暴虐の魔王の従者   作:倉崎あるちゅ

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 一話目早々に評価来てびっくりしました。ありがとうございます。




魔王軍(ガイズ)

 数日後。

 私はアノス様と一緒にデルゾゲード魔王学院の廊下を歩いていた。

 生徒たちの制服は二種類あり、黒と白があった。アノス様と私は色が違う。アノス様は白で私は黒。

 廊下を歩いている途中、やけに注目されていることに気づいた。

 

「なにやら、注目を浴びていますね」

「ふむ。昨日の兄弟の件か?」

「え゛!! なにかあったのですか!?」

 

 ギョッと目を剥き、私はアノス様の肩を掴んだ。

 不敬だろうと構わない。私とアノス様の仲だ。シンには首を撥ねられるだろうが、今ここにあの無表情の魔族はいない。

 

「インドゥ兄弟が闇討ちをしに来てな。それを軽く威嚇しただけだ」

 

 肩を掴んだ時に《思念領域(リクノス)》を発動させて、昨日私と別れたあとの記憶を覗いた。

 魔大帝などと自称しているリオルグ・インドゥという青年と、入学試験でアノス様の相手をしていたゼペス・インドゥがアノス様とミーシャ嬢と対峙していた。

 

「……なぜ教えてくれなかったのです」

 

 非難じみた目で我が主を見る。

 

「お前がいては奴らが根源すら残らず消えるからだ。どんなに弱くとも、俺の子孫だからな」

「はぁ……」

 

 アノス様の言葉に、私は思わず溜息をついた。

 まったく、我が主は本当にお優しい。

 

「私とて手加減はできますよ。お忘れですか? 昔、私は勇者カノンを一歩も動かず何日も殺したことを」

「ふっ、忘れてなどいない。だが、アレはカノンだったから良かったのだ。他の者なら根源が潰えているだろうよ」

 

 少しは自覚をしろ、と忠告されてしまった。そっくりそのままお返ししたいところだ。

 それにしても、本当に注目を浴びている。少し居心地が悪い。

 

「そういえば、お前の校章は七芒星だな。俺は十字だというのに」

「あぁ、その件ですか。それはまた後ほど。そろそろ教室ですから。それよりもどうです? 冗談のひとつでも言ってみては」

「うむ。それは俺も考えていたことだ。二千年前のジョークがウケるかわからぬが、試してみよう」

 

 教室の扉を開き、アノス様は満面の笑みを浮かべて爽やかな声を出した。

 

「皆の者、良い朝だな! 今日からこの教室は俺が支配してやる。逆らう者は皆殺しだ!」

 

 そう言った瞬間、教室が静まり返った。

 

「ふむ、外したか」

 

 私は十分面白いと思いますよ!! アノス様!!

 二千年前では、ご、ご冗談を……などと配下は笑っていたのだが。今は笑いのツボが少々違うのかもしれない。

 ふと、こちらを見つめる人物と目が合った。

 

「よう、ミーシャ」

「おはようございます、ミーシャ嬢」

「……おはよう」

 

 隣いいか? とアノス様はミーシャ嬢に訪ね、彼女は頷いて返事を返す。

 ミーシャ嬢の隣にはアノス様が、アノス様の隣に私が座った。

 

「今の冗談、どうだった?」

「……冗談?」

 

 小首を傾げて、ミーシャ嬢はハテナを浮かべたような顔をする。

 

「誤解されてると思う……」

「でしょうね」

 

 ドン引きしたような雰囲気だったので、本気にしているのだろう。

 

「噂になってる」

「噂、ですか?」

「どんな噂だ?」

「……二人の印」

 

 ミーシャ嬢が私たちの校章を指す。

 

「魔力測定と適性検査の結果を表している。……多角形や芒星の頂点が増えるほど優良」

 

 手で三角形を表して、ミーシャ嬢が説明する。

 なるほど、そういうことか。校章の印が十字であるアノス様はつまり、

 

「アノスのは魔王学院で初めての印。それは烙印」

「何を表している?」

「不適合者」

 

 淡々とした口調でミーシャ嬢が言った。

 魔王学院は魔皇を育てる機関。入学できるのは、始祖の血を引く魔王族のみ。よって、これまで適性がないと判断された者はいない。

 

「だから噂になった」

「ふむ。魔力測定はわかるが、適性検査は満点のはずだがな」

「自信がある?」

「あぁ」

 

 それはそうだ。始祖本人が間違えるはずがない。しかしそれは、前提が合っていればの話である。

 

「ミーシャ、始祖の名前は言えるか?」

「始祖の名前は、恐れ多くて呼んではならない」

「ふむ……そうか。ミーシャ、始祖の名を思い浮かべてくれ」

 

 アノス様はミーシャ嬢の頭に手を添えて、思念を読み取った。

 読み取った瞬間、アノス様は不可解な顔をして顎に手をやる。

 

「誰だそいつ……? カイル。お前が七芒星の理由はその名を知っていた。そうだな?」

「ええ。私の血族から忠告を受けましてね。始祖の名前は、今ではそれだ、と」

 

 暴虐の魔王アヴォス・ディルヘヴィア。その名がアノス・ヴォルディゴードとすり変わっているのだ。

 そして、

 

「それに加えて、私の名も変わっているそうです」

「なに?」

 

思念通信(リークス)》の魔法を使って、私は彼に名を伝える。

 

 ──魔王の眼、カルラ・アルゲールだそうです。

 

「ふむ。俺が始祖だと知っているのはお前とお前の血族しかいない、か」

「はい。二千年前に生み出した私の配下は血族を作った数百年後に死んだので、どのタイミングで名前が変わったのかわかりません」

 

 なぜ配下が死んだのかわからないが、もしかしたらどこかに潜んでいるのかもしれない。私が生み出した配下だ。そう簡単に根源が消えるはずがない。

 

「魔皇の適性があるかどうかは、どのように判断しているのだ?」

「暴虐の魔王の思考や感情に近い魔族ほど適性が高い」

「暴虐の魔王は、どんな奴だと言われている?」

「冷酷さと博愛を併せ持つ、完璧なる存在。常に魔族のことだけを考え、己の身を省みず戦った」

 

 ──誰なのだ、その完璧超人は。

 ミーシャ嬢がそう言うとアノス様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして私を見た。

 そうなんですよ。アヴォス・ディルヘヴィアという魔王はそういう人らしいですよ。血族からそのことを知らされた時は同じ反応をしました。

思念通信(リークス)》を繋げたままにしていたのでアノス様にそう伝えた。

 それにより、アノス様が寝惚けて《獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)》を撃ったことも、魔族は誰一人として死ななかったことも伝わっていないのだ。正確には私が死んで、後に《蘇生(インガル)》で復活したのだが。

 

「カイルが噂になっているのは校章だけじゃない」

 

 ふと、ミーシャ嬢が私の方を見て呟く。

 

「黒服が白服に付き従ってるから」

「あぁ、なるほど」

「なにか問題があるのか?」

 

 アノス様が首を傾げる。

 

「黒服は特待生。純血の魔王族。皇族というのが一般的」

「そういうことか」

「小さいですね」

 

 世間一般で見れば、白服に黒服が下手に出ていれば、なんだなんだと噂になるだろう。

 そんなこと、知ったことではないが。

 そう思った時、遠くで鐘が鳴った。

 

「皆さん、席についてください」

 

 顔を上げると、教室に入ってきた人物が教団の上に立った。教団の上に立ったのは黒い法衣を着た女性だ。

 

「二組の担任を務めます、エミリア・ルードウェルです。よろしくお願いします」

 

 ほほう、流石教員。入学試験で見た生徒たちとは魔力の量が違う。

 

「早速ですが、班分けをします。班リーダーになりたい人は立候補してください。ただし、この魔法を使えることが条件です」

 

 来て早々授業が始まったのか、エミリア女史が黒板に魔法陣を描く。

 なるほど、《魔王軍(ガイズ)》か。確かに《魔王軍(ガイズ)》ならば班リーダーが使用できなくては話にならないだろう。

魔王軍(ガイズ)》とは術者を王とし、配下の軍勢にそれぞれ適した力を与えるものだ。魔王(キング)から始まり、築城主(ガーディアン)魔導士(メイジ)治癒士(ヒーラー)召喚士(サモナー)魔剣士(キャバリエ)呪術師(シャーマン)の七つのクラスに別れ、魔王(キング)から魔力を供給され、配下の魔力を増幅させる。そして、その基本として魔力を供給する魔王(キング)は弱体する。

 

「それでは立候補したい人は挙手を」

 

 エミリア女史がそう言った瞬間、隣に座るアノス様が迷わず手を挙げた。

 流石アノス様。始祖だとわからぬのなら力で証明させようとは、やはり貴方は素晴らしい。だが、アノス様以外に白服の生徒が手を挙げているのを見ない。

 

「白服は立候補できない」

 

 ミーシャ嬢が小声で教えてくれた。

 なるほど、立候補できるのは黒服、つまり純血でないと立候補できないということか。なんと馬鹿馬鹿しいことか。素質のある者が立候補し、魔皇になれば良いというのに。

 

「アノス君でしたか。残念ですが貴方には資格がありません。貴方の隣にいるカイル君が立候補する、というのなら話は別ですが」

 

 私にどうですか、と言いたげな目を向けているエミリア女史に、私は首を振る。

 

「私は遠慮しておきます。そして、私はアノス様の従者。アノス様以外の輩に従うこともないでしょう」

「なっ……!?」

 

 エミリア女史が目を見開いて驚愕する。

 次いで生徒たちがざわめく。

 

「アノス様って……」

「なんで黒服が白服に……」

「なんなんだあいつ」

 

 まったく、こんな些細なことで狼狽えるのか。

 強い者の下につく。そんなこと、当たり前のことだろう。

 

「それに、混血が純血に劣るなど、誰にもわからないでしょう」

 

 そう言うとエミリア女史はム、と眉をひそめた。

 

「わかりきっていることです。カイル君、今の言葉、撤回するのなら皇族批判と捉えません。撤回しなさい」

「無理ですね。力ある者、素質ある者、血の濃さ薄さで推し量るなど図々しいにもほどがある」

「七魔皇老を侮辱すると……!?」

「侮辱して、何が起こるというのです? いくら彼の暴虐の魔王の配下とはいえ、私はその彼の眼ですよ。肉体から魔力、根源すら潰し、壊し、滅しましょう」

 

 思わず魔眼が出そうになり、《幻影擬態(ライネル)》の魔法を使い通常の目に偽装する。

 いけないいけない。あまりにも腹が立ちすぎて《破滅の魔眼》の魔法陣が瞳に映るところだった。

 

「くだらんことで言い争うな。要は力を証明すれば良いのだろう?」

「……できれば、の話です」

 

 アノス様に説き伏せられるとは、私もまだまだだ。普段私が彼に小言を言っている立場であるというのに。

 ふっ、とアノス様は笑い席から立った。

 

「その言葉、《契約(ゼクト)》させてもらったぞ」

「え、そんな……いつの間に、魔法行使を……!?」

 

 口約束を《契約(ゼクト)》するなど日常茶飯事だ。

 アノス様は驚いているエミリア女史の横を素通りし、黒板まで歩いていく。

 

「この《魔王軍(ガイズ)》を作ったのは皇族か?」

 

 彼が問いかけるとエミリア女史が頷く。

 

「欠陥があるぞ」

「まさか。有り得ません。この魔法は二千年もの間、この形で伝えられています。誰も欠陥なんて見つけたことなど……」

「ちょうど二千年前にカイルと見つけたものでな。転生している間は修正できなかった」

 

 黒板に描かれた魔法陣を少し撫でると、魔法陣が一層煌めいた。

 

「これは……! 魔法効果が一.五倍……?」

「惜しいな。魔法効果は二倍だ。カイル、説明してやれ」

「御意」

 

 アノス様に命令され、私は《魔王軍(ガイズ)》の魔法陣を大きく描く。

 

「皆さんにわかりやすく説明いたします。この魔力門が、先程アノス様が書き換えた魔法文字と干渉を起こし、根源──つまり、私たちの魔力を生み出す源へ二度働きをかける韻を踏みます。以前までの魔法陣は根源への働きは一度、いや、それよりも悪く、あまり効率的とは言いづらいものでした」

 

 創造魔法で杖を作り、魔法陣を指す。

 私の説明を受け、エミリア女史と周りの生徒は目を丸くさせている。《思念領域(リクノス)》を使わなくてもわかる。アノス様と私の知識に驚愕しているのだ。

 

「なんなら、俺とカイルが代わりに教師をやってもいいぞ?」

「……立候補を、許可します」

「ふっ……そうか」

 

 満足そうな笑みを浮かべて、アノス様は席に戻ってきた。

 私も大変愉快だ。混血だと嘲笑っていた輩が逆に恥をかかされるなど、私なら恥ずかしすぎてそやつの根源を潰しかねない。

 

「それでは、立候補者は起立してください」

 

 挙手をした生徒が立ち上がる。アノス様を入れて五人だ。そして、その中にミーシャ嬢と魔力の波長が似ている者がいた。

 金髪碧眼の少女だ。綺麗な金色の髪をツインテールにし、気の強そうな表情をしている。

 騒がしいと言っていたが、なるほど、これは騒がしそうだ。

 まず最初の自己紹介はその少女から始まった。

 

「ネクロン家の血族にして、七魔皇老が一人、アイヴィス・ネクロンの直系、破滅の魔女サーシャ・ネクロン。どうぞお見知り置きを」

 

 スカートの裾をつまんで、サーシャという少女は優雅にお辞儀をした。

 

「ネクロン、ということは」

「……お姉ちゃん……」

 

 アノス様がミーシャ嬢に訊ね、彼女はそのままサーシャを見つめていた。

 ふと、サーシャがこちらを見た。

 

「……」

 

 あぁ、破滅の魔女とはそういう……。

 

「アノス様。彼女、《破滅の魔眼》を持っています」

「なに?」

「確かではありませんが……そう感じました」

「そうか。お前が言うのならそうだろうな」

 

 直感でそう感じただけだ。確信はない。だが、雰囲気が()()に似ていた。

 雰囲気が似ているだけだ。現にミーシャ嬢は雰囲気こそミリティアに似ているが、ただの魔族だ。それと同じようなものだろう。例え《破滅の魔眼》を持っていようと、アノス様の血が入っていれば現れる確率はあるかもしれん。

 

 

 

 




 これくらいなら許される……。許して。

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