MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
5人の魔法少女の中で、彼と相性が悪いのは巴マミになるだろう。互いに交通事故で生死を彷徨い、家族もおらず孤独を抱えている。2人が行動すれば、共依存で動きが鈍くなるはずだ。
彼は無意識にそれを避けるだろう。つまり、彼が頼るのなら
佐倉杏子しかいない。
7話
2011.09.16
ソファーから身体を起こした。すぐに携帯電話を開き、月日を確認する。
9月16日。コレで4度目だ。
不思議と、頭は冴えている。いや、不思議であるはずもなかった。マミ、さやかの死。まどかの秘密。謎の女性。
3度目の1ヶ月は、花火に深い絶望と僅かな希望を与えた。
「…よし、落ち着け。冷静になれ。とにかく落ち着け…っ。」
深く息を吸い、吐いた。今まで分からなかった事が少しわかる様になった。といっても、更に謎が増えたわけだが。
それでも、進歩であることは変わりない。
「まずは、状況の確認だ。えっと…。」
頭の中で前回の最後を思い出す。
今まで会ったことのない女性。彼女は、花火が時を遡っている事を知っていたようだった。つまり、彼女を追えばこのループの原因がわかるかもしれない。
「だが、どうやって…っ。」
その手段がわからない。謎の女性に関して、花火は見た目以外に特徴が掴めない。
ドレッドヘアーの外国人。わかっているのはコレだけだ。
「…待て、あの女。雰囲気がスネークに似ていた。」
僅かな会合の中で、彼女の特徴を思い出す。そういえば、彼女の着ていた衣装もスネークに似ていた。赤紫のウエットスーツみたいな服だ。
つまり、彼女はスネークと同じ。または、それに近しい存在となる。
「スネークは、元CIAだ。採用基準なんざ分からんが、きっと銃器の扱いが上手いとか…。思い付くのは軍人って事くらいか…。」
仮説でしかないが、とりあえずは彼女を軍人、またはそれに近しい人物と仮定する。そうすると、見えてくるモノがあった。
「そういや、メタルギアは1人で作ったりするのは無理だって、オタコンが言ってたな…。後は、あのタマゴの様な形のオブジェ。アレは…。」
ハルのパソコンで見たモノに形が似ているあのオブジェ。違うのは色と、その禍々しさだ。同じ様に見えるが、直感でそれが別物だとわかる。
あの二つの似通っているところは、形以外だとそれを見た時の感覚。
「アレも、人と対峙した時の感覚と同じモノがあったな。つまり、作り方は同じ?」
頭が痛くなりそうだった。しかし、この共通点を知らないよりかはずっといい。コレで、やらなきゃならない事が少しわかった。
目的地は、ヤザキコーポレーション。確か、オフィス街にあるビルの筈だ。その構造は、ハルのパソコンで表示されていたのを記憶していた。
だが、まだ再確認するべき事が残っている。
「鹿目と暁美は、あの場所で何かが起こると思っていた。そして、あの女もそれを知っている…。」
ならば、彼女達にも共通点があるはずだ。しかし、それがわからない。
同じなのは性別くらいだ。人種も、性格も、生き方もまるで違う。花火は頭を抱えた。
「だが、もしこの騒動にさやかが巻き込まれたとしたら、他にも巻き込まれている奴がいる。」
まどかはこの騒動の中心に近い位置にいる。ほむらも、共にいたのであれば間違いない。なら、さやかはどうだった。
「まどかは確か、さやかが居なくなった日に学校を休んでいた…。という事は、だ。」
さやかの失踪の理由を、まどかは知っていた可能性がある。つまり、あの時彼女の元気がなかったのは…。
「まどかは、さやかが死んだのを知っていた…いや、そんなまさか…。」
すぐさま考えを否定したが、その憶測が正しいのではと考えてしまう。だとすると、何故彼女はそれを周りに伝えなかったのか…。
まどかが手を出したとは考えられない。彼女は、そんな事ができる様な人間ではない。
なら、何故?
「理由がある筈だ。誰にも話せない理由が…。」
コップの中に入っていた水を飲み干した。温い液体が花火の喉を通っていく。
その時、ふと思い出す。そういえば、さやかの身体は外傷が無いと聞いていた。なのにも関わらず、死んでいる。老衰でないなら、こんな死に方はあり得ないだろう。
そこで、あの女性の持つオブジェを思い出す。あの時は冗談半分で言った自分の言葉が、今度は真剣に口から漏れた。
「さやかは、魂を抜かれた?」
こみ上げた怒りを抑え込む。今、その事で感情を昂らせても仕方がない。何故なら、さやかはまだ生きている筈だからだ。
軽く頭を振り、花火は思考を切り替えた。
次は、この後どうするかだ。この事を誰かに話すべきなのだろう。花火ではあの女性に勝てない。恐らく、相手は命のやり取りを生業にしてきた人間だ。幾ら運動が得意とはいえ、花火は所詮14歳の中学生だ。
「ダメだ…っ。俺1人では、どう足掻いたって勝ち目はない…っ!」
髪を掴み、悔しさに表情を歪める。しかし、それでも結論は変わりはしない。なら、協力者が必要だ。それも、出来るだけ強い人間が…。
「とにかく、さやかが死んだ原因を知る必要があるな。ビルの潜入は、まだしなくてもいい…。そういえば、あの時…。」
さやかが死んでいるのがわかった時、同時期に亡くなった人物が2人いる。1人は巴マミ。花火の先輩にあたる人物だ。もう1人は…。
「佐倉…だったか?クソッ、こんな事ならちゃんとニュースを聞いておくべきだった。」
悪態を吐くが状況が変わるわけではない。一度落ち着き、冷静になる様努める。
佐倉という人物と巴マミは、今回のさやかの死に関わっている可能性がある。
その理由まではわからないが、あのオブジェはそれを繋ぐ鍵に思える。
問題は、どちらと接触するべきか…。
「巴先輩はダメだ。同じ中学だから、鹿目やさやかは巻き込まれる可能性が高くなる…っ。」
答えは既に出ている。佐倉という少女は、見滝原中学にはいない。
可能性を考えるなら、こちらの方がまどか達を巻き込む可能性は低くなる。
「問題は、ソイツが何処にいるのかだ。中学にいなかったって事は、不登校の奴か、別の地域の奴って事になる。」
見滝原市に隣接した場所で、此処から最も近い場所ならば、風見野市になるだろう。
アチラの地域はあまりいい話を聞かない。どうにも、見滝原市と比べると治安が良くないと噂されている。
しかし、動かないわけにもいかない。このままでは、またあの悲劇を見る事になってしまう。
それだけは、どうしても避けなければならない。
「…目指すは風見野だ。佐倉という少女を、見つけ出す。」
花火は立ち上がり、外へ出る準備を始めた。
☆☆☆☆
2011.09.16
目覚めてから2時間後。花火は乗ってきたバスから降り、風見野市の地面に足をつけた。
学校には既に休むと連絡してある。まどかにも、風邪が移るから今日は来ない様にとメールを送った。コレで、彼女達に何かを勘繰られる心配はない。
背負ったバッグの中から地図を取り出す。住宅街の方へ向かえば、例の佐倉女子に会う事が出来るかもしれない。しかし此処に来て、花火が見落としている点が一つ。それを思い出した。
「…顔が、わからん。」
ニュースでは、彼女の顔写真は写されることはなかった。原因はわからないが、コレでは彼女がどんな見た目をしているのかがわからない。
しかし、ここで立ち止まるわけにも行かない。とにかく、彼女を探さなければ…。
3時間程経った頃、花火は公園のベンチで座り込んでいた。
「とんでもないマヌケだ。もっと冷静になるべきだった…。」
頭を抱え自虐的に呟く。色々探し回ったが、佐倉という少女はどこにもいなかった。
この時間は同年代の子は大体学校に行っている為、会う事はできない。大人にそんな事を聞き回るのも怪しまれるだろうし、自分より幼い子供に声をかけるのもよろしくない。目付きの悪さは、こういう時に足を引っ張る。
「おやおや、子どもがこんな所で何をしているんだい?」
聞こえてきた声に頭を上げる。そこには、金髪に紺のスーツを着た男性がいた。どうやら、花火に話しかけてきたらしい。顔立ちからして、日本人ではないようだ。
「…あー。そういうアナタは?今はまだ仕事中では?」
「私はランチタイムさ。日本の労働者は休まないから大変だ。」
そういって花火の隣に座る男性。少し図々しいと感じるが、海外ではこれが普通なのかもしれない。日本で育った花火には、その辺りの事はわからなかった。
男性は花火に右手を伸ばして、ニコリと笑う。
「ヘンリーだ。よろしくネ。」
「…花火、です。」
手を握らない訳にもいかず、仕方なく花火も右手を出した。ヘンリーはその手をしっかり握ると小さく振る。その力強さから、彼がそれなりに鍛えている事が花火にもわかった。
「ところで、君はどうして此処に?学校には行かないのかい?」
「…ヤケに詮索してきますね。」
「私はお喋りしながらのランチが好きでネ。悩みがあるなら、知らない人間の方が楽に話せるだろ?」
そう言って笑顔でウインクするヘンリー。見た目からして30代後半といったところだが、こういう仕草が似合うのは人種的なモノなのか人柄なのか。暗さを感じさせない彼に、花火の警戒が解されていく。
確かに、現状が行き詰まってるのは確かだ。このまま時間が無駄に過ぎるよりかは良いのかもしれない。
「…ちょっと人探しをしてるんだ。中学生くらいの女の子なんだが…。」
「オー。ガールフレンドかな?」
「そんなんじゃないさ。ただ、彼女に会わないといけない理由があるんだ。ただ、わかっているのが佐倉って名字である事だけなんだよ…。」
頭を掻きため息を吐く。これだけの情報で、何がわかるというのか。そもそも、ヘンリーは何処かの会社員のようだし、知っているとは思えない。
そんな花火の考えは、簡単に覆される。
「…サクラ、ねぇ。もしかしたら、知ってるかも知れない。」
「っ!?本当か!?」
「おっと、クールだよハナビ。私が知るのは、女の子の情報って訳ではないからネ。」
食いついた花火に、冷静になるよう勧めるヘンリー。その言葉にしたがい、花火が落ち着きを見せたところで、彼は話し始める。
「これは、私が此処に来てから聞いた話だよ。ご近所さんは噂好きでネ。」
「噂話?」
「そう。悲しい話さ。あっちの方に教会があるんだけどネ。今は誰もいない廃墟らしい。」
その教会までの道のりをヘンリーが説明する。それも重要ではあるが、花火の探し人との関連性がまだ見当たらない。
「その教会の神父さんが、おかしくなって一家心中したそうだよ。まだ幼い子供もいたらしい。」
「…まさか、その一家の名字が…。」
「そう、サクラというらしい。」
繋がる。
その教会が関係しているかはわからないが、今の花火にはそこにしか選択肢はない。
花火は立ち上がり、ヘンリーに頭を下げる。
「助かった。ちょっと、教会まで行ってくる。」
「お手伝いできて嬉しいよ。今度は、美味しいランチでも如何かネ?」
「あぁ、美味い飯屋を期待してる。」
手を振るヘンリーにもう一度お礼し、花火は走り出す。時間は限られているのだ。こんな所でモタモタしていられない。
ヘンリーに聞いた通りに道を進み、遂にその教会の前へと辿り着いた。
結構な距離を走る事になったため、花火は肩で息をしていた。どうにか落ち着けようと、教会前の階段に座り込み、バッグから水の入ったペットボトルを取り出す。
一口。乾いていた身体に水分が行き渡る。本当は飲み干してしまいたい。金もある程度は持って来ているので、水が無くなっても買えば良い。しかし、無駄遣いは敵だ。そう自分に言い聞かせ、花火はペットボトルの蓋を閉じた。
「…さて、大分落ち着いたか。」
胸に手を当てれば、早かった鼓動も平常運転に切り替えたようだ。バッグを背負い直し、花火は教会の扉を開いた。
教会の中は、特に荒れているようには感じない。しかし、どうにも伽藍とした物寂しさを感じる場所であった。
歩くたびに木の床が軋む音が鳴る。長椅子には埃が被っていて、この場所に人が寄り付いていない事を教えてくれる。
不良どもの溜まり場にでもなっているのかと思ったが、そうでもないらしい。
「…やっぱり、誰もいないか。」
長椅子の埃を軽く払い、座る。上の方へ目を向けると、ステンドグラスが太陽の光で輝いている。その光景に、神秘的である以外の感想は湧かなかった。
ガラスに透過された光は、花火を優しく照らす。つい、その暖かさに目蓋が重くなる。
だんだんと睡魔は花火を包み込み、その意識は暗転した。
夢を見た。
それを夢だと認識出来たのは、何故なのかはわからない。
どうやら、花火は何処かの病室にいるようだ。視線の先には、幼い少年がベッドに横になっている少女に何かを話している。
その少年が自分である事はわかったが、少女が誰なのかはボヤけていてわからない。
『なら、約束しよーぜ。』
『やく、そく?』
『あぁ!お前が諦めず、ビョーキを治したら、おれが色んなところに連れてってやる!そんで、ふたりでいっぱい冒険するんだ!』
『…うん。それ、楽しそうだねっ』
『だろ?だからさ…待ってるぜ、 !』
少女の名前は、まるで切り抜かれたかのように聞こえない。しかし、2人が笑いあっている事だけは、花火にも理解できた。
これは、自分の記憶なのだろうか。この光景を何処で見たのかさえ、思い出せない。
少年が病室から出て行く。花火は、ベッドにいる少女に近付いた。少女は、窓の外をじっと見ている。
彼女の顔だけは、どうしても良く見えない。ドラマやアニメであるような、落書きで塗り潰されているわけでも、モザイクがかかっているわけでもない。ただ、その少女の顔を認識出来ないでいた。
「お前は、誰だ?」
花火の問いに、少女はコチラを向いた。その途端、花火の身体が少女に引き寄せられる。
細い腕が花火の首を捕らえる。少女とは思えない力が首を圧迫し、花火は息が出来ずに顔を歪めた。
少女は、悲しそうな顔をした。分からないのに、それが理解できた。
息が詰まり意識が薄れる。意識が落ちる前に、少女の声が聞こえた。
『嘘つき』
「っ!!はぁ、はぁ…っ」
目が覚める。教会内は、先程とは違い薄暗い。どうやら、それなりの時間を睡眠に使ってしまったようだ。
改めて先程の光景が夢であるとわかると、身体から力が抜ける。長椅子に身を預け、目を閉じる。
「おはよう。」
突然聞こえて来た声に飛び上がった。悲鳴を上げなかったのは花火の男としての意地だろうか。
声の主を確かめようと振り返れば、後ろの列の長椅子に座る少女がいた。
赤い髪をリボンで纏めており、パーカーにショートパンツといった出立は、彼女が活発な性格である事を表している。
背もたれに腕を乗せ、もう片方の手は棒状のチョコ菓子を持っていた。
「なんだか魘されてたみたいだから放っておいたけど、此処は立ち入り禁止だぜ。」
「…あ、あぁ。」
彼女の口から出た注意に、花火は曖昧な返事を返した。現在、花火の頭の中はパニックに近い状態だった。それは、彼女に一目惚れしたというわけではない。
彼女が、自分の母に似ていたからだろう。
花火の母である夜空は、髪を纏めていたりはしなかった。しかし、細かい部分を除けば君が悪いくらい似ている。
「…なんだよ、人の顔ジロジロ見やがって。」
「…すまない。ちょっと、な…。」
不機嫌に眉間にシワを寄せる彼女の文句に、花火は謝罪の言葉を呟く。こんな事を伝える気は起きない。というより、恥ずかしくて言えるわけがなかった。
「…まぁいいさ。ホラ、さっさと帰んなよ。」
「いや、その前に聞きたい事があるんだ。」
出口を指差す少女に、花火は待ったをかけた。先ほど、彼女は此処が立ち入り禁止であると言った。なのにも関わらず、彼女はいつからかここに居る。
なら、もしかすると彼女が佐倉なのかも知れない。
「アンタが佐倉か?」
「…一体何もんだ、オマエ?」
どうやら予想は正しかったらしい。少女ー佐倉の表情が変わった。やっと見つけた手掛かりに、花火の鼓動が高鳴る。さて、どう答えたらいいか。
「俺は祭花火。アンタに聞きたい事があってな…しかし、そろそろ飯にはいい時間だ。」
良かったら、奢ろうか?
そんな花火の言葉に、佐倉は攻撃的に笑った。
☆☆☆☆
2011.09.16
場所は変わり、ファミリーレストラン。花火は目の前の佐倉を呆れた目で見ていた。佐倉は、それは美味しそうにプレートに乗ったチキンステーキを頬張っている。
花火の前には覚めてしまったドリアが半分以上残っているが、どうにも向かい側の食べっぷりを見て妙に食欲が掻き消えていく。
「どうした、食べねぇのか?」
「…いや、食うさ。」
ドリアをスプーンですくい一口。チーズとソースとライスの組み合わせは、本来なら素晴らしい世界を見せてくれていたはずだった。しかし、今はパンチが効きすぎていて重たく感じる。
何とかリセットしようとコップの水に口をつけると、プレートを綺麗にした佐倉はそれを2枚の空のプレートの上に置き、店員呼び出しボタンを押した。驚いて噴き出しそうになるが、何とか意地でそれを抑え込む。
「…まだ、食うのか?」
「あん?奢りだろ?だったら沢山食わなきゃ損じゃん。」
「あー…そう、なのか?」
もしかして、自分の感覚が間違っているのではないかと花火は思う。さやかやまどかも、実はこれくらい簡単に食べるのだろうか?
結局、デザートに大きなパフェまで平らげた佐倉と同じタイミングで、花火のドリアは胃に収まった。
「はー!食った食った。」
「だろうな。」
「アンタ、アタシよりデカい癖にそれだけで良かったのか?」
「どうにも胃の調子がな。まぁ、今はこれで満足だ。」
食後のコーヒーを堪能する花火は、佐倉にそう告げる。落ち着いた表情とは裏腹に、お金を下ろしてきて良かったと内心では安堵していた。
「それで、アタシに話って何さ?」
「…そうだったな。正直、インパクトが凄すぎて忘れていた。」
当初の目的を思い出し、花火は佇まいを正す。
「まずは確認だ。お前は、色付きのタマゴ型のオブジェを持っているか?」
「…それを聞いてどうするんだよ?」
「訳は話すさ。今は、それの確認をしたい。」
「…ソウルジェムのことか?それなら持ってるぜ。」
そう言って、彼女は例のオブジェを取り出した。それを見て、花火は心の中でガッツポーズする。これで、一つ謎が消えた。
3度目の最後の日。あの女性が持っていたものとほぼ同じだ。違うのは色ぐらいのモノだろう。そして、佐倉がそれを持っているなら、マミやさやか達も持っていた可能性がある。
「コイツはソウルジェムっていうのか…。それで、コイツは一体何ができるんだ?」
「アンタ、まさか何にも知らねーのか?」
「知っている事と知らない事があるんだよ。このソウルジェムと、それに似た形の黒いヤツなら見た事がある。」
「どうやってグリーフシードを見たのさ?」
「それは…趣味の悪いコレクターが居てね。態々台座に乗せて飾ってたんだよ。あの黒いヤツはグリーフシードっていうんだな。」
佐倉は貴重な情報源である。まだ短い間しか関わっていないが、彼女は損得勘定で動くタイプのようだ。機嫌を損ねて雲隠れされる訳にもいかないので、極力彼女の質問にも答えていく。
「アンタ、面倒ごとに首突っ込んでる自覚はある?」
「それなりに。だが、俺にも関係している事らしいからな。引くに引けなくなったんだよ。」
そういって、佐倉のソウルジェムに目を向ける。どうやら、黒いモヤは見当たらないようだ。
「…はぁ。仕方ないなぁ。せめて、飯代くらいは話してやるよ。」
「ありがとう、佐倉。」
面倒だという態度を隠さないが、それでも極力してくれる彼女に感謝する。謎まみれの日々に、やっとメスを入れることができそうだ。
「さっき言ったけど、コイツはソウルジェム。アタシ達魔法少女の証みたいなもんだ。」
突然に告げられたファンタジーは、花火の思考を停止させるには十分な衝撃だった。当の佐倉は真剣にその話をしているようで、とても揶揄ってる雰囲気には見えなかった。
今は話を聞こう。そうすれば、本当かどうかわかるかもしれない。
止まった脳を再起動させ、花火は佐倉に言葉を返す。
「魔法…つまり、変身アイテムってことか?」
「そう。コレを使えば魔法少女に変身できて、魔女を倒すことができる。」
「今度は魔女か…。それは一体なんだ?」
「魔女は、呪われた化け物だと考えてりゃいい。失踪とかの未解決事件の原因は、だいたい魔女のせいだ。」
「…集団自殺とかも、か?」
「その通り。魔女は無差別に人の命を奪う存在だ。そして、その魔女を倒すとグリーフシードが出てくる。」
ここで、前回のハルの仮説を思い出す。集団自殺や行方不明者は、メタルギアを管理している集団の実験かもしれないという事。しかし、佐倉の話が本当ならその仮説は崩れる。ハルもマジカルな真相があるなどとは思わないだろう。
「グリーフシード…嘆きの種ってところか。何のために使う?」
「魔法少女は、魔力を使い過ぎると魔法が使えなくなる。それを解消してくれるのがグリーフシードだ。つまり、魔女退治の報酬ってわけだ。」
「…ソウルジェムから、黒いモヤを取り出してか?」
「…ヤケに知識が偏ってるな。どうしてそんな事を知ってんだ?」
「その謎を解き明かしたいんだよ。一度外に出よう。」
花火は席を立ち、伝票を片手にレジへ向かう。その背中を、佐倉は訝しげに睨んでいた。
今日、教会で眠っていた少年。年齢は自分とも近いくらいだろうか。整った顔立ちだが、青灰色の鋭い瞳と落ち着いた雰囲気は、同年代には思えない。
どう見ても自分に近しい生き方をしているようだが、その雰囲気は完全に堅気だ。
彼からは、戦う者特有の覇気が感じられない。
現状分かっているのが、彼が魔法少女のトラブルに巻き込まれたという事と、他にも隠していることがあるという事くらいだ。
彼は、食事を対価に情報を求めてきた。佐倉からすれば、付き合ってやる義理はないが、彼女の直感が聞いておくべきだと警報を鳴らす。
支払いを終えたのか、彼がレジから佐倉に手をあげて合図した。渋々、といった表情で、佐倉は席から離れた。
夜の風見野を花火は歩く。その後ろを、佐倉が付いていく。2人の間に会話はなく、静かな夜道に虫の音が鳴っている。
昼に訪れた公園の入り口に着いた時、花火は足を止めた。どうやら、此処に用があったらしい。
花火は佐倉の方へと振り返る。
「ここなら人通りもない。何でもいいから魔法を使ってほしい。」
「オイオイ、何で私がそんなことをしなきゃならねぇんだよ?」
佐倉は不機嫌に言い捨てる。佐倉からすれば、食事を対価にしたとしても、そこまでしなきゃいけない義理はない。
「さっき言ったけど、魔法を使うとソウルジェムが濁るんだ。何で態々アンタの為にそこまでしなきゃならねー。魔力の無駄だ。」
グリーフシードが無ければ、ソウルジェムの濁りは取れない。佐倉の言う通り、花火にそれを見せても彼女にメリットはないのだ。
しかし、花火は佐倉に話を続けた。
「その濁りならどうにか出来る。それが俺の1番の目的だ。」
「はぁ?グリーフシードを持ってるって事か?」
「そう捉えてくれてもいい。」
真剣な表情でそう告げた花火に、佐倉は溜息の後に応えてやる事にした。これでグリーフシードを持っていないなら、有り金全てを奪ってやろうと考えながら。
ソウルジェムを取り出し、公園の敷地へと入る。遊具に触れ、適当に魔力を使ってやる。正直無駄な行為でしかないが、ソウルジェムが軽く濁るまで佐倉はそれを続けた。
ソウルジェムに濁りが見えたあたりでそれをやめ、花火の元へと歩く。
「ほら、これで良いのか?」
「…あぁ。問題ない。」
「そうか、ならさっさとグリーフシードを出しな。」
「…佐倉。」
花火が佐倉へと一歩近づいた。そして、ソウルジェムを握る佐倉の手を握る。
「何のつもりだよ?」
冷たい敵意の篭った瞳が、花火を睨みつけた。しかし、それを物ともせずに花火は話す。
「これから起きる事が、お前にとってどれほど非常識なのかを教えてほしい。」
花火は、そのまま佐倉の手を引き自分の右眼へと近づけた。抵抗しようとした佐倉の動きは、この後起きた現象により止まった。
ソウルジェムの濁りが、花火の右眼へと吸い込まれていく。少量だった為か、佐倉のソウルジェムは元の赤い輝きを取り戻した。
代わりに、花火の青灰色の右眼は、その色を黒く染めている。
「…なんなんだよ、お前は?」
「それを知る為に、俺はお前の元へ来た。」
花火は佐倉の手を放し、二歩下がる。
「佐倉、俺に雇われてみないか?報酬は、俺の知る情報と、衣食住。それに…いつでも使えるグリーフシード擬きだ。」
自分の右眼を指差し、花火は告げる。
2人しかいない公園に吹いた静かな風が、2人の髪を優しく撫でた。
4周目は杏子ちゃん回です。
魔女を出すつもりでしたが今回出ませんでした。許してください何でもしますから!
感想お待ちしております。