暴虐の魔王の従者   作:倉崎あるちゅ

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 お待たせました。
 皆さんお久しぶりです。





魔王国家(ディル・ヘイズド)

 

「サーシャ、もう泣くなよ」

 

 サーシャの目の前に立ち、俺は彼女に手を差し伸べた。

 もうすでに術式は展開している。

 

「でも……!」

「お前はミーシャを助けたいんだろ?」

 

 赤く泣き腫らした目で俺を見つめ、彼女は頷く。頬に伝う涙が宙を舞った。

 

「なら諦めんな。まだ方法はある」

「ミーシャの代わりにわたしを消すことができるの!?」

「できるかできないかで言えば、できる。《主格交代(デルト)》だったか? ミーシャの拒絶をトリガーにしなければならないのはお前が未熟だからだ」

 

 サーシャの言葉にアノスが反応した。すると、サーシャに寄り添っていたミーシャが訴えるような視線を向けてくる。

 

「それはだめ」

「安心してくれ。俺もアノスもそんなことはしない」

 

 むしろ俺はサーシャの計画を知って苦い顔をしていたからな。

 最初から言ってくれればすんなり事が済んだはずだ。

 

「お願い! わたしを消して! わたしはもう十分生きたわ!」

「元々いなかったのはわたし。サーシャが犠牲になるのはおかしい」

 

 サーシャが俺に、ミーシャがアノスにそう訴える。

 二人の想いは健気だ。とても尊いものだと言える。二千年前にもこんなに家族愛のある者はいただろうか。

 俺とアノスは顔を見合せ、苦笑した。

 

「そういや、適性検査でこんな質問があったよな?」

「ふむ。力はあるが魔王の適性に乏しい娘と、力はないが魔王の適性に長けた息子がいたとする。ある時、二人は神の呪いを受けてしまい死にかける。呪いを解くための聖杯は一つ。どちらを救うべきか。この時の始祖の考えを述べよ、だったか」

「そう、それ」

 

 質問された時は、誰だ貴様と思ってしまった。

 

「血族から聞いた時は何様だよ、と一瞬素になっちまったよ」

「そうだな。そもそも、神如きに俺が屈するはずがない」

「神すら滅ぼした魔王様が神の呪いなんぞ簡単に滅ぼせるというのにな」

 

 ネクロンの姉妹を置いてけぼりにし、俺とアノスは会話を弾ませていく。

 

「はい、じゃあ二人に質問。この会話を聞いて、正解はなんだと思う?」

「え、え?」

「……?」

 

 サーシャがわかりやすく戸惑う。ミーシャもまた小首を傾げている。

 

「「正解は、聖杯を二つにして両方救う、だ」」

 

 その瞬間、俺とアノスの足元に《魔王軍(ガイズ)》の魔法陣が()()描かれた。その二つの魔法陣は独立したものだったが、次第に魔力の波長が同調し、ひとつの大きな魔法陣となった。

 

「なに、この魔力……!?」

「すごい」

 

 サーシャとミーシャが魔法による効果を実感し、驚く。

 

「《魔王国家(ディル・ヘイズド)》。《魔王軍(ガイズ)》を遥かに上回る魔法だ」

「ただ、この魔法は魔王(キング)が二人必要ってのがなぁ。効果は相乗になるとはいえ、一人でできないのが難点だ」

 

 俺とアノスはそれぞれ《不滅の魔眼》と《破滅の魔眼》を瞳に浮かべる。

 

「二人とも、助かるぜ」

「でも、どうやって……? 《不滅の魔眼》で阻止なんてできないでしょ?」

「あぁ。流石に元からひとつだったものをそのままにすることは俺の魔眼でも無理だ。だが、《魔王国家(ディル・ヘイズド)》があれば、これから使ってもらう魔法を安全、かつ確実に発動できる」

「使う魔法は?」

 

 ミーシャが俺に質問をしてきた。

 

「アノスが開発した起源魔法《時間操作(レバイド)》を使ってもらう」

「十五年程度なら《魔王国家(ディル・ヘイズド)》を使わずともよいのだがな。念には念を、だ」

 

 通常の《魔王軍(ガイズ)》でも簡単だが、この件、どうもこれだけでは終わる気がしない。その勘があるからこそアノスも俺もこの魔法を使った。

 

「過去を変えれば、わたしは生まれない」

 

 ミーシャが淡々とした口調でそう言う。

 

「そうよ。《分離融合転生(ディノ・ジクセス)》の魔法で、初めてミーシャが生まれたんだもの。最初からわたしたちが双子だったりしたら、今ここにいるミーシャは消えるわ」

 

 そう言いながら、サーシャが俺の手を取って立ち上がった。

 その目には俺たちへの期待が込められているように感じられる。

 

「現在の二人はあと数分で根源がひとつになる。だが、《時間操作(レバイド)》で過去に遡り過去の自分と会うことで、今のサーシャと過去のサーシャ、今のミーシャと過去のミーシャでひとつになるんだ」

 

 俺の説明で二人の姉妹は困惑する。

 まぁ、仕方のないことか。この魔法で起こる時間概念を彼女たちは知らないからな。俺も最初の頃は頭を捻った。

 

「……どうなる?」

「有り体に言えば、十五年前にお前たちは双子で生まれたことになる」

 

 アノスが簡単にまとめた。

 これ以上ないほど本当に簡単だな。

 

「過去は改変されるが、お前たちも、アイヴィスも、ミーシャは《分離融合転生(ディノ・ジクセス)》で生まれたものだと勘違いする。これまでの人生も、世界の歴史も、塵一つの変化はない。結果として変わるのは一つだけ、明日の〇時なってもミーシャはここにいるということだ」

「本当に、そんなことができるの?」

「おう、できる。まぁ、過去改変には色々な法則があるんだが……それはまた今度教えてやるよ」

 

 この一件が終われば、二人仲良く魔法の練習や勉強ができるようになるんだから。

 

「皇族ならば起源魔法は使えるな?」

「ええ、使えるわ」

 

 アノスの問いにサーシャが応える。ミーシャもコクコクと頷いた。

 

「魔力と魔法行使は俺とアノスがやる。発動させるのはお前たちだ」

「でも、過去を遡るほどの大魔法なんて、とてもじゃないけど……」

「アノスが言ってただろ? 《魔王国家(ディル・ヘイズド)》は《魔王軍(ガイズ)》を遥かに上回る魔法だって。俺たちを信じてくれ、サーシャ」

 

 すでに俺たち四人の根源は《魔王国家(ディル・ヘイズド)》の魔法線で繋がられている。《魔王軍(ガイズ)》と違う点は魔法行使者、すなわち俺とアノスなのだが、それぞれと相性のいい配下により多くの魔力を与えるというものだ。

 魔力を借りる起源こそ必要だが、この《魔王国家(ディル・ヘイズド)》があれば確実に起源魔法を発動できる。

 

「良いな、お前たちはその魔眼()で起源を見据えるのだ。対象にする起源は二つ」

 

 アノスが指を二つ立てる。

 

「一つはお前ら自身の起源。母親のお腹にいた頃を見据えろ。それによって《時間操作(レバイド)》の遡る時間が決まる」

 

 正確にその起源を見据えることができなければ十五年前に遡ることはできない。しっかりと魔眼()を凝らさなければならない。

 

「そして、二つ目。力を借りる起源は魔王の始祖とする。これがいちばん重要だ」

 

 古ければ古いほど魔力が宿る、という魔力の性質を利用したのが起源魔法だ。

 二千年という長い年月が魔力を増大させ、起源魔法をより強くさせる。

 

「いいか、俺が始祖だ。お前たちが信じている暴虐の魔王はでっちあげられた偽物だ。俺を始祖だと信じ、起源魔法を使え。そうでなければ《時間操作(レバイド)》は成功しない」

「《魔王国家(ディル・ヘイズド)》なんていう馬鹿みたいな魔法を使っておいてなんだが、これはあくまで補助だ。重要なのは起源。頼む、信じてくれ」

 

 アノスと俺がそう言うと、サーシャとミーシャが顔を見合せ、覚悟を決めたように頷いた。

 

「信じる」

「どのみち、あなた達を頼るしかないもの。この際、悪魔だって信じるわ」

 

 感情が薄いミーシャと強気な顔を見せるサーシャ。

 

「その言葉、忘れるんじゃねぇぞ」

「最悪、俺でなくとも良い。カイルを魔王の眼だと信じろ。必然的に俺が魔王の始祖だと認識される」

 

 確かにそれでもいい。《魔王軍(ガイズ)》なら、それをやったとしても認識されず魔法が成立しない。しかし、《魔王国家(ディル・ヘイズド)》であれば可能だ。

 魔王の始祖がアノス・ヴォルディゴードならば、魔王の眼はカイル・アストライルになる。その逆もまた然り。

 逆説的に魔王の始祖はアノス・ヴォルディゴードだと証明され、起源魔法が成功する。

 

 

 常識を覆す集団魔法。それが、《魔王国家(ディル・ヘイズド)》の能力だ。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 アノスが手をかざし、《時間操作(レバイド)》の立体魔法陣を室内に描いた。ネクロンの姉妹を中心に、一瞬にして時間を遡る魔法術式が組み上がる。

 やはり、アノスの魔法は完成度が高い。この時代の者と比較することすら烏滸がましいほど、この魔王は隔絶している。

 アノスは魔法行使のため集中している。俺はただ魔力のコントロールをしているだけなので行使よりも楽だ。

 

 そのおかげか、自然魔法陣の部屋の天井が崩落した瞬間に即座に対応できた。

 

「ッ!?」

 

 部屋に使っていた石が、けたたましい音を立てて崩れ、そこから現れた影が凍った。

 

「何故、動ける!?」

「俺はただ魔力コントロールしてるだけだし」

 

 現れた影──骸骨の頭を持つ七魔皇老が一人、アイヴィス・ネクロンは身体を凍らせながらも声を発する。

 

「カイル……!」

「大丈夫だサーシャ。お前は、しっかり自分の起源を捉えろ」

「……わかったわ」

 

 心配そうな声をあげる彼女に、俺は見向きもせずにキッパリと言う。

 

「アノス、どうする? 班別対抗は俺が攻撃系の魔法撃ったし、今度はお前がやるか?」

「ふむ、そうだな。少し俺も運動がしたい。代わってくれるか」

「おう」

 

 アノスとそう話していると、突然俺の胸から漆黒の大きな魔剣が生えた。

 

「カイル!」

「待てサーシャ」

「……だめ」

 

 魔剣が引き抜かれ、胸に空いた傷からおびただしい量の血が流れ出る。サーシャが血相を変えてこちらに来ようとするがアノスとミーシャに止められた。

 

「慢心したな、強き魔族よ」

「……ゴホッ」

 

 せり上がってきた血塊を吐き出し、俺は《時間操作(レバイド)》の魔法行使をアノスと変わった。

 

「なにを……」

「あー? こんなもん痛くもねぇよ」

 

 驚くアイヴィスに向かって、俺は《破滅の魔眼》を浮かび上がらせる。

 見たところ、俺を刺した魔剣は傷が癒せない効果を持つようだ。傷を負えば自動で癒されるこの体が、一向に癒える様子がない。

 しかし、《破滅の魔眼》があれば話は別だ。その効果を滅ぼすことで傷を治せる。

 

「……カイル、大丈夫……?」

「あぁ、勇者カノンの聖剣に比べればあんなのただの棒っきれだ」

 

 ミーシャの言葉に俺は笑みを浮かべる。

 この程度の傷などすぐに治せるからこそ、アノスは顔色ひとつ変えないし、魔法行使をそのまま俺に預けたのだ。

 

「馬鹿な……! 魔剣ガドルの傷は癒せぬはず……」

 

 驚愕するアイヴィスは数歩後ずさりする。そんなアンデッドに、アノスは近寄った。

 

「そんな魔剣をひと突きしただけで俺の友が死ぬとでも思ったか?」

 

 アイヴィスが反応する前にアノスがその骸骨の頭を鷲掴みにする。

 

「そろそろ来る頃だろうと思っていたぞ、アイヴィス・ネクロン。千年もかけて研究した融合魔法を、自らの子孫に施した。それを台無しにされるのを見過ごすマヌケとも思えぬからな」

 

 そう、こいつが来ると踏んだから《魔王軍(ガイズ)》ではなく《魔王国家(ディル・ヘイズド)》を使ったのだ。

魔王軍(ガイズ)》では魔王(キング)に全て負担がかかるため、襲撃された場合、《時間操作(レバイド)》の魔法行使がブレる可能性がある。アノスならなんとかするだろうが、保険をかけておいて損はない。

 

「すごい、さっきの傷がもう塞がってる」

「……破れた服まで……」

「回復魔法と創造魔法を同時使用しているからな、当然だ。それよりほら、起源を捉えることだけ集中してろ」

 

 今のうちに捉えておかないとあとあとが面倒なんだ。

 

「悪いが、遊んでやれる時間もないのでな。早々に退場してもらうぞ」

 

 鷲掴みにしたまま、アノスはアイヴィスの体内に魔法陣を描く。

 神話の魔族。まして暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードが作り出した魔族だ。生半可な攻撃は通用しない。現代の魔族なら根源すら残らないであろう魔法を我が友が放つ。

 

「《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》」

 

 その瞬間、漆黒の太陽が出現した。

 アイヴィス・ネクロンの体内から漆黒の太陽が溢れ出し、アンデッドが自らにかけていた反魔法をズタズタに切り裂き、その骨の身体を崩壊させていく。

 節々から黒い魔力が溢れ、弾け飛んだ。

 

「ぐっ……おぉぉ……! なんだ、この、魔力は……! 魔法の知識のみならず……この私よりも、強い……だと……!?」

 

 息も絶え絶えになり、アイヴィスは未だに体内で荒れ狂う《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を必死になって抑え込もうと抵抗している。

 

「あーあ、さっさと死んどけばいいのによ」

「あぁ、流石は神話の魔族と言ったところか。なかなかにしぶとい」

 

 俺の呟きにアノスが相槌を打つ。

 アンデッドを見下ろし、アノスは何かを思い至ったのか、ふむと頷いた。

 彼は床に転がっている魔剣ガドルを拾い、剣先をアイヴィスの顔面に向ける。

 

「この魔剣の傷は癒せない、だったか?」

 

 向けていた魔剣を振りかぶり、アノスはアイヴィスめがけて投擲した。

 吸い込まれるようにその漆黒の剣は、アイヴィスの髑髏に突き刺さる。力が強過ぎたのかそのまま勢いは止まず、身体は宙に浮き、魔剣で壁に磔にされた。

 

「ぐぅ……のぉぉ……!!」

 

 あいつには《破滅の魔眼》はないし、傷を治すことは不可能だろう。しばらくはあのままでいい。

 おおかた、アイヴィスがサーシャに《分離融合魔法(ディノ・ジクセス)》をかけた理由としては始祖の転生の器にしようと考えていたに違いない。

 他に理由はないからな。

 

「さぁ、続きだ。零時まであと三十秒。余裕じゃねぇか」

 

 ニヤリと笑うとアノスも涼しい顔をして頷く。

 

「最後の仕上げだ。サーシャ、ミーシャ。俺たちを信じろ」

 

 俺たちは構築した魔法陣に魔力を注ぎ入れ、起源魔法《時間操作(レバイド)》を発動させた。

 

 

 

 

 




 魔王学院の不適合者、2期が発表されましたね。
 告知がなかったので2期はないものと思ってましたが、思わぬ朗報で発狂しました。アノス様の活躍がまた見れる! しかも分割2クール! 大変楽しみですね。


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