MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
ミラーとコンタクトが取れたのは良かった。彼の執念は凄まじいの一言に尽きるだろう。
救えなかった事が悔やまれる。
21話
2011.10.02
最初の違和感に気づいたのは、暁美ほむらだった。
廊下の奥、方角的にいうならまどかの両親がいるリビング辺りが騒がしいのだ。しかし、何か声が聞こえるわけでもない。大きいモノが倒れるような音が響く。先ほどのまどか達の会話はまどかから内容を聞いているが、そんな騒動を起こすような雰囲気には感じられなかった。
『なんで鹿目にこの事を話したんだ。それを悟らせない為にお前に頼んだんだろうに…。』
「こっちだって事情があんのよ。色々話さなきゃならない事もあるの。」
『話したい事?』
「まず、まどかが狙われてるの。さっきの話だけど、まどかが花火の家に誘導されて、そこに魔法少女もいたわ。」
『そこにお前らが助けに入ったって事か?』
さやかが携帯電話で祭花火と話しているのを聞き流しながら、窓の外を見る。2階にあるまどかの部屋から、玄関側が覗き込める。そこに、不審なモノは見られない。強いていうのであれば、黒のクラウンが止まっている事だろうか?
しかし、リビングに居たであろう警官の所有物である事はわかっている。やはり、変な所は無い。
「どうしたの?」
「…いえ、なんでも無いわ。」
いつのまにか、まどかが後ろに立っていた。とりあえず安心させる為に言葉を返したが、窓の外にある車を見たまどかの言葉に違和感が溢れた。
「あれ?」
「…どうかしたの?」
「あ、えっと…警察の人、まだいるんだなって…。」
「祭花火の事でご両親と話してるんじゃ無いの?」
「ううん。私がいる時にもう帰ったよ?」
なら、何故車が止まったままなのか。ほむらの脳裏に、昨日の襲撃者の容姿が過ぎる。
彼らは、皆兵士の様な装備を身に纏っていた。魔法少女の装飾や武器は、その人物の望みが反映される。つまり、その人物が強いと思うモノが武器になる。
あの兵士達が魔法少女の【武器】なのであれば、それが強力なモノだと認識出来るほどに近しくある事になる。つまり、兵士のような存在が近くにいるという事だ。
なら、兵士のイメージとはなんだ?
ほむらは頭を働かせる。
もし、兵士であるならば…他人に化けて潜入なんて芸当も可能なのでは無いか?
それが、さやかがあの時話していた連中のようなテロリストなら、それくらいの事はやってのけるのではないか?
まどかにこの場にいる事が危険であると伝えようとした時、まどかの部屋のドアが開いた。
『…それだけじゃないだろうな。』
「わかんないけど、昨日の事件で警察が動き回ってるから、昼間は問題ないとは…え?」
「…ママ?」
さやかの言葉が止まり、まどかの呟きが漏れる。そこには、まどかの母である詢子が立っていた。
しかし、その瞳は開いてはいない。口からは赤い液体が漏れ出し、胸には服を破って銀色の細長い何かが飛び出している。そこを中心に、彼女の服が赤黒く染まっていた。
後ろには、誰かが立っている。その人物をまどかは知っていた。なぜなら、先ほどまで面と向かって話をしていた警察官だから。
詢子の後ろにいる警官である本城は、まどか達へにこりと微笑みを向けると、右手に持つマシンピストルの引き金を引いた。
ほむらは咄嗟にまどかを自分の身体で覆い、鉄の雨から守ろうと動いた。しかし、それがほむらの身体を食い破る事はなかった。
咄嗟に返信したさやかが、光と共に現れた剣でその弾丸の全てを切り裂く。壁を抉り、窓を砕いた弾丸は、それでも彼女等を襲う事はなかった。
『なっ、オイ!鹿目、さやか!?』
電話から、花火の叫びが聞こえた。しかし、それに応えるモノはいない。さやかは、携帯をほむらに投げ渡す。
アイコンタクトで、ほむらはさやかの思惑を察した。未だ状況に混乱しているまどかを抱きしめ、割れた窓から外へと飛び出す為に立ち上がる。
そうはさせまいと、本城も詢子から針を引き抜き、その身体を下へ続く階段へと投げ捨てた。
その音が、まどかの心に悲鳴を上げさせる。
「まどか、早くっ!」
「いやっ、ママが、パパァ!タツヤァ!?」
思わず母の元へと行こうとしたまどかを止める為、ほむらは抱きしめる力を強めた。そのまま、ほむらは窓から外へと飛び降りる。まどかが伸ばした手は、家族に触れる事はなかった。
「あーあ、行っちゃった。ま、これはこれで好都合だけどさ。」
「なんで…っ。」
「はぁ?あ、そーか。この格好だと分かんないよね。」
本城の喉から発せられる声は、見た目とは裏腹に女性の声だった。そのアンバランスに、気味の悪さを感じたさやかは剣の柄を強く握る。
そんなさやかを見下ろしながら、本城は耳のイヤリングに軽く触れる。暗い青色のそれは、触れた途端オレンジへと色を変えた。
そして、本城の見た目が変わる。その顔を、さやかは見た事があった。
「…あん、た…は…。」
「やぁ、素敵なお嬢さん。会いたかったよ。」
出会ったのは2、3日前。マミと共に、花火に会いに行こうとしていた時に会ったナンパ男。しかし、目の前の人物に対する違和感は酷いモノだった。
モデル体系の美しい女性であると、さやかの目は認識している。しかし、その情報を仕入れた脳は、目の前の人物が男性だと認識した。その違和感が、本城だった人物の異常性を表すかのようで、思わず一歩身体が後ろに下がった。
それでも、友人の家族を狙うような輩に臆せるほど、美樹さやかは弱くはない。姿を変えた人物へと声を上げた。
「一体、あんた達はなんなのよ…。なんでこんな酷い事ができんのよっ!?」
「…酷い事、ねぇ。ホントに酷いのはさ、この世の中だと思わないかな?」
「はぁ!?」
意味不明な返答に、さやかが声を荒げる。当然だ。目の前で簡単に人を傷つける人間が、いきなり世論について語り出すのだ。揶揄われていると感じ、苛立ちもするだろう。
しかし、そんなさやかの反応などお構いなしに、目の前の人物は大袈裟に両手を広げた。
「有史以来、人類は様々な事を行った。そして、失敗を糧にここまでその数を広げてきたんだ。でもね、未だに人はある欠点を直そうとしない。何度も同じ過ちを繰り返す。」
「…何言ってんのよ?」
「わからないかな?争う事だよ。人は、人を殺さないと気がすまない。動物らしく、生存の為にじゃない。ただ気に食わないとか、人の苦痛が見たいとか…。酷いよねぇ。」
天井を見つめ、彼…または彼女は続ける。その無駄に御大層な価値観を演説し続ける。
「ボクらはね、それを終わらせたいんだ。もう、人が憎しみ合う事がないように…。その為に、彼女が必要なんだよ。」
「…そんな事の為に、まどかを狙ったっての?」
「もちろん。だから後腐れの無いように、家族を始末したんだよ?」
「…ふ、ざけんなぁ!!」
臨界点を超えた怒りを力に、さやかは床を踏み締めた。真正面から、目の前の異常者目掛けて剣を振る。
異常者は、それを左腕につけた手甲から伸びた針で防ぐ。細く頼りない針は見立てよりも頑丈なのか、さやかの剣撃を防いでみせる。
しかし、さやかは止まらない。
もう片方の手に同じ剣を握ると、二刀流での演武を披露して見せた。踊るように滑らかに、しかし太刀筋は鋭く。その舞は、少しずつ洗礼され速さを増していく。だんだんと、針だけでは防ぎ切る事が出来なくなってきたのか、異常者の服に刃物が触れ傷がつけられる。
さやかが、一度異常者から離れた。それをスキだと考えたのか、異常者はさやかに向けてマシンピストルを突きつけた。
しかし、そんな訳がない。
撃ち出された鉛の群を、さやかは左に飛ぶ事で避ける。そのまま壁を蹴って走り、異常者の真横で更に壁を蹴った。
さやかが狙ったのは、異常者のイヤリング。それが何なのかくらい、今のさやかなら理解できる。ソウルジェムだ。
「ぅおりゃあぁぁぁ!」
叫びと共に振るわれた刃は、異常者のイヤリングを切り裂いた。その瞬間、異常者の目から光が消えてその場に崩れ落ちる。
なんとか床に着地したさやかは、荒い息を整える為に深呼吸を行った。
ほむらの家で聞かされた、魔法少女の真実。その内の一つである、ソウルジェムとはなんなのかという事。
ソウルジェムは、魔法少女の変身アイテムなだけではない。その人物の魂を具現化したものであるという事。当然、ソウルジェムが砕かれれば、魔法少女は死ぬ。
魔女にならない為の最終手段だと聞かされたが、流石に検証なんて出来ない。しかし、今目の前でそれは立証されてしまった。
1人の人間の命を奪ったせいか、心臓が煩い。なんとか落ち着きを取り戻したと自分に言い聞かせ、さやかは窓から外へと飛び出す。
残された異常者ーリトライの死体は、それを文字通り死んだ目で見つめては…いなかった。
ゆっくりと、リトライの身体が起き上がる。まるで、糸で繋がれた人形のように。
宝玉のないイヤリングが輝き、先ほど砕いたオレンジの装飾が戻る。瞬きの後、リトライの目に光が戻った。
「……あー。久しぶりだよ、死んだの…。」
首に手を当て横に押し込み、骨を鳴らす。反対からも繰り返し、最後に腕を上に上げ身体を伸ばした。
身体から悪い物を吐き出すかのように息を吹き出す。そして、まどかの部屋から下の階段を覗き込んだ。
「さぁて、男らしく彩っちゃおうかな?」
軽い声と共に、リトライはゆっくりと階段を降りた。
☆☆☆☆
2011.10.04
「…………ぁ…?」
微睡む意識の中、聞こえたのは自分の間抜けな声。そして、色鮮やかではあるが暗くて見え難いステンドグラス。
どうにも朧げな視界が暗転しない様に、意識を保つ。そのまま、今自分に何が起きているのかを思い出していく。
鹿目まどかとの連絡、悲鳴、襲撃、ハルの死、兵士を殺した、車、逃走、十字路。
頭の中で次々に場面が切り替わり、最後に運転席にいるヘンリーの穏やかな笑みを思い出す。
『生きろ』
確か、そんな声を聞いた。聞いた筈なのだ。それで、自分はどうなったのだろうか?それで、それで…。
「……っ!?こ、ここは…?」
上半身を起こし、花火の額に乗せられていたタオルが彼の膝辺りに落ちた。そこで、自分が眠っていたのが長椅子だと気づく。
どうやら、今までの事を思い出したらしい。突然の衝撃の後、爆炎に呑まれたヘンリーの事も…。
蹴り飛ばされ、その光景を最後に記憶は終わっている。つまり、自分は意識を失ったのだという事を理解した。
辺りを見回す。その場所には見覚えがあった。
今回のループで初めて来た教会。佐倉杏子と初めて会った場所。
いつの間にか、こんな所に運ばれたらしい。しかし、どうにも花火以外の人はこの中にはいない様だ。
タオルを手に取る。元々濡らしていたのだろうが、時間が経って殆ど乾いてしまっている。アレから、どれくらいの時間眠っていたのか…。
手に持ったタオルを椅子の上に置き、花火は立ち上がった。
身体が固まっている。そこから、長時間動かなかった事が伺えてしまう。
主祭壇に銃が置いてあった。あの時、花火が握っていたM9だろう。それを手に取り、弾を確認した。
背後で物音がする。すぐに振り返り、ハンドガンを構える。寝起きだからか、それとも恐怖からか。ふらつく身体を無理矢理抑え込むが、手に持つ銃は小刻みに震えていた。
入り口の扉が開く。それを行ったのは、赤髪の少女だった。彼女は、片手に大きな紙袋を持っている。中には、沢山のリンゴが入っていた。
銃を構える花火に気付いたのか、赤髪の少女ーー佐倉杏子は目を見開く。
「…花、火…?起きたのか…っ。」
「…佐倉、か。」
嬉しそうに笑い、杏子は花火に近付いて行く。知っている人間だった事に安堵したのか、花火もホッとした様な表情で銃を下ろした。
杏子は長椅子に袋を置き、リンゴを2つ手に取った。そのまま1つを花火へと投げ渡す。
放られたリンゴを、花火は簡単に掴んだ。
「良かった。息はしてるくせに中々起きねぇから焦ったぜ。」
「俺は一体どれくらい…。いや、先に言わないとな。ありがとう、佐倉。看病までしてくれたんだな。」
「アタシだってそれくらい出来るっての。まぁ、食い物に関しちゃコレが精一杯だけどな。」
そう言ってリンゴを囓る杏子に倣い、花火も果実にかぶり付いた。あっさりとした甘味と酸味が口の中に広がる。それが、花火の身体に力を与える。
「…アレから、どれくらい経った?」
「…2日だ。朝日が登りゃ、3日は眠ってた事になる。」
「………そうか。」
杏子の言葉にそう呟くと、花火は長椅子に座る。頭の中で思うのは、まどかの悲鳴だ。
あの時、まどかは誰かに抱えられていたのだろう。だから、恐らくは無事だ。だけど、彼女の言葉を思い出す限り、親代わりを務めてくれたあの人達に何かが起こったのはわかる。それも、考える限り最悪な何かが…。
「………教えてくれないか、佐倉。何が起きたのか…。」
俯き、そう尋ねる花火に、杏子は申し訳なさそうな顔をした。一度目蓋を閉じて、落ち着いた表情で口を開く。
「…家は全焼。リビングに、2人の大人と1人の幼児の遺体が見つかったらしい。警察はあの日の事件でそこら中走り回っているせいか、まだ遺体は残ってるよ。」
「………。」
杏子の言葉に花火は言葉を返さない。いや、返せなかった。
胸の中から込み上げるコレが何なのか、花火は知っている。かつて、母が死んだと聞かされた時にも、この感触を味わった事がある。
涙なんて流れない。流してしまえば、それが本当になってしまう気がするから。
しかし、わかっているのだ。それが事実だと。変えられない真実だと。
祭花火は間に合わなかったのだ。
遺体は残っていると杏子は言った。つまり、本来なら安置所なりに運び込まれる筈なのにそれをしない、または出来ない事情があるという事だろう。
幾ら警察でも、忙しいからといった理由で遺体を放置したりする事はない筈だ。なら、運び出せない可能性がある。
そこまで、酷い有様なのだろうか。
「…鹿目との連絡は?」
「一切無しだ。スネークからの連絡もない。」
「…手掛かりは、携帯の中のデータだけか…。」
状況は最悪を通り越していた。相手の戦力は不明。こちらは2人。残された情報も、携帯電話から調べる事が出来ない。
あくまで情報データを携帯電話のファイル内に入れ込んだだけの為、パソコンに接続して操作する必要がある。そして、そのパソコンを花火達は所持していない。
一般人の被害者はさらに増え、警察が動きまわっている為に下手な行動は出来ない。
本当に、どうしようもない状態だった。
「…花火。」
杏子の声に、花火は顔を上げた。花火の目に写る彼女の表情は、何か強い決意の様なものが見える。
そして、次の彼女の言葉に思わず立ち上がった。
「逃げよう。アタシらだけじゃ無理だ。」
「…な、に…言ってんだよ。ここまでやられて、滅茶苦茶にされて…そんな…。ふざけるな…ふざけるなよ!」
杏子に詰め寄り、その胸倉を掴む。花火は杏子の顔を睨みつけ、杏子は顔を横に逸らした。
「殺されたんだぞ!?オタコンも、ヘンリーも!詢子さんや知久さん、まだ小さいタツヤまで…っ!スネークや巴先輩だって此処には居ない!俺の家族が訳のわからんテロリスト共に、皆殺されたんだぞ!?それから尻尾巻いて逃げろってのか、あぁっ!?」
「だからだよ…アタシらだけで敵う相手じゃねぇんだ。今度はアンタが殺される。アタシも生き残れる可能性は低い。無理なんだよ、どう考えても…っ。」
「だからどうした!?お前が行かないなら俺1人でやる。お前だけでも逃げればいいだろ!」
「今のアンタを放っておけるほど、アタシはクソになったつもりはねぇよ。」
「何が言いたいかさっぱりだっ!お前が無理なら、俺だけでも」
「アタシはっ!」
杏子の両手が、花火の襟を掴んだ。怒りに呑まれる花火の目と、杏子の目が合わさる。その目に、花火は言葉を失う。
「アタシは、オヤジの為に魔法少女になった。でもそのせいでオヤジはおかしくなって…アタシを残して心中しちまった。」
知らないわけではない。佐倉杏子を探す為に、花火はヘンリーからそのきっかけを聞かされている。
「アンタは、今自暴自棄になってるだけだ。冷静に考えりゃ、勝ち目なんてない事くらいわかる筈だろ?」
彼女の目は、揺れていた。それが、花火の中である考えを浮上させる。
さっきの話、鹿目家で起きた惨劇の話。もしかして、何処かで聞いたのではなく、杏子自身が向かって見た光景なのではないかという事。
家族との唐突な別れは、佐倉杏子を絶望の底へ叩き落としただろう。それでも、彼女はその強い意志でそこから這い上がった。
だが、傷が癒えたわけでは無い。そんな事はあり得ない。
何故なら、杏子の家族が死ぬ事になった原因は、自分にあると杏子は考えているから。
変えられない過去を割り切り生きてきた彼女は、今回も似た様な光景をその目に焼き付ける事となった。
今、彼女の胸の中に渦巻くのは後悔だ。
もしあの時、花火の提案に乗らなければ…。花火が魔法少女の世界へと足を踏み入れなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。
佐倉杏子は、世界の残酷さをよく知っている。例え、彼女の持論が幸福と不幸は等価であるとしても、あの時に諦めさせていれば…この街から脱出させていれば、この結末は訪れなかったかもしれない。
それを知っている自分なら、それが出来るかもしれなかった。
既に終わった話だ。花火の家族は死んだ。死んだ人間は、生き返ったりしない。
「今なら、まだ逃げられる。これからの生き方なら、アタシが教えてやる。だから…。」
花火は、自分がどれほど無力かを思い知る事になった。
家族を守れず、恩人は死に、また助けられた。
そして、目の前の少女にこんな顔をさせてしまっている。
もし杏子の事を思うなら、ここで辞めてしまうべきだ。花火の家族が死んでしまった事で、花火以上に苦しんでいる彼女を救うのなら、そうするべきなのだろう。
アウトローな生き方も悪くないかもしれない。佐倉杏子となら、それなりに良くやって行けると思う。
でも、ダメなのだ。
祭花火は、きっと今日の事を悔み続ける。
佐倉杏子は、今日の自分を許さない。
それではダメなのだ。そんなもの、祭花火の望む未来なんかではない。
「…佐倉。」
花火は、襟を掴む杏子の手を自分の手で包む。力の入っていない杏子の手は、簡単に襟から離れる。
その小さな手を強く握り、花火は己の心の内を話す。
「俺は、お前に任せきりだった。何かがあっても、きっとお前ならどうにかしてくれるなんて…そんな事を考えていた。最低な男だよ、本当に。こんなに苦しんでるお前を見るまで、そんな簡単な事にも気づかなかったんだから…。」
両膝をついた花火を、杏子は見下ろしている。まるで神に罪を懺悔し、祈る信者のような彼の姿を、杏子の瞳は黙って映している。
「…お前を、これ以上苦しませたくない。誰かの為に優しくなれるお前には、笑っていてほしい…だから。」
花火が顔を上げた。強い意志で輝く花火の目が、杏子の顔を映す。
そこに、もう迷いはない。
「俺は行く、鹿目とさやかを助けに…。この世の中に奇跡は無い。でも希望はある筈だ。それを、お前に見てもらえるように。」
「…お前。」
「佐倉、ソウルジェムを…。」
杏子がかなり黒く濁ってしまっていたソウルジェムを手の平の上に置く。花火がそれに軽く触れると、あっという間に穢れは花火の手の中に吸い込まれていった。
綺麗になったソウルジェムを杏子に握らせ、花火は微笑む。
「佐倉、お前に会えてよかった。お前にも、そう思ってもらいたい。だから…行ってくる…。」
「ぁ…。」
立ち上がり、花火は杏子から背を向けた。去っていくその背中に思わず手を伸ばすが、虚空で止まる。
扉が閉じる音が鳴る。教会の中は、少女1人となった。
☆☆☆☆
花火は歩く。現在の目標は、鹿目家へ向かう事だった。自分の罪と向き合う為には、まずあの場所へ向かう必要があると考えていた。
この辺りは見滝原から離れている。恐らく、奴らの追手はないだろう。だが、他の者たちに見つかっても面倒になる。
特に警察はかなり厄介だ。現状、まどかからの電話で花火の捜索がされているのは聞いている。
連日のテロ事件の事もある。花火の存在は犯人の手掛かりになる可能性があると考える者がいる筈だ。つまり、花火の捜索は重要性の高い案件になる。
いっその事、警察に全部話してしまうのもアリだと花火は考えている。警察が相手であれば、幾らベルトラインといえども歯が立たない筈だ。組織の規模が違う。
しかし、そうなってくると問題も生じる。メタルギアの事は構わない。問題となるだろうが、こればかりはどうしようもない。核の事だって、日米でのいざこざはあるかもしれないが爆発するよりかはいい。
花火の中の懸念は、魔法少女に対してだった。
魔法少女が世の中に知られてしまえば、必ずそれが原因で争いが起きるだろう。
そうなれば、さやかやマミ、杏子だって巻き込まれる。今の花火以上に厄介事は寄ってくる。それに比例して、悲劇が起きる可能性も上がる。
やはり、彼女達の事を想うなら誰にも頼らずに終わらせなければならないのだ。
1人だ。1人になった。
今まで、誰かに頼ったツケはもう払わされた。人も殺した。相棒も置いてきた。
だから、もう止まれない。
人気の無い道を選んで通っていたら、目の前に男が2人いる事に気付いた。どうにも、物思いに耽りすぎていたようだ。
後ろからも足音が聞こえる。身体を後ろに向けてみれば、そこには3人。
見覚えがあった。3度目のループで追いかけまわしてくれたチンピラ達だ。
正面に向き直る。2人の内、1人が写真のようなモノを持っている。確か、あの時も彼らは何かを依頼されていた筈だ。恐らく、今回もそうなのだろう。
「コイツで間違い無いよな?タッパはあっけど14のガキだろ?何したんだコイツ…。」
「まーいいじゃん。コイツを絞めたら50万貰えるんだぜ?さっさとヤッちまおーぜ。」
軽薄な笑みを浮かべながら、男達は距離を詰めてくる。あの時なら焦りもあっただろうに、今の花火にはそんな感覚は湧かなかった。
大振りで殴りかかってきた男の拳を、姿勢を低くしながら接近して避ける。懐に潜り込み、横なぎに振るった拳を無防備な顎に掠らせる。
脳が揺れ、立っていられなくなった男が大勢を崩したところに、今度は振りかぶった拳をたたき込んだ。
仰向けに倒れた男に隣のもう1人が驚くが、その隙に花火は近付いた。拳を引けば、思わずもう1人が両腕で顔を守る。結果、ガラ空きになった鳩尾に拳が突き刺さった。
身体を押さえ込みながら、もう1人が崩れ落ちる。背後から怒声が聞こえた。振り向いた時には、後ろの1人が鉄パイプを振り上げていた。
身体をずらす事でそれをやり過ごし、その顔を掴みながら足を引っ掛ける。傾いた頭に体重を乗せて、アスファルトに後頭部を叩きつける。
動かなくなったが死んではいない事を確認して、残りの2人に目を向ける。
あまりにも簡単に仲間が倒されたからだろうか、その顔には怯えが見えた。確かに、中学生にここまでされるとは思ってもみなかっただろう。だが、生憎花火は既に普通とはかけ離れた経験をしている。
目標はテロリストなのに、こんな雑魚相手に手間取っている暇はない。
次の1人が拳を振るう。今までの光景のせいか、既に油断はかけらも見えない。しかし、それでも花火には当たらない。
最小限の動きが、その攻撃をいなしていく。腕を使い逸らし、弾く。焦らして大振りになった腕を掴み、そのまま背負い投げた。
残ったのは1人。彼はその手にナイフを持ってニヤついている。
「へ、へへっ…。ガキの癖に良くやるよ。でもな、もうお遊びはおしまいだ。コレで斬られたくなかったら大人しくしてな。」
刃物というのは、直接的な脅威だ。軽くチラつかせるだけでも、その効力を発揮する。男も、それを使って主導権を取り戻そうとしていた。
普通なら、有利となるだろう。間違いなく、刃物とは分かりやすく危険なモノであるからだ。しかし、彼は本当に運が悪かった。
少し考える素振りを見せてから、花火はショルダーホルスターからシグを取り出して構えた。
男が間抜けな声を上げる。花火はそれを、男の足元に向けて引き金を引いた。
小さな破裂音と共に、男の足元が抉れた。それが本物であるとすぐに理解出来た彼は、思わずその場に尻餅をつく。
銃を男の額に向けながら花火は近づき、男に声をかけた。
「とりあえず、バイクか車のキーを寄越せ。あるんだろ?」
「あ、あぁ…っ。わわわかった。わかったからソレ向けないでくれよ…っ!」
「黙ってろ。ホラ…。」
花火が手のひらを出せば、男はそこにバイクのキーを乗せた。
「で、どこに止めてんだ?」
「こ、この先の通りの端だよ。そこにある黒のヘブルがそれだ…っ。な、ナンバーは…」
男がナンバーを告げると、花火は男の横を通り過ぎて行った。
男は、自分の股座に感じる生暖かい何かを、生きている実感と共に感じた。
想定より話が長くなりすぎて困ってます。
予定ではもう終わるはずなのに、まだ3分の1は残ってるんだもんな。
Twitter始めました。ローランゲート・ぺろぺろ丸で出てきます。
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