今回、オリジナルの魔法が登場します。魔王学院の不適合者魔法一覧のサイトで確認してもなかったので、オリジナルになります。
一週間後。
二組の生徒である私たちは、班別対抗試験のため、デルゾゲード魔王学院の裏側にある魔樹の森へ来ていた。
薄気味悪い木々がどこまでも広がり、渓谷や山がいくつも見える。この森は魔力が潤沢であり、いくらクレーターができ、森が焼かれても魔力が全て元通りにしてくれる。
二千年前と様子が同じで少し感慨深くなる。
「覚悟はいいかしら?」
「誰にものを言っている?」
アノス様の言葉に、サーシャはなにか言いたそうにしていたが、ぐっと堪えた。
「カイル、貴方も覚悟はできているのかしら」
「甚だ遺憾ではありますがアノス様が決めた以上、私は命令に従うだけです」
「そう。わたしが勝ったら可愛がってあげる」
勝気な表情を見せ、彼女は私を見て微笑む。
「《
「ええ。でも、その子にやらせなさい」
アノス様の申し出に頷くが、ミーシャ嬢に指をさす。
なるほど、アノス様が《
しっかりと私たちの深淵を覗いているようだ。
「……わたし?」
「あぁ、別に誰がやっても問題ない」
契約を破棄する場合は両者の合意が必要だ。それによって、契約内容さえ合っていれば誰がやっても変わりはしない。
「……《
ミーシャ嬢が手をかざし、《
これで《
「それではサーシャ班、アノス班による班別対抗試験を開始します。始祖の名に恥じないよう、全力で敵を叩きのめしてくださいっ!」
上空を飛ぶ使い魔のフクロウから、エミリア女史の声が聴こえてくる。
始祖の名に恥じないよう、ね。その始祖の名を間違えていることが恥だが。そもそもアノス様は本来、平和主義者だ。二千年前は平和ではなかったのでそうせざるを得なかった。
そう思っていると東側に大きな城が建てられた。《
陣地は私たちが西側、サーシャ班が東側にわけられている。
「……作戦は……?」
「作戦といっても、三人ですからね」
「ミーシャの意見は?」
アノス様が尋ねるとミーシャ嬢は考え込む。
「……わたしのクラスは
すでに《
「《
「だが、サーシャはそう来るだろうと読んでいるぞ」
「では、如何しますかアノス様」
私は頬に笑みを浮かべて我が主に問い掛ける。すると、アノス様はふっ、と笑い飛ばし、 東側で建てられているサーシャ班の魔王城を見た。
「裏をかく。カイル、お前は念の為ミーシャについていろ」
「御意」
命令を下され、私はミーシャ嬢の傍らに移動する。
「今回、ミーシャ嬢の《
「うん。……カイルの《
無表情のその顔に小さな笑みが浮かべられた。
***
ミーシャ嬢の《
さて、あちらはどんな反応するのやら。
私はサーシャ班が使っている《
「サーシャ様。敵陣に三つの城が建てられました」
「恐らく二つは罠ね。この短時間じゃ、ミーシャでも完全な魔王城を創れないわ。時間を稼いでその間に堅牢な魔王城を創るつもりよ。その前に叩く」
やはりそう来ますか。ミーシャ嬢のこともよく理解しているようだ。
「まずは先発部隊を敵陣へ送るわ。編成は、
「了解しました!」
その編成だと、十二人がこちらに来るということか。サーシャ班の魔王城に半数以上も残しているとは、なかなか手堅い手をとるものだ。
アノス様も《
その瞬間、傍受している《
「さ、サーシャ様!?」
「どうかした?」
「
「はぁっ!? いったいどうやって……まさか、失われた魔法《
おや、直に見ていないはずなのによく理解したものだ。
「いいわ。どのみち、
「それはどうかな?」
アノス様が《
「どういうことだ……!? なぜ《
「わ、わかりません。魔法陣にもなんの問題もなく、聴こえるはずが!」
「だが、実際に聴こえているだろう! 早く原因を解析しろ! 《
可能性ではなく、実際に傍受しているのだが。
はぁ、とアノス様が溜息をついた。
「原因は組み立てた魔法術式だ。魔法陣の再現率八九パーセントというのは、全体的に低次元すぎる。傍受しろと言っているようなものだぞ」
「馬鹿な……! 再現率八九パーセントは国家レベルの秘匿通信だぞ!」
「これで国家レベルならお笑いものですね。ここまで低次元ならば、直接話した方が効率的ですよ」
「なんだと……!?」
私の煽りに、サーシャ班の配下が怒りを表す。
魔法陣には魔法を使うための魔法術式が組み込まれており、それには理論術式と実行術式が存在する。理論術式はその魔法を使うために最適化された魔法術式なのだが、いざ実践となれば、なかなかかの理論魔法陣をそのまま再現することは難しい。
今の時代では、そのどちらの意味でも低次元がすぎる。今後、理論術式について触れる時があれば皆に教えてあげたいものだ。年寄りはお節介なのだから。
「問題ないわ」
やかましく慌てる配下たちにサーシャが一声かけ、配下たちの冷静さを取り戻させた。
なかなかのカリスマだ。
「いくら《
ふむ。見たところ
だが、
「ずいぶん、軽そうな城だな」
アノス様が城に触れようと手を持ち上げる。その動きは《
「無駄よ! この城には多重の反魔法がかけられているもの!」
「魔法ばかり警戒するとは、戦闘というものをわかっていない」
壁に触れる瞬間、反魔法が反応し薄い膜が現れた。それはアノス様の手を拒むことなく通し、我が主の手は壁に触れた。
そして、ぐっと壁に爪を立てるとアノス様の指が城壁にめり込んだ。
「これが城だと? 俺の従者の方が何十倍も重く創るぞ」
いえ、私とあの者たちを比べないでくださいアノス様。嬉しいですけども。
私は《
ガガガガ、とサーシャ班の魔王城が地面から抜ける。
「嘘……加護もない
「なに、地力の差だ」
そう言ってアノス様は魔王城を上空へ放り投げた。しばらく滞空したあと、勢いよくアノス様を押し潰すように落下するが、我が主は片腕を上に伸ばし、軽く受け止めた。
五指で城を支え、ボール回しの要領で魔王城を回す。
「……おかしい」
「あはは……アレがアノス様ですから」
ミーシャ嬢にも《
「カイルもできる……?」
「んー、あの程度でしたら可能ですね」
「……カイルも大概……」
アノス様ほど規格外でもないので引かないで欲しい。
傍受した《
「確かにこの世界は平和になりました。けれど、大切なものが欠如している」
「……大切なもの……?」
「強い魔法を使うには身体を鍛え上げ、体力をつける。それが、魔法の基礎の基礎。幼い頃からやることです」
それと同時に、アノス様が回していた魔王城を思い切り投げ飛ばした。
「そら、うまく受身を取れ。でないと、死ぬぞ」
***
「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
傍受した《
「……《
なるほど、炎属性最上級魔法である《
「し、しかしサーシャ様! 《
「それに、失敗すれば──」
「怖気づいている場合じゃないわっ! 敵の力を認めなさい」
配下の言葉を遮り、サーシャが言う。
「お前の読みが当たったな?」
サーシャ班が《
「そうですね。ですが、この時代で《
そうだな、とアノス様が頷く。
私の
私はミーシャ嬢にアノス様のところへ行くと伝え、《
「サーシャ様! アノス・ヴォルディゴードの隣に、カイル・アストライルが!」
「来たわね。ちょうどいいわ。まとめて《
サーシャのその叱咤に、配下たちは声を上げる。
「「「はい、サーシャ様っ!!」」」
瞬間、魔王城を覆うように魔力の粒子が立ち上った。大魔法を発動させるために、魔王城そのものを巨大な魔法陣にする、立体魔法陣だ。
破滅の魔女と呼ばれるのも頷ける。彼女の才能は本物だ。配下たちの力を借りて、ここまで大がかりな魔法を展開するとは。
最上級魔法は、純粋に魔法技術の研鑽が必要な技だ。生半可な訓練で成せるものではない。《
はっきり言おう。この《
「ふっ……」
思わず私は笑みを浮かべた。
それぞれのクラスの特性を生かし、各々の魔力を足すことで十倍以上に引き上げる集団魔法。これが、《
「みんなの力、預かるわ!!」
「サーシャ様……!」
「オレのありったけの魔力、使ってください!」
「見せつけましょう!」
立体魔法陣が大砲のように型作られた。その銃口の先にはアノス様と私。そしてその後ろで魔王城にいるミーシャ嬢。
限界まで引き上げられた魔力が、解放されたいと言わんばかりに波動を伝えてくる。
「行くわよぉぉっ! 《
極限まで溜められた魔力が爆発し、黒い太陽が射出された。それは彗星のようにこちらにめがけて迫り来る。
──
成功率が二割以下だと? そう思った自分を殴りたい。こんな完璧な《
「魔王の眼と呼ばれた俺の力、見せてやる。サーシャ・ネクロン!」
瞳に魔力を集め、魔法陣を描く。
「これこそが、真の《破滅の魔眼》だ……!!」
黒い太陽に視線を合わせ、そしてその発動者であるサーシャの深淵を覗く。
口角が自然と上がった。
「なっ……!?」
次の瞬間、サーシャ班が放った《
「そ、そんな……」
《破滅の魔眼》は攻撃性を持ちながら反魔法の面を持ち合わせている。強烈な反魔法なのだ、この魔眼は。
「勝負を決めようか」
人差し指をサーシャのいる魔王城に向け、小さな魔法陣を描く。
そういえば、この時代で攻撃性のある魔法は初めてか。今回、アノスに至っては魔法すら使っていないから、今度はあいつを立ててやるか。
「終いだ」
指先から放たれたのは小さな白い氷の欠片。
「退避っ!」
凄まじい速度で魔王城に迫るそれを見て、サーシャは配下たちに退避するように指示をした。指示をした自身は、というと反魔法を多重に張り氷の欠片を防ごうとする。
反魔法はパリンパリンと容易く破られた。
「っ……!」
先ほどの《
***
崩壊した魔王城を見て、サーシャ班の配下たちは唖然としている。
土煙が舞い、サーシャが無事なのかすらわからない。
「カイル、まさか殺してなどいないよな?」
アノスが呆れたような表情をして声をかけてくる。
「なわけあるか。ちゃんと生きてるよ」
普段の丁寧な言葉ではなく、乱暴な言葉使いで俺は頭を搔いた。こっちの言葉使いが素のカイル・アストライルだ。
従者となってからは丁寧な言葉で通してきたが、こうして昂ってしまえばしばらくはこの言葉使いになる。
「んじゃ、ちょっとサーシャのところに行ってくる」
「あぁ。俺はミーシャを連れてくる」
そう言って主はミーシャのところへ転移していった。俺も足元に魔法陣を描き、サーシャのところへ転移する。
転移してすぐ、目の前には何が起こったかわからない顔をするサーシャ・ネクロンがそこにいた。
「いったい、なにが……」
体は震え、座り込む彼女の前に立ち、俺は見下ろす。
「お前の体を貫く前に反魔法をかけておいたんだよ」
「反魔法……? そんなの、いつの間に」
「厳密に言えば反魔法じゃねぇ。魔眼だ」
「魔眼……。それも《破滅の魔眼》だというの……?」
でも、とサーシャは自分の胸に手を置く。
「あの氷はわたしに当たって……」
「あぁ。お前は確かに俺が放った《
そう言うと彼女は目を見開く。おおかた、あの氷が氷属性最低位魔法だったことでも驚いているのだろう。
「普通なら死んでる。根源も残さずにな。だがお前は生きている。その謎の正体は俺のこの目にある」
瞳に魔力を集め、魔眼を見せる。
「なに、その眼……」
「《不滅の魔眼》。俺はそう呼んでいる」
俺の目には、十字架に似た魔法陣が描かれているだろう。
《不滅の魔眼》は俺が知る中で最強の反魔法だ。《破滅の魔眼》でさえこの魔眼は突破できない。
「《
魔力に《不滅の魔眼》特有の属性を混ぜてサーシャ自身を護る。これにより《
「……どうして、わたしを殺さないの」
「それじゃつまらん。俺はお前に興味を持ったからな」
そもそも、俺自身進んで殺しなどしたくもない。攻撃したら勝手に死んでいくだけだ。
「磨けばもっと良くなる。魔法の才能もある。魔王の眼である俺が保証しよう」
そして、と俺は手を差し出した。
「約束は守ってもらう。俺たちの班に入れ、サーシャ」
「……」
班別対抗試験の前に《
「沈黙は肯定ととるが、いいな?」
「……こんな屈辱、絶対に忘れないわ。いつか強くなったら、きっと貴方たちを殺すわよ……!」
体を震わせながら、サーシャは俺と、先ほど転移してきたアノスを見ながら言い切った。
ふっ、と主が笑って口を開く。
「言っておくが、サーシャ。殺したぐらいで死ぬなら、俺とカイルは二千年前にとうに死んでいるぞ」
それに、とアノスは一緒に連れてきたミーシャに目を向ける。
「お前の妹は、お前と同じ班になりたいそうだ」
「……サーシャ、怪我は……?」
「別に、どこもないわよ」
そこにいる奴のおかげで、とサーシャは俺を見る。
「いいわよ。貴方たちに敵いそうにないし、かといって《
言い訳を口にしつつ、サーシャは俺の手を取った。
「でも、覚えていてちょうだい。これは契約。貴方に心まで売ったつもりはないわ」
アノスを睨みつけて彼女はそう言う。だが、我が主は意に返さず、よろしくな、と笑いかけた。
これでサーシャ・ネクロンは俺たちの班に入ることになったわけだ。
アノスとミーシャは互いに顔を合わせ、笑みを浮かべる。
「友達のためにわたしを誘ったっていうわけね」
「あぁ。あとは、お前の
「なっ……!?」
そう言うと彼女の顔が赤く染まった。
「冗談じゃねぇからな? 俺が褒めるなんて早々ねぇことだからな?」
二千年前、神話の時代でもここまで静謐で濁ることのない
何度も言うが彼女の魔眼は磨けばもっと綺麗になる。
「って、おい。聞いてんのかサーシャ?」
ぼう、としているサーシャに近寄ると、彼女はぷいっ、と顔を背けた。
「……聞こえないわよ、馬鹿……」
顔は見えないが、彼女の耳は真っ赤になっていた。
凄いアノス様のいいところを奪ってしまった。
けどこうするしかない。原作一巻のラストにかっこよくするから許して欲しい。
にしても、なんで炎属性は全種類あるのに氷属性ないのか……。
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