MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ2

オリ主の生まれに理由を付けたかった。
『スネーク』の子供であるなら、その運命として闘争に巻き込まれて欲しい。
しかし、ワルプルギスに関わるなら比較的に平和で安全な日本で過ごさせる事になる。

なので、暁美ほむらのループを利用しようと考えた。


奇跡はない。

2話 

 

 

1996.02.15

 

 

何処かのオフィス内。1人の男が喫煙所に備え付けられた椅子に座り、タバコを吸っている。

身長は180程。肉体は引き締まっており、その鋭い眼は如何に男が数々の修羅場をくぐり抜けてきたかを物語っていた。

そこに、1人の女が近付く。身長は170あるかないか。鮮やかな赤髪は腰で揺れ、凹凸のはっきりした身体と人種故の幼く見える顔のアンバランス。しかしそれは、決して気味の悪いモノでは無く、ある種の美を体現していた。

 

「こんにちは、隣いいかしら?」

 

「…あぁ。」

 

女の言葉に短く答える。特に断る理由もなかった。まだ此処に来て日も浅い。仲良しごっこが趣味というわけでもないが、そこまでコミュニケーションを否定するつもりもない。

 

女は男の返事に満足したのか笑顔で短く礼を述べ、男の隣に座った。ポケットからタバコを取り出し、一本を口に加える。ライターで火をつけゆっくりと吸い、味わう様に吐き出した。

 

「珍しいな。」

 

「え、何がかしら?」

 

「女はタバコの臭いを嫌うというだろう。」

 

「あぁ。コレね。好きだから吸ってるだけよ。そんなものでしょ?」

 

明るく返す女に同意する。人にとやかく言われるだろうが、確かに。言いたい奴には言わせておけばいい。

女のタバコが半分程燃えた頃、今度は女から声がかかる。

 

「思ったより寡黙なのね。」

 

「そうか?」

 

「えぇ。無類の女好きと聞いたわ。」

 

「俺の事を?」

 

「えぇ、ロイって人に。」

 

「大佐が?」

 

「少し話した程度だけどね。でも、硬派な人の方が好きよ。」

 

 

女は笑う。男の元上司にあたる人物と一体どんな関係なのか気になった。その時、1人の人物が頭に浮かぶ。赤い髪の諜報員。

 

「あんたが【ウィッチ】か。」

 

「有名なのも考えものね。【スネーク】」

 

【ウィッチ】

男と同じ湾岸戦争に参戦していた兵士。

ベルトラインと呼ばれた部隊の1人である彼女は、要所への奇襲を担当していた。突然出てきて、消える。まるで手品師のような戦い方は、いつしか彼女に魔女の名を与えた。

 

「噂ってすごいわよね。私、1キロの距離を瞬間移動できるらしいわよ?いっその事【不可能を可能にする女】にして欲しかったわ。」

 

「何故?そんなもの欲しがる様には見えないが?」

 

「気楽でしょ?1人より2人の方が。」

 

 

どうやら気を使わせたようだ。男は苦笑いを見せる。それを見て、女はホッとしたような表情を見せた。

 

「やっと笑ったわね。ノルマ達成よ。」

 

「ノルマ?」

 

「えぇ。こんな仕事でしょ?だから、1日に1回は誰かを笑わせるの。」

 

揶揄われたわけではないらしい。女の綺麗な目が、そういっていた。タバコを消し、女は立ち上がる。座っている男を見下ろしながら、彼女は右手を差し出した。

 

「ヨゾラよ、これからよろしくね。」

 

「………あぁ。」

 

戦場を経験していれば、人はどうしても何処か歪んでしまう事がある。そんな呪いのような何かを受けながらも真っ直ぐ前を見る彼女の笑顔は、とても綺麗に見えた。

だからだろう。差し出された右手に、男は自分の手を重ねた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.16

 

 

何が起きたのかわからず、瞬きを繰り返す。先程までのこの世の終わりのような光景はすっかり消え、すっかり見慣れた我が家の天井だけが広がっている。

次に自分の身体を見た。ボロボロの服も着ておらず、どこも怪我はないため血に染まってはいない。

しかし痛みも疲労感もあったはずだ。もちろん、今はどこにもない。

まさか、まさかだろう。あのだいたい1ヶ月程のやりとりが全て

 

「ゆ、め?」

 

そう考えた途端、身体の力が抜けた。強張っていたそれは、口から空気として吐き出されていく。

確かに、現実的ではなかった。あの一帯を吹き飛ばす台風なんてあるわけない。そうか、それもそうだよな。

渇いた笑いが漏れた。どうにも、変な夢を見て脳が追いついていないらしい。このままではいけないと、水を飲む為に立ち上がる。

 

キッチンでコップを取り、蛇口の水で満たす。中身をゆっくり飲み干すと、ボヤけた頭がやっと冴えてきた。

もう一度コップに水を入れ、ソファーへ戻る。テーブルに置いてある携帯電話が、2通の不在着信を知らせていた。

 

一件は彼に定期的に金を振り込んでくれる通称【足長おじさん】。もう一件は、幼なじみである美樹さやかからだ。

さやかは良く連絡をしてくるが、【足長おじさん】の連絡はあまりない。謎の多い人物のため、優先順位はすぐに決まる。

 

特徴的なコール音を聞きながら待つ。少しして、眠そうな声が聞こえてきた。

 

「おはよう、邪魔したか?」

 

『いや、いい目覚ましになったよ。ありがとう。おはようハナビ。元気してたかい?』

 

何処となく気弱さを連想させる男性の声に、妙な既視感を感じる。デジャブとは良くないことの前触れだったか?なんてどうでもいいことが頭に浮かんだ。

それから、簡単な近況報告を行う。どうにも向こうは立て込んでいるらしく、今後の連絡も更に遅れるらしい。それを軽く了承し、電話を切った。

 

携帯電話を置き、顔を洗いに洗面所へ向かった。鏡に映る自分の顔に戸惑い、いつもの通りに不安を呑み込んだ。顔を洗った後、そういえばと携帯電話をつかむ。仕方ないので、もう1人にも電話を…いや、どうせ今日会うのだ。その時に聞こう。

そう考えた時、メールの受信音が鳴る。

チラリと目を向ければ、お昼のお誘い連絡が届いていた。

送り主に丁寧に返事を送り、朝の準備を済ませる。

窓から溢れる陽の光は、今日も一段と輝いていた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.16

 

 

屋上で、人を待つ。残暑も終わりに差し掛かった今の季節に吹く風は、程よく涼しくて心地いい。そこまで長くはもたないだろうが、花火はこの秋らしい季節を好んでいた。

フェンスに背を預け目を閉じる彼の姿は、中々に様になっているだろう。良い子は危険なのであまりやらないように。

 

屋上へのドアが開き、1人の少女がやってくる。

落ち着いた物腰の彼女は、その柔らかい印象の瞳を花火に向けた。制服をキッチリと着こなし、腕にバスケットをかけている。

花火も目を開き、待ち人を確認すると立ち上がる。

 

「お待たせ、祭君。」

 

「いえ、大丈夫です。巴先輩。」

 

 

巴先輩、と呼ばれた少女はそのまま花火の隣まで歩いてきた。花火はポケットからハンカチを取り出すと、それを広げ地面に置く。

少女は、それを見て嬉しそうに笑った。

 

 

「あら、ありがとう。紳士が板についてきたわね。」

 

「教育の賜物ですよ、先生が素敵でね。あー、俺の負けですよ。ほんと、敵わない人だ。」

 

 

そんな返しにも微笑んで対応してしまう巴に、花火はすぐさま言葉を改める。

「よろしい。」と締め括る彼女は、それなりに同年代の少女と接してきた花火から見ても、頭一つ抜けて綺麗だと感じていた。

 

そもそも、2人の関係は一年ほど前から始まる。昼食は1人で食べる事を好む花火は、その日も屋上でパンを齧っていた。片手にはダンテの【神曲】を持ち、勉学に励んでいた。

しかし、自宅にある母の書斎から適当に見繕ってきた物だ。元々興味のある内容かと言われれば否であり、言葉の理解を得るには難解すぎた。だからといって、途中でほっぽりだすのも気に食わない。

パンを咥え頭をかきながら悩んでいる彼は、屋上の扉の開く音を聞く。そこにいたのが、巴マミである。

マミは容姿の良さと、彼女自身の個人的な事情もあり、友人といえる人物がいなかった。

そんな事もあり、1人でいる事が多かったのだ。

今日も屋上で1人で昼を過ごそうと考えていたところに、先約と目があってしまった。

互いに声を出す事はない。そのせいか、嫌な沈黙が続いてしまう。

マミはなんとかこの流れを払拭したかった。しかし相手は男の子であり、鋭い目付きも相まって不良にしか見えない。

一方花火は特に気にしていなかった。強いて言えば、何故この女の子は俺を見て固まってるのかわからないといった心境だ。

なんとかしようと考えるマミと、なんにも考えてない花火。その空気を脱したのが、【神曲】だった。

 

「こんにちは、その本好きなの?」

 

「ん?あぁ、いや。勉強用にちょっと…。」

 

会話の糸口を見つけホッとしながらも、マミは花火に近づき話しかける。そんなマミに、現在悩まされている本についてどう答えたものかと考え、結局歯切れ悪くも答える花火。

花火はイタリア語を覚える為にこの本を手にしたと伝え、マミはそれなら少し分かるから教えようかと提案する。

ここで、互いの印象は大きくズレていった。

 

マミは、花火を自分と同じような趣味を持つ子だと認識した。個人の趣味を露見するのはなにかと恥ずかしい物だが、同士がいるなら共有したいと思う物だ。真性ぼっちな女の子としては、異性とはいえ趣味のあう友達は欲しいと思う。目指せ脱ぼっち。

一方花火は、マミを知的な先輩だと考えた。

物腰も柔らかく説明も丁寧で分かりやすい。年の近い人と教え合うという経験も新鮮だった。訳の言い回しが若干芝居じみているがそれくらいなら妥協もできる。そんな頼れる先輩に、花火は感謝の言葉を伝えた。

 

そんな彼とのお友達っぽいやりとりにマミも喜び、この2人は屋上で昼食をとり勉強をする仲となる。マミの個人的な事情もあり、学校以外では関わる事はないのだが、メールのやり取りくらいはするようになった。

何故か過度なくらいその事を喜んでくれるマミに戸惑ったものの、いい人であるのは間違い無いので気にしない花火。一年経っても変わらぬ関係だが、花火はマミが自分以外に学校で話す友達がいないとは考えてすらいないのだ。

 

マミとの出会いを思い出し、内心で感謝の言葉を送っていると、マミがバスケットの蓋を開けた。中にはサンドイッチが入っている。その量は、1人で食べるには多すぎるくらいだろうか。

 

「今日はサンドイッチを作ってきたの。祭君に久しぶりに食べてもらおうと思って少し作りすぎてしまったわ。」

 

「いつもありがとうございます、先輩。」

 

座ったまま頭を下げる花火。一緒にお昼ご飯を食べるようになってから少し、パンしか食べない花火を気遣ったのだろう。マミが料理を作ろうかと提案した。最初は、そこまで世話になる訳にはいかないと花火も断ったのだが

 

『迷惑だった、かしら?』

 

寂しそうな顔でこんな事を言われてしまえば、彼に断る選択肢は湧いてこなかった。作ってくれる時は事前に連絡が欲しいと、言い切っただけでも勲章物だろう。

 

そんな訳で、花火は美少女のお昼ご飯をいただくに至った。一つ言及させていただくなら、このやりとりは決して惚れた腫れたの話ではない。巴マミという少女は基本的には落ち着いた性格であり、周囲に対しても慈愛の深い印象をみせる。ただ、特定の人物と長く接する経験が少ない為、その辺りの尺度がズレているだけなのだ。

 

マミの作ったサンドイッチを手に取る。ハムとレタスのサンドにかぶり付けば、口の中で風味の良いパンの香りと、ハムの旨味、レタスの歯応えが踊った。

これは良い。すぐに一切れを食べ終え、次にタマゴサンドに手を伸ばす。

丁寧にペーストされたタマゴを挟んだそれを一口。

濃厚なタマゴ本来の味を崩さない味付けは、食べる相手に対しての作り手の気持ちが込められている。

 

「相変わらず何を作っても美味しいですけど、コレは格別だ。お店が開けますよ。」

 

「ふふっ、ありがとう。そんなに褒められると、その気になっちゃいそうよ。」

 

心からの感想を伝えれば、マミは上品に口元を隠し笑う。

舌が求めるまま、あっという間にサンドイッチを平らげてしまった花火。食べ終わってから得たのは、深い満足感と少しの寂しさだった。食は人を豊かにするが、サンドイッチ一つでここまでとは…。花火は自分に少々の呆れをみせる。

そんな彼の視界に、飲み物の入ったコップが差し出される。無意識に受け取り、それを渡したマミへ視線を向けた。

 

「食後のコーヒーよ。祭君、紅茶よりコーヒーが好きだって言ってたでしょ?頑張って作ってみたの。」

 

コレは、なんとまぁ。

確かに、コーヒーの方が好みだとは言ったが、態々用意してくれるとは。それに、今この人は作ったと言わなかっただろうか?一体、どの辺りから作ったのだろう…。

 

受け取ったコーヒーを口へ近づける。

豆の香りが鼻腔を擽る。口に含めば、あぁ…。

 

「美味い。」

 

一言。コレだけでよかった。

一体、この先輩はどれだけ世話を焼いてくれるのか。あまりにも貰いすぎで、どうお返しをすればいいのかわからなくなる。

この心境を本人に伝えても、「好きでしてる事だから」なんて言って笑うのだろう。鹿目まどかとはまた違った意味で敵わない。

 

沈黙が続くが、花火はこの時間が好きだった。コーヒーを堪能し、ゆっくりと時間が過ぎていく。

平和で、平穏なお昼休み。

まさに、至福の時間が流れていた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.23

 

 

病院の一室。その扉の前で、花火は立ち止まった。

【上条 恭介】の名前を確認し間違いでないことがわかると、ノックをして返事を待つ。

相手より了承の声が聞こえたので、ドアを開けて中へと入った。

 

部屋の奥には、リクライニングベッドに体を預け、開かれた窓から外を眺める1人の少年がいる。思い詰めているのだろうか…。外にある何かに想いを馳せるように見える彼は、入って人物を見て儚く笑う。

 

「久しぶり、花火。元気だったかい?」

 

「あぁ…。少なくとも、ここよりは充実している。」

 

「酷いなぁ。僕にとってのお城だよ?」

 

あんまりな物言いだが、上条恭介は付き合いの長さで花火がそれなりに気を使っている事を察していた。だからこそ、皮肉めいた言い回しの抜けない彼に笑顔を向ける。

花火は無理に気を使うと逆に萎縮するのではと、色々と悩んだ末にいつも通りの返事を返した。

 

「さやかから聞いた。俺に会いたがってるってな。」

 

「えぇ…?確かに前に花火の話は上がったけど…。」

 

「夜遅くに電話してきてな。無視をしたら翌朝学校でガミガミと言われたよ。」

 

「それは花火が悪いかなぁ。」

 

「アイツは話が長いんだ。延々とお前の話を聞かされても困る。この前は3時間は喋りっぱなしだったぞ。」

 

「アッハハハ。なんか、さやからしいね。」

 

常に真っ直ぐ過ぎて、周りを見ないもう1人の幼馴染みの愚痴を零せば、それを聞いて同意するように笑う恭介。

幼い頃は、さやかが突っ込み、恭介が巻き込まれ、花火が諫める。そんな事の繰り返しだった。それが、とても楽しかった。

 

しばらく談笑していたが不意に話題が無くなり、沈黙が流れる。窓から入る風が、恭介の髪を撫でた。

 

「…上手くいかないのか?」

 

花火が切り出す。

去年、交通事故に巻き込まれた恭介は、左手に後遺症が残った。思うように動かない左手を見た時、ヴァイオリンを弾く事を何よりの幸福としていた彼の心がどれほどの衝撃を受けたのか。花火にはわからない。

それ以来熱を失った彼の瞳に、同情と哀れみが湧き上がったのは事実だろう。

 

「…医者には、諦めろって言われたよ。ハハ…簡単に言ってくれるよね。」

 

その言葉は、恭介にとっては死刑宣告と何も変わらなかった。音楽に愛され、それ以上に音楽を愛した彼。しかし、その愛を運命は否定した。

 

「動かないんだ。何度も…何度も、何度も何度も何回もっ…!どれだけ力を入れたって、もう左手は答えてくれないんだよ。ヴァイオリンは、僕にとっての全てなんだっ。なのに…っ。」

 

叫び散らしてしまえば、その事実に飲み込まれそうで。でも、この狂いそうな心の中身を吐き出したくて。グルグルと回りながら増大する怒りや恨み、悲しみ。凡そ彼の人生で感じた事のないほどの絶望が、恭介の喉を震わせる。

 

「花火にはわからないだろうね…っ。君は、簡単にサッカーを諦めたんだから。僕は違うっ。僕にとって、これは人生の全てなんだよ!」

 

そんな恭介の言葉を花火は黙って聞いていた。かつて母を失い荒れていた花火が、恭介達に対しそうだったように。

割り切れる訳がないのだ。それができるなら、人は悩むことも争う事もない。それが人か物か違いはあれど、好きなものを失うのは耐えがたい苦しみを生む。恭介はそれに飲み込まれまいと踏ん張った。しかし、それでも抜け出す事は困難だ。

苦しんで、苦しんで、苦しんで。

それ程までに耐えても、神様が微笑むことなんて無いのが現実だ。

 

病室に沈黙が流れる。

何も言わない花火が不気味で、恭介はそれに怒りを覚える。理不尽なのはわかっている。だが、感情でどうにかなるものでも無いのだ。

その感情に任せて、花火に帰るように言おうとしたその時、花火が動き出した。

持っていたカバンを漁り、ファイルを取り出すと、恭介のベッドの上に置く。

 

「これ…は?」

 

「俺なりに調べてみた。世界には、そういった人たちの為の補助器具があるらしい。腕に取り付けて、神経の伝達を疑似的に行うそうだ。まぁ、外側から手を握らせたりするだけらしいから、細かい動きは無理だろうがな。」

 

「…だったら、意味なんてないじゃ」

 

「右手の指は動くだろう。だったら、そっちを使え。」

 

青灰色の鋭い視線が、恭介を睨む。

その有無を言わせない気迫に、恭介の言葉は遮られた。

 

「今までのリハビリなんて遊びに見える程の地獄だろうな。マトモに弾けるようになるのに何年もかかるかもしれん。でもな」

 

恭介の肩を花火の手が掴む。そこに込められた熱は、火傷してしまうのではないかと言える程に熱く…恭介の冷えた体に熱を与える。

 

「世の中に奇跡は無い。でも、クソみたいな希望はあるもんだ。なら、やれ。みっともなく騒いで、同情誘ってる暇があるなら…立て。」

 

その言葉が悔しくて、嬉しくて、とても言葉では言い表せれないそれは、恭介の目から涙となり溢れる。幼馴染みで、しかも男の前だ。泣いてやるもんかと耐えれば耐えるほど、眼頭が熱くなる。

 

「俺は、お前に優しい言葉なんざやらんぞ。悔しいなら…お前の演奏を聞かせてみろ。」

 

「っ……くっ…ぅ、ぅぅっ……ぅあぁ…っ」

 

せめて、顔を見られまいと俯く恭介。

ベッドに水が落ち、シミを作る。だが、花火は黙って背を向けた。

小さな声と、カーテンを揺らす風の音。

少しの間、病室はそれ以外の音は聞こえなかった。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.30

 

 

「おはよ、不良少年。覚悟はいいわよね?」

 

「なんだ青色猪娘。また話を途中でぶった斬ったのか。」

 

机の上に項垂れる花火を仁王立ちで見下ろすさやか。いつも通りの光景だった。

相変わらずダラける彼を睨む少女は、彼の言葉を無視して続ける。

 

「アンタ、この前恭介と喧嘩したでしょ?」

 

「語弊があるな。俺はアイツに何もしちゃいない。」

 

「ベッドで散々泣かされたって言ってたわよ?」

 

「待て、それだと意味が変わってくるからやめろ。」

 

クラスメイトからの視線が痛い。

日本人離れした見た目のせいか、萎縮されてあまり話しかけられる事のない花火だが、これだと別な意味で話してもらえなくなりそうだった。

別にもっと話しかけられたいというわけでもないが、そういう趣味だとは思われたくない。

 

「はぁ?なんの話よ?」

 

「こんな所で純情気取りやがって。」

 

「花火君、あのね。あまり否定しちゃいけないんだろうけど、女の子は怖い生き物じゃないんだよ?」

 

「まて鹿目。お前は大きな勘違いをしている。」

 

頬を赤く染めて申し訳なさそうに話すまどかに訂正をいれる。隣でトマト状態の転校生、暁美ほむらにはどう説明したら良いのか。

とりあえず、志筑仁美はそれなりの力で小突かなければならない。「禁断の…恋っ」なんていってお目々をグルグルとさせてるのだ。それくらいなら許されるはずだ。

 

 

「朝のパンはジャム派ですか、マーガリン派ですか?ハイッ、中沢君!!」

 

「どっちでもいいんじゃないですか?」

 

 

我らの担任である早乙女和子は、また魚を逃したらしい。本当にどうでもいい事に毎度付き合ってあげている中沢君は、実際本当にいい奴なんだろう。4年後には早乙女先生に捕食されるかも知れない。

 

そんな日常を、花火は退屈な表情で眺めていた。決して映画のようなドンパチを求めているわけではない。しかし、やはり少しは刺激が欲しいとは思ってしまうのだ。

隣を見る。授業中なのもあって、真面目に黒板に書かれた文字を写すまどかがいる。もうすぐ彼女の誕生日だ。彼女の母である詢子から誘われているので、しれっとその中に混ざってやるつもりだ。

そういえば、腕時計を買ったんだったか…。彼女は喜んでくれるだろうか?似合うと思って買ったのだ。是非、つけてもらいたいものだ。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.10.16

 

 

この光景に見覚えがあった。今でこそ朧げではあるが、あの日見た夢の最後だ。

花火は、風により音の鳴る窓を見ていた。視線の先にある空は雲により覆われている。

何か大事なことを忘れているような、そんな感覚が花火の中で渦巻く。しかし、その答えを彼は持ち合わせていなかった。

 

「おーい、花火ー。」

 

誰かに呼ばれる気がした。そんな時に後ろから声がかかる。声こそ出さなかったが、体が驚きで少し震えた。平静を装いながら、後ろを振り返る。

美樹さやかだ。彼女が声をかけたのだろう。この光景を過去に見た、ような気がする。

 

「お前か…やけに遅かったな。大方、恭介の様子でも見に行っていたんだろう。」

 

「なーんで解っちゃうかなぁ…。もしかして、ストーカー?」

 

「単純なんだよ、お前の行動は。」

 

「酷くない?あ、もしかして寂しかったのかなぁ花火君はー?」

 

「あぁ、お前がいて安心する。」

 

黙らせる為に褒めてみれば、恥ずかしそうに動きを止める。やはり気のせいだ…。心に渦巻く不安に花火はそう言い聞かせる。

携帯電話の音が鳴り響いた。まるで、あの時の繰り返しのように。

 

「…でないの?」

 

「あ、あぁ…今、でる。」

 

もし、もしこの電話にでた時、台風の影響か何かで相手の声が殆ど聞こえなければ…その先は、どうだった?

【足長おじさん】と記されている着信に対応する為、恐る恐る通話ボタンを押す。

 

「…もしもし?」

 

『は…[ザザッ]……えるか[ザザッ]…』

 

身体の温度が下がった気がした。一月程前の夢の記憶が蘇る。なら、ならばだ。

 

鹿目まどかは何処にいる?

 

 

『[ザザッ]すぐ………[ザザッ]るんだ[ザザッ]………ルギ…[ザーッ]』

 

電話が切れた。しかし、そんな事を気にする余裕なんてない。冷や汗が背中をつたう。

きっと、この後に詢子がここにくる。そして、花火はまどかの不在を知らされる。

 

あの後、どうなったかはわからない。気づけば、ソファーの上で目を覚ましていた。あの時は夢だと思っていたが、此処までの既視感の後では説得力にかける。

いや、今はその事を考えてる時間はない。

 

「鹿目を、探さないと…。」

 

「ちょっと花火!何処行くつもりよ!?」

 

「鹿目がまだ外にいるんだよっ、早く見つけないと…っ!」

 

後ろから制止の声がかかるが、知ったことかとばかりに花火は走り出した。

外へ飛び出し、まどかを探す。

あの時と同じく視界は悪く、吹き荒ぶ風は身体を持っていってしまいそうだ。

それでも、何とか前に進む花火の腕を誰かが掴む。

 

思わず下手人を確認すれば、先ほど放置していたはずのさやかがいた。

 

「な、何で此処にいる!?」

 

「待てって言ったでしょ!?よくわかんないけど、まどかが危ないならあたしも探す!!」

 

「お、前は…っ!」

 

思わず怒鳴ってやろうと思った。しかし、花火でさえ動くのが困難なこの状況で、小柄なまどかが無事だとは思えない。さやかと討論する時間は無かった。

花火はさやかの手を強く握る。予想より柔らかい少女の手に、さやかの印象が変わった花火だが、今はそれどころではないと頭を振る。

 

「いいかっ!絶対に、絶対に手を離すなよ…っ!」

 

「わかってるって!」

 

そういって花火を安心させるつもりで笑うさやかに、花火も笑みで答える。心配ではあるが、この少女のおかげか多少落ち着くことができた。心強い援軍だ。

 

まどかの名を叫びながら前へ進む。かなり歩いたつもりだが、強風の影響か感覚が狂っている可能性もある。とにかく、まどかを探すために辺りを見回した。

強風で植林された木が根元で折れていた。

クレープを売ってた車型の屋台も、転がってきたのか逆さになっている。

まるで某ゾンビ映画みたいだ。戦争でもあったかのような光景が花火の眼に映る。

あの時の記憶を思い出す。

確か、あの時…ソファーで目覚める前だ。

最後に見た更地になった場所に、誰かがいたはずだ。もしかしたら、まどかかも知れない。

 

「な、何よあれ…っ!?」

 

そんなさやかの驚きの声に、思考を止めた。

彼女の視線の先へと目を向け…困惑した。

 

ロボットが、いた。

 

少し離れてはいるが、鳥のような形の巨大なロボットがいた。口のような部分を開き、まるで威嚇するかのように大きな鳴き声が響く。黒い体に白色の線のようなものが浮かび…口からビームを吐き出した。

それは横一線に薙ぎ払われ、花火達がいる場所にあるビルに直撃する。轟音と共にビルの先端が吹き飛んだ。

そして無数の瓦礫が、花火達へ向かって

 

 

降り注いだ。

 

 

 

 

「……っ…ぁ……ぁぁ…?」

 

 

花火は目を開く。どうやら気を失っていたらしい。既に風は止んでいる。辺りから、火が弾ける音が聞こえる。

朦朧としていた意識が、先ほどまで何をしていたかを思い出すと同時に覚醒した。

急いでさやかを探すために立ち上がった時、自分の手が握っていたものを見た。

 

腕だ。

 

細い、少女らしい腕を花火は握っていた。

さやかは、いない。

さやかの腕から先は、どこにもない。

 

「あ…あぁぁ……っ」

 

少し先に、血溜まりが見える。それは瓦礫の下から流れ出ている。

花火の頭が、その意味を理解した。

 

つまり、つまり、つまり…。

 

その腕の先は、今…。

 

 

「ーーーーーーーー!!!」

 

 

瓦礫の中で、少年は獣のように叫ぶ。

その慟哭は、静まった街の中に響き渡る。

そして…。

 

 

繰り返すかのように、ソファーで目を覚ました。

 

 

2011.09.16




2万文字も書いて、未だに魔法少女が出ないまどマギ小説があるらしい(震え声)

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