暴虐の魔王の従者   作:倉崎あるちゅ

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 お待たせしました。

 誤字報告、本当に助かりました。ありがとうございます。



大魔法教練

 

 

 翌日。

 アノス様と一緒に魔王学院の教室へとやってきた私たちは、昨日までと違った光景を目にした。

 

「おはよう」

 

 さも当たり前のような顔をして、私の席の右隣に座るサーシャ嬢が挨拶をする。

 

「あれ、サーシャ嬢の席ってそこでしたっけ」

「いや、確かあそこだった気がするぞ」

 

 アノス様に訊くと、彼女の席だったはずのところに指をさす。

 

「変えたのよ。班員同士で固まってた方が楽でしょ」

 

 確かに移動するのが楽になるのだから支障はないか。ミーシャ嬢にも挨拶をし、アノス様と私の席が開けられていたのでそこへ座る。左からサーシャ嬢、私、アノス様、ミーシャ嬢の順だ。

 

「そういえば、わたしの班員だった人たちはどうしたの?」

「あぁ、私たちの班に入りたいと言っていたあの者たちですか」

「そいつらのことなら、断ったぞ」

 

 アノス様が当然のように語ると、サーシャ嬢が有り得ないものを見る目で我が主を見た。

 

「はあっ!? 断った!?」

「特に困らないだろう。俺とカイル、そしてお前たち二人がいればそれで勝てる」

 

 まぁ、アノス様一人いたら勝てるが。私まで参加したら虐殺もいいところだ。

 

「どうするのよ、班別対抗試験はそれでいいとして、クラス対抗試験は五人以上、学年対抗試験は七人以上いないと参加すらできないわ」

 

 なるほど、今私たちアノス班は四人。クラス対抗試験に参加するには最低限あと一人は必要になるわけだ。

 

「それは知らなかった」

 

 アノス様も知らなかったようで顎に手を添えた。

 

「どうするのよ?」

「まだ時間はありますし、その間に考えましょう。それに、もしかしたら他の班に有望な方がいるかもしれません」

「そうだけど。悠長ね」

 

 私の言葉にサーシャ嬢が肩をすくめる。

 すると、授業開始の鐘が鳴り、教室の扉が開いた。入ってきたのは担任のエミリア女史と、その後ろに続くのは、黒の法衣と外套を纏う、帽子を被った不死者(アンデッド)だ。

 顔がある所に骸骨。首があるはずのところは空洞で、胸元には大きな口が存在している。

 その不死者(アンデッド)が七魔皇老、アイヴィス・ネクロンだろう。

 アイヴィスから発せられる魔力により、周りの生徒たちは無自覚に畏怖し、冷や汗を垂らして静かにしている。

 己より膨大な魔力を感じれば畏れる。それは生存本能に近しいものだ。アノス様や私にもそういった畏れがあるはずなのだが、あまりに膨大すぎて逆に感覚が麻痺してしまい、魔力を感じられないのだ。

 ただし、アノス様の魔力を感知した場合、反魔法が弱い者はそれだけで死ぬ。私の魔力もまた同様だ。

 

「この前お話した通り、本日は七魔皇老による大魔法教練を行います。心して聞くように」

 

 エミリア女史が緊張したように言う。七魔皇老であるアイヴィスが隣にいるからだろう。

 

「特に、アノス・ヴォルディゴードくん。くれぐれも失礼のないように」

 

 キッ、と彼女はアノス様を睨みつけた。

 

「言われなくても、それぐらいわかっている」

「ならいいのですが……」

 

 むしろ、私としてはアイヴィスのほうがアノス様に失礼がないかという思いがある。

 アノス様は視線をエミリア女史からアイヴィスへと移し、すっと立ち上がった。

 

「よう、アイヴィス。久しぶりだな」

「「!!??」」

 

 我が主がそう言うとエミリア女史は顎が外れそうなほど口を開けて驚愕した。周りの生徒たちもまた同じように口を開けたり、冷や汗を大量に流してたりしている。

 ふむ、私もアノス様の配下として挨拶はしたほうがいいか。いくら私のほうが配下として長いとはいえ挨拶もできなければ主の格が知れるというもの。

 

「二千年ぶりですね、アイヴィス。教室に入って一番にアノス様に挨拶がないとは失礼にも程がありますね」

「「!!!???」」

 

 私がそう言うと今度は目が出る勢いで丸くした。

 

「あぁ、あ、あああアノス・ヴォルディゴードくん!? カイル・アストライルくん!? 失礼なのは貴方たちのほうですよ!! あ、アイヴィス様、申し訳ございません。この者たちはただちに除名いたしますので……!」

「よい」

 

 慌てるエミリア女史に、アイヴィスが鷹揚に言った。

 

「二千年ぶりだと言ったな」

「あぁ、覚えていないか?」

 

 アノス様が問うと、不死者(アンデッド)は首を振る。

 

「残念ながら、我は二千年前の記憶を失ってしまった。覚えているのは、我が主、暴虐の魔王とその魔王の眼のことのみだ」

「ならば俺とカイルのことを覚えているはずだが?」

「……そなたたちは、始祖と眼に縁のある者たちか?」

 

 思わず眉間に皺がよる。

 なるほど、暴虐の魔王、魔王の眼については覚えているが私たちのことは知らない、か。別人を暴虐の魔王、魔王の眼だと信じているのだろう。

 ──ならば。

 

「カイル」

「はっ」

 

 アノス様も同じことを考えていたようだ。名を呼ばれ、私はアイヴィスの前に立ち、その髑髏の顔面を鷲掴みにし、瞬時に魔法を行使した。

 

「ちょ、ちょっとカイル!?」

 

 サーシャ嬢が慌てて私の名前を呼ぶ。エミリア女史も周りの生徒も、顔を蒼白にしている。

 使う魔法は《追憶(エヴィ)》。どんなに遠く、古い記憶でも思い出すことができる魔法だ。

 しかし、

 

「無駄だ、この頭に記憶は残っておらぬ」

「なるほど、でしたら」

 

 多重魔法陣を展開し、起源魔法《時間操作(レバイド)》を発動させる。《追憶(エヴィ)》と組み合わせることで局所的に時間を遡り、思い出すことができる。

 起源は魔王アノス・ヴォルディゴードとして、アイヴィスが生まれた瞬間まで時間を遡行させる。きっと彼の頭には走馬燈のように記憶が流れただろう

 

「……これは……!?」

「起源魔法《時間操作(レバイド)》です。《追憶(エヴィ)》と重ねがけをし、時間を遡って思い出させました」

「時間を、遡るだと……!? 時をも超越する大魔法が存在するというのか!?」

「起源魔法はアノス様が開発した魔法ですし、知らないのも無理はない」

 

 他の起源魔法は大魔法として認知されているが、《時間操作(レバイド)》は知られていなかったか。

 

「……確かに我は記憶を遡った」

 

 ──しかし、なかった。

 

 私が使った《追憶(エヴィ)》で引っ張り出される記憶はアイヴィスの頭に流れるだけで、私が読み取れるのはほんの表層のみだ。それでも名前くらいなら読み取れるものだが、アノス・ヴォルディゴードとカイル・アストライルの名が一向に見つからない。

 出てくる記憶は暴虐の魔王アヴォス・ディルヘヴィアの名前と、カルラ・アルゲールの名前だけ。

 

「なぜ、記憶が戻らぬ……?」

 

 私は《思念通信(リークス)》でアノス様に結果を伝えると、アノス様は目を細める。

 

「お前の記憶は二千年に遡って綺麗に消されたということだ。いつの時点かはわからないがな」

 

 これは、なかなかに面倒な案件だ。二千年前に起きたことは流石にアノス様でも難しい。私もまた同じだ。アノス様にできないなら私には不可能だ。

 

「なるほど。礼を言おう、アノス、カイル。それがわかっただけでも収穫だ。我に敵対する何者かがいるということだからな」

 

 一瞬、とぼけているのかと思ったが嘘を言っている様子はない。

 

 ──どうだ?

 

 ──自分で記憶を改竄した可能性もありますが嘘をついている様子はないですね。

 

 ──そうか。わかった。

 

 アノス様と《思念通信(リークス)》で会話したあと、我が主はアイヴィスに背を向けて自分の席に戻っていく。

 

「なに、気にするな。それより授業を始めてくれ」

「時間をもらってすみませんでしたね。どうぞ授業を始めてください」

 

 我が主の背を追い、アノス様の隣の席に座る。

 戻ったあと、生徒たちがひそひそと話し始めた。

 なぜ掴みかかったらお礼を言われるのだの、掴まれたかっただの、七魔皇老にお礼ってどんだけなんだだの、いちいち反応が大袈裟だ。

 

「無事でよかった」

 

 ミーシャ嬢がアノス様にそう言う。

 

「貴方もアノスも、信じられないことするわ」

 

 私の隣に座るサーシャ嬢も呆れた顔をして私を見た。

 別に、あれでアイヴィスが怒り、攻撃されたとしてもアノス様がいれば何も起こらない。《不滅の魔眼》があればデルゾゲードを壊す心配もないのだから。

 

 ──しかし、アヴォス・ディルヘヴィアにカルラ・アルゲールか。いるかもしれぬな。この俺とお前に成り代わろうとする何者かが。

 

 ──ええ。断言はできませんが可能性は高くなりました。

 

 ──どう思う?

 

 ──そうですね、警戒しておいたほうがよろしいかと。サーシャ嬢やミーシャ嬢に危険があるかもしれません。

 

 ──ふむ、そうだな。もしもの時は頼むぞカイル。

 

 ──御意。

 

 アノス様との《思念通信(リークス)》を切り、教壇に上がったアイヴィスを見る。

 

「本日は我がネクロン家の秘術、融合魔法についての講義を行う」

 

 先程の件を引きずることなく、不死者(アンデッド)は低い声を出した。

 アイヴィスは黒板に融合魔法の基礎魔法術式を描いていく。エミリア女史も真剣にアイヴィスの話を聞いている。

 なるほど、月光を魔法陣にとして用いる自然魔法陣のようだ。使われている魔法門や魔法文字も神話の時代に近いものだ。

 私やアノス様は覚えるのに時間はかからないが、他の生徒たちは模写をするのもやっとのようだな。記録水晶に保存して時間をかけて書いたほうが効率的だろうに。

 にしても、普通の授業もこれくらいやってもらいたい。普段寝ているアノス様が、今は起きてしっかり魔法陣を見ている。

 

「ちょっと、貴方たち。ノートに書くなり記録水晶に保存するなりしなくていいの?」

 

 隣に座るサーシャ嬢がアノス様と私にそう言ってくる。

 

「記録ならしてる。ここにな」

「私も同じです」

「お前のほうこそ、なにも記録していないようだが?」

「わたしはネクロン家の直系よ? あんな基礎はマスターしたわ」

 

 そういえば、アイヴィスと姓が同じだった。

 

「でしたら、アイヴィスと親しいのですか?」

「まさか。七魔皇老は雲の上の存在よ。話したのだって……一回しかないわ」

 

 確かに魔族は長命だし、他の者も生きている可能性もある。

 

「──今説明した通り、波長の違う別種の魔力を結合させることにより、強い魔法反応を生み、元の魔力を十数倍に引き上げることができる。これが初級融合魔法《混合同化(ジェ・グム)》だ」

 

 静かな教室に、アイヴィスの講義だけが響いていく。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 大魔法教練が終わり、昼休みとなった。アノス様はアイヴィスと廊下で話をし、私は周りに誰にも聞かせないように人払いの結界を張っている。

 

「つまり、お前が我が主、暴虐の魔王だと?」

「あぁ、暴虐の魔王の名はアノス・ヴォルディゴード。それが何者かによって、アヴォス・ディルヘヴィアと書き換えられた」

 

 頭ごなしに否定するのではなく、アイヴィスがアノス様に訊いた。

 私は《思念通信(リークス)》で会話を聞き、アイヴィスが嘘を言っているのか判断する。

 

「何者かというのは?」

「まだわからないが、お前の記憶を消したやつだろうな」

 

 なるほど、と不死者(アンデッド)が考え込むように口元に手をやった。

 

「確かに我の記憶が消されたことも、その説明で納得がいく。だが、アノス。記憶を消したのはお前や、あそこで結界を張っている従者が仕業ということはないか?」

 

 殺意を込めた魔眼でアノス様と私を見つめる。私もなにかあれば行動できるように瞳に魔力を集めておく。

 

「お前は有能だ。だが、その有能さ、暴虐の魔王に仇なすものだとすれば、捨ておくことはできぬ」

 

 あの不死者(アンデッド)は馬鹿ではない。記憶のない者の立場からすればアノス様や私を本物かどうか見分ける術はない。まして、彼が知る限り、《時間操作(レバイド)》を使えるのは、使った私とそれを知っているアノス様だけなのだ。敵だと疑うのも頷ける。

 過去を遡り、記憶を消す。それができるのは私たちなのだから候補に入るわけだ。

 暴虐の魔王や魔王の眼に成り代わる者が、味方を装って近づいてきた私たちではないかと思っても不思議はない。

 

「しかし、今は中立としておこう。そなたたちには、どこか懐かしさを感じる」

「そうしてくれれば助かる」

「さらばだ」

 

 アイヴィスがアノス様に背を向けたところで結界を解く。

 静かだった周囲に喧騒が戻ってきた。

 アノス様のところに歩いていき、少し後ろに控える。

 

「中立、ですか」

「あぁ。アイヴィスの立場ならそうだろう」

 

 敵だと疑われ、攻撃されたら面倒だったので、正直中立ならば警戒だけで済む。

 

「アノスくん」

 

 二人で話していると、声をかけられた。振り返るとエミリア女史がいた。

 

「貴方の班員の落し物です」

「ふむ、カイルのものではないな。どっちだ?」

 

 エミリア女史が手渡してきたのは校章だ。押された印は六芒星。サーシャ嬢とミーシャ嬢の校章はどんなものだったか。見ていないのでわからない。

 

「……サーシャさんではないほうです」

「妙な言い回しをしますね。ミーシャ、と言えばいいのに」

「……」

「まぁいい。渡しておく」

 

 少し困ったような表情を浮かべているあたり、なにかあるのか。アノス様もそこを気になったのか眉を顰めているが特に言うことはないのか、ミーシャ嬢がいる方向へ向かっていった。

 私もアノス様の後ろを追い、その場を後にした。

 ミーシャ嬢の魔力を辿り、我が主と私はデルゾゲードの中庭にやってきた。ベンチに座って、ミーシャ嬢はぼうっと空を見ている。

 

「ミーシャ、落し物だ」

「……ありがとう……」

 

 ミーシャ嬢に校章を差し出すと、彼女は制服にしっかりとつけた。

 

「残念だけど、わたしにはどうしようもないわ。班に入りたいなら、アノスに言ってちょうだい。あいつが班リーダーなのだし」

 

 ふと、中庭の端でサーシャ嬢の声が聞こえた。声のした方向を見ると、彼女を中心に人だかりができている。

 

「ですが、サーシャ様! あの不適合者と軟弱者、まったく取り合う気がないんです。サーシャ様のほうから、なにとぞお口添えを……」

 

 軟弱者、か。どうせ皇族が混血に従っていることから来ているのだろう。

 

「そ。じゃ、仕方ないわ。わたしが言っても無駄だもの」

 

 サーシャ嬢は大変なようだ。

 元班員が、サーシャ嬢がいる私たちの班に加わりたいと言って、取り合ってもらうとしているのだろう。

 サーシャ嬢がこの姿勢を崩さないのだから、ミーシャ嬢に取り合ってもらえばいいものを。彼女ならもう少し寛容な姿勢でアノス様に話を通すだろう。

 そういえば、今までミーシャ嬢が他の魔族たちと会話をしているところを見たことがない。アノス様や私と近いからか?

 

「話はそれで終わり? それじゃ、わたしは行くわ」

「あ、サーシャ様!」

 

 おっと、話は終わったようだ。

 サーシャ嬢は私たちを見つけ、まっすぐこちらへ歩いてきた。その顔にはうんざりとした表情を浮かべている。

 

「さ、行くわよ」

「む? 行くってどこにだ?」

「アノス様、次の授業はダンジョン試験です」

「……宝物庫にある王笏を手に入れるのが試験」

 

 私とミーシャ嬢が言うと、アノス様はあぁ、そうだったな、と思い出したように頷いて歩き出す。

 

「大丈夫なの、貴方の主」

「あはは、あそこは私たちにとってはダンジョンにもならない場所ですから」

「なにそれ」

 

 小声で私にそう言うサーシャ嬢は疑うような目を向けてくる。

 実際、午後からの授業のダンジョン試験はアノス様と私にとってはただの建物だ。王笏もすぐに取れるだろう。

 

「まぁいいわ。ほら、行くわよ」

「はいはい、わかりましたよ」

 

 ズカズカと歩くサーシャ嬢の小さな背を追った。

 

 

 

 

 

 

 




 アニメ最新話良かったですね……。私は泣きましたよ、ええ、2巻で大好きなところだったので。
 それと、私が今注目している声優さんがファンユニオンにいたので、いつそのキャラが出てくるかワクワクしてました。


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