MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ7


5人の魔法少女の中で、彼と相性が悪いのは巴マミになるだろう。互いに交通事故で生死を彷徨い、家族もおらず孤独を抱えている。2人が行動すれば、共依存で動きが鈍くなるはずだ。
彼は無意識にそれを避けるだろう。つまり、彼が頼るのなら

佐倉杏子しかいない。


それを知る為

7話

 

 

2011.09.16

 

 

ソファーから身体を起こした。すぐに携帯電話を開き、月日を確認する。

9月16日。コレで4度目だ。

 

不思議と、頭は冴えている。いや、不思議であるはずもなかった。マミ、さやかの死。まどかの秘密。謎の女性。

3度目の1ヶ月は、花火に深い絶望と僅かな希望を与えた。

 

「…よし、落ち着け。冷静になれ。とにかく落ち着け…っ。」

 

深く息を吸い、吐いた。今まで分からなかった事が少しわかる様になった。といっても、更に謎が増えたわけだが。

それでも、進歩であることは変わりない。

 

「まずは、状況の確認だ。えっと…。」

 

頭の中で前回の最後を思い出す。

今まで会ったことのない女性。彼女は、花火が時を遡っている事を知っていたようだった。つまり、彼女を追えばこのループの原因がわかるかもしれない。

 

「だが、どうやって…っ。」

 

その手段がわからない。謎の女性に関して、花火は見た目以外に特徴が掴めない。

ドレッドヘアーの外国人。わかっているのはコレだけだ。

 

「…待て、あの女。雰囲気がスネークに似ていた。」

 

僅かな会合の中で、彼女の特徴を思い出す。そういえば、彼女の着ていた衣装もスネークに似ていた。赤紫のウエットスーツみたいな服だ。

つまり、彼女はスネークと同じ。または、それに近しい存在となる。

 

「スネークは、元CIAだ。採用基準なんざ分からんが、きっと銃器の扱いが上手いとか…。思い付くのは軍人って事くらいか…。」

 

仮説でしかないが、とりあえずは彼女を軍人、またはそれに近しい人物と仮定する。そうすると、見えてくるモノがあった。

 

「そういや、メタルギアは1人で作ったりするのは無理だって、オタコンが言ってたな…。後は、あのタマゴの様な形のオブジェ。アレは…。」

 

ハルのパソコンで見たモノに形が似ているあのオブジェ。違うのは色と、その禍々しさだ。同じ様に見えるが、直感でそれが別物だとわかる。

あの二つの似通っているところは、形以外だとそれを見た時の感覚。

 

「アレも、人と対峙した時の感覚と同じモノがあったな。つまり、作り方は同じ?」

 

頭が痛くなりそうだった。しかし、この共通点を知らないよりかはずっといい。コレで、やらなきゃならない事が少しわかった。

目的地は、ヤザキコーポレーション。確か、オフィス街にあるビルの筈だ。その構造は、ハルのパソコンで表示されていたのを記憶していた。

だが、まだ再確認するべき事が残っている。

 

「鹿目と暁美は、あの場所で何かが起こると思っていた。そして、あの女もそれを知っている…。」

 

ならば、彼女達にも共通点があるはずだ。しかし、それがわからない。

同じなのは性別くらいだ。人種も、性格も、生き方もまるで違う。花火は頭を抱えた。

 

「だが、もしこの騒動にさやかが巻き込まれたとしたら、他にも巻き込まれている奴がいる。」

 

まどかはこの騒動の中心に近い位置にいる。ほむらも、共にいたのであれば間違いない。なら、さやかはどうだった。

 

「まどかは確か、さやかが居なくなった日に学校を休んでいた…。という事は、だ。」

 

さやかの失踪の理由を、まどかは知っていた可能性がある。つまり、あの時彼女の元気がなかったのは…。

 

「まどかは、さやかが死んだのを知っていた…いや、そんなまさか…。」

 

すぐさま考えを否定したが、その憶測が正しいのではと考えてしまう。だとすると、何故彼女はそれを周りに伝えなかったのか…。

まどかが手を出したとは考えられない。彼女は、そんな事ができる様な人間ではない。

なら、何故?

 

「理由がある筈だ。誰にも話せない理由が…。」

 

コップの中に入っていた水を飲み干した。温い液体が花火の喉を通っていく。

その時、ふと思い出す。そういえば、さやかの身体は外傷が無いと聞いていた。なのにも関わらず、死んでいる。老衰でないなら、こんな死に方はあり得ないだろう。

そこで、あの女性の持つオブジェを思い出す。あの時は冗談半分で言った自分の言葉が、今度は真剣に口から漏れた。

 

「さやかは、魂を抜かれた?」

 

こみ上げた怒りを抑え込む。今、その事で感情を昂らせても仕方がない。何故なら、さやかはまだ生きている筈だからだ。

軽く頭を振り、花火は思考を切り替えた。

次は、この後どうするかだ。この事を誰かに話すべきなのだろう。花火ではあの女性に勝てない。恐らく、相手は命のやり取りを生業にしてきた人間だ。幾ら運動が得意とはいえ、花火は所詮14歳の中学生だ。

 

「ダメだ…っ。俺1人では、どう足掻いたって勝ち目はない…っ!」

 

髪を掴み、悔しさに表情を歪める。しかし、それでも結論は変わりはしない。なら、協力者が必要だ。それも、出来るだけ強い人間が…。

 

「とにかく、さやかが死んだ原因を知る必要があるな。ビルの潜入は、まだしなくてもいい…。そういえば、あの時…。」

 

さやかが死んでいるのがわかった時、同時期に亡くなった人物が2人いる。1人は巴マミ。花火の先輩にあたる人物だ。もう1人は…。

 

「佐倉…だったか?クソッ、こんな事ならちゃんとニュースを聞いておくべきだった。」

 

悪態を吐くが状況が変わるわけではない。一度落ち着き、冷静になる様努める。

佐倉という人物と巴マミは、今回のさやかの死に関わっている可能性がある。

その理由まではわからないが、あのオブジェはそれを繋ぐ鍵に思える。

問題は、どちらと接触するべきか…。

 

「巴先輩はダメだ。同じ中学だから、鹿目やさやかは巻き込まれる可能性が高くなる…っ。」

 

答えは既に出ている。佐倉という少女は、見滝原中学にはいない。

可能性を考えるなら、こちらの方がまどか達を巻き込む可能性は低くなる。

 

「問題は、ソイツが何処にいるのかだ。中学にいなかったって事は、不登校の奴か、別の地域の奴って事になる。」

 

見滝原市に隣接した場所で、此処から最も近い場所ならば、風見野市になるだろう。

アチラの地域はあまりいい話を聞かない。どうにも、見滝原市と比べると治安が良くないと噂されている。

 

しかし、動かないわけにもいかない。このままでは、またあの悲劇を見る事になってしまう。

それだけは、どうしても避けなければならない。

 

「…目指すは風見野だ。佐倉という少女を、見つけ出す。」

 

花火は立ち上がり、外へ出る準備を始めた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.16

 

 

目覚めてから2時間後。花火は乗ってきたバスから降り、風見野市の地面に足をつけた。

学校には既に休むと連絡してある。まどかにも、風邪が移るから今日は来ない様にとメールを送った。コレで、彼女達に何かを勘繰られる心配はない。

 

背負ったバッグの中から地図を取り出す。住宅街の方へ向かえば、例の佐倉女子に会う事が出来るかもしれない。しかし此処に来て、花火が見落としている点が一つ。それを思い出した。

 

「…顔が、わからん。」

 

ニュースでは、彼女の顔写真は写されることはなかった。原因はわからないが、コレでは彼女がどんな見た目をしているのかがわからない。

しかし、ここで立ち止まるわけにも行かない。とにかく、彼女を探さなければ…。

 

3時間程経った頃、花火は公園のベンチで座り込んでいた。

 

「とんでもないマヌケだ。もっと冷静になるべきだった…。」

 

頭を抱え自虐的に呟く。色々探し回ったが、佐倉という少女はどこにもいなかった。

この時間は同年代の子は大体学校に行っている為、会う事はできない。大人にそんな事を聞き回るのも怪しまれるだろうし、自分より幼い子供に声をかけるのもよろしくない。目付きの悪さは、こういう時に足を引っ張る。

 

「おやおや、子どもがこんな所で何をしているんだい?」

 

聞こえてきた声に頭を上げる。そこには、金髪に紺のスーツを着た男性がいた。どうやら、花火に話しかけてきたらしい。顔立ちからして、日本人ではないようだ。

 

「…あー。そういうアナタは?今はまだ仕事中では?」

 

「私はランチタイムさ。日本の労働者は休まないから大変だ。」

 

そういって花火の隣に座る男性。少し図々しいと感じるが、海外ではこれが普通なのかもしれない。日本で育った花火には、その辺りの事はわからなかった。

男性は花火に右手を伸ばして、ニコリと笑う。

 

「ヘンリーだ。よろしくネ。」

 

「…花火、です。」

 

手を握らない訳にもいかず、仕方なく花火も右手を出した。ヘンリーはその手をしっかり握ると小さく振る。その力強さから、彼がそれなりに鍛えている事が花火にもわかった。

 

「ところで、君はどうして此処に?学校には行かないのかい?」

 

「…ヤケに詮索してきますね。」

 

「私はお喋りしながらのランチが好きでネ。悩みがあるなら、知らない人間の方が楽に話せるだろ?」

 

そう言って笑顔でウインクするヘンリー。見た目からして30代後半といったところだが、こういう仕草が似合うのは人種的なモノなのか人柄なのか。暗さを感じさせない彼に、花火の警戒が解されていく。

確かに、現状が行き詰まってるのは確かだ。このまま時間が無駄に過ぎるよりかは良いのかもしれない。

 

「…ちょっと人探しをしてるんだ。中学生くらいの女の子なんだが…。」

 

「オー。ガールフレンドかな?」

 

「そんなんじゃないさ。ただ、彼女に会わないといけない理由があるんだ。ただ、わかっているのが佐倉って名字である事だけなんだよ…。」

 

頭を掻きため息を吐く。これだけの情報で、何がわかるというのか。そもそも、ヘンリーは何処かの会社員のようだし、知っているとは思えない。

そんな花火の考えは、簡単に覆される。

 

「…サクラ、ねぇ。もしかしたら、知ってるかも知れない。」

 

「っ!?本当か!?」

 

「おっと、クールだよハナビ。私が知るのは、女の子の情報って訳ではないからネ。」

 

食いついた花火に、冷静になるよう勧めるヘンリー。その言葉にしたがい、花火が落ち着きを見せたところで、彼は話し始める。

 

「これは、私が此処に来てから聞いた話だよ。ご近所さんは噂好きでネ。」

 

「噂話?」

 

「そう。悲しい話さ。あっちの方に教会があるんだけどネ。今は誰もいない廃墟らしい。」

 

その教会までの道のりをヘンリーが説明する。それも重要ではあるが、花火の探し人との関連性がまだ見当たらない。

 

「その教会の神父さんが、おかしくなって一家心中したそうだよ。まだ幼い子供もいたらしい。」

 

「…まさか、その一家の名字が…。」

 

「そう、サクラというらしい。」

 

繋がる。

その教会が関係しているかはわからないが、今の花火にはそこにしか選択肢はない。

花火は立ち上がり、ヘンリーに頭を下げる。

 

「助かった。ちょっと、教会まで行ってくる。」

 

「お手伝いできて嬉しいよ。今度は、美味しいランチでも如何かネ?」

 

「あぁ、美味い飯屋を期待してる。」

 

手を振るヘンリーにもう一度お礼し、花火は走り出す。時間は限られているのだ。こんな所でモタモタしていられない。

 

ヘンリーに聞いた通りに道を進み、遂にその教会の前へと辿り着いた。

結構な距離を走る事になったため、花火は肩で息をしていた。どうにか落ち着けようと、教会前の階段に座り込み、バッグから水の入ったペットボトルを取り出す。

一口。乾いていた身体に水分が行き渡る。本当は飲み干してしまいたい。金もある程度は持って来ているので、水が無くなっても買えば良い。しかし、無駄遣いは敵だ。そう自分に言い聞かせ、花火はペットボトルの蓋を閉じた。

 

「…さて、大分落ち着いたか。」

 

胸に手を当てれば、早かった鼓動も平常運転に切り替えたようだ。バッグを背負い直し、花火は教会の扉を開いた。

 

教会の中は、特に荒れているようには感じない。しかし、どうにも伽藍とした物寂しさを感じる場所であった。

歩くたびに木の床が軋む音が鳴る。長椅子には埃が被っていて、この場所に人が寄り付いていない事を教えてくれる。

不良どもの溜まり場にでもなっているのかと思ったが、そうでもないらしい。

 

「…やっぱり、誰もいないか。」

 

長椅子の埃を軽く払い、座る。上の方へ目を向けると、ステンドグラスが太陽の光で輝いている。その光景に、神秘的である以外の感想は湧かなかった。

ガラスに透過された光は、花火を優しく照らす。つい、その暖かさに目蓋が重くなる。

だんだんと睡魔は花火を包み込み、その意識は暗転した。

 

 

夢を見た。

それを夢だと認識出来たのは、何故なのかはわからない。

どうやら、花火は何処かの病室にいるようだ。視線の先には、幼い少年がベッドに横になっている少女に何かを話している。

その少年が自分である事はわかったが、少女が誰なのかはボヤけていてわからない。

 

『なら、約束しよーぜ。』

 

『やく、そく?』

 

『あぁ!お前が諦めず、ビョーキを治したら、おれが色んなところに連れてってやる!そんで、ふたりでいっぱい冒険するんだ!』

 

『…うん。それ、楽しそうだねっ』

 

『だろ?だからさ…待ってるぜ、   !』

 

少女の名前は、まるで切り抜かれたかのように聞こえない。しかし、2人が笑いあっている事だけは、花火にも理解できた。

これは、自分の記憶なのだろうか。この光景を何処で見たのかさえ、思い出せない。

 

少年が病室から出て行く。花火は、ベッドにいる少女に近付いた。少女は、窓の外をじっと見ている。

彼女の顔だけは、どうしても良く見えない。ドラマやアニメであるような、落書きで塗り潰されているわけでも、モザイクがかかっているわけでもない。ただ、その少女の顔を認識出来ないでいた。

 

「お前は、誰だ?」

 

花火の問いに、少女はコチラを向いた。その途端、花火の身体が少女に引き寄せられる。

細い腕が花火の首を捕らえる。少女とは思えない力が首を圧迫し、花火は息が出来ずに顔を歪めた。

 

少女は、悲しそうな顔をした。分からないのに、それが理解できた。

息が詰まり意識が薄れる。意識が落ちる前に、少女の声が聞こえた。

 

『嘘つき』

 

 

「っ!!はぁ、はぁ…っ」

 

目が覚める。教会内は、先程とは違い薄暗い。どうやら、それなりの時間を睡眠に使ってしまったようだ。

改めて先程の光景が夢であるとわかると、身体から力が抜ける。長椅子に身を預け、目を閉じる。

 

「おはよう。」

 

突然聞こえて来た声に飛び上がった。悲鳴を上げなかったのは花火の男としての意地だろうか。

声の主を確かめようと振り返れば、後ろの列の長椅子に座る少女がいた。

赤い髪をリボンで纏めており、パーカーにショートパンツといった出立は、彼女が活発な性格である事を表している。

背もたれに腕を乗せ、もう片方の手は棒状のチョコ菓子を持っていた。

 

「なんだか魘されてたみたいだから放っておいたけど、此処は立ち入り禁止だぜ。」

 

「…あ、あぁ。」

 

彼女の口から出た注意に、花火は曖昧な返事を返した。現在、花火の頭の中はパニックに近い状態だった。それは、彼女に一目惚れしたというわけではない。

 

彼女が、自分の母に似ていたからだろう。

 

花火の母である夜空は、髪を纏めていたりはしなかった。しかし、細かい部分を除けば君が悪いくらい似ている。

 

「…なんだよ、人の顔ジロジロ見やがって。」

 

「…すまない。ちょっと、な…。」

 

不機嫌に眉間にシワを寄せる彼女の文句に、花火は謝罪の言葉を呟く。こんな事を伝える気は起きない。というより、恥ずかしくて言えるわけがなかった。

 

「…まぁいいさ。ホラ、さっさと帰んなよ。」

 

「いや、その前に聞きたい事があるんだ。」

 

出口を指差す少女に、花火は待ったをかけた。先ほど、彼女は此処が立ち入り禁止であると言った。なのにも関わらず、彼女はいつからかここに居る。

なら、もしかすると彼女が佐倉なのかも知れない。

 

「アンタが佐倉か?」

 

「…一体何もんだ、オマエ?」

 

どうやら予想は正しかったらしい。少女ー佐倉の表情が変わった。やっと見つけた手掛かりに、花火の鼓動が高鳴る。さて、どう答えたらいいか。

 

「俺は祭花火。アンタに聞きたい事があってな…しかし、そろそろ飯にはいい時間だ。」

 

良かったら、奢ろうか?

 

そんな花火の言葉に、佐倉は攻撃的に笑った。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.16

 

 

場所は変わり、ファミリーレストラン。花火は目の前の佐倉を呆れた目で見ていた。佐倉は、それは美味しそうにプレートに乗ったチキンステーキを頬張っている。

花火の前には覚めてしまったドリアが半分以上残っているが、どうにも向かい側の食べっぷりを見て妙に食欲が掻き消えていく。

 

「どうした、食べねぇのか?」

 

「…いや、食うさ。」

 

ドリアをスプーンですくい一口。チーズとソースとライスの組み合わせは、本来なら素晴らしい世界を見せてくれていたはずだった。しかし、今はパンチが効きすぎていて重たく感じる。

何とかリセットしようとコップの水に口をつけると、プレートを綺麗にした佐倉はそれを2枚の空のプレートの上に置き、店員呼び出しボタンを押した。驚いて噴き出しそうになるが、何とか意地でそれを抑え込む。

 

「…まだ、食うのか?」

 

「あん?奢りだろ?だったら沢山食わなきゃ損じゃん。」

 

「あー…そう、なのか?」

 

もしかして、自分の感覚が間違っているのではないかと花火は思う。さやかやまどかも、実はこれくらい簡単に食べるのだろうか?

 

結局、デザートに大きなパフェまで平らげた佐倉と同じタイミングで、花火のドリアは胃に収まった。

 

「はー!食った食った。」

 

「だろうな。」

 

「アンタ、アタシよりデカい癖にそれだけで良かったのか?」

 

「どうにも胃の調子がな。まぁ、今はこれで満足だ。」

 

食後のコーヒーを堪能する花火は、佐倉にそう告げる。落ち着いた表情とは裏腹に、お金を下ろしてきて良かったと内心では安堵していた。

 

「それで、アタシに話って何さ?」

 

「…そうだったな。正直、インパクトが凄すぎて忘れていた。」

 

当初の目的を思い出し、花火は佇まいを正す。

 

「まずは確認だ。お前は、色付きのタマゴ型のオブジェを持っているか?」

 

「…それを聞いてどうするんだよ?」

 

「訳は話すさ。今は、それの確認をしたい。」

 

「…ソウルジェムのことか?それなら持ってるぜ。」

 

そう言って、彼女は例のオブジェを取り出した。それを見て、花火は心の中でガッツポーズする。これで、一つ謎が消えた。

3度目の最後の日。あの女性が持っていたものとほぼ同じだ。違うのは色ぐらいのモノだろう。そして、佐倉がそれを持っているなら、マミやさやか達も持っていた可能性がある。

 

「コイツはソウルジェムっていうのか…。それで、コイツは一体何ができるんだ?」

 

「アンタ、まさか何にも知らねーのか?」

 

「知っている事と知らない事があるんだよ。このソウルジェムと、それに似た形の黒いヤツなら見た事がある。」

 

「どうやってグリーフシードを見たのさ?」

 

「それは…趣味の悪いコレクターが居てね。態々台座に乗せて飾ってたんだよ。あの黒いヤツはグリーフシードっていうんだな。」

 

佐倉は貴重な情報源である。まだ短い間しか関わっていないが、彼女は損得勘定で動くタイプのようだ。機嫌を損ねて雲隠れされる訳にもいかないので、極力彼女の質問にも答えていく。

 

「アンタ、面倒ごとに首突っ込んでる自覚はある?」

 

「それなりに。だが、俺にも関係している事らしいからな。引くに引けなくなったんだよ。」

 

そういって、佐倉のソウルジェムに目を向ける。どうやら、黒いモヤは見当たらないようだ。

 

「…はぁ。仕方ないなぁ。せめて、飯代くらいは話してやるよ。」

 

「ありがとう、佐倉。」

 

面倒だという態度を隠さないが、それでも極力してくれる彼女に感謝する。謎まみれの日々に、やっとメスを入れることができそうだ。

 

「さっき言ったけど、コイツはソウルジェム。アタシ達魔法少女の証みたいなもんだ。」

 

突然に告げられたファンタジーは、花火の思考を停止させるには十分な衝撃だった。当の佐倉は真剣にその話をしているようで、とても揶揄ってる雰囲気には見えなかった。

今は話を聞こう。そうすれば、本当かどうかわかるかもしれない。

止まった脳を再起動させ、花火は佐倉に言葉を返す。

 

「魔法…つまり、変身アイテムってことか?」

 

「そう。コレを使えば魔法少女に変身できて、魔女を倒すことができる。」

 

「今度は魔女か…。それは一体なんだ?」

 

「魔女は、呪われた化け物だと考えてりゃいい。失踪とかの未解決事件の原因は、だいたい魔女のせいだ。」

 

「…集団自殺とかも、か?」

 

「その通り。魔女は無差別に人の命を奪う存在だ。そして、その魔女を倒すとグリーフシードが出てくる。」

 

ここで、前回のハルの仮説を思い出す。集団自殺や行方不明者は、メタルギアを管理している集団の実験かもしれないという事。しかし、佐倉の話が本当ならその仮説は崩れる。ハルもマジカルな真相があるなどとは思わないだろう。

 

「グリーフシード…嘆きの種ってところか。何のために使う?」

 

「魔法少女は、魔力を使い過ぎると魔法が使えなくなる。それを解消してくれるのがグリーフシードだ。つまり、魔女退治の報酬ってわけだ。」

 

「…ソウルジェムから、黒いモヤを取り出してか?」

 

「…ヤケに知識が偏ってるな。どうしてそんな事を知ってんだ?」

 

「その謎を解き明かしたいんだよ。一度外に出よう。」

 

花火は席を立ち、伝票を片手にレジへ向かう。その背中を、佐倉は訝しげに睨んでいた。

 

今日、教会で眠っていた少年。年齢は自分とも近いくらいだろうか。整った顔立ちだが、青灰色の鋭い瞳と落ち着いた雰囲気は、同年代には思えない。

どう見ても自分に近しい生き方をしているようだが、その雰囲気は完全に堅気だ。

彼からは、戦う者特有の覇気が感じられない。

現状分かっているのが、彼が魔法少女のトラブルに巻き込まれたという事と、他にも隠していることがあるという事くらいだ。

 

彼は、食事を対価に情報を求めてきた。佐倉からすれば、付き合ってやる義理はないが、彼女の直感が聞いておくべきだと警報を鳴らす。

支払いを終えたのか、彼がレジから佐倉に手をあげて合図した。渋々、といった表情で、佐倉は席から離れた。

 

夜の風見野を花火は歩く。その後ろを、佐倉が付いていく。2人の間に会話はなく、静かな夜道に虫の音が鳴っている。

昼に訪れた公園の入り口に着いた時、花火は足を止めた。どうやら、此処に用があったらしい。

花火は佐倉の方へと振り返る。

 

「ここなら人通りもない。何でもいいから魔法を使ってほしい。」

 

「オイオイ、何で私がそんなことをしなきゃならねぇんだよ?」

 

佐倉は不機嫌に言い捨てる。佐倉からすれば、食事を対価にしたとしても、そこまでしなきゃいけない義理はない。

 

「さっき言ったけど、魔法を使うとソウルジェムが濁るんだ。何で態々アンタの為にそこまでしなきゃならねー。魔力の無駄だ。」

 

グリーフシードが無ければ、ソウルジェムの濁りは取れない。佐倉の言う通り、花火にそれを見せても彼女にメリットはないのだ。

しかし、花火は佐倉に話を続けた。

 

「その濁りならどうにか出来る。それが俺の1番の目的だ。」

 

「はぁ?グリーフシードを持ってるって事か?」

 

「そう捉えてくれてもいい。」

 

真剣な表情でそう告げた花火に、佐倉は溜息の後に応えてやる事にした。これでグリーフシードを持っていないなら、有り金全てを奪ってやろうと考えながら。

 

ソウルジェムを取り出し、公園の敷地へと入る。遊具に触れ、適当に魔力を使ってやる。正直無駄な行為でしかないが、ソウルジェムが軽く濁るまで佐倉はそれを続けた。

 

ソウルジェムに濁りが見えたあたりでそれをやめ、花火の元へと歩く。

 

「ほら、これで良いのか?」

 

「…あぁ。問題ない。」

 

「そうか、ならさっさとグリーフシードを出しな。」

 

「…佐倉。」

 

花火が佐倉へと一歩近づいた。そして、ソウルジェムを握る佐倉の手を握る。

 

「何のつもりだよ?」

 

冷たい敵意の篭った瞳が、花火を睨みつけた。しかし、それを物ともせずに花火は話す。

 

「これから起きる事が、お前にとってどれほど非常識なのかを教えてほしい。」

 

花火は、そのまま佐倉の手を引き自分の右眼へと近づけた。抵抗しようとした佐倉の動きは、この後起きた現象により止まった。

 

ソウルジェムの濁りが、花火の右眼へと吸い込まれていく。少量だった為か、佐倉のソウルジェムは元の赤い輝きを取り戻した。

代わりに、花火の青灰色の右眼は、その色を黒く染めている。

 

「…なんなんだよ、お前は?」

 

「それを知る為に、俺はお前の元へ来た。」

 

花火は佐倉の手を放し、二歩下がる。

 

「佐倉、俺に雇われてみないか?報酬は、俺の知る情報と、衣食住。それに…いつでも使えるグリーフシード擬きだ。」

 

自分の右眼を指差し、花火は告げる。

2人しかいない公園に吹いた静かな風が、2人の髪を優しく撫でた。




4周目は杏子ちゃん回です。

魔女を出すつもりでしたが今回出ませんでした。許してください何でもしますから!

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