暴虐の魔王の従者   作:倉崎あるちゅ

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 お待たせしました。
 アニメ最新話が放送前に更新できてよかった。


ダンジョン試験

 

 

 

 

 ダンジョン試験が行われる、デルゾゲードの迷宮の入口付近に二組の生徒たちは班ごとに集まっていた。

 

「それでは、これからダンジョン試験を始めます。班ごとにダンジョンに置かれた武器、防具などを持ち帰ってその得点を競います。手に入れたアイテムの所有権は班リーダーにあります。制限時間は明日の九時まで。それでは始めてください」

 

 エミリア女史の言葉が終わった途端、黒服の生徒たちが走り出す。遅れて白服の生徒たちが黒服の生徒たちの背を追う。

 私たちアノス班はぽつんと立っているだけだ。

 

「ちょ、ちょっと!? 先を越されるわよ!?」

 

 サーシャ嬢が焦ったように叫ぶ。しかし、アノス様は冷静に彼女を制する。

 

「最下層の祭壇に供えられた王笏を手に入れれば満点なのだろう? なら急がなくてもいい」

「そうだけど、それは無理よ。最下層には教師すら到達したことがないの。本当に王笏があるかもわからないわ」

 

 難しい顔をして、彼女は口にする。

 

「王笏は《魔王軍(ガイズ)》の魔法を強化する杖でしたっけ?」

「ええ」

 

 私の問いに答えたあと、アノス様がふむ、と頷いた。

 

「それならある」

「また適当なこと言って……」

「適当ではありませんよ」

 

 サーシャ嬢が胡乱な目でアノス様を見ていたので、私は苦笑して制する。

 

「……どうしてわかる?……」

「ん? どうして、と言われてもな。ここは、俺の城だぞ」

 

 サーシャ嬢を抑えていると後ろでアノス様とミーシャ嬢がそんな会話をしていた。

 ゆったりとした歩きで地下ダンジョンを進んでいくと、道中にいた魔物は生徒たちが倒したのか、焦げたり、斬られたりしている死体が何体か転がっていた。

 

「そこを右だ」

「なんでわかるのよ?」

「来たことがあるからだ」

 

 サーシャ嬢はいまひとつ信じられないといった表情をしながら、アノス様が言った通り右に曲がる。先に歩く彼女が一人にならないように私が傍に着いているが、王笏が取られるかもしれないと思っているのか、サーシャ嬢のか焦りが見える。

 

「サーシャ嬢、なにもそこまで焦る必要はないですよ?」

「わからないでしょ。なにかの拍子に見つかったりとか」

「仮に祭壇への道が見つかったとしても、他の生徒たちでは無理です」

 

 私が断言すると、サーシャ嬢がお前もか、と言いたげな目を向けてきた。

 

「アノス様が言ったでしょう。来たことがあるからですよ」

「ふぅん……」

 

 まるで信じられていない。私の信用度はアノス様よりはマシかと思っていたが同じくらいだったか。

 ふと、後ろのアノス様とミーシャ嬢の会話が聴こえてきた。

 

「……誕生日は、なにをあげたらいい……?」

「サーシャのか?」

「……明日……」

 

 ふむ。サーシャ嬢の誕生日は明日か。仲直りしたのが昨日なのだし急なのは仕方のないことだろう。

 

「サーシャ嬢、なにか欲しいものは?」

「そんなの、この試験で一番になることに決まってるじゃない」

「はあ……」

 

 それでいいのか女の子。色気もへったくれもない答えだ。()()なら《不滅の魔眼》と即答えるぞ。いや、()()とサーシャ嬢を比べても詮無いことだが。そもそも魔眼は色気がない。

 サーシャ嬢の答えに、ミーシャ嬢が困った、と眉を八の字にして呟いた。

 

「ミーシャも明日か。双子だったんだな」

「ん」

「何が欲しい?」

「……いらない」

「遠慮しなくてもいいんだぞ」

「……会えないから……」

 

 会えない、か。別に明日ではなくとも渡せるのだから、いらないと言わなくても。アノス様のことだから押し付けられるに違いない。

 

「ところで、ミーシャはいくつになるんだ?」

「……明日で十五」

 

 ということはサーシャ嬢も十五か。

 二人が生まれたのは十五年前。今年は始祖とその眼が転生する年とされる。それでもサーシャ嬢は始祖の生まれ変わりなのでは、と噂されている。

 魔王の始祖と魔王の眼が赤子として生まれるのではなく、すでに生まれており、力を持った強い器に転生すると考えられているのだろう。

 配下たちにどういった転生の仕方をするか伝えていなかったのが仇となったか。だが、もしかしたら私たちの転生の仕方が、伝承とは違うとしたら。

 

「魔王学院はアノス様を魔王と認めないために作られているなら、可能性はあるか」

 

 後ろを振り向き、我が主を見つめる。

 アノス様もその思考に辿り着いたのか、鋭い目で私に頷いた。

 

「カイルっ、ここ行き止まりだわ」

 

 突き当りでサーシャ嬢が振り返ってこちらを見る。

 

「それは隠し通路ですよ」

「そんなわけないわ。魔眼で見ても、なにもないもの」

 

 彼女の反応に思わず笑ってしまう。

 昔、アノス様に連れられてここに来た時は同じ反応をしたものだ。

 

「なに笑ってんのよ」

「いえいえ、なんでもないですよ」

 

 イラついたように怒気を込めて言われるが私は受け流す。

 すると、アノス様が私たちの前に出て得意げに笑う。

 

「魔眼じゃわからないように対策をしているんだ」

 

 我が主は昔と同じことを口にした。

 そして、アノス様は壁に向かってまっすぐに進んでいく。

 

「え……ちょ、ちょっとアノス!?」

 

 ドカン、と体が壁に当たり、アノス様は意に返さず力任せに突き進む。次第に壁は破壊され、ドドドドド、と崩れ落ちた。

 

「隠し通路だったでしょう?」

「……これ、隠し通路っていうの……?」

「頑丈」

 

 横にいるサーシャ嬢に言うと、彼女は顔を引き攣らせていた。ミーシャ嬢はパチパチと拍手をしている。

 まぁ、壊した壁は毎回毎回復元させるんだが。これ、帰る時に私が復元させるのだろうか。私がやったわけではないのだしアノス様にやらせよう。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 最下層への道を歩いていくと、一際明るい部屋に辿り着いた。

 天井は高く、ダンジョン内にも関わらず木々の緑で溢れている。床には水路があり、水面にはキラキラと光が反射している。

 

「……太陽の光……」

「あぁ。ここは日光と月光が外から取り込める作りになっている」

「これ、自然魔法陣の発動のため、かしら?」

「おや、よくわかりましたね」

 

 ネクロン家は融合魔法を扱う。その魔法は自然魔法陣を使うため、それに習熟した彼女はこの部屋が魔法を使うための触媒だと気づいたのだろう。

 しかし、

 

「カイル」

「ええ」

 

 アノス様も気づいたのだ。この部屋の違和感を。

 二千年前と様子が少し変わっている。太陽光の差し込む位置が違っている。

 この部屋はアノス様と私だけではなく、他の配下たちも使うため珍しいことでもないのだが、どうも引っかかる。

 

「……どうかした?」

 

 ミーシャ嬢が、立ち止まる私たちに声をかける。

 

「いや、気のせいだ」

「ええ、なんでもないですよ」

 

 自然魔法陣の部屋を出て、私たちは最下層へと歩き始める。その途中、サーシャ嬢がアノス様と私に疑問を投げつけてきた。

 

「ねぇ。二人はここに来たことがあるんでしょ? なら、《転移(ガトム)》で移動できないの?」

「残念ながら、この地下ダンジョンは《転移(ガトム)》を乱す反魔法がかけられていますから。一応使えますけど、どこに飛ぶかわかりません」

 

 反魔法を解除することもできるが、解除した場合ダンジョン自体が崩壊する仕組みになっている。一度アノス様に見せてもらったが凄惨な状態になっていたな。

 魔王であるアノス様のみ《転移(ガトム)》を使えるようにしたとしても、結局抜け道ができるので魔王でも《転移(ガトム)》を使えないようにするのが、侵入者を阻む最適な手段なのだ。

 そうこうしているうちに最下層に降りた。

 目の前には巨人が通るのかと思うほどの巨大で豪奢な扉がある。

 

「祭壇の間の扉だ」

 

 アノス様がそう言い、ミーシャ嬢が魔眼でじっと扉を見る。

 

「……反魔法がかかってる。《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》級でも破壊できない……」

「はぁ!? じゃ、これ、どうやって中に入るのよ……?」

 

 ミーシャ嬢の言葉にサーシャ嬢が驚愕する。そんな彼女たちの反応に、アノス様がやれやれと首を振った。

 

「少しは頭を使え。壊そうと考えるから行き詰まる。魔法が効かぬのならそれ以外で開ければいい。カイル、今度はお前がやれ」

「御意」

 

 指示され、私は前に出て巨大な門に手をやる。

 両手でぐっ、と力を込めるとゴオォォ、と重たい音を立てて扉が開かれた。

 

「開きましたよ」

「カイルも大概馬鹿力ね……」

「……おぉ……」

 

 開け放たれた部屋に入り、奥の祭壇まで歩を進める。

 

「これ、王笏よね……?」

 

 目の前の祭壇に祀られているのは、禍々しい杖。

 魔眼で見れば、その杖に絶大な魔力が込められているのがわかるはずだ。

 

「ねぇ、触ってもいいかしら?」

 

 興味を抱いたのだろう、サーシャ嬢が恐る恐る聞いてくる。

 あの王笏は神話の時代でもそうそうある代物ではないため、お目にかかるものではない。興味を抱いて当然だろう。

 

「いいぞ」

「ありがとう」

 

 サーシャ嬢は嬉しそうに祭壇に立てられた杖をそっと手に取った。

 これまで見たこともない魔宝具の神秘に、心を奪われたかのように目を輝かせて見つめている。

 ふむ、アノス様とミーシャ嬢は宝物庫に行ったか。おおかた、サーシャ嬢に贈るものを選ぶためだろう。どんなものを贈るか気になるし、私もついていこう。ここならサーシャ嬢を一人にしても心配はいらない。

 私は、王笏に夢中の彼女を置いて、二人が入っていった宝物庫に入った。

 

「む? なんだ、お前も来たのか」

「ええ、どんなものを贈るか気になったので」

「それなら、ほら」

 

 そう言ってアノス様はミーシャ嬢の方に指をさした。

 彼女の腕の中には紅い羽毛、神鳥フェニックスの羽毛を編んで作った《不死鳥の法衣》が綺麗に畳まれて抱かれている。身に纏った者に不死なる炎の恩恵を授けるもので、その強力な能力の反面、相応しくない者にはその炎で焼き尽くしてしまう代物だ。言わば曰く付きの法衣だ。

 懐かしいな。その羽毛を取ったのは私なのだ。なかなか手強い焼き鳥だったものだ。

 

「流石ミーシャ嬢、魔眼()利きですね」

「……ん……」

 

 サーシャ嬢ならばその《不死鳥の法衣》を着こなせるだろう。それを理解した上で選んだのだ。

 

「なら、渡してやるといい」

 

 アノス様がそう言うとミーシャ嬢が嬉しそうに微笑んだ。

 そのまま彼女はサーシャ嬢の下へ向かおうと扉へ向かう。その途中、台座に置かれてあったリングに目を奪われた。

 確か、あれは、

 

「《蓮葉氷の指輪》か。欲しいか?」

 

 そう、《蓮葉氷の指輪》だ。その冷気が、七つの海を氷で埋め尽くすということから、この名が付けられた。

 ミーシャ嬢が目を奪われたのは偶然ではない。魔法具と術者は惹かれ合う。今回は、指輪に呼ばれたからだろう。

 

「……大丈夫……」

 

 ふるふると首を振って、ミーシャ嬢は逃げるように宝物庫から出ていった。

 

「ふむ」

 

 アノス様が《蓮葉氷の指輪》を手に取る。

 おや? これは押し付けるやつでは?

 

「行くぞ、カイル」

「はい」

 

 今は渡さないようだ。いざと言う時に渡すのだろう。

 そういうところがあるからイザベラ様が舞い上がるのだ。

 

「あ! 貴方たち! どこ行ってたのよ? 気がついたら皆いないんだもの。心配したわ」

 

 宝物庫から出ると、サーシャ嬢が王笏を手にしたまま、不満そうな表情でこちらへずんずん詰め寄ってきた。

 あはは、と私は苦笑いを浮かべる。置いていったのは私だからだ。

 

「申し訳ありません。寂しかったですか?」

「心配したって言ったのよ! 寂しくなんかないわ」

 

 ふんす、と背を向けて器用に王笏を握ったまま腕を組む。

 ところで、とサーシャ嬢は切り替えて祭壇の間を見渡した。

 

「ここにはもう用はないのかしら」

 

 ダンジョン試験は王笏を取れば得点は満点なのでもう戻るだけで十分だ。

 だが、アノス様はこのまま帰るつもりはないようだ。ミーシャ嬢の背をポンと押して、法衣を渡すように促した。

 

「サーシャ」

 

 ミーシャ嬢に呼ばれたサーシャ嬢は振り返って彼女を見る。その手の中にある《不死鳥の法衣》見て驚きの表情を浮かべた。

 

「それ、どうしたのよ?」

「……見つけた……」

「ここで?」

 

 ミーシャ嬢が小さく頷く。

 

「あげる。……誕生日だから」

 

 彼女がそう口にすると、サーシャ嬢は柔らかく笑った。

 目尻には、うっすらと涙が浮かんでいる。

 

「わたし、なんにも用意してないわ……」

「わたしはいらない」

 

 ミーシャ嬢がふわりと微笑む。

 

「ありがとう、ミーシャ。すごく嬉しいわ。一生大事にするわね」

 

《不死鳥の法衣》を見つめるサーシャ嬢の瞳に《破滅の魔眼》の魔法陣が浮かび上がった。

 感情が昂って魔眼が出てしまったのだろう。しかし妙だ。感情が昂ったということは誕生日だと言われた時に出るはずだ。

 考えすぎか? 単に最初の驚きから抜けて嬉しさが上回ったのか?

 

「着てみてもいいかしら?」

 

 ミーシャ嬢が頷き、サーシャ嬢に《不死鳥の法衣》を手渡す。法衣に着替えようとし、彼女は制服のボタンに手をかけた。

 それを目にする寸前、私は背を向けて宝物庫へ向かう。

 

「レディが着替えるんだから、あっちに行きなさい!」

「あぁ、後ろを向いていよう」

「そんなんじゃダメに決まってるでしょ! カイルを見てみなさい! 言われる前に動いてるわよ!」

「アノス様はそこら辺は疎いですからね」

 

 宝物庫の扉を開けてアノス様を通す。

 

「まったく、手間をかけさせる」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「上着を着替えるだけだろう」

「女の子はその辺難しいものです」

 

 アノス様と宝物庫に入ると、扉が閉まる前にミーシャ嬢がこちらに来た。

 

「喜んでもらえた」

「よかったな」

「……アノスのおかげ」

「選んだのはお前だ」

 

 アノス様がそう言うとミーシャ嬢がはにかむ。

 

「ありがとう」

 

 アノス様が頷き、私は微笑む。

 扉が閉まり、我が主が私を見る。

 

「何も聞かずに渡してしまったが、よかったか?」

 

 よかったか、とは《不死鳥の法衣》のことだ。あれの素材を取ってきたのは私なので所有権は私にあるが、宝物庫にあるものは魔王アノスの物と私は思っているので問題はない。

 

「ええ、いいんですよ」

 

 どこぞの馬の骨の手に渡るなら断固拒否だが、サーシャ嬢なら上手く使えるはずだ。

 まぁ、あの《破滅の魔眼》がどう意味するかはわからないが。アノス様と私がいるのだ。人間と精霊、神が攻め込んできても解決できる。

 

 

 

 





 あと少しで原作一巻が終わるー。
 戦闘描写が早くしたいので頑張ります。

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