戦士たちは精神と時の部屋にいた。
いや、ブルマもいるのでデンデとポポ以外の神殿にいた者は、の方が正確かもしれない。大勢で入ったことで扉は消えてしまっているが、超サイヤ人3なら外に出ることができるのを確かめた上でのことだった。煽てると退屈していた悟天とトランクスは喜んで確認のためにフュージョンし、精神と時の部屋から時空に穴をあけて戻ってきたのだ。
ちなみにサイヤ人が大勢いるため、食料も大量に持ち込んである。
「では、始めます」
悟空と悟飯、悟天父子。ピッコロ、ベジータとトランクス、クリリンにヤムチャ。それに何故かブルマも一緒に界王神の前に並んでいた。『内なる声』で重要なのはその世界であり、戦闘力ではないという理由だった。本当ならば、チチやヤジロベーをはじめ、サタンやビーデルなど信頼のおける人すべてに試したいが、この解放自体が崩壊の危機が進む危険な賭けである、という。今、ここにいるメンバーに絞ったのだろう。
「はい、終わりました」
「え?」
何も起きた様子がないまま、一瞬で界王神は儀式の終わりを告げた。
「何も難しいことをするわけではないのですよ、扉を少し開くだけです」
そう言われても実感も何もない皆はどう対応してよいか困惑していた。ベジータに至っては界王神に殴りかかるのではないかと思えるほどだった。
「では、これから実際に『内なる声』を感じ、その世界との交信……とでもいうのでしょうか、それを高めていただきます」
界王神はそう告げると、ブルマに頼んでおいたホイポイカプセルを取り出した。先程、ゴテンクスが穴を作れるかの確認をしている間、界王神はブルマにさまざまな道具を食料と同時に用意してもらっていたのだ。
投げられたカプセルからは、木刀や真剣などの武器から、およそ戦闘に使えないようなものまで雑多なものが詰まっていた。
「では皆さん、思い思いの道具を手に、自ら沸き起こる感情に身を任せてみてください。暴走しないように私が少し制限をかけるようにしますが……」
「よくわからんけど、やってみるか」
「そうだな、お、野球道具もあるぞ」
クリリンとヤムチャが道具の山に近づいたのをきっかけに皆がその場に集まり始めた。ベジータだけはくだらない、といった表情を浮かべて、その様子を眺めていたが。
「皆さん、これから『内なる声』を解放した心の中には、色々な衝動が浮かんでくるはずです。ある程度はその衝動に従っていただいてもまだこの世界は大丈夫です。ですが、一つだけ、絶対にしてはいけないことがあります」
今まで以上に、厳しい表情を浮かべた界王神が禁じたこと。それは
『絶対に具体的な名を呼んではいけない』
というものだった。これをしてしまうと、世界の崩壊は一気に加速し、もう止めることができなくなってしまう、という。それほどの危険を冒してまで、この修行とも言えぬ行為をする価値はあるのだろうか、とすら思える。
「やはり、ヤムチャさんが一番ですか」
数分もすると、悟天やトランクスとヤムチャは野球をして遊び始めた。プロ野球の世界にいたこともあるヤムチャだから、野球の技術は巧みで、少年たちも夢中になっているようだった。
「ヤムチャが一番、ですか。しかしやはり、とは?」
まだ何も感じていないのか、ピッコロが界王神に問いかける。近くにいたクリリンも話に興味を示している。
「彼は直接、崩壊につながる言動はしていません。しかし、ヤムチャさんが実はあなた方の中で最も『内なる声』が漏れ出ているのです。そして、彼の『内なる声』の世界は非常に数多く、複雑に絡み合っています」
「わかんねえなあ、ヤムチャさんのどこがなんだろう?」
「クリリンさん、あなたも見てきているのですよ。あなた方がベジータさん達サイヤ人と戦った時もです」
「ああ、サイバイマンだっけ? ヤムチャさんが俺の身代わりみたいに……」
「そう、その時の彼の予感。嫌な予感がしたのでしょうが、その感じ方が『内なる声』に引かれてしまっているのです。そして今、まさに彼がしている野球も」
「野球ですか? 地球で遊ばれているただのスポーツですよ」
思わずピッコロも口を挟んでしまう。しかし界王神は首を横に振って話を続けた。
「彼は皆さんに劣るとはいえ、超一流の格闘家です。お金のために働く必要もないでしょう。ましてそれが野球である必要性は全くないのです」
「そんなぁ、予感も野球も偶然でしょ?」
「ええ、クリリンさん。確かに偶然、深い意味はないのかもしれません。ですが、それでも彼が『内なる声』に引きずられてしまっているのもまた事実なのです」
理解しきれない二人がヤムチャと子供たちとの戯れ合いに目を向けた時だった。
「よし、じゃあこれは打てないだろう? くらえっ……! だい――」
「ダメです! ヤムチャさん!」
ヤムチャが何かを言おうとした途端、界王神が大声で叫んだ。ヤムチャも何かを感じたのか、続く言葉を飲み込んだまま、バットを掲げて待つトランクスと捕手の真似事をする悟天に向けて白球を投げ込んだ。
「ヤムチャさーん、どこへっ」
トランクスの身体目掛け、有り得ない速度で向かってくるボール。一般人のスピードなら目にも見えないレベルだろうが、トランクスをはじめ、ここのメンバーであればただの速球だ。かわすのも受け止めるのも簡単な遊びでしかない。
「えっ?」
しかし、その球はトランクスが躱すのに応じるように、変化した。
そしてそのままバットの先端にあたり、ポップフライとしてヤムチャが捕球したのだ。
「ふふ、どうだトランクス、これは打てないだろう?」
「すっげぇ! ありえない曲がり方してバットに当たったよ今!」
「僕にも教えてよー」
はしゃぐ子供たちを確認し、界王神は胸を撫で下ろした。ピッコロとクリリンも少し感じることができた。
今のヤムチャは明らかに、ヤムチャ以外の能力を持っている――
そんな感覚があったのだ。これが界王神の言う『内なる声』なのだろう。ヤムチャのそれを見たことで、クリリンやピッコロにも何か心の奥底で動き始めるものがあるのも感じられた。
「おや、お二人も感じ始めたようですね。そのままその声と向き合ってください。でも、今のヤムチャさんのようにくれぐれも名を呼ばぬように」
数時間もすると、皆がそれぞれ何かを感じ始めているようだった。とは言え、個人差なのか、やる気の問題なのか、それとも『内なる声』の世界とやらの内包量なのか、興味を示そうともしないベジータや、未だ何も見いだせず、瞑想しているだけのピッコロのような者もいる。
「では、皆さん一度よろしいでしょうか」
界王神は皆を集め、一人一人の前でゆっくりと何かを感じている様子だ。
「さすが、というべきでしょうか。ほとんどの皆さんが『内なる声』を感じ、そしてそれを屈強な精神力で抑えていらっしゃいます。これならば例の目覚めた者を見つけ出すこともできるでしょう」
「そうは言われても、オラたちまだ何にも実戦で使ってねえぞ」
確かにイメージトレーニングに近い形式であるだけに、皆が何かを感じていてもそれを使いこなせるかはまた別の話である。そして、その謎の目覚めた者とは、今ある戦闘力だけでなく、この力を以て闘うことになるのかもしれないのだ。
「では、皆さん同士で組手をなさいますか? 名を呼ばないならそれくらいの許容量はこの世界にまだあるはずです」
「組み手かぁ、いっちょやってみっか」
悟空が軽い調子で界王神と話を進め、いつの間にやらお互いに組み手をすることになってしまった。
「では、あくまで組手、というか修行の一環ですので対戦は自由にしましょう。どなたとどなたが組むか、そういうものも自然に惹かれ合うはずですから」
「ふふ、この戦いでなら勝てるかもしれん」
能天気に新しい力を試したがっている悟空と、妙な自信を持ったヤムチャ。その横でクリリンは回復役のデンデを連れて来れないものかピッコロと相談していた……。