暴虐の魔王の従者   作:倉崎あるちゅ

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従者 カイル・アストライル

 転生してから一ヶ月が経った。

 私の計算が正しいのならば、我が主であるアノス様もちょうど転生している頃なのだが、連絡がない。おおかた、転生したところの両親にキノコグラタンを作ってもらって喜んでいるんだろう。

 加えて、アノス様の魔力が凄く遠いところから感じる。再会するには少し時間がかかりそうだ。

 それにしても、今の時代──魔法の時代と呼ばれる現代の魔法術式は低次元なものだ。

転生(シリカ)》の魔法は失われた魔法と認識され、私が行った《成長(クルスト)》は今の時代では高度な魔法として知られているようだ。

 そして、そんなことよりも重要な情報がある。

 

 ──魔王の眼、そう呼ばれていた私の名が改竄されていた。

 

 私たちの一族のみ正しく記され、ディルヘイド全域では改竄されている名が横行している。由々しき事態だ。

 ふと、部屋の扉からノック音がし、扉が開かれた。

 

「カイル様、お食事の準備が……」

「……母上、今や私は貴女の息子。なのでそんな堅苦しい言葉遣いは不要です。もっと楽になさって」

「ですが……」

 

 私の言葉に、リア──母上が恐縮したように顔を伏せる。

 アノス様が魔法で、自らの血から七人の配下を生み出した。その配下に眷属を増やすようにと命じ、完全な転生をできるように準備をさせた。

 私もまた同じように眷属を増やすようにと、一人の配下を生み出した。私の父上の血族が、その配下の眷属だったのだ。

 見事完全に転生を果たしたが……結果がこれではな。

 

「私は長い間、両親がいませんでした。そんな私に、親からの愛を……もう一度与えてはくれませんか?」

 

 そう言うと、母上は顔を上げた。その顔は涙でぐちゃぐちゃだ。

 こういう感情に流されやすいのが私の母親だ。優しく、共感性がある。二千年前の魔族だったならば珍しい部類に入っていただろう。

 

「うっ……ぐす……わたしが、貴方の親になれるのでしょうか」

「何を仰る。もうすでに、私は貴女方の息子ですよ」

「カイルくぅぅぅぅん!!!!」

 

 私の言葉に、母上は大泣きしながら抱きしめてくれた。

 その後、何事だと大慌てでブレイ──父上が部屋に駆けつけて、大泣きする母上を見てオロオロと慌てふためいた。

 そんな時だった。

 一羽のフクロウが窓枠に止まった。

 

「む、そうか。魔王学院の招待状か」

「魔王学院?」

 

 父上が顎に手を添えて独り言ちる。

 疑問に思っていると母上が窓を開け、フクロウが口を開いた。

 

『デルゾゲードは魔皇(まおう)を育成するための学校でございます。暴虐の魔王の血を引く者、すなわち魔族の中でも、王族に位置する方々をお迎えし、立派な魔皇となってもらうために設立されました』

 

 なるほど。確かに語り継ぐには二つ名の方が都合が良い。私の所にこれが来たとなると、私のこの体にもアノス様の血が流れている、と。いやはや、恐縮ですね。

 

『暴虐の魔王を始祖とし、その魔王の始祖に近き者を、ディルヘイド各地を治める魔皇として君臨させるのが魔王学院の役割です。貴方は始祖の血を引かれる御方。故にデルゾゲードからの招待状をお持ちしました。魔王学院への入学をお待ちしております』

 

 まぁ、確かにアノス様の血は幾らか入っているでしょうけども。

 私はまだ生後一ヶ月になるが、始祖の血、一定以上の魔力があれば無差別に送られてくるのだろう。

 

『今年は魔王の始祖と魔王の眼と呼ばれる従者が転生される年とも言われております』

 

 アノス様が転生するというのはわかるが、まさか私のことまで語り継いでいたとは。配下は仕事熱心のようだ。そこまで仕事熱心ならば、私の名を正しく広めて欲しかったものだ。

 

『今年、魔王学院へ入学予定の生徒は、すでに混沌の世代と呼ばれているほど有望な者が揃っております。その中には、始祖の生まれ変わりではないかと目される者が何人もおります。魔王の始祖、魔王の眼が帰られた暁には、デルゾゲードはすべての魔族の歓喜で賑わうことでしょう』

 

 そう言って使い魔のフクロウは羽根を広げて飛び去っていった。

 よし、デルゾゲードに行くならば今の小さな体では不便だ。

 

「《成長(クルスト)》」

 

 光が体を包み、一瞬にして私の体は十六、十七歳相当まで成長した。

 

「高度な魔法を、そんなポンポン使われると感覚が麻痺してくるな……」

「なに、すぐに慣れますよ父上」

 

 《転移(ガトム)》なんて見せたらどうなるのだろうか。腰を抜かすか? それとも口を大きく開くか? その機会が来ることを楽しみにしていよう。

 

「それで、カイルくんは魔王学院に入るのですね?」

「ええ。我が主も行くと思われますので」

「ならば、行ってくるといい。俺もリアも魔王学院の出だからな」

 

 話を聞く限り、私の家系は純血の魔族、そして父上が魔皇であるので魔王学院の入学試験を受けなくても受けられるようだ。

 ふむ。試験を受けたい気はするが、まぁその時次第だろう。

 

 そんなこんなで、私は魔王学院に入学することになった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 数日後。

 私は今、小さなコロッセオの観客席に座っていた。

 赤と黒の制服を着て、私はとある試合を高笑いしながら見ている。

 

「流石アノス様!! さぁ! もっとそやつを殺しましょう!!」

 

 どんな生徒がいるのかと暇をしながら見ていたら、我が主を見つけた。

 アノス様は大声で応援する私を見て、呆れたように溜息をつき、対戦相手である皇族、ゼペス・インドゥという少年を指で弾いて消し飛ばす。

 そして、消し飛ばしては《蘇生(インガル)》で蘇生させる。

 最初に《蘇生(インガル)》を見せられた他の生徒たちは、そんな魔法があるのか、常識を超えている、など言っていた。本当に今の時代は魔法術式が低次元に落ちたものだ。

 

「お、俺の負けだ。ギブアップする」

 

 泣きながら、彼は土下座をして負けを認めた。

 まぁ、相手が悪かったと思ってまた今度入学してくるといい。アノス様に勝てる者は勇者カノンを除いて、シンと私くらいか。

 ご愁傷さま、と手を合わせてコロッセオから去っていくゼペスを見る。

 それにしても、

 

「流石アノス様ー!」

 

 やはり貴方は素晴らしい!!!!

 

「はぁ……カイル、なぜお前はそこにいる?」

「いえ、特待生だと試験免除らしく」

「ほう?」

 

 苦笑いを浮かべて頬をかくと、アノス様は顎に手を添える。

 こんな些細なことで怒る主ではないが、それはそれとして後で殺されるのだろうか。まったく、命がいくつあっても足りない。

 その後、アノス様は残る四人を休憩時間を挟まずに圧倒し、適性検査へ移っていった。私の適性検査はすでに終えているので待つのみだ。

 ちなみに、観客席に座っていた私だったが、アノス様を応援していたら周りが引いて行った。

 適性検査を終えるまで、私はデルゾゲードの正門前で我が主を待っていた。試験を終えたであろう人々を見て、平和になったのだと実感する。

 

「……?」

 

 ふと、私が立つ場所の逆を見ると、長く伸びたプラチナブロンドの横髪が特徴の少女が立っていた。

 誰かを待っているのだろう、と思い、私は気にせずアノス様を待つ。

 少し経ってから、アノス様がようやく現れた。おおかた、デルゾゲード内を見ながら歩いてきたのだろう。

 

「なにをしているのだ?」

 

 アノス様が虚空を見つめて立っていたプラチナブロンドの髪の少女に声をかけた。

 

「……待ってた」

「俺をか?」

 

 こくりと少女が頷く。

 

「後でって言ったから」

 

 あぁ、なるほど。アノス様は彼女と仲良くなったのか。嬉しいものだ。アノス様が友人を作るなど……二千年前では魔族は皆等しく跪き、頭を垂れていたというのに。

 

「で、お前も来るか。カイル」

「はっ! アノス様のお傍ならばどこへでも!!」

 

 名前を呼ばれ、お辞儀をする。

 

「それで、どこへでしょうかアノス様」

「聞いていなかったのかお前」

「ええ。まさか我が君が友を作っていたと知り、感慨に耽っていました」

「……相変わらずだな。はぁ、俺の家に来るかと聞いているのだ」

「是非!! アノス様のご両親にはご挨拶をしなければ従者としての名折れ!!」

 

 来るなと言われても着いていきます。

 

「……」

 

 私とアノス様が話していると、少女が私のことを見つめていた。

 

「あぁ、自己紹介をしていませんでしたね。私はカイル・アストライル。以後お見知り置きを」

「……ミーシャ・ネクロン」

「では、ミーシャ嬢とお呼び致します。よろしくお願いします」

「……ん……」

 

 彼女は短く答え、握手をしてくれた。

 ミーシャ嬢は感情をあまり表に出さないようだ。どことなくそこが創造神ミリティアに似ている。

 アノス様はミリティアと仲が良かったからな。ミーシャ嬢とも仲良くなるはずだ。

 

「よし、つかまるといい」

 

 そう言ってアノス様はミーシャ嬢へ手を差し伸べた。私は彼の体に触れて《思念領域(リノクス)》を発動させ、家の場所を把握する。

 

「場所は把握したな、カイル?」

「ええ、バッチリです」

「では行くぞ」

 

 ミーシャ嬢の手を握り、アノス様の足元に魔法陣が浮かび、一瞬にして消える。私もまた同様に足元に魔法陣を浮かび上がらせる。

 目の前が真っ白に染まり、目を開けると眼前には鍛冶・鑑定『太陽の風』という看板を掲げた店があった。

 アノス様の心から読み取ったが、良い家だ。二階建てで、二階の部分が住居になっている。

 

「着いたぞ。俺の家だ」

 

 アノス様がそう口にするが、ミーシャ嬢はじーっと看板を見つめたまま。おそらく驚いているのだろう。

 

「……《転移(ガトム)》……失われた魔法……アノスとカイルは天才?」

 

 そんなことを言われ、私とアノス様は思わず吹き出した。

 

「……本気」

「いや、すまぬ。これぐらいで天才と言われるのがこそぼゆくてな」

「そうですね。《転移(ガトム)》など、基礎の基礎ですから」

 

 確かに、アノス様は天才である。私もまた、アノス様と知り合う前まで天才ともてはやされはしたが、言われるなら、誰も真似のできない魔法を見せた時に言われたいものだ。

 

「二人は何者……?」

「魔王の始祖だ」

「その始祖の眼です」

 

 無表情だったミーシャ嬢の目が丸くなった。

 

「……証拠は、ある?」

「俺が証拠だ。この俺の魔力がな」

 

 アノス様の言葉に、私は頷く。

 

「……」

 

 ミーシャ嬢は困ったように黙り込んでいた。

 まぁ、困るのは当たり前だろう。はいそうですかと信じられる者はそうはいない。

 

「アノスとカイルの魔力は膨大。わたしには底は見えない」

 

 ふむ。見たところ、彼女の魔眼はそこらへんにいる魔族より優れているようだ。よく深淵を覗いている。

 深淵を覗く、というのは一言で言うならば相手の真価を知る、といった感じだ。

 

「まぁ、そのうちわかる。行くか」

「……ん」

「ええ、行きましょう」

 

 そう言って、アノス様は家のドアを開けた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 あのあとは大変だった。

 アノス様のご両親にご挨拶をするにあたって、下手な格好はできない。家に入る前に髪を整え、崩していた制服を整えて入ったら、ミーシャ嬢がアノス様のお嫁さんになっていた。

 わけがわからない。

 アノス様のご両親、イザベラ様、グスタ様はとても優しく、アノス様を愛していらした。私はとても嬉しくなり、涙を流してしまった。

 

「カイル、なぜ泣いているの……?」

「昔の頃を知っていると、涙が! ぐっ、うぅ……!」

 

 なぜだろう。二千年前ではこんなに涙脆くなかったのだが。きっと母上の影響だろう。嫌ではない。むしろ、嬉しい。二千年前は、人前で泣くなどできなかったからな。

 あんなにキノコグラタンを食べるアノス様を見ていると幸せな気分になる……!! そしてイザベラ様!! キノコグラタンのレシピ教えてください!!! 大変美味です!!!!

 二千年前、アノス様にキノコグラタンを作ったら不味くはないが美味くもないと言われ、それ以降作ってないくらいショックだったのを思い出す。

 そして、あれよあれよと夕食は終わり、ミーシャ嬢を家に送るため、歩きで道を歩いていた。

 歩きながら彼女のことを聞くと、ミーシャ嬢には騒がしい姉がいるようだ。だが、仲はあまりよくないらしい。

 

「心配?」

「そこそこな」

「そうですね」

「優しい」

「俺がか?」

「ふふっ」

「……おかしかった?」

「いや、そんなことを言われたのは初めてだからな」

 

 ミーシャ嬢が首を傾げた。

 

「アノス様は昔、お前が生きているとこの世のためにならないだの、世界のためにしねだの言われてましてね」

「鬼、悪魔、この外道、貴様の血は何色だ、というのも言われたな」

「そういえば言われていましたね」

「カイル、お前も俺に言ったからな?」

「そうでしたっけ。なにぶん歳ですからね」

「今は俺と変わらぬだろう」

 

 ジト、とした目が私に刺さる。

 そんな会話を聞いて、ミーシャ嬢はじーっとアノス様を見つめた。

 

「いじめられてた?」

「俺がか? まさか。……原因は俺にある。そう振る舞っていたからな」

 

 すると、ミーシャ嬢は立ち止まり、アノス様を呼び止めた。

 

「しゃがんで」

「? こうか?」

「よしよし」

 

 まったく、転生して良かったと思えることがこんなにもあるなんて。

 ミーシャ嬢はしゃがむアノス様の頭にそっと触れ、頭を撫でた。

 

「……帰ったら、父さんと母さんには、ミーシャは朋友だと訂正しておこう」

「……朋友?」

「あぁ、この時代だと友達か」

「とも、だち……」

「違ったか?」

 

 首を横に振り、彼女は無表情からにっこりと笑った。

 

「嬉しい」

「そうか」

 

 なんとも美しい友情!! 配下の皆に見せてやりたい!!

 再び私は嬉し涙を浮かべた。

 

「では、アノス様。私はこれにて」

「あぁ。またなカイル」

「はっ。おやすみなさいませアノス様。ミーシャ嬢も、また学校で」

「うん。……また学校で」

 

 アノス様は手を挙げて、ミーシャ嬢は手を小さく振って私を見送ってくれた。

 ふと、私──俺は振り返る。

 

「良い友達に会えて良かったな、アノス」

 

 そう言うとアノスは少し驚いたような顔をして、ニッ、と笑った。

 それを見て、足元に《転移(ガトム)》の魔法陣を描くと視界が真っ白に染る。

 自宅に着き、思いを馳せる。

 

 

 ──これからが、楽しみだ。

 

 

 

 




 アニメを見ていて思うのは、「アノス様かっこいい」これに尽きる。

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