「ピッコロさん!」
空中で静止したままの二人の元へ駆けつけた悟飯達だったが、ピッコロも天津飯もまだ驚きと怯えの表情を浮かべていた。
すでに謎の巨大な気は消えている。しかしそれがすぐ目の前で行われたことは間違いなかった。
「チャ、チャオズが……」
何とか絞り出すように声を出した天津飯の言葉を受け、先程のエネルギー波で餃子が犠牲になったことが伝わる。
「ま、まさかあの動物が……」
ピッコロも困惑しているようだが、例の害獣とやらが正体なのだろうか。
「お父さん! 先にいきます!」
悟飯はその閃光が放たれた形跡の残る森の中へ突き進んでいく。
「ピッコロ! みんな連れて先に帰っててくれ!」
悟空がその後を追う。現実にこの二人以外ではもはや戦力にはなれないだろう。それほどの威力がさっきのエネルギー波からは感じられた。
「悟飯、どうだ、おめぇなら勝てそうか?」
「わかりません……。戦えないことはない、とは思いますが」
老界王神に潜在能力以上の能力を解放され、超サイヤ人にならずともかなりの力を有しているはずの悟飯ですら、余裕を感じない。みんなを吸収したブウすら圧倒した悟飯が、である。超サイヤ人3の悟空であっても戦うのがやっと、なのかもしれない。
閃光の発射点と思われる箇所では、わずかに木々が焼け焦げていた。前回と違い、空へ向けて撃たれたからだろう。その範囲は非常に限定的であった。
「気を抜くな、悟飯!」
「はい! ですが何も感じない……」
周囲には何も気配を感じない。鳥たちすら先程の戦闘で逃げ去っているのだろう。先程まで鳴いていたナイチンゲールの声も聞こえなくなっている。静寂の中、森の枝だけが、その手を差し伸べるかのように二人の周りを包んでいた。
不意に奥の草むらがガサガサと音を立てた。
「っ!」
悟空も悟飯も身構えたが、そこからは大きな気どころか邪悪さのかけらも感じない。
「……ハハッ、なんだおめぇ、かわいいなぁ」
草を分けて出てきたのは、何とも愛らしい生き物だった。猫のようでもあり、タヌキのようでもあり……。レッサーパンダと言われればそれが一番近いのかもしれない。
その生き物はニャッと鳴き声をあげると、敵意どころか、警戒する様子さえも見せず、二人の元へ近寄ってきた。
「人に慣れてますね。もしかしたら、人間に飼われてたのかもしれませんね」
「おめぇ、これ食うか?」
悟空が森へ向かう前に、ビーデル達からもらった飴玉を差し出すと、その生き物は目を輝かせ、器用に包み紙をめくると、飴玉を口に入れ舐め始める。
「この子、賢いですね……」
「ああ、でもまあ、こいつが例の敵ってことはなさそうだな」
悟空がその頭を撫でると、気持ちよさそうにまた鳴き声を上げる。微笑ましい光景に悟飯も同意した。
「さて、とりあえず戻りましょうか。皆、心配しているかもしれないですし」
まだ名残惜しそうに悟空たちを見つめるその生き物に別れを告げ、森の外の建物へ戻る。
「ああ、しまった。あの生き物、畑を荒らす害獣でしたね。どこかへ移動させた方がよかったかも」
途中、悟飯がそう漏らしたが、悟空は然程気にはしていない。「そうか? ま、いっか」で済ませてしまっていた。そんな父親に苦笑しつつ、悟飯はまだ姿の見えぬ敵に思いを巡らせていった。
「どうだった?」
戻るなり、皆が二人の報告を期待している。気を探っていれば、戦っていないことはわかるだろう。それでも何か進展はあったのか、皆は二人の言葉を待った。
「いやあ? なんか可愛らしいやつがいたくらいだったぞ」
悟空の何とも頼りない報告を悟飯が補足する。
直後に現場に降り立ったが、敵らしき姿は見えなかった。気も感じない。ただ畑を荒らす害獣らしき生き物がいて、人に慣れてるから頭を撫でてきた。その生き物はまた別件だろう、と。
「俺は神殿に戻ろうと思う」
今後の行動を話し合う中で、ピッコロはそう言い出した。
「敵の姿は見えない上に、正直言うが俺たちでは戦えるレベルではない。悟飯はああ言ったが、今のところ、その動物しか可能性のある奴はいないのだ。ならば、それを神殿からずっと監視するしか無かろう」
尤もな意見だった。
餃子だけでなく、敵がブウではないとわかった以上、ブウもまたやられてしまったのだろう。餃子同様、細胞一つ残さずに……。
「俺は餃子の仇をとりたい。戦力にはならないのはわかっているが……このまま捜索に加えてくれ」
クリリンとヤムチャ、天津飯にはサタンたちと残ってもらおうとしたが、天津飯は拒否した。ずっと共に歩んできた同胞を殺されたのだ。無理はないのかもしれない。
「わかった。だがぜってぇ無理はすんなよ」
数日間、捜索は続いた。
悟空、悟飯、天津飯の三人が謎の気の持ち主を追う。天津飯にはなるべくどちらかの近くにいてもらうように配慮はした。
一方、クリリンとヤムチャは、こっそり他所で数頭ずつ熊などの大型の獣を狩ってきていた。サタンたちがこの村で仕事しているよう、装うためだ。ヤムチャの発案だったが、これはなかなか上手くいった。時間がかかりそう、と見せるだけでなく、退治が終わるまで、一旦村人たちに安全のため村を離れてもらう、という理由付けにもなった。畑を見捨てることを渋る者もいたが、サタンが説得し、わずかとはいえ収穫できるはずだった分はサタン自身が買い取ることで納得してもらった。
本来ならサタンやビーデルにも避難してもらいたいところではあったのだが、サタンもブウを殺されたことで思うところがあるのだろう。森にこそ入ろうとはしないが、離れるとは言いださなかった。
「どうだ、ピッコロ?」
クリリンは連絡役を兼ねて、神殿で監視を続けているピッコロの元を毎日訪れている。例の動物にさして変わった様子はないようだ。やはり夜な夜な畑にやってきてトウモロコシを食べ散らかしてはいるようだが。
「今日も進展なしかあ」
クリリンは疲れたような安堵したような複雑な表情を浮かべていた。
「クリリン、すまんがみんなを集めてくれ」
その日もいつも通り、新たな動きはなかった。しかしお互いの報告を終えると、ピッコロはそう要望した。
「界王神様が皆と話がしたい、と」
「やっぱり例の敵のことで?」
クリリンの問いかけにピッコロは「わからん」としか答えなかった。神様と一つに戻り、その知識と能力の一部を継いだとは言え、界王神の考えはわからないのだろう。ピッコロの表情は彼も本当に話の内容を知らないことを物語ってもいた。
「皆さん、ご無沙汰しております。今日はお集まりいただいて有難うございます」
神殿の広場で、キビトと二人分の声を重ねた界王神が集まった皆の前で丁寧に礼を述べた。
「フン、わざわざ俺様まで呼び出したんだ。何の用か知らんがとっとと話せ」
「もーパパ、またすっげー奴と戦えるかもしれないんだよ」
今回はベジータとトランクスも半ば無理矢理連れて来られている。悟天もいれば、非戦闘員であるブルマの姿まであった。クリリンはベジータに直接ではなくブルマに話を伝えただけなので、もしかするとブルマが来ることでベジータやトランクスも何とか来てくれたのかもしれない。
「はい、では早速本題に入りましょう」
緊張の隠せない面持ちの界王神はベジータの意見に素直に従った。
「この世界は今、崩壊の危機に瀕しています」
界王神の発した言葉は、いつも通りとも言える危機を伝えるものだった。皆、驚きもあるとはいえ「ああ、やっぱり」といった感情があるのも否定できない。
「またとんでもねぇ敵が地球を狙ってきたってことか?」
クリリンが思ったことをそう口に出す。
世界の危機―― 地球の危機――
ここにいるメンバーの大多数が、その難局を幾度も悟空を中心に乗り越えてきたのだ。正確にはもうクリリンやヤムチャのような地球人では参戦できないレベルではあるのだが。
「フン、くだらん。地球の危機など俺にはどうでもいい」
既にベジータは興味を失っている。ブウや餃子が既に倒されていることを知らない彼にとっては、強敵との出会いですらないのだろう。
しかし、ひとしきり皆が反応を示すと、界王神はゆっくりと繰り返した。
「いいえ、『崩壊』の危機、なのです」