MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ6


手術は成功した。これで、彼が物語に上がる舞台が出来た。
暁美ほむらとの接触も完了。順調だ。

彼女らの動きに期待しよう。


大好きな人の為。

6話

 

 

2011.10.06

 

 

式場の外のベンチに座る。何か目的があるわけでもない。ただ、行き交う人の波を静かに眺めていた。

横断歩道のボタンからカゴメの歌が聞こえる。幼い頃、この音が何故か好きではなかったことを思い出した。

この後はどうしようか。そんな事を考えたが、今の脳は答えを出す気がないらしい。右手に持つ缶コーヒーの缶を回すと、中身の液体が小さな水音を立てた。

 

風が吹いた。爽やかで力のない風であったが、ベンチに立て掛けていた松葉杖を倒すくらいは出来たようだ。カラン、と気の抜けた音が鳴った。松葉杖に視線を向けるが、特に拾おうとは思わなかった。

そんな彼の杖を拾い上げる少年が1人。今の彼と同じように、冠婚葬祭で使われるフォーマルスーツを身に纏っている少年は、座っている彼に声をかける。

 

「…隣、いいかな?」

 

恭介の言葉に、花火はベンチの端へと身体を動かした。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.10.04

 

美樹さやかが見つかった。ただ、既に息を引き取っていた。語る事実があるとするなら、それだけの事だった。

その話を聞かされたのは、奇妙な格好をしたスネークに助けられ、一通りの治療が終わった後だった。それまでは、家のリビングが診療所の様になってしまった時、これ程複雑な思いをするのかと考えていた。

 

万が一の為に、仁美は本日泊まることになったらしい。掃除こそ定期的に行っているが使われる事のない母の寝室に、未使用の下着セットがあったはずだと伝える。それと適当な服を持ってシャワーを浴びてくる様に進めると、何かを言いたそうな顔をしてるのに、結局何も言わずに行ってしまった。

 

「ハナビ。さっきの言葉に意図はあったのかい?」

 

「ん?いや、服は着替えた方がいいだろうし、使うなら新品がいいだろう?」

 

「成る程、コレは先が思いやられるね。」

 

ハルの言葉の意味がよく分からず、首を傾げる花火。環境の問題か、彼は将来女性とのアレコレで悩む事になるだろうとハルは予測した。

さて、切り替えようか。そう言わんばかりにハルの雰囲気が変わる。花火も、その理由はしっかりと理解していた。

 

「さて、ハナビ。随分と無茶をしたね。」

 

「…悪い。こんな事になるとは思わなかった。」

 

「授業料が安く済んでよかったよ。君が無事で良かった。」

 

包帯の巻かれた足を見る。もし、授業料が高ければ、払いきれなかったかもしれない。花火はハルに頭を下げ、壁に寄りかかり立っているもう1人へ目を向ける。

 

「スネークも、その…ごめん。後、助けてくれて…ありがとう。」

 

「…あぁ。」

 

いつも通りの短い返事。しかし、今の花火にはそれが心地よかった。

 

「それにしても、随分早く助けてくれたよな。その服は?」

 

「オタコンの調査が終わった。今回はメタルギアの捜索任務だ。」

 

「申し訳ないけど、ハナビには盗聴器と発信器を付けさせてもらってたんだ。任務帰りに発砲音を拾ってね。」

 

ハルが花火が着ていたジャケットの襟から黒い小さなボタンを外した。つまり、コレと同じモノが制服にも付いていたのだろう。

 

「なるほど…。これのおかげで助かったのか。」

 

「君と彼女の話を聞いていたからね。何かあった時には対応出来る様に準備はしていた。」

 

ずっと守られていたのだ。花火はそれを悔しく思い、それと同じくらい感謝した。もし、スネークが駆けつけてくれなければ、花火も仁美も無事では済まなかっただろう。

 

「…迷惑をかけた。」

 

「うん。でも、反省は人を成長させる。何も悪い事ばかりではないよ。」

 

そう言って笑うハルの顔を、花火は見る事が出来なかった。ただ、次は必ず彼にも相談しよう。そう心に決める事だけは忘れない。

 

「オタコン。例のビルへの潜入調査だが、何かわかったことはあるか?」

 

丁度話も終わったところだと、スネークが次の話題に切り替える。ハルも、表情を切り替え頷き、いつの間にかリビングに置かれていたパソコンを操作する。

 

「まずは君の潜入したビルについてだね。五階建ての小さな建物だけど、そこにある会社は一つだけ。」

 

「ヤザキコーポレーション。主な仕事は大型の医療機器の開発と売買だったな。」

 

「うん。資料ではそうなっていた。幾つかの取引先もあるみたいだし、その取引先も含めてダミー会社ではないことは確認できた。」

 

「そのヤザキコーポレーションってデカい会社なのか?」

 

「有名ではあるかもね。スネークが言ったように、医療機器の開発を行なっている企業だけど、そのおかげで日本の医療技術は飛躍的に上昇している。トップは元外科医の矢崎茂雄社長。彼を調べてみたけど、温厚で人当たりの良いおじさんというイメージだった。でも、中身はそうじゃなかったのかもね。」

 

そういってパソコンの画面にヤザキコーポレーションの情報を展開していく。人員、資産、経営者の情報。最後に、ビルの内面図が開かれた。

聞こえる場所で話されては、気にもなる。花火も一緒にその画面を見て、違和感を覚えた。

 

「地下が、ある?」

 

「そう。僕はスネークと連絡を取り合っていたから知っていたけど、この会社には地下施設があったんだ。それも、かなり大きな規模のね。」

 

「ビル内には会社の取引情報しかなかった。だが、地下はコイツで溢れ返っていたな。」

 

スネークは持っていたデジタルカメラをハルに渡す。それをパソコンに繋ぎ、中のデータをデスクトップに表示した。

そこには木箱に詰められた銃火器が、所狭しと並べられている。まるで戦争の準備をしているかのような量だった。

 

「日本ではお目にかかりたくなかったな…。」

 

「僕たちもお断りしたかったけどね。弾薬も十分に揃っているみたいだし、コレを見て見ぬ振りはできそうにないかな?」

 

「それも勿論だが、もっと気になる事もあった。」

 

そういってスネークがテーブルに置いたのは、あの時の男たちが持っていた銃だった。

思わず、花火の顔が曇る。

 

「コイツを軽く調べてみたが、中身は酷いモノだった。見てくれは【TT-33】だが、恐らくコピー品だったんだろう。だが、問題はコイツがとてもマトモに撃てるような代物じゃない事だ。」

 

「トカレフの模造品だね。少し古いけど、中国産が日本でも良く見られた事があるみたいだ。」

 

「マトモに撃てないって…。俺は実際に撃たれたぞ?銃の事はよく分からないが、威力が弱いのか?」

 

スネークはティッシュを2、3枚取りテーブルに広げると、銃をゆっくりバラし始めた。マガジンをとり、スライド、ハンマーと丁寧に分解していく。それを見た花火は特に何も感じなかったが、ハルには理解できたようだ。

 

「…スネーク。本当にこの銃で間違いないのかい?」

 

「あぁ。二丁とも確認したが、同じような状態だった。」

 

「…いや、俺にはさっぱりなんだが。せめて説明してくれよ?」

 

その言葉にハルは頷くと、バラされたハンマーを掴む。それを、約15センチ程の高さから軽く落として見せた。テーブルに落ちたハンマーはそれだけで簡単に割れてしまった。

 

「銃っていうのは、常時メンテナンスをしておかないといけないんだ。錆びると暴発の危険があるからね。つまり、この銃は本来ならただのオブジェにしかならないって事さ。」

 

「多少の整備不良なら、奇跡が起きれば撃てるかも知れない。だが、こんな代物を実際に使おうとする馬鹿はいないだろう。」

 

そんなモノで撃たれた自分を間抜けだと思えばいいのか、中々無い事なのであえて幸運だと笑えば良いのか、花火は複雑な気持ちになる。しかし、問題はそこでは無い。

 

「一体どんな手品を使ったのか…。」

 

「さあな。それに、武器庫の奥に奇妙な台座があった。」

 

スネークの言葉にハルがデータを調べていく。やがて、一枚の写真が表示される。

そこには長方形の箱が一つ、蓋が開いた状態で置いてある。箱には二つの窪みがあり、一つはタマゴの様な形の小さな何かが埋まっていた。色は黒く、先端が細くなっている。下は針のようになっているが、上には白百合の花のデザインが施されている。箱の前には小さなネームプレートが二つ置いてあり、何も書いていない方には【ROXOLENA】、埋まっている方には【LORRAINEL】と記載されていた。その小さな箱は守る様にアクリル版の大きな箱に入れられており、厳重に保管されているようだ。

 

「これは…?」

 

「さっぱりだ。特殊な弾薬という訳でもなく、何でこんなモノがここにあるのかも分からん。だが…。」

 

「…人間?」

 

花火が思わずといったように呟いた言葉に、スネークが頷いた。恐らく、彼らにしかわからないような何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「コイツを見た時、そこに人間がいるような錯覚に陥った。あり得ない話だろうが、俺はコイツは元々人間だったモノを使って作られたように見える。」

 

「…困ったな。冗談、ではないんだろう?僕にはただのオブジェにしか見えない。」

 

「た、例えば…コレは人の魂を形にしたモノ、とか?」

 

3人で顔を見合わせ数秒、揃ってため息をついた。そんなファンタジーは本来あり得ないのだ。しかし花火は3度も過去に戻っているし、スネークとハルは超能力者と対峙した過去がある。一概に全てがデタラメだとは言えなかった。

 

「失礼いたしますわ。」

 

3人の視線が、リビングにやってきた仁美に集まった。花火は、仁美が着ているデフォルメされた黒猫が描かれた上下のパジャマを見て、確か母のお気に入りだった事を思い出した。

 

「汗は流せたようだな。洗濯物はどうする?」

 

「袋に入れさせてもらって、そのまま持って帰ろうかと思います。」

 

「まぁ、男しかいないからな。なら、二階のベッドまで案内するよ…っ、いっつ…。」

 

立ち上がろうとした花火だが、足の痛みで動きを止めた。ハルが花火を支え座らせる。

 

「僕が行くよ。君は安静にしてくれ。」

 

「あ、あぁ。悪い。志筑、おやすみ。」

 

「は、はい。おやすみなさい。あまり、無理なさらないで下さいね。」

 

そう言うと、仁美はハルの後に続いて二階へと上がっていった。それを見届け、花火はテーブルに置いてあった冷めたコーヒーに口をつける。

喉を潤し、デスクトップに表示された例のオブジェの写真に目を向けた。

 

「…何だろうな、この…胸が騒めくと言えばいいのか……気味が悪い。」

 

花火の表現に、スネークも同じ様な感想を持った。害虫を見た時の様な生理的嫌悪に近い何かを、このオブジェからは感じている。この世の悪いモノを煮詰めて固めたと言われれば、納得出来ただろう。

 

「気になるのは、コイツが何故此処にあるのか…後一つは何に使われたのかだ。」

 

「コレ、どう見ても呪いの品だろ?社長の趣味で、残りは何処かのコレクターが持ってるとかじゃないか?」

 

「普通、コレクションなら人目に付くところに置くだろう。此処に来るヤツらに芸術を愛でる趣味があるとは思えん。」

 

「そうか…。じゃあ、非合法な薬…にしてはデカいよな。後は医療器具とか?」

 

花火の言葉に、スネークは首を横に振った。確かに、どういった用途に使うのか検討もつかない代物だ。結局、これが何なのかは2人には理解出来ないままだった。

 

沈黙が続く。スネークは今回の件に頭を悩ませ、花火はこれからの事を考える。メタルギアの所在、大量の銃の意味、謎のオブジェ、行方不明者に自殺未遂、平和だと思っていたこの街の中には、謎と危険が溢れ返っていた。

電子音が鳴る。どうやら、ハルのパソコンからだ。スネークがパソコンを操作する。何らかの情報が入ってきたらしい。

スネークが花火を見る。その顔を、どう表現したらいいのだろうか。

困惑した花火に、スネークはまるで言い聞かせる様にゆっくりと話し始めた。

 

美樹さやかが見つかった、と。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.10.06

 

 

葬儀までは早かった。身元の特定もすぐに済み、警察の対応も迅速だったのだろう。

松葉杖をつきながら棺桶の中で眠るさやかに花を添えた。花火は、眠る彼女の髪に触れようと手を伸ばし…出来なかった。彼女を守れなかった自分に、その資格は無いのでは。そんな思考が頭を過ぎる。

葬儀は恙無く進行し、彼女は家族と共に火葬場へ向かった。走っていく車が見えなくなるまで、花火はじっと見つめていた。

 

隣に座る恭介と話す事もなく、花火は先程までの光景を思い浮かべていた。

今、彼の心の中には、唯々無気力が広がっている。無力な自分に怒りを覚える事すら、彼には出来なかった。

そんな彼に、恭介は話しかけた。

 

「…覚えているかい?まだ小さかった頃、花火がさやかを叩いて、僕が怒って…そういえば、花火と喧嘩したのってアレが初めてだったよね。」

 

恭介の言葉で、花火はその事を思い出す。丁度、母の死を聞いた時だ。あの時は世界の全てが壊れてしまったような気がして、周りの人たちが全て敵のように見えた。

そんな花火に突っかかるさやかに、花火は手を上げたのだ。

 

「あの後の事、花火には話してなかったよね。」

 

「…あの、後?」

 

恭介と喧嘩して、殴り合いになった。結局、立っていたのは花火だったが、倒れた恭介と座り込んで俯くさやかを見て、その場を逃げ出した事を覚えている。

あの後に、何があったと言うのか。

 

「さやかって、どちらかと言えば泣き虫だっただろ?でも、あの時のさやかは泣かなかったんだ。」

 

「『花火が泣かないなら、私も泣かない』って言ってね。」

 

懐かしいモノを思い出すように笑う恭介の顔を、花火はみる。その時に、彼の目が充血している事がわかった。

 

「きっと、泣いて欲しかったんだろうね。辛いなら泣けば良いって、教えたかったんだと思う。」

 

「……わかるか、そんなもん。」

 

身を丸めて俯いた花火から、恭介は目を背ける。逆の立場なら、見られたく無いと思うから。

時間は静かに過ぎる。ゆっくり…ゆっくりと。

憎たらしいくらいの晴天の中、小さな雨粒が地面を濡らした。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.10.08

 

 

時刻は夜。

鹿目まどかは、ベッドの上で膝を抱えて座り身を丸めていた。壁にかけた時計の針の音が、いやに大きく聞こえる。

葬儀から2日たった。彼女はあの日、恭介とベンチに座り、声を押し殺して泣いていた花火を見ていた。

そんな彼に、彼女がかけられる言葉はなかった。

 

彼女には、とある秘密がある。

それは、さやかの死にも関係している秘密だった。

始まりはいつだったか。恐らく、一月前ぐらいだったと思う。

 

放課後の帰り道、さやかと共に街へ買い物をしていた。そんな時に、誰かの助けを呼ぶ声が聞こえたのだ。

その声に誘われるままに、彼女は人気のない空間へと向かう。

共にいたさやかと声の主を探す為に奥へと向かうと、突然景色がグニャリと歪んだ。

 

いろんな絵具をぶちまけた様な君の悪い空間が視界に広がる。そこに、一匹の白いネコのような生物が現れた。

 

「あなたが、私を呼んだの?」

 

「そうだよ、まどか。君に、お願いがあるんだ。」

 

赤く、丸い瞳と目が合う。その生物は、まどかに頼みたいことがあったらしい。

 

しかし、今はそれどころではない。謎の空間から、表現し難い生き物が現れた。

下半身は蝶の様で、そこから細長い胴体が伸びいる。頭にあたる部分は白い綿を丸めた様で、髭の様なモノが付いていた。

 

「まどか!逃げるんだ!」

 

「何なのよコイツらっ!?」

 

言われるままにまどかとさやかは走り出した。まどかの腕の中にいる生物は、彼らの事を知っているらしい。

 

「アレは【魔女】の【使い魔】だ!話し合いなんて通用しない!」

 

「見ればわかるって!どうしたらいいのよっ!?」

 

さやかが走りながら生物に尋ねる。このままでは、2人とも化け物の餌食となってしまう。化け物の数は増え、遂には彼女たちを囲んでしまった。

互いに身を寄せ合う彼女らに、正義の味方は救いの手を差し伸べる。

 

突然、発砲音が鳴り化け物達が何かに攻撃された様に蹈鞴を踏む。

囲んでいた化け物は倒れて消え去り、あっという間に居なくなってしまった。

困惑する2人の前に、黄色の衣装を着た少女が舞い降りた。

 

「キュウべぇを助けてくれてありがとう。」

 

「あ、あのっ。貴女は…?」

 

「私はこの子のお友達よ。さて、自己紹介の前に」

 

ちょっと一仕事、片付けちゃって良いかしら?

 

 

それから、無事に黄色の少女ー巴マミに助けられた2人は、この街に潜む【魔女】の存在と、それと戦う【魔法少女】の存在を知る。

 

魔女とは、人を操りその命を奪う呪われた存在。そんな魔女を倒す為に、魔法少女がいるのだとか。

その契約を行うのが、今回助けを求めていた白いネコのような生物。【キュウべぇ】だというのだ。

キュウべぇは、少女の願いを一つだけ叶え、その対価として魔女と戦ってもらう契約をするのだそう。

日々自らの劣等感に苛まれていたまどかは、この話に食いついた。何をやっても、人より秀でる事がないと嘆いていた彼女は、魔法少女という特別に憧れた。

結果、まどかは魔法少女となった。

 

魔法少女となってからの日々は劇的だった。マミと共に魔女を倒す。長く悩んでいたが、願い事を決めたさやかも魔法少女となり、3人は力を合わせて活動していた。

 魔女は怖いが、頼りになる先輩や友達もいる。まどかは、自分に自信が付いていくのを肌で感じ、それを喜んだ。

 

「魔女を倒すと、この【グリーフシード】が手に入るの。私たちの持っている【ソウルジェム】は魔法を使う度に少しずつ濁ってしまって、濁り切っちゃうと魔法は使えなくなるわ。だからこうして…。」

 

「あ、黒いのが無くなった!」

 

「これが魔法少女の報酬よ。コレで、魔法はまた使えるようになるわ。」

 

そんな変わった日々に、更に変化が加わった。転校生としてこの街に来た暁美ほむらという少女。彼女も、魔法少女だったのだ。

 

「つまり、もうすぐこの街に巨大な力を持つ魔女が現れるというの?」

 

「はいっ。私は、その魔女を倒す為に未来から来ましたっ。巴先輩、鹿目さん、美樹さん。どうか、手を貸して下さいっ。」

 

マミの言葉に頷き、頭を下げるほむら。

まどかは、ほむらの手を握り答える。

 

「勿論だよっ!これからよろしくねっ、ほむらちゃん!」

 

マミもさやかも、協力に賛同した。途中、マミが過去に共闘していたという少女、佐倉杏子も合流し、皆で魔女を倒す事となる。

 

「【ワルプルギスの夜】ってそんな凄い魔女なの?」

 

「美樹さんや鹿目さんは、まだ魔法少女になって火が浅いから知らないわよね。と言っても、私も噂程度でしか聞いた事はないわ。」

 

「アタシも話だけって感じだ。何せ、誰も倒せた奴はいねぇって噂だからな。」

 

さやかの疑問に、マミと杏子が答える。

 

【ワルプルギスの夜】

魔法少女にとっては噂以上を聞かない魔女。通常、魔女とは自らの結界を持ち、そこに人を連れ込むらしいが、ワルプルギスの夜は違う。

結界を持たず、ふらりと現れてはその場所を破壊していなくなり、辺りを更地に変えるらしい。台風や、豪雨などの厄災はその魔女が原因の一つといわれている。

 

不安もある。しかし、この5人なら乗り越えられる。まどかは、そう信じていた。

 

そんな彼女に、絶望が忍び寄る。

 

その日、とある病院近くで現れた魔女に、5人は苦戦していた。

特にさやかは、その病院にいる幼馴染みの為に願い事をして魔法少女となっている。このまま、この魔女を放っておく事が出来なかったのだ。

魔法を限界まで使い魔女を倒した時、絶望はその姿を現した。

 

突然苦しみだすさやか。そして、濁りきったソウルジェムは、その形をグリーフシードへと変えた。

 

突然の暴風に、さやかの身体は吹き飛ぶ。現れたのは、新たな魔女。それがさやかである事を、皆が理解してしまった。

 

皆が必死に呼びかけるが、さやかだった魔女にその声は届かない。まどかに攻撃が当たる前に、ほむらが動いた。

 

「…ごめんなさい、美樹さん。」

 

彼女は周りの時間を止める。魔女に爆弾を放り投げ、時間を戻した。

時間停止と時間逆行。それが、暁美ほむらの能力だ。ワルプルギスの夜を倒す為に過去に戻る事3回目。彼女は初めて、魔女の生まれ方を知った。

 

「…どうなってんだよ、オイ…ッ。」

 

魔女の結界が消え去り、彼女らは現実に戻る。しかし、そこには美樹さやかはいなかった。いたのは、彼女だったモノ。ソウルジェムが無くなった、ただの入れ物だ。

 

杏子の呟きに答えられるものはいなかった。誰もがその答えを理解してしまい、それでも口に出せない。

ソウルジェムが無くなり、美樹さやかは死んだ。つまり、ソウルジェムこそが魔法少女の本体である。

そして、ソウルジェムはグリーフシードになった。それは、魔女の正体が魔法少女の成れの果てであるという事だ。

いつか、誰かがキュウべぇに尋ねたことがある。魔女はどうして魔女と名付けられたのか。それに対し、キュウべぇはこう答えた。

 

『そう表現する事が正しいからだよ。』

 

その言葉の真実を、まどかは理解した。

魔女が生まれたから魔法少女がいるのではない。

少女が成長し、女となるのと同じ。

いずれ魔女に至るのが、魔法少女なのだ。

 

そしてその結末に、正義の味方は【救い】の手を差し伸べる。

突然、発砲音と共に杏子のソウルジェムが砕けた。ソウルジェムを失った杏子の肉体は、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

まどかは、その音の発生源を見た。巴マミが、銃を持ち震えている。その銃こそが発生源なのだろう。銃口からは煙が漂っていた。

 

「マミ…さん?」

 

「…魔法少女が魔女になるなら…っ、みんな死ぬしかないじゃない…!」

 

悲痛な面持ちで、銃口をまどかへと向けるマミ。彼女にとって、魔法少女は正義の象徴だった。そして、魔女は悪の象徴なのだ。

もし、彼女が正義と悪の境界が、本当はとても曖昧である事を知っていれば、こんな事にはならなかったのかも知れない。

しかし、そんなたらればの話はもう遅いのだ。既に杏子はマミの手で殺され、その事実によりマミは止まる事が出来ないのだから。

 

まどかを襲うはずだった凶弾は、ほむらの介入により撃たれる事はなかった。

ほむらは、マミのソウルジェムを銃で撃ち砕いたのだ。

倒れ伏し、動かなくなるマミ。5人の魔法少女は、こうして2人だけになった。

 

そして日は流れ、さやかの遺体が見つかった。ほむらの手によりホテルで寝かされていた彼女の肉体は、傷一つなく遺族の元へ帰った。魂を失ったまま。

 

そんな真実を知らない花火の涙が、まどかの心を締め付ける。

彼が泣いたのを見たのは2度目だ。1度目は、彼を助けた時。その時も、彼は死んだ人を想い泣いていた。

 

花火とさやかの関係を、まどかは1番知っている人間だろう。いつも互いを貶し合ったりしているが、互いが相手に心を許し、信頼し合っている。それがまどかには眩しく、そして羨ましく思えた。

 

まどかは花火に恋をしている。共に暮らす様になり少しして、彼がまどかにかけた言葉は、今も忘れない。

 

『お前がいたから、俺は立ち直る事ができたんだ。だから俺は、お前の為に何かをしてやりたい。それが家族というヤツだろ?』

 

花火は、まどかに救われたという。自分の事を役立たずだと思っていたまどかにとって、それがどれほど救われる言葉だったか。

だからこそ、彼女は魔法少女を望んだのだ。彼にふさわしい、彼を救える自分になる為に。

その結末がこれなら、それはまさに絶望だろう。

 

今、まどかの心を繋いでいるのは、ワルプルギスの夜を倒す事だけだ。例の魔女がここに来るなら、花火にも被害が及ぶ。それだけは、阻止したかった。この痛みしかない世界に、花火を巻き込みたくなかった。

 

その花火が、既に巻き込まれてしまっている事など、彼女は知る由もなかったのだ。

 

☆☆☆☆

 

 

2011.10.16

 

 

日はあっという間に過ぎる。あれからも、ハルとスネークは忙しそうに動き回っており、意気消沈した花火を気遣ったのか、話をする事も減った。

 

花火も、複雑な心境を抱えたまま日々を過ごす。さやかの死は花火の心に穴を開け、過ぎる日はそれを塞ぐには短かすぎた。

 

家の中に、2人はいない。静かな時間の中で、強い風が窓を叩く音が聞こえる。

やはり、今回も台風が来たのだ。

 

そういえば、マミといたもう1人の遺体の詳細がわかったらしい。名前は確か…佐倉、なんだったか。

テレビで流れるニュースを心ここにあらずの心境で見ていたためか、その内容をほとんど覚えていなかった。

 

そんな事を考えている時に、思い出した事があった。そういえば、まどかは何処だ?

時間が戻るこの最終日、彼女はいつもいなかった。もしかして、今回もいないのではないか?

 

花火の目に意思が宿る。

そうだ、これ以上誰も失ってたまるか。まどかは、まどかだけは救わなければ。

 

立ち上がり固まった身体を解す。

急いで外に飛び出し、まどかを探す為に走った。

前回まどかを探した時、心当たりがあったが行けなかった場所がある。発生源と言っていいほどに強い風が吹いていた方向。そこなら、彼女がいるかも知れない。

 

だんだんと強くなる風に逆らう様に、花火は一歩を踏み締める。もしかしたら、あの時のさやかの様になっているかも知れない。そう思う度、身体に力が宿る。その結末を繰り返さない為に。

 

途端、風が弱くなった。それでも強いが、これくらいなら大した事はない。そして、視線の先に、黒色の髪の少女とーーー桃色の髪の少女の後ろ姿を見つけた。

 

「鹿目…鹿目ぇ!!」

 

振り返る少女ーまどかは、まるでここにある筈の無いものを見たような顔で、花火を見た。

 

「えっ、花火くんっ!?な、なんでここに…!?」

 

驚く彼女に、花火は無言で近付く。彼女の前まで来ると、腕を掴んだ。

 

「帰るぞ。」

 

「ま、待って!わたし、やらなきゃいけない事が…っ。」

 

一言。そう言ってまどかの腕を引っ張り来た道を戻る花火。初めて見た彼の強引な態度に困惑しながらも、まどかは踏み止まろうと力を入れる。

それでもまどかを連れて行こうと歩く花火の前に、黒髪の少女が立ち塞がる。

 

「ちょっと待って下さい!わ、私たちは、これからしなきゃいけない事があるんです!」

 

花火は、そこで初めてまどか以外に人がいた事を認識した。黒髪を三つ編みにしており、赤い眼鏡をかけた彼女を、花火は思い出した。

 

「暁美、だったな。お前も来い。ここは危ないぞ。」

 

「わ、わかってます!でも、私たちは」

 

「わかってないだろ。お前らがここに残って何ができるんだ?」

 

狼狽えながらも話すほむらの言葉を、花火が切り捨てた。これ以上大切な存在を失いたくない一心が、花火から言葉の温かみを奪って行く。ほむらはどう説明すべきか分からず口籠もり、まどかはその言葉にショックを受ける。

 

「いいか、バカに伝わる様に言ってやる。台風は喧嘩の相手じゃないんだ。災害は、殴ってどうにか出来る代物じゃ無いんだよ。」

 

「そ、そんな言い方あんまりだよっ。」

 

「鹿目、お前もいい加減にしろ。人に迷惑をかけてどうするんだ。」

 

その言葉にまどかは顔を悲痛に歪めた。彼女にとって、この台風の原因であるワルプルギスの夜の討伐は、今や生きる意味といっても過言では無い。花火を救う為に、今彼女はここにいるのだ。

それを花火自身に否定されるのは、彼女にとってとてつもない絶望だった。

 

そして、その光景をみたほむらは、花火に対し怒りを露わにする。

 

「あ、あなたに…っ。貴方なんかに、鹿目さんの何がわかるっていうのっ!?」

 

突然のほむらの怒りに、花火は困惑する。

花火からしてみれば、2人の目的が何であれ危険な事にしかみえない。ただでさえ大切な存在を次々に失っているのに、これ以上危険な目に合わせるわけにはいかないのだ。

だからこそ、花火にはほむらの怒りが理解できなかった。

 

「何のことだ?お前らは、一体何を知ってるんだ?」

 

当然の疑問だ。しかし、まどかもほむらも、それに答えられない。今、彼女達の周りに起きていることに、花火は気付いていないのだから。

 

彼女達の周りには、赤い人形や象を模した使い魔が、まるでパレードのように歩いている。上空には、青い人形が手を繋ぎ、まるでウェーブを作るかのようにその身体を動かしていた。

 

既に、此処は非日常の中心となっている事に、花火は気付いていない。そんな彼に、2人は何も言えないのだ。

 

「とにかく、だ。鹿目は連れて行くから、どけ。」

 

これ以上此処に留まる意味はない。異常が理解できなくても、この場所が危険な事くらいは花火にも理解できるのだ。そして、これからもっと危険になることも。

前回の最後に現れたメタルギア。アレが今回は現れないとは思わない。今回は対メタルギアのプロであるハルとスネークがいるとはいえ、被害が及ばないとは言い切れないのだ。

 

「っ…か、鹿目さんを離して……っ。」

 

「邪魔だ暁美。もう一度言う、どけ。」

 

睨む花火に気圧されるも、自分を奮い立たせるほむら。そんなほむらに、花火は苛立ちを隠さずに敵意を向ける。

その一触即発な光景に、まどかは戸惑い声を上げる事が出来ないでいた。

 

しかし、そんな拮抗は急にフラついた花火により崩れる。

何かが首に当たった。途端に、視界がボヤけ異常な睡魔が花火を襲った。バランスを崩してその場に両膝をつき、何とか倒れるまいと両手を地面につく。

突然の事にまどかとほむらは戸惑う。そこに、誰かが近づいてきた。

 

その人物は、いつの間にかほむらの背後にいた。身長は180に少し届かないくらいだろうか。肌は褐色で、長いドレッドヘアーの女性だった。顔立ちからして、日本人には見えない。

一体いつ、何処から現れたのかわからない。その事に2人は警戒するも、女性は落ち着いた口調で2人に話しかける。

 

「彼は私が見よう。君たちは、アレを頼みたい。」

 

そういって彼女は花火を肩に担いでしまう。アレとは、恐らくワルプルギスの夜のことだろう。つまり、彼女も魔法少女である事がわかる。

まどかは思わずといった風に彼女を呼び止める。

 

「あ、あのっ!貴方も一緒に、戦ってくれませんか?」

 

「…すまない。私には、するべき事がある。君たちの健闘を期待している。」

 

そう言葉を残して、彼女は歩いて行く。

不安そうなまどかに、ほむらが寄り添った。

 

今は、しなければならない事がある。

 

まどかは表情を引き締め、空に目を向ける。

勝てるかは分からないが、勝たなければならないのだ。家族の為、死んでしまった友人達の為、隣にいる友達の為。

 

大好きな人の為。

 

「……ごめんね、花火くん。」

 

その言葉にどういう意図があったのか、まどかにさえわからない。

しかしどんな理由であれ、心配してくれている彼に返す言葉のなかったまどかには、そう呟く事しかできなかった。

 

 

一方、花火は意識を保つのに精一杯になっていた。ここで眠るわけにはいかない。しかし身体はいう事を聞かず、ただされるがままに担がれている。

すると、花火を担いでいた女性が動きを止めた。そして、花火を地面に放り投げる。

 

「がぁ……っ!?」

 

「何とも、哀れなものだ。コレがあの方の希望だとは。」

 

衝撃のおかげで、少し目が覚めた。何とか立ち上がろうと足に力を入れる。

立ち上がりはしたものの、押せば簡単に倒れそうだ。その状態でも、花火は女性を睨んだ。

 

「あ、あんた…っ。なん、なんだよ…!?」

 

「私を知らないか…なら、精々3度目か4度目と言ったところか?」

 

その言葉の意味に当てはまる状況を、花火は知っていた。

過去に戻る現象。これが3度目だ。

つまり、この女性は何かを知っている…?

 

「…アンタが、俺を過去に戻しているのか!?」

 

「…それも分からないのか…少し、期待外れだな。だが、仕方ない。」

 

女性は花火を押し倒す。仰向けに倒れた花火は馬乗りになる女性に頭を掴まれた。その手をどけようと腕を掴むが、うまく力が入らず抵抗できていない。女性はそのまま、かれの目の前にタマゴの形のオブジェを出した。以前、花火が見た黒い君の悪い物とは違う。赤紫の色をしたそれは、何か黒いモヤのようなモノが薄っすら見える。そして、それは起きた。

 

黒いモヤが、花火の右眼に吸い込まれた。

 

「なっ…!?お、オイ!何をしやがった…っ!?」

 

「黙れ、そして学べ。これが、その右眼の役割の一つだ。」

 

吸い込まれたモヤが、花火の右眼を黒く染める。そしてすぐに色が戻り、花火の身体が軽くなった。

視界は鮮明となり、酷い目眩や眠気も消える。花火は、その感覚を過去にも味わった事があった。

 

「こ、これは…!?」

 

「ハナビ・マツリよ。覚えておけ。これが、お前の役割だ。」

 

驚く花火に、女性は銃を突きつけた。

花火が制止の声をかける前に、銃弾が首に撃ち込まれる。

先ほどと同じ様に意識が混濁する。今度は、それに抗う事が出来なかった。

 

そして、花火にとっての3度目の10月16日は終わりを告げた。

 

 

2011.09.16

 




まとめようとしたら13000いきました(白目)

次回より本格的に魔法少女の世界へ。でも、メタルギアは忘れないよ(多分)

感想待ってます。
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