MAGICA GEAR EDIT   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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ネタバレ9


美樹さやかは、彼を成長させるための薬であり、毒である。生死に関係なく、彼に良い影響を及ぼしてくれる。使い勝手のいいピースだ。

彼女だけは、死んでも構わない。


過酷な人生の中

9話

 

 

 

2010.08.26

 

 

 

「はい、どうぞ。」

 

「いつもすみません、巴先輩。」

 

「いいのよ、好きでしている事だから。」

 

見滝原中学校屋上。そこには、巴マミと祭花火がランチを楽しんでいた。

今回マミが持ってきたのはお弁当だ。花火が育ち盛りである事を考慮したのだろう。お弁当はそこそこに大きいサイズとなっている。

 

マミから差し出されたそれを受け取り、花火は頭を下げる。最初はイタリア語の勉強から始まった関係だが、今では一緒にお昼を食べるのがメインとなっていた。

花火はマミに断りを入れてから、お弁当の蓋を開けた。

本日のメニューは小さなハンバーグ、卵焼き、ブロッコリーのサラダ。全て綺麗に並べられており、ご飯はお弁当のはずなのに綺麗なまま形を保っている。

 

「苦手な物とかはない?」

 

「大丈夫です。それにしても美味しそうだ。」

 

「そう言ってもらえると嬉しいわ。」

 

微笑むマミに釣られて、花火も頬が緩む。普段仏頂面な彼の穏やかな笑顔など、この学校で見た者はまどかくらいだろう。さやかが見たなら、偽物だと騒ぎ立てるはずだ。

 

いただきます、と手を合わせて早速ハンバーグを口に入れた。味わうようにゆっくりと咀嚼して、堪能する。あぁ、美味い。

 

「このハンバーグ、手作りなんですか?」

 

「もちろん。せっかく食べてもらうのだから、手を抜きたくないもの。」

 

ハンバーグを作るのってすごく大変なのでは?料理なんて焼くくらいしかしない花火からすれば、そんなに手間隙をかけてまで作ってくれた事が嬉しかった。

そもそも、ハンバーグとはここまで綺麗に形を整えられる物だっただろうか?

花火はマミの手腕に驚きっぱなしだ。

 

「…今度、何かお礼させて下さい。」

 

「そんな、気にしなくても良いのよ?」

 

「せっかくここまでしてくれているんですから、何かお返ししないと。明後日の土曜日、何処かへ出掛けませんか?」

 

それは花火からのデートのお誘いだった。もちろん、花火はそんな事を気にするタイプの人間ではない。

日頃お世話になっている患者のために、彼女に楽しんでもらいたい一心なのだ。

 

マミは、花火からの提案に驚く。それは、異性からのデートの誘いを受けると思わなかった事ではない。

28日は、彼女の誕生日だ。

両親を失って以来、誕生日を誰かと祝う事なんてなかった。それが孤独である事に、いつも気付かないふりをしていた。

彼に自分の誕生日を教えた事はない。なのに、まるで知っていたかのようにその日に出かける事を提案した。

しかし返事を返さない自分に、花火は首を傾げている。その様子をみて『あぁ、何も知らないんだな』という事がわかった。

 

少し前に、彼には両親がいない事を聞いた。その後、親切な家族に拾われた事も。

それは、きっと素晴らしいことだと思う。同じように両親のいないマミにとっては、羨ましく、それ以上に救われた気持ちになった。

 

だが、思うのだ。例え救われたとしても、失った悲しみが無くなるわけではない。

彼も、そんな孤独と戦っているのだろうか。今の自分のように。

 

マミは、彼の誘いに乗る事を恐れていた。このまま彼の手を取ってしまえば、彼を縛り付けてしまうかもしれない。

花火に一度依存してしまえば、マミはもう止まれない。

マミの善性は、それを決して許す事はない。

 

「ごめんなさい。その日は予定があるの。」

 

「そうでしたか。悩ませてしまったみたいですね。」

 

「気にしないで。お誘いはすごく嬉しかったから。」

 

本当だ。本当に嬉しかった。

勇気があれば、きっと頷いていた。28日は、きっと素敵な日になっていただろう。

 

自分の弱さを、この日ほど嫌いになった日はなかった。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.28

 

 

祭家のリビングは、現在エアコンも無いのに冷え切っている。

花火がいつも眠っているソファーには、鹿目まどかが身を縮こませ座っている。

まどかから見て右側には、メガネをかけた細身の男性がパイプ椅子に座っている。

目の前には、想い人である祭花火が、フローリングの床の上で正座していた。

そんな花火の後方で、玄関へ続く廊下のドアを背もたれにして立っている目出し帽を被った男性がいた。

 

「さて、ハナビ?全部話してもらうよ?」

 

「…何を?」

 

「もちろん、全部さ。」

 

メガネの男性ーーーハルは、表面上は穏やかに声をかける。しかし、花火はここまで怒った彼を見た事がない。花火自身怒られるという経験があまり無かったこともあり、どうすればいいかわからなかった。

 

「あの、花火君…。」

 

「…なんだ、鹿目?」

 

まどかから声がかかる。花火としては、話をどう纏めようか悩んでいた事もあり、救われた気分になった。この間に、どう説明するか考えられる。

 

「その…お付き合いしてる人がいるって、本当?」

 

困った。

花火としては、正直1番触れて欲しくない話題でもある。しかし、まどかとしては聞かねばならない。どうしても、彼の口から聞きたかったのだ。

 

そもそも、花火が交際相手がいると言ったのはハル達への偽装のためだ。

ハルに連絡する前、杏子と話し合ってどう誤魔化すかを考えていた。その時に、子供の恋愛事情なら首を突っ込む事もないのでは、と考えた。

杏子も、それなら2人で出かけても変には思われないし、彼女が花火と同居していても怪しまれないだろうと承諾した。

 

つまり、2人はお付き合いなんてしていないのだ。

 

しかし、それがバレると杏子を家に置いておく事が出来なくなる。それは、魔法少女関連の対処が難しくなるということだ。それは、花火としても無視のできない話だ。

 

不安そうなまどかに嘘をつくのは嫌なのだが、彼女を巻き込むわけにもいかないのでその嘘を突き通す事にした。

 

「あ、あぁ。本当だ。」

 

「マドカ、ハナビの言葉は嘘だよ。」

 

そんな花火の気遣いをハルが一蹴する。まさか学校を休んで夜遅くまで何かをしていたことがバレたとはいえ、そんな簡単に嘘が見破られるとは思わなかった。

 

「ハナビは嘘をつく時、左耳を触る癖があるからね。本人も無意識なんだろうけど…。」

 

「お、おい嘘だろ…!?」

 

「もちろん嘘だよ。でも、釣りは成功したみたいだ。」

 

思わず驚き左耳を触る花火に、ハルがにこやかに笑う。動揺した時点で、花火の負けは決まった。

花火は、まどかにわからないように英語でハルを説得する。

 

「[オタコン、正直に言うと鹿目を巻き込む。それは避けたい]」

 

「[いやぁ、すまない。しかし、君にガールフレンドが出来たと聞いた彼女は見ていられなくてね。]」

 

「[どういう事だよ?]」

 

「[それは君の仕事だよ。]マドカ、僕らは秘密の話し合いがある。君の懸念も晴れた事だし、少し席を外してもらえるかい?」

 

花火からすれば謎の言葉で、ハルは話を切り上げる。悩む花火からまどかへ視線を移し、そう伝えた。

まどかは顔を赤くしていたが、どうしても聞きたいことがあったのかそこから動かない。

 

「あ、あの…花火君は、大丈夫なんですよね?危ない事じゃ、ないんですよね?」

 

不安なまどかの言葉に、ハルはどうするべきか悩む。正直に言えば、危険極まりない話なのだ。メタルギア関係の話で、銃弾の飛び交わない次例はない。しかし花火と同様に、ハルも無関係な一般市民を巻き込みたいとは思わない。扉の前にいる男ーーースネークもそうだろう。

 

「鹿目、俺は大丈夫だ。危ないことなんてしない。」

 

「…ホント?」

 

「あぁ、ホントだ。ただ、これから話す事はあまり人には言えないんだ。だから、二階で待っていてくれないか?話が終わったら呼びに行く。」

 

「…うん、わかった。」

 

渋々…といった様子ではあるが、まどかは花火の言葉に頷き、二階へと上がる。扉の閉まる音が聞こえてから、花火は大きく息を吐いた。

 

「…彼女に嘘をつくのが辛いかい?」

 

「…まぁ、そうだな。だけど、巻き込むわけにはいかないだろ。」

 

不器用な生き方は、どうやら遺伝するらしい。そんな事を、ハルは考えていた。花火は知らないが、彼の父親は後ろにいるスネークだ。スネークもまた、人に対する思いやりの強い人物であり、不器用な優しさをもつ人物である。だからこそ、ハルは彼と共に歩く事を決めたのだ。

そんな彼に似ている花火は、ハルにとっても友人のような存在だろう。

 

「…なら、話してくれるかい?」

 

「…わかった。正直、メタルギアより厄介な話なんだが…」

 

魔法少女って知ってるか?

 

 

☆☆☆☆

 

 

二階の部屋。花火がまだ、母親と暮らしていた頃に使っていた寝室のベッドにまどかは腰掛けている。

壁にかけられた時計には秒針がなく、小さく一定のリズムで鳴る音はしない。静寂が、部屋には満ちていた。

 

「…花火君。嘘ついてた。」

 

まどかが呟く。長年彼と一緒にいたのだ。それくらいわかる。まどかに大丈夫だと告げた彼は、あの時一瞬目を泳がせていた。それは、彼が嘘をつくときにする癖のようなものだ。

その事実が、たまらなく寂しく感じる。

 

「私、頼りないのかな?」

 

鹿目まどかには、自分が誇れるモノが無い。勉強も運動も得意とはいえない。その事が彼女をいつも悩ませていた。

そして、嘘だとわかったのに彼を問いただす事も出来なかった。そんな弱い自分が、まどかはたまらなく嫌いだった。

 

思わず溢れそうになる涙を堪える。ここで泣いてしまうと、そんな弱い自分を肯定してしまうようで…。

弱い自分を受け入れる強さを、彼女はまだ持っていなかった。

 

その時、窓を叩く音が聞こえる。

なんだろうと振り返ると、そこには何もない。

少しの恐怖を感じながら窓に近づく。鍵を開け、窓を開いた。窓の外を覗き込んでみるが、どうやら誰もいないようだ。

イタズラなのだろうか。そんな事を考えながら窓を閉めようとした時、外から伸びた手がそれを阻止する。

 

あまりの出来事に声が出なかった。後ろに下がろうとしたら足を絡めてしまい、尻餅をつき倒れる。

その間に、窓から誰かが入ってきてしまった。

 

「だ、誰!?」

 

まどかは侵入者の顔を見る。そこには赤髪の同年代くらいの少女がいた。律儀に靴を脱いでいる辺り、妙に常識的に感じる。しかし、不法侵入は決して常識の範囲に収まる行為ではない。

 

「いやー、悪りぃな。いつもは花火が開けてくれるんだが、まさか他に人がいるなんて思わなかった。」

 

小声でそう話す彼女は、どうやら花火の知り合いのようだ。しかし、窓から入るのが普通だとは思えない。一体、花火はどんな人達と関わっているのだろうか?

 

「…花火君の、知り合い?」

 

「あぁ。あ、いや…アレだ。アイツの彼女だよ。」

 

ここで微妙なすれ違いが起きた。赤髪の少女ーーー佐倉杏子は、あの後花火と連絡が取れないでいた。

というのも、花火と別れた後に起きた魔法少女同士の戦闘で、携帯電話を壊してしまったのだ。

 

あの後、杏子はさやかと戦った。

さやかからすれば、人を犠牲にしても良いなんて事を平気で言う奴を許せないし、そんな奴と彼女の知る祭花火が共に行動するのはおかしい。きっと、この女に騙されているんだ。

そんな考えの元、花火を開放するために剣を振るっていた。

杏子からすれば、短いながら相棒として共闘してきた彼が、死物狂いで目の前のさやかを救おうともがいているのに、当の本人は甘い考えで危険に首を突っ込んでいる事が許せなかった。

 

そんな白熱した戦いは、もう1人の魔法少女の介入で終わりを迎える。

二発の発砲音。一つはさやかの剣を手から弾き飛ばし、もう一つは咄嗟に気付いた杏子によって弾かれた。

距離の空いた2人の間に、黄色の魔法少女ーーー巴マミが割り込む。

 

「美樹さん、落ち着いて。冷静を欠いた状態では、佐倉さんには敵わないわ。」

 

「っ…!でも、こいつは花火をっ!」

 

「だからこそよ。確かに、今の彼女は利己的な思考で動く人。つまり、彼に価値がある限り傷付けられる事はないわ。」

 

そうでしょ?そんな言葉を込めてマミが杏子を見る。

急に割って入ってきた事は気に食わないが、なるほど。彼女は自分の事をよくわかってるようだ。

 

「安心しなよ。アイツに何かするつもりはないからさ。」

 

「花火に何かあったら、あんたをぶっ飛ばしてやる…っ!」

 

「どうぞお好きに。それじゃ、アタシは失礼させてもらうよ。」

 

2人から視線を背け、跳び上がり工場の屋根に着地する。そのまま屋根を伝い走り、ある程度距離を離した辺りで止まった。

ポケットから花火が契約した携帯電話を取り出しーーー気づいた。

 

「…ヤバ、マミの撃った弾が当たって壊れてやがる。」

 

杏子は不味い状況に冷や汗をかいた。これを購入して、まだ10日も経っていない。恐らく、花火は怒るだろう。

花火は怒るととても面倒だ。杏子の譲れない部分に関しては特に何も言ってこないが、それ以外ではかなり煩い。

特に、物を雑に扱ったりすると説教が長い。本当に長い。

花火は連絡すると言っていたし、もしかしたら既にメールが入っているかもしれない。これで帰らないと、恐らく後が面倒だ。杏子は悩んだ末、気付かれないように帰ることにした。

 

家の前に戻れば、どうやら花火は二階の部屋にいるらしい。どんな話をしたのかを予め聞いて話を合わせておきたいので、明かりのついた窓を叩く。邪魔にならないように一旦離れるが、窓を開けたのは知らない少女だった。

疑問に思いながらも、態々開けてくれたのだから入らない手はない。

 

こうして、杏子とまどかは初会合を果たした。まどかは杏子の彼女発言に戸惑う。先ほど、花火の彼女云々の話は嘘だとわかっている。しかし、こうして彼女だと名乗る人物が現れてしまった。

窓から入ってきた少女が、花火が最近行動を共にしている人物であるのはわかった。もしかすると、花火が彼女だと思っていないだけで、この少女の認識は違うのかもしれない。

 

「それで、アンタは?」

 

「あの、私は鹿目まどかです。」

 

その事を聞きたかったが、先に彼女に名前を聞かれて話が出来なくなってしまった。

 

「鹿目まどかね。アタシは佐倉杏子。よろしくな。」

 

「あ、うん。よろしく。あの、さっきの事なんだけど」

 

「鹿目、大丈夫かっ!?」

 

もう一度聞こうとしたが、今度は花火が扉を思い切り開いて入ってくる。どうやら、先程尻餅をついた音で慌てて入ってきたようだ。

手には木刀を持っている。

後ろには、先ほどリビングと玄関を繋ぐ扉にいたスネークが銃を構えていた。

 

「…佐倉?」

 

「あー、その。なんだ…ただいま。」

 

困惑した花火の眉間にだんだんとシワが寄る。さらに面倒事が増えた杏子は、笑うしかなかった。

 

 

☆☆☆☆

 

 

一階のリビングで、4人の男女が話をしている。杏子は一通り話し終えたのか、コップに入った水で喉を潤した。

少しの沈黙の後、ハルが話を纏めにかかる。

 

「魔法少女と魔女、ソウルジェムにグリーフシード…。確かに、俄かには信じられない話だね。」

 

「花火のループの話にあった、ビルの中のグリーフシード。それがあるって事は、間違いなく相手は魔法少女がいる。」

 

「超能力の次は魔法か…。」

 

スネークの脳裏に任務での記憶が蘇る。

相手の心を読み、モノを操る。それが超能力なら、魔法とはどんな手段を用いるのか。

 

「魔法少女の能力はそれぞれ違う。アイツらは、キュウべぇに叶えてもらった奇跡によって、魔法の種類も変わるんだ。アタシみたいに長く魔法少女をやってる奴は、魔力で複数の武器を作ったり出来るけどな。」

 

「相手の魔法少女たちは、そういったことに慣れてると考えた方がいいね。」

 

ハルの言葉に杏子は頷いた。杏子のような子供でも、戦いの手段を増やせている。今回の相手は杏子以上に修羅場を潜り抜けてきている可能性のある戦場のプロだ。力に振り回されていると考えるのは甘いだろう。

 

「ハナビ、もう隠してる事はないんだね?」

 

「…いや、あるにはあるんだが……。まだ整理がついていない。」

 

ハルの問いに、歯切れ悪くも答える。それは、マミとさやかの事だ。

あの場所に彼女達がいたのは、花火にとって最大の誤算だ。特に、さやかが魔法少女になっているなんて思いもしなかった。

つまり、彼女は巻き込まれたのではなく、自らの意思でこんな危険な世界に足を踏み入れた事になる。

 

「…花火。ちょっと外で空気でも吸ってきたらどうだ?後はアタシが説明しておくからさ。」

 

「…悪いな。」

 

顔色の悪い花火を気遣ったのか、杏子が席を外すよう促す。花火はそれに従い、玄関へと歩いていった。

 

「スネーク。後は僕が聞いておくから、ハナビを頼むよ。」

 

「…わかった。」

 

スネークも玄関へ向かい、リビングの扉が閉まる。2人だけになった空間で、互いの視線は扉へと注がれていた。

 

「あの2人、雰囲気がそっくりだな。親子か?」

 

「…さぁ?まぁ、彼らにも色々あるのさ。」

 

鋭い杏子の言葉を、ハルは誤魔化す。その後、2人の話し合いは続いた。

 

一方、玄関から出てきた花火は家の前で空を見上げる。

チラホラと雲がかかってるが、星を見るに不自由のないレベルだった。

疎らに光る星空を見上げても、花火の心は雲に覆われている。

 

少しして、玄関からスネークが出てきた。花火は彼を一瞥すると、何も言わずにまた空を見上げる。

後ろから、ライターの着火音が聞こえた。

 

静寂が続く。この辺りでは、虫の音すら聞こえない。

どれくらいたったのだろうか。徐に花火が話を始めた。

 

「…2回目と3回目で、幼なじみが死んだんだ。2回目の時は、メタルギアの攻撃で落ちてきた瓦礫の下敷きになった。3回目の時は、気付いたら死んでいた。」

 

「…。」

 

「死んだ人間にまた会えるって、思ったより嬉しいもんじゃない。特に、死なせたくないのに死んでしまった人だと、尚更だ。そいつの笑顔を見る度に、胸が締め付けられる。」

 

それは、花火に訪れたループへの愚痴であり、守れなかった者への懺悔であり、無力な自分への怒りだ。

 

スネークの心に、1人の男が浮かび上がる。敵として出会い、友として別れた男。もう、彼には会えない。しかし、もう一度会えるのならば、一体どんな事をするのだろうか。

また、互いの意志をかけて戦うかもしれない。もしかしたら、酒を片手に語り合うかも知れない。

そこまで考えて、それは無いと頭を振る。花火のループが事実なら、結末を知っているのは自分だけなのだ。相手は何も知らないまま、戦う事になるのだろう。

もしそうなら、果たして自分は引き金を引けるだろうか。

 

「だから、これで終わりにしたかった。危ない事から遠ざけて、平和な世界で生きて欲しかった。でも、運命はその展開が嫌いらしいな。」

 

美樹さやかは魔法少女となった。それは、どれほどの困難なのか。常に危険と隣り合わせの生活だ。強い力を持つ者はいつも弱者に怯えられ、悪として狙われる。子供には、酷な世界だろう。

しかし、選んだのは彼女なのだ。例え後にその先の苦しみに気づいてしまっても、選んでしまったのは彼女なのだ。

世界に表と裏があるのなら、花火が生きてきた世界は表であり、スネークが生きてきた世界は裏になる。

魔法少女は、裏の住人になるだろう。杏子から魔法少女の過酷さを聞かされている花火には、そう感じた。

さやかを、そんな世界に近付かせたくなかった。

 

「…俺たちの世界で、殺し、殺されたなんて話は常に転がっている。」

 

スネークが花火の隣に立ち、同じように空を見上げる。花火は、そのスネークの横顔を見た。

 

「そんな世界で、戦いたくなくても戦わなければ生きられないような人間もいる。」

 

「…アンタも、そうなのか?」

 

「俺は、ある時までは自分の意思で戦おうと思ったことはなかった。」

 

自分と同じ青灰色の瞳に、花火は彼の何かを見た気がした。

 

「それまではただ言われるままに銃を取り、敵を倒した。間違いだとは思わなかった。そもそも、考えもしなかった。」

 

さやかは、知っているのだろうか。

戦う事の過酷さを。人と命の取り合いをする意味を。

もしかしたら、考えてもいないかも知れない。

 

「だが、ある任務で教わった。俺に意志がなくても、俺が引き金を引いた事には変わりはない。これは、俺が始めた事なんだと。」

 

スネークは、それを知って嘆いたのだろうか。彼の顔を見ても、どう思ったのかなんて花火にはわからない。

スネークが花火を見る。少年の肩を掴み、軽く膝を曲げ視線を合わせる。

 

「お前も、その幼なじみも、始まりから全てを知ってる訳じゃ無い。だが、前へ踏み出したのはお前達の意志だ。

 

 

だから、諦めるな。」

 

その瞳の奥にある強い意志に、花火は言葉がでない。自分の目とは似ても似つかない。綺麗で、歪な光だ。

 

「本当は、お前には知らせたくない世界だった。だが、その足で踏み込んだ以上、俺に言える事はない。だから諦めるな。

お前の意志で、お前がやりたい事をやれ。」

 

「………あぁ。」

 

花火は、やっとスネークという男が少し分かった気がした。不器用ではあるが、思いやりに溢れた男だ。過酷な人生の中で、今も尚戦っている戦士だ。

そんな男が、背中を押してくれた。肩が熱い。身体に力が入る。その大切なモノを、無くしてはならないと思った。

 

「…明日、魔法少女達に会ってくる。この件とは無関係だが、見ていないところで巻き込まれる可能性もある。それなら、俺達と行動した方がいい。」

 

花火は、スネークの目を見て告げた。2人の友人の命を、諦めるわけにはいかない。

それが、彼の戦いだ。

その想いに、スネークも答える。

 

「わかった…。安心しろとは言わないが、お前が大事な人を守りたいなら、手を貸そう。」

 

「…ありがとう、スネーク。」

 

男と少年は、互いに笑い合う。

 

 

☆☆☆☆

 

 

2011.09.29

 

 

 

さやかの携帯電話に、花火からメールがあった。内容は、昨日の件について。

集合場所と時間のかかれたメールを送った本人は、今日も学校に来ていない。

 

放課後、同じ内容のメールを受けたマミと一緒に集合場所まで歩く。

 

「美樹さん、大丈夫?」

 

「はい、昨日はすみません。」

 

「いいのよ。正直、貴女のおかげで冷静でいられただけだから。」

 

あの時、さやかが取り乱したことがマミが落ち着いて頭を回す事に繋がった。それ程までに、花火が関わっていた事が衝撃だったのだ。

マミの知る限り、花火は他人を犠牲にする事を容認するような人物ではない。

他者のために信念をもって行動する正義の人だ。

だからこそ、他者の犠牲を容認する今の杏子と共に行動している事が信じられなかった。

 

きっと、何らかの裏がある。どんなものかまでは想像できないが、マミはそう考えていた。

 

対してさやかは、変わってしまった幼馴染みに何を言えばいいのかすらわからなかった。

さやかが困った時、いつも相談に乗ってくれた。不満が溜まるような時も、ガス抜きに付き合ってくれた。恭介との仲も応援してくれて、背中を押してくれた。

いつも一緒にいた彼がいなくなる事がこんなに寂しい事なんて、わかっていたはずなのに。

 

花火が母を失った時も、助けられない事が辛かった。でも、涙を流さない彼よりも先に、泣きたくなかった。

仲直りした時は、声を上げて泣いた。そんなさやかに、花火はどうすればいいのか慌てていたのを覚えている。

 

さやかはずっと彼に甘えていた事実を、今初めて理解した。

 

目的地まであと少しになった。ファミリーレストランの看板は目視できる。恐らく、もう中に入っているのだろう。

 

向かいの歩道に行かなければならないので、横断歩道で信号が変わるのを待つ。

知り合いに会うだけだというのに、さやかの手は緊張で汗ばんでいた。

 

気を紛らわせようとマミの顔を見た時、妙な違和感を覚えた。

先ほどから、視線を泳がせている。まるで、周囲の人目を探るように。

 

「マミさん、どうかしたんですか?」

 

「えっ?あ、いえ。何でもないのよ、大丈夫。」

 

取り繕うように笑うマミに、違和感は強くなる。どうにも、いつもの落ち着いた彼女らしくない。

 

「…なんかあったんですね?」

 

「……さっきから、凄く視線を感じるのよ。何処からかまではわからないけど。」

 

小声で話しかければ、前を向いたままマミが答えてくれた。真似をするように、さやかも視線をマミから外す。

学校を出た辺りから、気味の悪い視線はずっとついていた。

この辺りは人通りも多い。この中から2人を監視している人間を探すのは困難だろう。

 

「花火達、じゃないですよね。」

 

「彼がそんな事をする意味がないもの。違うはずよ。」

 

「とにかく、早くファミレスに向かいましょう。」

 

狙いがマミとさやかなら、対処は出来る。しかし、もし花火に何かあれば…。その危険を避けるため、さやかは花火と合流する事を提案した。

 

「そうね、もうすぐ信号も変わるわ。急ぎましょう。」

 

信号が青に変わり、2人は足早にファミレスへ急ぐ。すると、横断歩道を渡り切った辺りでさやかが誰かとぶつかりそうになった。

咄嗟にとまるさやかに、誰かは声をかける。

 

「おっと…どうも、可愛いお嬢さん達。」

 

「あ、いえ。すみません。」

 

軽く謝罪をしてさやかとマミは歩き出す。しかし、その進路に誰かが立ち塞がる。

 

「…すいませんおにーさん。急いでるんで退いてもらえませんか?」

 

「あぁ、すまない。つい、ボクの好みにぴったりな女の子だったからね。」

 

若い【青年】は、邪魔をされて苛立ち睨むさやかに笑顔で答える。

長身で細身。オレンジの綺麗な髪と美しさを感じる顔は、まるでモデルのような印象を受けた。

衣服は何処かのスーツのようだが、生憎あまり見る事のないデザインだ。しかし、それが高級なものである事は理解できる。

そんな青年に褒められるのは嬉しいものだが、生憎彼女には想い人がいるからだろう。苛立ち以外には特に思う事はなかった。

 

「すみません、私たち急いでますので。」

 

「そう言わないでくれよ。良ければ、3人でカフェにでもどうかな?」

 

そう言ってマミに手を伸ばす青年。魔法少女の力があればどうにかなるが、ここで問題を起こすわけにもいかない。どうするか悩む彼女の視界に、別の誰かの背中が映る。

 

「悪いな、お姉さん。2人とも俺の待ち人だ。」

 

そこには、青年の腕を掴んだ花火が立っていた。花火はその手を払うと、2人の手を握りファミレスまで歩き出す。

 

「は、花火…っ!?」

 

「ふりむくな。とりあえず、このまま行くぞ。」

 

さやかの戸惑いの声を切って捨てる。

そのまま、ファミレスの中へ入っていった。

 

その背中を、青年は見つめ続け、ポツリと呟いた。

 

「やっと会えたね。ハナビ・マツリくん…。」

 

青年は、まるで獲物を見つけた鋭い瞳を細め、花火が掴んだ部分を舐めた。

 




評価付けていただいてありがとうございます。
もっと煽ててください。頑張りますので(豚)

私はマギレコをやった事ないので、これから出てくる魔法少女達もマギレコとは関係ありません。
ただ、所詮素人の妄想キャラなので何処か似通ったりする可能性があります。ご了承ください。

感想お待ちしております。


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