MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
どれほどの戦力が来たとしても、彼女の兵士達がいるなら足止めが可能だ。文字通り減らない軍隊の脅威は、語るべくもないだろう。
スパルタのような存在は今の時代にはいない。
20話
2011.10.02
「イッテェ…っ!」
「佐倉、傷はどうだ…っ?」
「今治してるっ。後でソウルジェムの浄化しないとな…。」
既に事務室の形を無くした部屋から出た景色は、更に酷い物となっていた。
元は鉄類の加工場だろう工場内は、先ほどの爆発の影響か半壊している。天井を支えていたであろう鉄骨が落ちてきたのだ。放置されて劣化しているとはいえ、相当の衝撃が無ければ有り得ない。
落下物はハルの乗っていた車にも落ちたようだ。短期的な移動手段としてしか用意されていなかった為か、警報音の類は聞こえない。しかし、漏れたオイルがゆっくりと出入り口に流れていくのがわかる。それを目で追った事で、花火は外に人がいる事を確認できた。
兵士…なのだろうか。実物なんて見る機会は無かったが、何となくそう感じる容姿をしていた。
黒装束な外見にフルフェイスのヘルメット。数は8人。全員が同じ背丈なのが妙に不気味で、横一列に均等に立っている。
そして、両手で構える銃の先は花火達へと向けられていて…。
「マジか…っ!?」
咄嗟。同じ光景を見ていた杏子が槍を取り出した。普段よりも大きなそれを地面に突き刺し、銃弾から逃れる為の盾とした。
花火は杏子を腕の中へ抱きしめて、槍の腹に背をつける。
その瞬間、銃声。
耳を劈くような、と言うべきか。一般人が聞く事の無いであろうオーケストラは、火薬の破裂音と鉄のぶつかり合う音。
必死に身を縮め、その死神の接近から逃れようとしている花火の耳に、何かの亀裂音が聞こえた。
音の出所へと目を動かせば、槍にヒビが見える。それは、花火達の認識を改めさせた。
「どうなってる…っ。何で唯の銃が魔法の槍を…!?」
「チッ…!つまり、アイツらの武器は魔法少女の手が加えられてるって事かよ…っ。」
杏子の言葉が、その事実そのものなのだろう。
魔法少女で無ければ、魔女に対等出来ないのと同じように。魔法少女の武器に、通常の武器は通用しない。
肉体への攻撃なら、まだわからないかもしれない。しかし、武器とくれば話は別だ。
魔力で編まれたソレに傷をつけられるのは、魔力を含んだモノに限られる。
だからこそ、魔法少女のみが魔女を打ち倒す事ができるのだ。
それを覆すのは不可能であるなら、あの銃弾は魔法の類なのだろう。
純度なんて言葉を使うなら、彼らの量産品よりも杏子の槍の方が高いのだろう。しかし、数の暴力はどこでも有利だ。少しずつ、槍の亀裂が増えていく。
花火の視線の先。酷い有様の事務室の入り口の壁から、スネークが見えた。その手には、小さな缶が握られている。銃弾の雨により、辺りが煙で視認性が下がる。その瞬間、彼はそれを放り投げた。
軽い鉄の音が鳴り、数秒後に強烈な光が走る。背を向けていた花火達にはそれがどれほどのものかはわからなかったが、恐らく当分はまともに動けばしないだろう。
スネークが立ち上がり、兵士達のいる入口へ走る。花火と杏子もそれに続いた。
煙の先には、先程のフラッシュバンで統率の乱れた兵士達。スネークは一人に接近、足を引っ掛けながら肩を押し、地面へと叩きつけた。すかさず、隣の一人へと回し蹴り。そのまま半回転し、両手で構えたGSRが奥にいる一人のヘルメットに穴を開けた。
一秒につき一人。三人を無効化された兵士達は、闇雲に銃を乱射しようと下ろしていた銃口を上げる。
そこに、杏子が割り込んだ。
魔法で出来た槍を腕に向かって下から上へ。スネークの背後に位置する兵士の両手は、銃を抱えたまま地面へと落ちる。腕を振るい、持ち手の位置を変える。より、刃先に近い位置へ。
奥の一人の背中から、突進した杏子の槍が突き出た。更に奥の一人がその位置へと銃口を向け、頭部に突き刺さる槍により動きを止める。
軽やかに、杏子は地面へと降りたった。
同時。花火は、ホルダーに入れた銃を構えながら走る。思い出すのは、スネークの言葉。
狙うのは足。殺す事に躊躇するのは事前に理解している。両手で構え、反動がある事を予測して、狙いよりも少し下に。
そして、引き金を引く。
運が良かったのか、才能か。筒から飛び出た鉛は、兵士の膝を撃ち抜いた。少し、動きの止まった隙に、頭部へと膝蹴りをめり込ませる。
魔力で強化された肉体は、ヘルメットの硬さを無い物とした。強化プラスチックの壊れる音と共に、兵士は仰向けに倒れる。
そのまま、もう一人へ銃口を向けた。
余裕がない。既に相手はその銃口を花火へ向けている。幸運か、花火の指の方が早かった。
今度は狙いはつけていない。とにかく、がむしゃらに撃つ。4度の発砲音が響き、その内の3発が兵士の胴体に穴を開けた。
全ての兵士を倒した。荒い息が聞こえるが、それが自分のモノだとわかったのは、スネークに肩を叩かれた時だった。
「…無事か?」
「ハッ、ハッ…はぁ…。だ、大丈夫だ。」
そんな訳がない事は、花火自身がよく理解している。人を撃ったのだ。殺したのだ。動かない兵士のヘルメットから、目が離せない。
見えない筈の目が、花火を恨めしそうに睨んでいるような気がして、吐き気がこみ上げる。それを、意地で飲み込んだ。
あまりにも軽い引き金とは裏腹に、花火の心に重たい何かがのしかかる。それを気付かない振りが出来るほど、花火は大人には成りきれてはいない。
それでも、今危機に陥っているであろう家族の為に、それから目を逸らした。
そんな花火の様子に一抹の不安を覚えたスネークが口を開こうとした時、その耳に複数の足音を聞いた。
杏子もそれを聞いたのだろう。兵士のヘルメットに刺さった槍を引き抜き、構える。
先程出てきた倉庫を背に、三人が身を寄せる。そんな彼らを囲むように、路地から兵士達が雪崩れ込んでくる。今度は、十人以上。
花火達を囲んだ彼らは、先程の兵士達と同じように銃口を向けている。
「…くっそ。」
「ハッ…意地でもアタシらを消したいってか…?」
「…。」
花火の悪態に、杏子が余裕の無い笑みを浮かべる。スネークは無言のまま、その表情を顰めた。
多勢に無勢。四面楚歌。状況に当て嵌まる言葉は幾つかあるが、それを打破する方法は思い付かない。三人の頭に【GAME OVER】の文字が浮かぶ。
そんな状況の中、スネークはこちらに向かってくる車のエンジン音を聞いた。
目を向ければ、ブルーの車がこちらへ走ってくる。乗っているのはヘンリーだ。
車はそのまま兵士達へと突っ込んで行く。兵士達は目標を花火達から車へと変えた。無数の弾丸が、車体を傷つけていく。それでも、車は止まらない。
花火達を囲む兵士に沿うように、車が半回転しながら兵士を吹き飛ばした。地面にタイヤの跡が残る。助手席が開き、ヘンリーが声を上げた。
「乗るんだ、早く!」
花火が助手席へ、杏子とスネークは後部座席へと乗り込み、ヘンリーは車のアクセルを踏み込んだ。エンジンの音と共に、車が動き出す。
後部座席にいる杏子が、ヘンリーを怒鳴りつけた。
「テメェ、今までどこに行ってやがった!?」
「少し離れた所に留めて置いた車を取りにネ!人通りが少ない場所を選んだからか、邪魔が入ったけど…っ。」
「ヘンリー、お前…っ!?」
助手席にいた花火が息を呑む。彼の着ているスーツの横腹部分が、赤黒く染まっている。よく見れば、彼の頬に脂汗が見えた。
「悪いネ、ハナビ。今はちょっと、余裕がないんだ…。」
そういって笑うヘンリーは、道路から目を逸らさない。傷の手当てをするにも、今そんな事をしていられる時間は無かった。
焦る心を誤魔化すかのように、花火が口を開く。
「まだ持つよな?後で治してやるから、まだ倒れるなよ…っ。」
「オーケー。我慢は、得意なのさ…。」
口先だけの言葉だろうと、ヘンリーはこの際構わず発した。自分より一回り以上も歳下の少年に心配されていては、この仕事はできない。
「…っ!追ってきたぞ!」
後部座席にいたスネークの声に、花火は後ろを振り向いた。ヘンリーが視線をサイドミラーに向ける。
迷彩柄のジープが数台、後方から迫ってくるのが見えた。ライフルを構え身を乗り出す兵士の姿もある。法定速度を守ったままでは、確実に捕まるだろう。
「捕まってろ…!」
ヘンリーはアクセルを踏み込み、スピードを上げた。前方の車を避けながら、とにかく距離を引き離そうとする。
ジープもその後に続き、カーチェイスが始まった。
発砲音と共に、車に何かが当たる硬い音が響く。思わず身を縮めれば、助手席側のサイドミラーにヒビが入った。
「ヘンリー!何か武器はないのか!?」
「座席の下のケースを!ハナビ、弾はグローブボックスに!」
「ダッシュボードだよなっ!?」
ヘンリーの言葉に従い、スネークが座席の下に手を伸ばす。触れた物を引き揚げると、シルバーのそれなりに重いケースが出てきた。ケースを開けると、組み立て式のレバーアクションショットガンが綺麗に収まっている。
花火が助手席前のグローブボックスを開く。シルバーの紙箱に【RIFLED SLUGS】と記載されたそれを、組み立ての終えたスネークに渡す。
スネークが弾を込めている間に、花火はグローブボックスの中のM9を手に取る。花火が持っていたシグザウエルP232と比べると大きな銃だが、左利きの人間にも対応している利便性の高い銃だ。
慣れない手付きながらも、マガジンを引き抜き弾を確認する。どうやら、弾は入ったままのようだ。弾数は15発。丁寧にマガジンを戻して、ゆっくりとスライドを引く。スライドが止まると手を離し、球が装填される。
揺れるジープから、今も弾はばら撒かれている。1度深呼吸。大丈夫だ、そう自分に言い聞かせる。そして、助手席の窓を開け身を乗り出した。
両手で銃を構え、引き金を引く。しかし、やはりアンバランスな姿勢では当たるものも当たらない。ジープのライトが割れたのを確認し、身を引っ込める。
「クソッ、当たらない…っ。」
「無茶をするな、顔を出せば撃たれるぞ?」
「わかってる…!だが、こんな所で追いかけっこしてる暇は…っ!」
「お前にはまだ早い。ここからは」
スネークの言葉に苛立ちが募る。冷静にならなければと言い聞かせても、脳裏に過ぎるまどか達との生活がそれを邪魔する。
家族として迎え入れてくれた彼女達に危機が迫っているのだ。早く助けに向かいたい思いが、余裕を奪い去っていく。
そんな花火に、スネークが言葉を続けた。
「俺の仕事だ。」
組み終えたショットガンのレバーを引き、窓から身を乗り出した。静かに銃を構え、揺れる車に身体を引っ掛けるような姿勢で放たれた弾丸はジープのタイヤを破壊する。
大きな音と共にジープが揺れ、転倒する。同じように追いかけている一台は倒れたジープを避けたが、もう一台はそれに勢いよくぶつかる。
尻尾を振りながらも接近しようとするジープに、スネークが狙いを定めた。スラッグ弾の射程は短い。それでも、50メートルも離れていない今の距離なら外さない。
重い発砲音と共に吐き出された鉛は、ふらつくジープのフロントガラスを突き破り、運転手の胸を破壊した。
リロードを行いながら照準をスライドさせ、接近するもう一台を銃撃。身を乗り出していた兵士が吹き飛ぶ。更にもう一発。破れたタイヤは回転するたびに右にズレて車体を傾かせる。そのまま倒れた車体は、2、3度回転して沈黙した。
「…わぁお。」
ゆっくりと座席に座るスネークに、杏子の口から言葉が漏れた。いや、これは言葉と言っていいのかは微妙なところだが。
「…デカいからだろ?」
「確かに、サイズは必要だ。」
「すぐに追いつく。待ってろじーさん。」
後方が玉突きなんて生優しいものでない事故現場となっているため、一刻も早く現場から離れようと車は走る。
そして十字路に差し掛かった時に、杏子の目はそれを捉えた。
十字路の左側。道路のど真ん中に兵士がいた。見てくれは、先ほどから襲いかかってくる奴らと大差はない。
それでも、その手に持つ細長い筒が何なのかくらいは予測できた。
この道を通ることを予測していたのか、正にベストなタイミングで筒からそれは放たれた。
「っーー!?」
杏子の動きは早かった。車の窓を蹴破り屋根に登り槍を生み出した。そのまま、放たれた弾丸に槍を放る。
槍が弾丸の先端を押せば、そこから大きな爆発が起きた。槍を放った体制のまま、爆炎の中を突き破りながら接近するもう一発の弾丸。杏子の目は、爆炎の奥で空の銃身を地面に捨てる兵士を見た。
地面に置かれたソレは、二つあった。
迫りくるロケットランチャーの弾に、車内にいたヘンリーとスネークが気づいた。ヘンリーは、足を持ち上げ身体を捻った。まだ、突然の爆発で状況の理解していない花火を蹴り飛ばす。その動作を見たスネークが、後部座席から外へと飛び出す。
勝手に開かれた助手席から飛び出すことになった花火は、ヘンリーの優しげな微笑みを見た。
「生きろ。」
着弾。
爆発と共に車が斜め前方向に吹き飛び、信号機をへし折って停止した。ひっくり返った車は、エンジンに引火したのか燃え上がる。
後方に飛ばされた杏子が、地面に槍を刺しながら慣性を緩めて地面に降り立つ。
身体を横に回転させながら着地したスネークは、うつ伏せの状態から腕に力を入れてゆっくりと身体を持ち上げた。
辺りは凄惨の一言に尽きるだろう。爆弾や銃撃戦は、周囲の車や民間人を傷つけるのには十分すぎた。血を流しながら倒れる人、パニックになり悲鳴を上げる者、騒動に惹かれ集まる無関係者。
そんな光景に目もくれずスネークは辺りを見回し、花火を見つける。
花火は、道路に仰向けに倒れていた。背中から落ちた際頭を打ったのか、その瞳は閉じられている。
すぐさまスネークと杏子が駆け寄る。右目のおかげかだろう。後頭部に触れた時、多量の血がスネークの手を濡らすが、怪我のようなモノは見当たらない。
「花火っ、花火起きろ!」
「怪我は治っている…。サクラ、お前はコイツを頼みたい…。」
スネークが前方を見ながら、杏子に花火を預ける。杏子がスネークの視線を追えば、先程の兵士がゆっくり近づいて来るのが見えた。
歩く度に、金属の重く硬い音が響く。兵士は靴を履いていない。その両足は、黒く光る金属で出来ていた。
「……o……a…。」
ヘルメットの中から、籠った声が聞こえる。今まで言葉を口にしなかった兵士達と、目の前の彼はどうやら別物らしい。恐らく、彼らのリーダーなのだろう。
意味のわからない言葉に、スネークが銃を構える。
「二手に分かれる。一度体制を立て直し、合流しよう。」
「ここで2人でやっちまえばいいだろ。その方が速いぜ?」
「足手纏いが2人もいる…。ここは、引くべきだ。」
「あ?おいおい、誰が足手纏い…。」
杏子の言葉が止まる。スネークの右足から、血が流れている。出血量からして、恐らく立っているのですら苦痛の筈だ。
しかし、彼の顔に苦悶の表情はない。ただ、冷静に現状で最適な選択肢を口にしただけなのだろう。
つまり、2人の足手纏いとは…。
「…ハナビを、頼む。」
「…死ぬなよ。」
花火を抱え、杏子は走り出した。魔法少女の身体能力は、あっという間にスネークの視界から杏子達を見えなくした。
その間、兵士はその場に立ったまま動かない。いや、よく見れば少し震えているようにも見える。
「…お前の目的は、ハナビか?」
「……p………z……i………ss…。」
身体を少し揺らしながら、兵士はヘルメットに触れる。いや、それは頭を抱え震えているようにもみえる。何かを怖がるような、嫌がるような。しかし、それも少しの間だった。
ピタリと動きの止めた兵士は、ゆっくりと構えをとる。その要所を脱力させた姿勢を、スネークは知っていた。かつて己も教わり、己のものとし、鍛え、師が罪人となった事で封じた。
「CQC…だと?」
Close Quarters Combat。
近接戦闘術。複数の武術を織り交ぜたそれは、個々で敵兵と遭遇した際、銃を発砲出来ないほどの近距離での戦闘に良く用いられる。
ナイフや拳銃、場合によっては有り合わせの道具を駆使出来る様に想定されたそれは、達人が使えば大の大人でも簡単に沈めることが出来る。しかし、それを極めた者というのは少なく、また珍しい。
ジリジリと近付く兵士に、スネークはゆっくりと足を動かし、ある程度の距離を保つ。
足止めが目的でもあるが、CQCでの戦闘で距離を詰められるのはよろしくない。そもそも、スネークの右足は最悪の状態だ。捌き切れる程の余裕は、今のところ無いだろう。
「…名前くらい名乗ったらどうだ?」
スネークの言葉に、兵士が足を止めた。片手でヘルメット越しに顔に触れる姿は、何かを考えている様に見える。
10秒程沈黙が続き、考えが纏まったのか。再びゆっくりと構え、兵士は答える。
「…………ZEKE。」
静かに、兵士ージークは己の名を告げた。今までの様に掠れた意味のない言葉ではなく、少し高めの男性の声で。
時間は、十分に稼げたのか…。そうでなくても、これ以上は言葉だけでどうにかするのは難しいだろう。
スネークも、ゆっくりと足を開き構える。
少しでも、花火達の逃げる時間を稼ぐ為に。
ジークがスネークの視界の端へ動き、一気に接近してくる。素早い動きに銃口が外れ、再度合わせようとした時には遅かった。既にジークの手はスネークの銃を掴み、そのスライドを限界まで引いていた。
銃に目線がズレた隙に、スネークの腹部に膝が叩き込まれる。
スネークの身体がのけぞる。銃のグリップを持ったスネークが離れることで、ジークの持つスライドが簡単に外れた。これで、銃は使えない。
スネークが持っていた銃をジークの顔へ向けて投げた。それを手で払う際、ジークの視界が自分の手で少しの間遮られる。
その隙に姿勢を低くしてジークに肉薄する。
スライドを持つジークの腕を掴み、捻り上げる。その状態のまま、腹部へと裏拳を何度も叩き込む。
腕を掴んだまま背後へと回り、背中にジークの手の甲を押しつけて上げた。しかし、ジークはもう片方の腕を振るい、スネークの頭部を肘打ちする。
バランスを崩し、立て直そうと足を踏み込むスネークに接近し、ジークは血を流す右足を蹴り付けた。
「ぐあぁぁぁ…っ!?」
スネークの叫びが響く。そして、そこで動きを止めてしまったのが失敗だった。
うつ伏せに崩れそうになるスネークの腹部が、金属製の足で蹴り上げられる。そのまま、頭部、鳩尾へ流れる様に拳が叩き込まれる。
最後にジークの後ろ回し蹴りが、スネークの顳顬を打ち抜いた。
崩れ落ちたスネークに近付き、ジークはスネークの右足を踏み抜く。既にボロボロのスネークの悲鳴が、十字路に響いた。
そこに、サイレンを響かせたパトカーが数台駆けつける。ジークとスネークを囲む様に止まったパトカーの中から出てきた警官達が、銃をジークへと向けた。
「貴様は包囲されている!無駄な抵抗はやめろ!」
ジークは周りを一度見回してから、空を見上げた。スネークが視線を上げると、そこには1人の少女が浮いている。
ゆっくり、少女はジークの隣に降り立つ。拘束服に身を包む緑髪の少女の存在は、あまりにも幻想的で歪だった。
ここまでの騒動に、携帯を手に動画を撮影していた野次馬達も思わず黙り込む。
「…ソリッド・スネーク。」
「…お前達は、なんだ?」
それは、彼らの行動の意味だろう。街を混乱に陥れて、人を殺し、子供を狙う。その主犯格の1人が、同じ子供だ。
戦時中なら、まだわからないでもない。そんな光景は、スネークだって聞いた事もあるし実際に目撃もしている。
しかし、日本は戦争から60年は離れている国だ。こんな所でテロ活動を行う意味はない筈だ。
「……獣。」
少女の瞳が、スネークの目と交わる。少女の呟いた単語が、スネークの事を指している事を、スネークは察した。
そのまま少女は警官達へと目を向ける。
「おいで…お友達。」
少女の胸元が光り、少女を中心に緑の魔法陣が広がった。そこから、ジークと同じような姿をした兵士達が這い出てくる。まるで、墓所から現れるゾンビのように。
「…なんだ、これは?」
警官の1人が零した言葉は、恐らく周囲の人達の総意だろう。まるでアニメーションの様な光景が、現実で起きているのだから。
這い出てきた兵士達は、その手に持つ銃を構えた。警官達だけでなく、武器すら持たない一般人にまで。
今後に起こり得る展開を理解したスネークの叫びが響く。
「よせぇぇぇぇっ!!」
「…撃て。」
少女の呟きと共に、兵士達の銃が火を吹いた。軽い破裂音が連続して鳴り、人が血を流し倒れていく。
警官達も、まさかの事態についていけなかった者たちが撃たれて倒れる。残った数人も、肩や足を撃ち抜かれその場に崩れ落ちた。
ジークが右手を上げると同時、雨が止む。しかし、辺りは更に凄惨さを増していた。
兵士達がスネークを拘束し立ち上がらせる。
魔法陣からジープが出てきて、それにスネークは載せられた。
ジークが運転席に乗り、ジープを走らせる。残ったのは、悲鳴と血溜まりだけだった。
☆☆☆☆
「〜♪」
それは鼻歌だった。ガラスが割れ、グチャグチャになった室内で、1人のスーツを着た女性が鼻歌を披露しながら歩いている。しかし、観客は1人もいない。いや、正確には生きていないが正しいだろう。
彼女の右手には、成人男性の味が握られている。繋がっている胴体は、床にに血の跡をつけながら引きずられていた。
ソファーには、既に1人の女性の遺体が座らされていた。胸に穴が開き、服が赤く染まった女性は、目を閉じて沈黙している。彼女は、その隣に男性を座らせる。
ソファーの前のテーブルには、子供が寝かされていた。その子供も、既に息をしてはいない。
「…うーん、いいねっ。まさに『家族』って感じ。」
その光景に、女性ーリトライは笑った。まるで、素敵な絵画に溜息が出てしまうとでも言うような穏やかな笑顔で、親子の遺体を鑑賞している。
ある程度堪能してから、リトライは近くに置いておいた赤い容器を手に取った。
白のキャップを回し、それを地面に撒いていく。リビング以外の場所にも満遍なく液体を撒き、空になった容器を投げ捨てた。
「あ、これもいらないね。」
スーツから取り出したのは警察手帳だった。容器の近くに投げ捨てられたそれは、地面に落ちると共に開く。そこには、【本城】と記載された男性の顔写真があった。
先ほどと同じように鼻歌を歌いながら、リトライはポケットからマッチ箱を取り出す。マッチを一本取り出し、赤い部分を箱の横で擦る。摩擦により火のついたマッチを少し眺め、液体へと投げ捨てた。
火が触れた液体は、あっという間に燃え上がる。その光景を眺めながら、リトライはゆっくりと玄関から外へと歩いていく。
外に出て、表札に目が止まった。それに微笑みを向けると、リトライは何処かへと歩いていった。
燃え上がる火は、【鹿目】の表札をも包み込んだ。
2週間もかかって大した文が浮かび上がらなかった。
カーチェイスを文章にするもか難しくない?
そんな20話でした。そろそろ主人公の花火君には曇り属性をつけたいと思います。
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