世界の崩壊 -内なる声に目覚めよー   作:葱三昧

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第4話  崩壊の声~認識~

 滅亡、絶滅、破滅……

 危機を表す言葉は様々あるだろうが、界王神の言葉を皆、反芻していた。恐ろしい敵が地球を狙ってきたのなら、巨大隕石が近付いてきているなら、『崩壊』ではないだろう。何よりそれは「地球の危機」だ。界王神の言う「世界の『崩壊』」とは異なるに違いない。

「オラ、よぅわからんけどさ。結局、悪い奴が来るんか?」

 考えるという行為が苦手な悟空が率直に疑問をぶつける。確かに事の真相は界王神に訊くしかないのだ。

「敵がいるかという質問に対してはわからない、とお答えするしかありません。ですが、地球以外の異星人が攻めてくる、ということはありません」

「チッ、もったいぶりやがって……。とっとと言いたくなるようにしてやろうか?」

 界王神の核心に触れない言葉にベジータは苛つきを隠そうともしない。しかし界王神はその恫喝にも静かに答えた。

「落ち着いてください、ベジータさん。実は……話をすることですら、崩壊を進めてしまう可能性があるのです」

「お、おい。ならなんで俺たちを呼んだんだよ」

 横からヤムチャが口を挟んだ。

「まあ、待て。そのギリギリを探りながら俺たちに伝えようとしてくださってるんだろう」

 たしなめるピッコロの言葉にヤムチャは黙り、ベジータも界王神の言葉を待った。

 しばしの沈黙の後、一つ大きく息を吐くと界王神は語り始めた。

 

 

 

 皆さん、この世界で精一杯生きていらっしゃいます。地球だけでなく、この世界で、です。ナメック星も今はなくなった惑星ベジータもそうですし、フリーザやブウに滅ぼされた星々もそうです。

 生を受け、その生を全うし――半ばで散る者も数多いらっしゃいますが――そして最期を迎える。すると今度はあの世で暮らしていくことになる。場合によっては、そこから新たな生として生まれ変わることもあるのです。

 それがこの世界の理です。

 ドラゴンボールはその理を歪めてしまう、ということもありますが、決して世界を崩壊させるものではありません。

 

 ですが今回はそういう次元ではないのです。強い敵がいるなら倒せばよい。ドラゴンボールで理が乱れ始めるのなら、使用を控え、元に戻せばよい。そういう考えそのものですらないのです。

 例えば、悟空さんや悟飯さん、ベジータさんやそのお子様方には私はとても戦って勝てるわけではありません。

 ですが、考えてみてください。

 紙に描いた悟空さんたちを破り捨てるのは私どころか、赤ん坊にだって可能でしょう。そもそも悟空さんたちより私を強く描くことすら可能なのです。

 

 ……よくわからない? そうでしょうね、私もこれ以上踏み込んで話をするのは躊躇っていますから。

 簡潔に言うとこの世界からすべての生も死も、意志も感情も、何もかもが離れてしまい、作り物の世界になってしまう、ということです。

 

 

 

「界王神様、私にはよくわからないのですが」

 押し黙って聞いてきた皆だったが、天津飯が一息入れた界王神に噛みついた。

「餃子はその崩壊の危機とやらのために殺されました。きっとブウも同じでしょう」

「な、なにっ、ブウがだと」

 ベジータは初めて知った事実に驚いているようだ。分裂前の太っちょのブウは、ベジータを上回る強さを誇っていたのだ。多少弱体化したとはいえ、ベジータでも苦戦は免れない強さである。そのブウがやられたとなると、『敵』がいるなら油断ならない相手ということだ。

「ドラゴンボールで生き返らせてやることはできます。ですが、結局何が起こっているのか、何故二人は殺されたのか、はっきり教えていただきたいのです」

 天津飯の目には強い決意が込められている。長年の同門で相方であった餃子のために、自分にできることを模索しているのだろう。

 

「では、今起こっていることからご説明しましょう」

 ようやく核心に触れる内容だ。既に悟空や子供たちはまともに聞いてすらいない。後で説明する、とピッコロは彼らを離れた場所で遊ばせるようにした。界王神もその方が話しやすいようであった。

 

 

「今、この世界に別の世界が混ざり始めています」

 

 

「別の世界?」

 皆が一様に声を上げ界王神を見る。こくりと頷くと界王神はその経緯を話し始めた。

 

 

 

 これはもう十数年前、になるでしょうかね。悟空さんやブルマさんが初めて出会った頃から、崩壊と交雑は始まっていました。

 深く考えずに発した一言や動作、そういったもので世界が綻び始めるのです。これは皆さんも知らず知らず、一度くらいはなさっています。

 例を挙げましょう。決して責めるわけではありません。

 

――クリリンさんと悟空さん

 鼻がない、ヤジロベーさんと声がそっくり、などとお話したことありませんか?

 

――ブルマさん

 レッドリボンとかいう軍に襲われた時でしたか、少年誌で言えないようなえ、えっちな……ゴホンゴホン。そんな発言にご記憶は?

 

――ピッコロさん

 セルと戦った時、「太陽拳は天津飯の技」とおっしゃいましたね。あなたはそれを見たことがありましたか? 悟空さんの太陽拳しか見たことがないのでは?

 

――悟飯さん

 グレートサイヤマン、でしたか? その際にかなり際どい事をされてしまっています。これは崩壊が進むので控えます。

 

――そして、ヤムチャさん

 あなたが一番、難しいのです。あなたは崩壊させる要素を出していません。しかし、それが何故かこの世界の崩壊を大きく進めてしまいました。

 

 

 他にも多々あるのですが、一つ一つは大したことのない発言や行動ばかりです。しかし、こういった綻びから他の世界が混ざり始めているのです。このままでは我々は、先程喩えた紙の上の自我のないモノみたいになってしまうのです。

 

 

「お、俺は何をしたんだ?」

 具体的に言われなかったヤムチャが狼狽しているが、皆は黙りこくっている。確かにそれぞれが思い当たることはあった。かといってそれを指摘されてもどうしようもないのだ。

「フン、で、こいつらのせいで崩壊とやらが進んだとして、だ。俺たちを集めて何がしたいんだ?」

「そ、そうだ。そして餃子やブウはその他の世界の奴に殺されたのか?」

 ベジータと天津飯が立て続けに問う。今回は界王神もしっかりと皆の目を見回して答えた。

 

 

「餃子さんとブウは、『内なる声』に目覚めた者に倒されたようです」

 

 

 初めて聞く言葉に皆が顔を見合わせた。誰も知っている者がいないことはお互いの反応で察することができる。

「真実の自分の心、とかそういうものでしょうか?」

 ピッコロの問いにも界王神は首を振った。

「私にも詳しいことはわかりません。ですがどうやら一人一人、いや動物の一匹に至るまで、その中に別の世界をいくつも内包しているようなのです。その世界を『内なる声』と呼んでおります。尤も前例のない事ですので、私が勝手に命名したものですが」

「で、その声とやらに目覚めるとどうなるんだ?」

 ベジータもどちらかと言えばこういう話は苦手なのだろう。結論を急ぐような姿勢が見える。いや、ベジータに限らず、皆武道家なのだ。小難しい理屈よりも自らが為すべきことを示してほしがっている。

「今のところ、『内なる声』に目覚めると、その内なる世界をこの現実の世界に持ち込んできてしまうようなのです。そしてその影響でさらに崩壊が進み、『内なる声』がまたどこかで覚醒していく……。その繰り返しです」

「いや、それであのブウを倒すとか……無理じゃないかな?」

 ヤムチャが思わず発した言葉だったが、確かにそれは界王神も不思議に思っていたようだ。いくら『内なる声』に目覚めたとはいえ、圧倒的な強さを誇るブウを倒すというのは想像しがたい。

「そうだな、それに確かに我々と似たような気を感じた。もし別世界というならば、異質な気として感じるか、そもそも感じることもできないだろう」

 ピッコロも同意する。確かにブウともう一つの気は一瞬とは言え、感じているのだ。それも気を感じることに慣れていないビーデルでさえも。

「ええ、そのあたりを探る必要はありそうです。ですが、今為すべきことは、その謎の『内なる声』に目覚めた者を見つけ、その内なる世界を封じることです」

「フン、結局そいつをぶっ殺せばいいんだろ?」

「殺していいものかは判断しかねます。『内なる声』に目覚めた者が死んだ場合どうなるか、はわからないのですから。可能ならば生きたまま、その内面だけを封じたい」

「つまり、その目覚めた者とやらを見つけ出せば、封印することは可能なのですか?」

 天津飯の問いに界王神は弱々しく頷いた。「策はある」と言っているが自信はないのかもしれない。

 が、そこで意を決したように界王神は厳しい目を全員に向けた。『内なる声』に目覚めた者同士は違和感としてお互いを認識できる可能性が高い、そう述べると、躊躇っていいたであろう一言を皆に告げた。

 

 

「そこで皆さんの『内なる声』を解放したいのです」

 

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