコン。この映像でわかるか?」

「昔を知ってるなら。流石にこれだけだと他人の空似として扱われるかもしれないけどね。後、消すのは不可能だよ。」

 

祭花火はスネークの息子になる。

それは、スネークにとっての弱点となり、花火自身の弱点でもあるのだ。

 

スネークの出生は特殊だ。

ビッグボスの遺伝子を使って人工的に造られたデザインベビー。

何の為にそんな事を行ったのか、それを知る者は生憎此処にはいない。事実として、2人のスネークが生み出された。

 

そんな存在から生まれた花火は、スネークを狙う者達から見て非常に便利なアイテムだろう。

人質として有能であり、兵士としての素質もある。教育を施してしまえば、これからの時代に良い波風を立ててくれるだろう。

 

荒い映像であり、小さくしか映っていないこの映像だけでは辿り着くのは難しいかもしれない。しかし、万が一の可能性は捨てきれない。

 

 ディスプレイからハルへ、ハルからスネークへと、花火は視線を動かした。

先程のスネーク達の会話を頭の中で咀嚼する。2人は、花火と杏子が映っている映像に対して反応した。

昨日の騒動は確かに衝撃的なモノだっただろう。今回の事件はヘンリーの話していた核の事も含めて、決してバレてはいけないのだ。

 

魔法少女なんて規格外な存在がバレれば、世界中の国が戦力としてそれを欲しがる。魔法少女である子供達の未来は、大人達の手により今以上に血生臭くなり、力を持たない民衆からの弾圧は避けられないだろう。

核が盗まれたなんてバレれば、アメリカは世界中から非難される。パワーバランスは崩れ、発言権が失われれば、今の均衡は崩壊する。

メタルギアが作られている事がバレれば、日本は危険な国として扱われる。先人達が積み上げてきた平和なんてものは消し飛び、その技術力は危険視される。

 

それを阻止する為には、この事件は何事もなく静かに終わらなければならないのだ。

 

しかし、2人の反応はその深刻さを憂うようなイメージは無い。どちらかというと、この映像から起こり得る何かを警戒しているように感じられる。

 

「なぁ、ここに来て隠し事はやめようぜ。一体何に焦ってんだよ?」

「…スネーク。」

「言えば巻き込む。これから先も…。」

「ここらが潮時かも、ね…。」

 

花火の言葉に、2人は返事を返さない。

ハルが、スネークに頷いた。その合図に、スネークは小さく息を吐くと、隣でまだ眠っているヘンリーの肩を揺さぶった。

小さな振動でも、ヘンリーの意識は浮上したようだ。一度顔を顰め、目を開く。

 

「…あぁ、眠いな…。おはよう。」

「ヘンリー、起きてすぐで悪いが、車を取ってきてくれ。」

「…あー。わかった。私の車を使うのですか?」

「あぁ。頼む。」

 

ヘンリーは椅子から立ち上がり、部屋を出て行く。スネークは花火に向き直る。2人の青灰色の目が向き合う。

 

「…少し話は長くなるが、いいか?」

「何のことだ?2人が実は秘密の関係とかか?別に気にはしないが、それは俺達のいないところで」

「俺はお前の父親だ。」

 

静寂。

花火の動きが止まり、誰も言葉を口にしない。

杏子は大方の予想が付いていたので、それ程動揺はしていなかったが、花火は違った。

ゆっくりとした動きでスネークを見る。その視線を、ハルに向けた。目の合ったハルは、花火から視線を逸らして、首を縦に振る。

真実かどうかの確認が取れた花火は、首を動かして杏子を見た。

 

「…は、ハハッ…なるほど、な。そうか…。」

 

そして振り向き様に拳を握り、スネークの頬を殴る。幾ら花火が運動能力の高い少年であろうが、所詮は子供だ。しかし、簡単に捌ける筈のソレをスネークは黙って受け止める。

 

「ぐぅ…っ!」

「花火、落ち着けって!」

 

スネークはバランスを崩し、ヘンリーが座っていた椅子へと座り込んだ。そのままもう一度殴ろうと拳を振り上げた花火を杏子が止める。

花火の顔は怒りに歪んでいる。それは、子どもとしての癇癪のようなものだ。

 

「ようこそクソ親父。今まで黙ってた気分はどうだ、あ?息子に死んだ母親の話をさせた気分は?非常時の今なら、俺が優しくパパと甘えてくれると思ったかクソッタレ!」

「オイ!今はそんな事してる場合じゃねぇだろっ!」

「残念だったなヒーロー!俺はそこまで空気を読むつもりはないっ。母さんを放ったらかしにしてやってた事が世界を守る事だなんて知ったこっちゃない。糞食らえだ!」

 

唾を撒き散らしながら叫ぶ花火の怒りを、スネークは黙って聴いている。

例えスネークがヨゾラが死んだ時に花火の存在を知ったのだとしても、それを今伝えようとは思わない。

理屈ではないのだ。花火の怒りは、そんな理詰めで納得出来るようなモノではない。

 

「…すまない。」

「謝って許されると思ってんのか?俺よりも、母さんに謝らせてやるっ。母さんの墓の前で、そのデカい身体を畳み込んで土下座させてやる!」

 

杏子により動きを止められていた花火の身体から、力が少しずつ抜けて行く。荒い呼吸を繰り返し、身体から湧き上がる熱を放出する。

花火自身、わかっていることだ。今の状況で、仲間割れを起こしている暇はない。この間にも、花火達の敵は暴れ回っている可能性があるのだ。だから、どうしようもない怒りを吐き出していく。

 

「…っ、はぁ…。それで?」

 

ほんの少し、落ち着いたのか…。花火はソファーに荒く座り込んだ。

花火の呟きに、スネークが口を開く。

 

「…俺達は、リキッドという男を追っている。過去に、シャドーモセスを占拠した人物だ。」

「…確か、メタルギアを使って核攻撃しようとした奴か…。」

「…あぁ。もちろん、そいつも危険であることには変わりはない。俺との関係がバレると

、お前が狙われる可能性だってある。」

「…『も』って事は、他にもいるのか?」

「…愛国者達。そう呼ばれている。」

 

スネークが話す内容は、まるで映画の設定のようだった。

愛国者達とは、アメリカという国が管理する全ての裏側にいる存在。政治・経済…凡ゆる

事項に置いて、大統領以上の決定権を持つ存在だ。

凡ゆる決定権。それは、この世界で起きている様々な事象、その裏側に彼らが潜んでいる可能性があるという事だ。スネークの出生もまた、そのひとつかもしれない。

そして、かつてアメリカ国防総省にその存在を消されそうになったスネークに子どもがいるとなれば、その魔の手は戸惑いはしない。

 

「…なんだよ、それ。」

 

スネークの話が終わり、沈黙の中で最初に口を開いたのは杏子だった。

世界なんて馬鹿げた規模で、存在を認められない子ども。それが祭花火だ。

ヨゾラが上手く隠したのだろう。今までは、日本の中の一つの街で静かに生きてこられた。しかし、それももう終わりだ。

花火はメタルギアとの運命によりその身を縛られた。テロリストとの抗争で、その存在は浮き彫りになりつつある。

そして、その存在はニュースという形で世界に放出した。

あれだけの映像では、まだわからないかもしれない。しかし、楽観視なんて出来るはずもない。

花火の敵は、アメリカという国そのものだ。

 

佐倉杏子の価値観は、それを許容できない。

 

「じゃあなんだ…。花火は、生まれた時点で許されねぇってのかよ…っ。」

「それは違う。少なくとも、俺達はそう思ってはいない。」

「同じことだろうが…!これから先、まるで犯罪者みたいに隠れて生きろってのかよ!?」

「佐倉。」

「ふざけてんだろ、そんなの。コイツは何もしちゃいない…。」

「佐倉、大丈夫だ。」

 

花火の言葉に、杏子が振り返り花火を見る。花火の表情は険しくはあったが、そこに先程までの怒りは見えない。

 

「なんで、アンタが怒らねぇんだよ…。」

 

そんな花火に、杏子の顔が歪む。これから先に訪れる理不尽に打ちのめされるのは、花火だというのに。それを想い、杏子は自分の心が軋む音を聞いた。

そんな彼女の言葉に、花火は返す。

 

「…まぁ、なんだ。スネークに対しては、まだ許せないが…。人が怒ってるのを見ると、冷静になれるというか、だな…。」

「…なんだよ。」

「…。俺は、それでも2人の子どもなんだよ。母さんと、スネークの…。それは、絶対に変えられない。」

 

花火が立ち上がり、杏子の前に立つ。

先程までの険しい表情から、穏やかな笑みへと変えた花火が杏子の眼に映る。

 

「ありがとう、佐倉。俺の為に怒ってくれて…。」

「…アンタはバカだ。ホントに…。」

「それでも、俺は救われたよ。」

 

俯いてしまった杏子から視線を外し、花火はスネークを見る。スネークも、花火から視線を外さない。

 

「とりあえず、この事は後だ。今は、メタルギアを止める。」

「…あぁ。」

「そんで、母さんに謝って…それから、そいつらの事を詳しく教えてくれ。」

「…わかった。」

 

切り替える。これからの為に。

歪ながらも、花火とスネークは親子としての会話を終えた。

ハルは、そんな2人を見て少しだけ安堵する。

 

「…オタコン。アンタも後で一発覚悟しろよ?」

「…そうだね。僕も、君を騙してたから。」

「それもそうだけどな。俺としては、父親がこんなヨボヨボのじーさんである事の方がショックなんだよ。」

「じーさん…たしかに。」

「…そんなにか?」

「ソリッド・スネークじゃなくてオールド・スネークに変えたらどうだ?」

 

この場の空気を悪くしてしまったと考えたのか、それを変えようとした花火の言葉にハルが吹き出した。スネークは表情こそ変わらないものの、何処か落ち込んでいるように見える。

そんな3人を見て、杏子の中のモヤが晴れていく。それは、気が紛れたというよりも、呆れといえばいいのか。

重い話の筈なのに、どうして男は皆バカが出来るのだろうか。

 

そんな時、ハルの電話が音を鳴らす。表示されていたのは、登録されていない番号だった。

 

「…知り合いか?」

「いや…この電話の番号を知ってるのは、スネーク達を除いてハナビとジュンコさんくらいだよ。」

「…待て、この番号知ってる…。鹿目の番号だぞ。」

 

少し空気が張り詰める。ハルが花火に携帯電話を渡し、花火はそれを受け取る。全員の顔を見てから、通話ボタンを押した。

 

「…もしもし。」

『花火君?花火君なのっ?』

「鹿目、か?」

 

聞こえてきたのは、まどかの声だった。その声色から、向こうも驚いているように感じる。

 

「一体なんで…。」

『それはこっちのセリフだよ!花火君今何処にいるの!?』

「…それは言えない。」

『どうしてっ?私に迷惑になるからなの?』

「それは…。」

『ママもパパも心配してるよっ。警察の人も、花火君を探してくれてる…。』

「警察?どういう事だよ?」

 

花火の言葉に、緊張感が走る。

花火は視線をハルに向け、ハルはうなずくとパソコンを操作する。スネークから、スピーカーに変えるように書かれた紙を見て、花火は頷き、携帯電話のスピーカー機能をオンにした。

 

『どういう事って…。昨日、花火君の家にいったの。そしたら家の中がめちゃくちゃで、兵隊さんみたいな人がいて…。』

「兵隊!?お前は無事なのか!?」

『う、うん。ほむらちゃんとさやかちゃんに助けて貰ったから…。それより、花火君も狙われてるんでしょ!?』

「なんでお前が…まさか、さやかか!?」

『教えてもらったの。今、花火君がしている事…。』

「さやかもそこにいるのか?」

『もしもし、花火?』

 

スピーカーかからさやかの声が聞こえる。どうやら、まどかと一緒にいるようだ。後1人、恐らく暁美ほむらの事だろうが、彼女も一緒に行動しているらしい。

 

「なんで鹿目にこの事を話したんだ。それを悟らせない為にお前に頼んだんだろうに…。」

『こっちだって事情があんのよ。色々話さなきゃならない事もあるの。』

「話したい事?」

『まず、まどかが狙われてるの。さっきの話だけど、まどかが花火の家に誘導されて、そこに魔法少女もいたわ。』

「そこにお前らが助けに入ったって事か?」

 

携帯電話を持つ手に力が入る。

これまではまどかを巻き込まないように意図的に距離を置いていたが、さやかをまどかの近くに置いておいたのが功を成した。しかし、それも付け焼き刃のようなものだ。

既に、こっちは巴マミが行方がわからなくなっている。連絡手段も連絡先もわからない為、どうなったのかも不明だ。さやかと合流してくれていたらと考えたが、どうやらその場にはいないらしい。

 

『そいつは魔法で兵士を生み出してた。だから、あんたが追ってる奴らの仲間なんじゃないかって…。』

「そういう事か…。なんで鹿目を狙う?」

『まどかを誘導したのはキュウべぇみたいなの。多分、まどかを魔法少女にしたいんだと思う。』

「…それだけじゃないだろうな。」

『わかんないけど、昨日の事件で警察が動き回ってるから、昼間は問題ないとは…え?』

『…ママ?』

 

さやかの言葉が途切れる。急な沈黙に、花火が言葉を発しようとした時、スピーカーから聴き慣れない筈の音が聞こえた。

 

銃声だ。

 

「なっ、オイ!鹿目、さやか!?」

『まどか、早くっ!』

『いやっ、ママが、パパァ!タツヤァ!?』

 

花火が声を荒げるが、鳴り止まない銃声とまどかの悲痛な叫びがスピーカーから流れる。そして、通話が終了した。

 

「は、早く助けにいかないと…っ!」

「オタコン!車を使うぞ!」

「わかった。ナビゲートは任せてっ。」

 

外に出ようとしたその時、空気の入れ替えの為に開けていた窓から何かが放り込まれる。

スネークは、それを確認した途端に叫んだ。

 

「伏せろォォ!!」

 

直後、爆発音。

それは、放り込まれたグレネードだけでは考えられない衝撃だった。

その音とともに、工場自体が大きく揺れ動き、支えていた鉄柱が部屋に目掛けて降り注いだ。

 

「…ぁ……っ。あぁ…!」

 

花火が目を開く。すっかりボロボロになった室内や、壊れて使い物にならなくなった扉。

杏子とスネークの無事を確認して、ハルを探し、息が止まる。

 

「…お、オタコン!」

「…っ、ぐぅぅ…っ!」

 

ハルは、仰向けに倒れていた。右腕があらぬ方向に曲がり、そこから流れる血が痛々しい。しかし、足はそれ以上に酷いものだった。

落ちてきた鉄柱が彼の足を潰していた。大きなそれは、とても持ち上がりそうには見えない。

意識の取り戻したスネークがハルに駆け寄り、理解する。

これはもう…。

 

「ま、待ってろ。今これを持ち上げて…っ」

「ハナビ、いいんだ…っ。もう…自分でも、わかってる…。」

「煩い!絶対に助けるから、絶対に…っ!」

「ハナビ、これを…。」

 

どうにかして鉄柱を持ち上げようとする花火に、ハルが先程使っていた携帯電話を渡す。血のついたそれを、花火は震える手で受け取る。

 

「ここに、ベルトラインの情報を…入れた…っ。恐らく、ここに…奴らの本拠地があ、る…。メタルギアも…。」

「…嫌だ、嫌だ。アンタは、ずっと…。」

「僕は、スネークに助けられたんだ。だから、その…恩返しがしたかった。君に悲しまれる程、僕は…っ、出来た人間じゃ、ない。」

 

ハルの命の鼓動が弱まるのがわかる。それを見ているだけなのが、花火には地獄のようだった。

ずっと、支えられてきたのだ。鹿目家だけじゃない。この男にも、花火は救われてきたのだ。1人ではないと、教えられてきたのだ。

許せない事もあった。それでも、花火にとって。

ハル・エメリッヒは【足長おじさん】なのだ。

 

「行くんだ、ハナビ。早く…っ。」

「くそ、くそ…っ。畜生…っ!」

 

痛みに耐え微笑むハルの言葉に、花火は立ち上がる。目を覚ましたが未だに動きの鈍い杏子を支え、身を低くしながら部屋を出た。

残ったのは、スネークとハル。

 

「…ごめん、スネーク。君を、1人に…。」

「オタコン。」

 

血に染まるハルの手を、スネークは両手で優しく握る。だんだんと熱を失う手に温かみを残すように。

 

「ありがとう。」

 

それは、かつて交わした言葉だ。

攻撃され、沈むかもしれないシャドーモセス島の中で、脱出路の確保の為にその場に残ると告げたハルへ、スネークが告げた言葉。

今度は、あの時のようにはいかない。もう、救われる可能性はない。

だからこそ。

 

「スネーク…ありがとう。」

 

だからこそ、言葉を返す。様々な想いを込めて、互いに。

握った手を優しく地面に置き、スネークはハルから背を向ける。

 

相棒の意志を、その心に刻んだ。




今後の展開として、残酷な描写が続くと思います。
今のうちに謝っておきます。ごめんなさい(45°)

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