MAGICA GEAR EDIT 作:ローランゲート・ぺろぺろ丸
鹿目まどかの存在は、正直なところ想定外だった。彼女に出会ってしまった事で、彼の成長が遅れた。彼女がいなければ3度目のループで解決していたかも知れない。いや、暁美ほむらが関わるのなら、どちらにせよループとなるか。
なら、コレは良い偶然なのだろう。
8話
2011.09.17
ソファーに座り、先程作ったベーコンサンドを囓る佐倉を、花火はキッチンから見ていた。片手に持つコーヒーカップを傾けて、香ばしい香りと苦味を楽しむ。もう片方の手には母の部屋から持ってきた本を持ち、軽く流し読みしている。
祭家に夜遅くに2人で帰り、次の日の朝には花火の用意した朝食に舌鼓を打つ。普通なら多少の気遣いで硬くなるだろうに、そのような雰囲気を見せない佐倉。慣れているのか大物なのか、花火にはわからなかった。
昨日の花火の提案を、佐倉は了承した。報酬は花火の予定通りとはいかなかったが。
まず、衣食住。これに関しては問題は無かった。花火は、ハルから送られてくる金をそれなりに貯めている。ソイツを使えば、1か月程度どうとでもなる。部屋も二階の寝室を使わせればいいし、衣服は後で買えばいい。
次に、花火の持つ情報。コレは、佐倉が持つ魔法少女の詳細な情報を聞く為の交換材料だ。彼女から細かい話が聞ければ、対価として話せばいい。もしかすれば、このループの原因も掴めるかもしれない。
最後に、グリーフシード擬きの右眼。問題はこれだった。
佐倉の説明によると、本来グリーフシードが吸収出来る黒いモヤは限られているらしい。使えなくなったグリーフシードは、【キュウべぇ】と呼ばれる謎生物が回収しているとの事。
その為、魔法少女の大半はグリーフシードを巡って別の魔法少女と戦う事になるらしい。
「魔女が集まるいい狩場ってのは、大体の奴が狙ってる。例えば、この見滝原市とかな。」
「お前が風見野にいた理由は?」
「見滝原市と比べりゃ魔女の数は少ないが、あの辺りも狩場としては悪くない。特に、見滝原市に目が眩んでこっちにくる奴は少ないからねぇ。」
魔法少女の現実にゲンナリしながらも、佐倉の話を聞く花火。だとすれば、前回のさやか達の死は外部の魔法少女である可能性が高い。
ベーコンサンドを平らげた佐倉が、牛乳で喉を潤す。空になったグラスをテーブルに置き、花火の右眼を指差した。
「つまり、グリーフシードってのは基本使い捨てなんだ。アンタみたいに、時間が経てば再利用できるものじゃない。」
「…まさか、俺も狙われる?」
「察しがいいな。当然、誰もが欲しがるだろうね。常に命の危険がある魔女狩りなんてしなくて済むんだから。暴れるなら、手足を捥いで監禁しておけばいい。アタシならそうするね。」
当然のように告げる佐倉。その言葉に冗談は含まれていない。使っても無くならないポーションがあるなら、誰でも欲しいに決まってる。
「…なら、今後対峙する魔法少女は敵だと認識した方がいいな。」
「何処から噂が流れるかわかんないからね。アタシとしても、アンタみたいな便利アイテムをくれてやる気にはならないし。」
「必要なのは、ある程度のグリーフシード。それと、非常時の自衛手段だ。」
今後の方針を2人で話し合う。佐倉の仕事は花火の訓練と魔女の散策。花火は、佐倉のサポートを行う事となる。
途中、佐倉から質問がはいる。
「それで、アンタはアタシにさせたい事があるんだろ?」
「…そうだな。だが、正直魔法少女並みに面倒ごとだぞ?」
「今更だろ。ヤバくなりゃ引くだけだ。」
花火の軽い脅しにも飄々とした態度で返す佐倉。危険だと判断すれば、彼女は間違いなく自分を見捨てるだろう。正直、それくらいの感覚でいてくれる方が花火としても楽だった。
「わかった、話そう…。俺が追ってるのは、見滝原市に潜伏している武装集団だ。」
「武装集団?ヤクザのことか?」
「いや、恐らく傭兵集団だ。ソイツらは、この街の何処かにメタルギアを隠してる。」
花火の話に、佐倉の疑問が増えた。幾らメタルギアが世界的に有名とはいえ、知らない人間だっている。それも、戦争と関わる事が無い日本では更にその周知率は低いだろう。
「そのメタルギアってのは?」
「核弾頭を打つ為の戦車だ。実際はロボットみたいなヤツだったがな。場所を選ばずに何処からでも撃てる。それが、核を所持してないはずの日本にあるんだよ。」
「…冗談だろ?」
核兵器の恐ろしさなら、佐倉でもある程度理解できる。時期がくればニュースでも取り上げられる。歴史に詳しくなくとも、その恐ろしい過去だけは未だに語り継がれている。
「それだけでも問題だが、その関連施設からグリーフシードが見つかったんだ。」
「…だからアタシを探してたのか。」
「餅は餅屋だ。お前の事は偶然知っただけだがな。とにかく、そのテロリストまで秒読みの奴らの中に、魔法少女がいる可能性が高い。それへの対応が、お前の仕事だ。」
花火の言った面倒ごとの意味を、佐倉は初めて痛感した。どうせ物知り程度の素人の言う面倒だ。大した事無いと高を括っていたが、蓋を開けてみれば面倒なんて言葉で片付ける話じゃ無い。
「…逃げるのが得策だ。」
「核相手に居場所があるか。撃たれたらそれで終わり。着弾先は吹き飛んで、人が死ぬ。」
「なら核が撃たれない所にでも逃げりゃいいっ。」
「核を撃った日本は戦争に巻き込まれる。そうなったら日本人は悪人だ。受け入れ先は何処にも無い。」
「魔法少女の力があれば、囲まれてもどうにかなる。」
「魔法少女の身体能力があっても、魔女を探す暇はないぞ。いずれ限界はくる。」
それは、個人の力では如何にもならないという事実確認だ。佐倉の言葉に、その結末を伝える事で否を告げる。
幾ら佐倉が魔法少女として戦い慣れていても、一生戦い続けられるわけではないのだ。
「…アンタただの学生だよな?何でこんなことに巻き込まれてるんだ?」
「…そうだな。お前には協力してもらいたい。誠意として、俺も話そう。」
頭を抱える佐倉の疑問に、花火は少し悩んだ後、自分に起きている最大の謎について話す事を決める。
佐倉の使っていた空のグラスに牛乳を注ぎながら、花火は話始める。
「魔法少女は、キュウべぇってヤツに願い事を叶えてもらって、それに因んだ能力を得るんだったよな?」
「あぁ。アタシも能力を持っている。」
「…その魔法少女の中に、恐らく時間に関する能力を持っている奴がいる。」
「…時間?」
コレは、魔法少女の話を聞いてから花火が考えていた事だ。花火の身に起きているループに原因があるとすれば、魔法少女以外には考えられない。
「俺は、今年の9月16日から10月16日までの1か月を繰り返している。今回で4度目だ。」
「…揶揄ってる、わけねぇよな?」
「事実だ。お前が気になっていた知識の偏りは、メタルギアに関する事を調べていた際に偶然知ったからだ。グリーフシードも、センスの無い呪いグッズだと思ってた。」
佐倉は頭を回す。そして、花火の話が法螺とは言い切れない事を理解した。
確かに、願いの内容によっては時間を巻き戻すような魔法を使える奴もいるかもしれない。
科学の視点から見れば、グリーフシードを見たところで何なのかわかるわけがない。
何より、花火が佐倉を探していた理由がわからないのだ。
佐倉は花火を見た事がない。自分の事を嗅ぎ回っている連中もいない。佐倉の事を知っていたなら、佐倉は既に鬼籍に入っている事くらいわかるはずなのだ。
しかし、もし花火の話しの通りであれば、佐倉を知る機会もあるだろう。未来の佐倉が知っていても、今の佐倉が知るはずないのだから。
「…つまり、だ。アンタの敵は時間を操れる魔法少女で、核弾頭を持ってて、戦場を経験している傭兵集団って事か?」
「…俺のループさせている魔法少女と、メタルギアの関係者は別だと思いたいがな。だが、向こうにグリーフシードがある時点で、別の魔法少女はいるはずだ。」
「…アタシらだけじゃ無理だ。」
それは状況を冷静に判断した上での発言だった。どうあがいても2人でどうにかなる相手ではない。
佐倉自身、魔法少女を相手に戦った事もある。縄張り争いは彼女にとっては日常の一つだ。魔女を相手に戦うのだから、離れしている自覚もある。
だからこその判断だ。
「…お前の考えは間違いじゃないんだろうな。」
「取引の面でみてもデメリットが多い。それに相手は殺しのプロだろ?足手纏いのアンタを連れて生き残れるとは思えないね。」
「…だよな。別に、手が無いわけじゃない。」
そう言って、花火は一冊の本をテーブルに置いた。佐倉はその本を手に取り、そのタイトルを確認する。
「…この英語の本が何なんだよ?」
「その本のタイトルは【シャドーモセスの真実】2005年に起きたとある事件についての本だが、重要なのは2つ。コレがメタルギアを巡った事件である事、そしてソリッド・スネークと呼ばれる人物がそれを解決した事だ。」
「ソリッド・スネーク…聞いた事無いな。」
「実は昨日、軽く調べた。如何にも、あのオッサンは世間じゃ有名人らしい。そして…ソイツとの連絡手段を俺は持っている。」
携帯電話を片手にそう告げる花火に、佐倉の顔が驚きのモノに変わる。
つまり、メタルギアに詳しい戦闘経験の豊富な人材が、味方として呼べるということになる。
「さっき言った通り、餅は餅屋だ。対メタルギアのプロを呼んで、対策を立てる。俺たちは別行動で、グリーフシード集めと訓練。」
「情報が集まり次第、メタルギアってヤツを壊すか?」
「3回目のループで俺が彼らから聞いている情報もある。途中トラブルがあって、それ以降の話はわからないが…。」
花火は、今回のループで全てを終わらせる気だ。何度もふざけた光景を見せられた。その苛立ちを全て、奴らにぶつけるつもりだ。
そんな花火に、佐倉は聞かなければならない事がある。
「…何のためにそこまでするんだ。確かに、戦争になりかねないクソな話だけど、アンタに関係ないだろ?」
佐倉の中の価値観の話。
彼女は、自分の為だけに魔法少女の力を使う事を決めている。誰かの為に何かをするなんて事はしたくない。そんな事をする人間こそ、彼女の中では信用できない。
佐倉の問いに、花火は少し悩みながら答える。
「…ただの自己満足だよ。最初のループで家族が行方不明。2回目は友人が瓦礫で下敷き。3回目は、友人が2人死んだ。何処の誰かは知らんが、俺の日常を壊して嘲笑ってやがる。」
このループを経験した事により生まれた花火の負の面。それを自覚した上で表に出したのは、佐倉が初めてだろう。
何故彼女の前ではそれを出せるのか、花火は分かっていなかった。
「俺に恨みがあるのなら、俺を狙えばいい。だが、関係ない友人を狙った事だけは許さない。その上で俺に同じ光景を見せようとしてるなら、その対価を必ず払わせてやる。」
花火の話を黙って聞いていた佐倉は、その言葉に内心同意した。
彼女の持論は、不幸と幸福は等価であるという事だ。幸せになれば、その分の不幸が必ず訪れる。花火をループさせている人物は、魔法少女として幸福になる為の願いを叶えているにも関わらず、他者の幸福を奪っていることになる。
それは、佐倉からしても苛立つ話だ。
ここで初めて、佐倉は花火に協力する事にした。
「…そういや、ちゃんと名前言ってなかったよな?」
「ん?あぁ…。そういえば、聞いていなかったな。」
佐倉はソファーから立ち上がり花火の前まで移動する。そして、花火に右手を差し出した。
「佐倉杏子だ。よろしくな、花火。」
「…あぁ、こちらこそよろしく頼む。」
佐倉の右手を握る。
こうして、彼らの共同生活は始まった。
☆☆☆☆
2011.09.28
見滝原中学校の屋上。美樹さやかは、そこで友人達と昼食を楽しんでいた。
食事に参加しているのは、巴マミと鹿目まどか。3人は数日前に友人となった。始まりは、まどかとさやかが魔女の結界に囚われた事。そんな2人を助けたのが、魔法少女であるマミだ。彼女に助けられ、共にいたキュウべぇに魔法少女の素質がある事を告げられた。
まどかは、マミとは別の魔法少女との会合で、魔法少女になってはならないと告げられる。そんな事もあり、如何するべきか決めあぐねていた。
一方さやかは、彼の幼馴染みであり想い人でもある上条恭介の左手を治すために魔法少女になる事を決意。キュウべぇと契約を交わし、今はマミと共に魔女や使い魔を倒す為に日々精進している。
そんな彼女であるが、最近はあまり元気がない。それは、恭介との仲が進展しないからではなく、もう1人の幼馴染みについてだった。
「美樹さん、最近あまり調子が良くなさそうね。」
「あ…はい。い、いやー…ちょっと気になることがあって。」
「…もしかして、花火君のこと?」
祭花火は、さやかのもう1人の幼馴染みである。以前、奇妙な電話があってから学校に来ないことが多いのだ。話しかけても、いつも通りの憎たらしい返しもない。さやかとしては、それなりに心配になる。
「…花火……。それって、祭君の事かしら?」
「はい…えっ?ま、マミさんアイツのこと知ってるんですか!?」
思わぬ所からの話に、さやかは驚く。まどかも、花火とマミが知り合いだなんて話は聞いた事がなかった。
マミは、驚く2人に微笑みながら返す。
「えぇ、彼が1年生の頃からのお友達よ。と言っても、学校でお昼を一緒に食べるくらいだけど。」
「花火君、そんな話全然してなかった…。」
「あんの鈍感系、マミさんに手を出すなんて…!」
「あら、彼は意外と紳士的よ。レディーに対しての接し方も、沢山教えてあげたもの。」
1年間女性の扱いを教育してきたマミは、その時の事を思い出して笑う。真面目に取り組む彼に興が乗ったマミは、それこそ色々な事を教え込んだ。そのおかげか、今では自然な振る舞いの中でそれを行えるまでになったのだ。
しかし、花火のそれはマミ以外には行われていない。特に、さやかに対しては片鱗すら見せなかった。
「それで、彼と何かあったの?」
「それが、最近付き合いが悪くなったと言いますか…。電話とか出ないし、メールも返さないことが多いし。」
「さやかちゃんもなんだ…。私も、返信がない事が多くて…。」
さやかは少し落ち込んだ様子で事情を話す。奇妙な電話の内容も一方的に話してすぐに切ってしまった。後日問いただそうとも、ヤケに疲れた顔での生返事で、全く会話にならない。
まどかも、メールの返事が来ない事があるとしょんぼりしていた。更に、『客が来てるから家には来なくていい』と言われ、殆ど会話もしていない。
「珍しいわね。そんな子じゃなかったと思うんだけど…。恋人でも出来たのかしら?」
「い、いやいやぁ。アイツに限ってそれはないですって!だってあの花火ですよ?」
「えぇっ!?は、花火君彼女出来たの!?ほ、ホントに!?」
「ま、まどか!落ち着いて!」
マミの言葉にあり得ないと笑いながら否定するさやかであったが、まどかはわかりやすく焦っていた。そのあわあわとしたテンパり具合は可愛らしいものだが、肩を掴まれ揺すられるさやかからすれば溜まったものではない。
「フフッ。鹿目さんは、彼の事が好きなのね。」
「あぅっ!?え、えっとぉ、そ、そんなんじゃないですけどっ、あの…っ!?」
「まどか、それ逆効果。」
さやかのツッコミに顔を赤くして俯いてしまうまどか。こんなに可愛い子が好きなのが、あの仏頂面の唐変木なのは間違ってるのではないかとさやかは思う。
そんなまどかに、マミはアドバイスを送ろうと声をかけた。
「鹿目さん。好きな人が離れちゃいそうなら、しっかり捕まえておかないとダメよ?」
「そうそう!まどかって花火の家の鍵持ってるんでしょ?だったら、今日思い切って行ってみればいいじゃん。」
「で、でも…迷惑じゃないかな?」
「大丈夫!なんかあったら私とマミさんで言ってやるから!ね、マミさん?」
「そうね、大事なお友達の為ですもの。」
フォローは任せろと言わんばかりのマミとさやか。ちなみに、恭介に想いを伝えるのを未だに達成できていないさやかの言葉とは思えない。ここに花火がいれば、間違いなくそう言っただろう。
そんな2人に言いくるめられ、気付けば祭家の家の前に立っていたまどか。マミとさやかはパトロールがあるからと行ってしまい、少々心細くもある。去り際のさやかのグッジョブに、今更ながら文句を言いたくなった。
今日も花火は学校を休んでいる。きっと家にいるのだろうが、急に来て迷惑じゃないだろうか?
だが、今更ここまで来て帰るのも気まずい。
「よ、よし。がんばろう。うん…!」
まどかは自分に喝を入れる。玄関まで5メートルもないのに、前へ進む足がとても遅い。やっとのことで扉の前にたどり着いた。震える指でインターホンを押し、スペアキーを持っていた事を思い出す。慌てすぎな自分に顔が熱くなるが、既に賽は投げられた。
少しして、扉の奥から誰かの歩く音が聞こえる。鍵の開く音が鳴り、ゆっくり扉が開いた。
思わず声を掛けようとして、思い止まる。扉を開けたのは、花火ではない。
出てきたのは、身長の高い外国人の男性だった。メガネをかけた優しそうな雰囲気は、何処か父に似ている気がする。
男性はまどかを見下ろし、にこやかに笑うと声をかけた。
「おや、ハナビの知り合いかな?」
流暢な日本語が聞こえたので、まどかはホッとした。英語の成績は良いわけではないし、そもそも話せない。安堵した事を悟られないよう、男性へ返事を返す。
「あ、あの。私、鹿目まどかです。花火君はいますか?」
「鹿目…あぁ。君はあの時の女の子だね。ハナビを助けてくれた。」
「え、その…知ってるんですか?」
「あぁ。ジュンコさんとトモヒサさんの事も知ってるよ。」
そういえば、と花火を見つけた後に誰かが家に来た事を思い出す。話をした訳でもないので記憶は朧げだが、恐らくその時の男性なのだろう。
「そうだ、君はハナビに用事があるんだったね。」
「あ、いえその…。用って程では無いんですけど…最近、花火君学校にもあまり顔を出さなくて……。」
「…それ、本当かい?」
まどかと視線を合わせる為にかがむ男性。そんな彼に少し困惑しながらも、まどかは続ける。
「は、はい。昨日もお休みしてましたから。その…知らなかったんですか?」
「…ハナビは、最近お付き合いをしている女性がいるらしくてね。恐らく、彼女の所へ行ったんだろう。」
その言葉に、まどかは返事を返す事ができなかった。もしかしたら、なんてマミが言っていたが、さやかの言うように、そんな事はないと信じたかった。
鹿目まどかは、自分の初恋が終わった事を理解した。
☆☆☆☆
「マミさん、近いっすね。」
「油断はダメよ美樹さん。使い魔だって危険なんだから。」
「わかってますよ!さやかちゃんにお任せってね!」
廃工場だった場所で、マミとさやかは歩いている。
まどかと別れてから、彼女達は日課であるパトロールを行っていた。
マミは、魔法少女は正義の為に存在するものと信じている。その信念に従って、彼女は日々魔女と戦っている。
そんなマミに感銘を受けているさやかも、正義の為に自分の力を使う事を決めた。
だからこそ、彼女達は魔女の使い魔を倒す為に尽力するのだ。
ソウルジェムは、魔女や使い魔に近づくと強く光を放つ。2人のソウルジェムは、かなり強い光を放っていた。
それを確認した瞬間、辺りの景色が塗りつぶされるように変化する。
「…いたわね、美樹さん!」
「りょーかい!」
マミは黄色のソウルジェムを、さやかは水色のソウルジェムを使い変身する。
魔法少女としての姿に変わった2人は、それぞれの武器を持つ。マミは白をメインとした美しい装飾の施されたマスケット銃。さやかはシンプルだが一部水色のアクセントが付いたサーベルに似た刀剣を手にした。
2人は見つけた使い魔を追いかける。使い魔は慌ただしく逃げ始め、中々その距離は狭まらない。
「あーもー!しつこいっての!!」
気の短いさやかは中々捕まらない使い魔に痺れを切らした。高く飛び上がり、持っていた刀剣を使い魔に投げつける。それは使い魔に当たりはしなかったが、逃避先に刺さりその足と止めさせた。
その隙を突き、マミはマスケット銃で使い魔を撃ち抜いた。
力なく倒れた使い魔は、その肉体を塵へと変える。使い魔が消えた事で結界は消滅し、辺りの景色は元の廃工場に戻る。
「ふー。今日も完了っと!」
「最近魔女の数も増えたものね。美樹さんがいてくれて心強いわ。」
「いやいやぁ、マミさんのご指導の賜物ですって!」
マミの言葉に、さやかは照れ臭そうに頭をかく。人間、褒められるという事はやはり嬉しいものなのだ。
使い魔がいない以上、ここに用はない。魔法少女の姿を解除しようとした2人に、声がかかった。
「全く、まだ使い魔退治なんて無駄な事やってんのかよマミ。」
「っ!?だ、誰よ!!」
突然聞こえてきた声にさやかが驚く。すると、廃工場の奥の暗闇から2人分の足音が聞こえる。
1人は赤い衣装の魔法少女だ。長い槍を持ち、細長い菓子を口に咥えている。もう1人は、男の人のようだ。黒のジャケットにジーンズを着た彼は、顔部分が建物の影でよく見えない。
「…佐倉さん。いつ、見滝原に戻ってたの?」
「つい最近だよ。そろそろこっちの狩場を頂こうと思ってね。そんで、そっちは新しい子分かい?」
「え!?マミさん、コイツと知り合いなんですか!?」
真剣な表情のマミにさやかが訪ねる。先ほどの彼女の発言といい、とても仲が良さそうには見えない。
「彼女は佐倉杏子。以前一緒に行動してたの。アレから暫く経つけど、随分と大きく出たわね。そちらのお友達のおかげかしら?」
「さてな、アンタには関係ねぇよ。そんな弱っちそうな奴連れてちゃ、魔女を倒すのも一苦労だろうさ。」
「っ!さっきから何なのよあんた!私達魔法少女が、使い魔を倒すのは当然でしょ!?」
佐倉杏子と呼ばれた少女の言葉に、さやかの頭に血が上り、感情のままに吠える。そんなさやかに、杏子は呆れたように笑った。
「何言ってんだ?使い魔を放って置いたら、人間を食って魔女になるんだぞ?」
「そうよ!だからその前に倒すんでしょ!?」
「ハァ?何でわざわざそんな事すんのさ?」
心底分からないといった風に肩を上げた杏子。明らかな煽りにさやかは飛び出しそうになるのを抑える。
しかし、その怒りのダムはすぐに決壊した。
「使い魔が魔女になりゃグリーフシードが手に入る。使い魔は倒しても何も残らない。だったら、多少犠牲が出ても魔女にした方がいいに決まってんだろ?」
「ーーーっ。ふざけんなぁ!!」
「美樹さんっ!!」
マミの制止も聞く事なく、さやかは杏子に突っ込んでいく。その光景に笑う杏子は、剣を使ったさやかの突きをその槍でいなしていく。
突き、切り上げ、振り下ろし、回り、横なぎ、軽く跳び、振り下ろし。
赤子の手を捻るようにさやかの猛攻を裁く杏子。その表情には焦りは一切見られない。さやかが一度引き息を整えるまで、終始余裕のまま攻撃を受け流し続けた。
「ハァ…ハァ…ッ!」
「何だよ、この程度か?これじゃ、一月もしないうちに死ぬだろうな。」
「言わせておけばぁーーー!」
「美樹さん!落ち着きなさいっ。」
杏子の挑発に見事に乗っかるさやかをマミが腕を掴み止める。暴れて刃先をマミにぶつける訳にもいかないので、さやかは震えながらも動きを止めた。
その時、規則的な電子音が鳴る。どうやら、顔が隠れて見えない後ろの男の人のようだ。彼はポケットから携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。
「…もしもし。あぁ、オタコーーは?いや、今日は学校に…いや待て、そんな話どこで…今、家に来ている?勝手に家に上げたのか?冗談だろオイ、待ってくれ話をーーー切りやがった。」
険悪な空気の流れているこの場で、実に空気の読めていない気の抜けたようなやりとりに、杏子はため息を吐く。しかし、さやかとマミはその声を聞いて別の事に言葉を失っていた。特に、さやかは信じられない光景を目にしたかのように目を見開いている。
「何だよ、厄介ごとか?」
杏子が彼に話しかける。彼はポケットに携帯電話をしまいながら返答した。
「あぁ。夜遊びがバレたらしい。面倒だが、一度戻る。」
「ちっ…案外早かったな。」
「いや、プロ相手によく持った方だろ。この後の事は追って連絡する。」
そう言って影から顔を出す。工場の入り口はさやか達の後ろにしかない。だから、必然的に彼女達は彼の顔を見る事になる。
それはさやかの知っている人物だった。
それはマミの初めての男の友人だった。
「…なぜなの?」
「………花、火?」
マミのそれは、どういった意味合いを含んだ問答なのか、彼女自身にもわからない。さやかからは絞り出すような掠れた声が口から漏れた。そして、花火と呼ばれた少年は…無言のまま彼女達の横を通り過ぎた。
「…待って……待ってよ…っ。」
さやかの縋るような呼び掛けに、背を向けた彼は足を止める。その背中を見るさやかの目は、不安に揺れていた。
「…なんで、あんたがこんな奴と……。」
「…さやか、お前だったんだな。恭介の腕を治したのは。」
さやかの質問に答えず、花火は声を上げる。それを聞いた時、まるで叱られた子どもの様にさやかの肩が小さく震えた。
「お前の想いはわかる。だから、お前はもう何もするな。」
そう言い残し、彼はその場を去っていく。いなくなった彼の言葉が、さやかの頭を回っていた。
「…佐倉さん、説明してくれない?何故、彼が貴女と一緒に行動しているのかしら?」
まるで捨てられた子犬の様に震えるさやかを抱き寄せるマミは、そのまま理由を杏子に問う。
「何でそんな事話さなきゃならないのさ?」
「彼は私達の友人よ。巻き込んだのが貴女なら容赦しないわ。」
「…なんだ、アンタも結局分かってねぇのな。」
そう言って好戦的な笑みを向ける杏子に、マミの表情が曇る。その言葉を聞いていたさやかは、どうしてこうなったのかわからないといった顔だ。そして、それは怒りの表情に変わる。
「なんの、ことよ…。あんたがっ、アイツの何を知ってるってのよ!?」
「知る必要ある?この11日間、花火が何をしてたかも知らないで呑気に正義の味方ごっこしているアンタ達に?」
さやかの激昂に、杏子はあくまで答えない。杏子からすれば、怒りたいのはこちらの方なのだ。
この11日間。杏子と花火は濃い時間を過ごしていた。対魔法少女の鍛錬では、花火は散々杏子に打ちのめされた。その度にソウルジェムから濁りを吸い取り、身体を回復させる。
杏子は、最初こそその光景に驚いたが、後半は彼の異常な執念に驚かされた。
まるでゾンビの様に起き上がり、すぐに訓練を続ける。ひたすらにそれを繰り返し、3日目には杏子と打ち合えるまでに成長していた。
次に、魔女退治に同行させた。魔女の脅威を、理解しなくてはならないから。これを言い出したのも彼だ。
使い魔の気味悪さに、胃の中の物を逆流させている事もあった。しかし、7日目には十分に撃退できるまでに成長していた。といっても、魔女は流石に無理だったが。
花火の元々の身体能力だけでは説明の付かない進歩。その理由を、杏子は共に行動する事で理解した。
彼は、友人達が死ぬのを何度も見た。だからこそ、彼は手を抜かない。彼に纏わり付く運命は、魔法少女の事だけではないのだ。
友人の1人がマミなのは驚いたが、それでも彼は止まらないだろう。気に食わないのは、目の前のもう1人。
誰かの為に願い、誰かの為に戦う。その生き方を、杏子は認めない。認められない。
それ以上に気に食わないのは、彼女が他者を頼らなかった事だ。
花火は、過去のループの事を杏子に話していた。彼は、最初から自分で動いていたわけじゃない。
誰に頼れば良いかもわからないところから、何とか頼れる人間を見つけた。しかし、それでも友人は死んだ。
だから、彼はしたくもないであろう戦いに身を投じている。
対して美樹さやかは違う。戦う意味を理解しないまま、優雅に正義の味方として振る舞うマミを見て、それだけで危険な世界へ足を踏み入れた。
それを阻止する為に、彼は文字通り血反吐を吐いていたというのに。
「特にアンタだ。美樹さやかだっけ?」
「あんたに名前を呼ばれたくないっ。」
「知るかよ。アタシはね、アンタみたいなお遊びでやってる奴が1番腹が立つんだ。」
これから行う事を、きっと花火は認めなかっただろう。さやかが傷つかない事こそ、彼の進む道なのだから。
だが、それでも杏子は槍を構える。自分の行動は、自分で決めたいから。
花火の家に帰れば、面倒に巻き込まれるだろうが仕方ない。仕方ないので、少し遅れてから行こう。
「今度はちゃんと相手してやる。来な、ド素人。」
Q.さやかと杏子が原作より険悪になりそうですけど大丈夫ですか?
A.(どうせみんないなくなるので問題)ないです。
さて、今回は信じてた幼馴染みがホームレス(年齢的に中学生)にNTRされたさやかちゃんと、長年片思いだった子が不良(やってる事は強盗)にNTRされたまどかさんのお話でした。
次回もよろしくお願いします。
あ、感想いっぱいください。(クレクレ)